領主9
翌日昼前にキヨとミラが指示通りに戻って来る、……はずだったのだが、到着の少し前に知らせがあり、どうやら国王陛下の馬車もいるとの報告が入る。
チャラ男と相談して、急ぎ謝罪の台詞を考える。到着した国王陛下にそのまま伝えると、頷き少し二人で歩こうと言われる、よく考えれたら領主として国王と会話したことはほぼ無かった気がする。
「ヒロ、今回のこと公式には謝罪出来ない、許してくれ。」
「……領地の管理が出来ていなかった自分の責任です。陛下に責など……。」
「どこの領地も時間の問題だ、王都で起こってもおかしくはない。急な国土拡大に誰もついていけないのだ、みな負担が増えるばかりですぐには益も無い、貴族も市民も不満が増大している。フィールには特に国境警備など大きな負担をかけた。」
「いえ、自分には領地管理など全くの初心者です。王宮の助言が無ければ持ちません、引き続き領主の職をお与えくださるのでれば、ご指導いただきたく存じます。」
「二人の時に、そんなかしこまった言葉を使わんでもいい。ヒロ、不自然に思うかもしれんが今の状況をおさめるには戦が必要だ、目先を変えるだけだなのだがこれしかない。それにな、先の戦の交渉がこじれてな、もう避けられん。数か月先になるが将として戦場に出てもらうぞ、精鋭ぞろいの私兵をあずける。後々フィールの兵となると思ってくれてかまわん。」
「……自分は何をすれば?」
「弓を構えて待っていればいい、そなたの前に義足の大将を追い込んでやる。予定通りいけば、一人は解放できる。帝国の姫は、……ままならんな。危険が伴うし、かなりの量の水晶を使うが期限を一年延ばす事が出来る。それまでの間に、王宮の者も気づかぬよう綺麗に進めろ、ワシにできるのは数名の人間を紹介するだけだ。」
「ありがとうございます。」
「それから、ワシを絡めた嘘を彼女につくな、そなたは良いかもしれんが、ワシは見抜かれてしまうからな。」
「以後気を付けます。」
その後、今回犠牲となった人々の葬儀が始まり、国王陛下の演説が始まる。よく通る声と、その大きな体は十分に迫力がある、そして原稿を見ずに大きな動作を入れ訴えかけ、考えさせ導く。指導の為にと王宮から派遣されて来た講師陣の数倍も迫力がある。人を殺すようになってから、誰かの話に心が動くことなど無かっただろうに、本物のカリスマの影響力は素直にすばらしい。
会場が大きな声援に包まれ、陛下が次の発言者として俺を呼ぶ。順序を逆にしておくべきだったと、重い足を進めるとミラが小さなメモを渡して列に戻る。わかってはいたがミラの文章力は素晴らしい、数行のメモを読むだけで、群衆は領主様と叫び出す。王都に戻る陛下の最後の言葉は、あのスピーチライターはいくら金を積まれても手放すなと言われるほどだった。
あらためて考えれば今回の市民の行動は、ミラの記事が効いていた気がする。字が読める人間はこの世界では多くない、彼女の領主を批判する記事は俺を嫌う人間には人気があった、次第に彼女の不安が文面に現れはじめ、悪と断定していたものが考える必要ありとなり、市民の世間話でも議論になっていく。恐怖の対象として領主を見せる策は、市民には領主をおとしめる貴族の行動と見え、貴族には一手のミスで処刑される魔王に見える、行動こそ起こさないが市民と貴族の間にできた溝は急速に開いていく。
焦りが積もっていく貴族は、領主が暗殺未遂で倒れ館が混乱中との情報を聞きつけると行動にでる。市民の間に広がる新領主への支持が拡大する前に決着をつけてしまおうとしたのだろう。
広場に口の上手い者を送り市民の中に賛同するよう申し合わせた者も紛れさせ、一気に反領主でまとめ上げて貴族と市民で領主を打倒するシナリオで王宮も納得させる。マユやエレナの行動が無ければ、武装した兵に迫られた市民は武器を手に領主打倒の声を上げていたのかもしれない、打ち合わせた賛同者が先に声を上げれば、今頃は広場に吊るされていただろう。
生き残ってしまったからには、仕事しなければならない。そして、決めなければならない事がおおい。とりあえず、キヨ・ミカン・ミラ・チャラ男と俺の5人でざっくりと方針を決めていくのだが、簡単には答えが出ない事がおおい。
一番の悩みは裏切った貴族の家族をどうするか。日本の戦国時代なら、みずから命を絶つか、尼寺に入るとかだろうか。しかし、こっちの世界では極々稀にしか人は自殺しない。それは、輪廻へと戻れなくなり魔物となって戻って来ると信じているからだ。輪廻で再会出来ると死別した者を想う気持ちが思いとどまらせるらしい、現世でどんなにつらい目にあっても生き抜いて、輪廻ににいる家族や女神に会いたいのだそうだ。それに、家族が自殺したとなるとほぼ追放となる、近くに受け入れてくれる町や村は無く、噂が先に広がれば野宿しながらの旅となり当然のように魔物の餌となる。
キヨとミカンは、全員処刑。しかもまったくの疑問無し、こっちの世界ではそうなのかもしれないが、可愛い顔した少女の口からはあまり聞きたくない台詞……。
「ミラ、素晴らしい案で二人を説得して。」
「現代の日本ではありえない事でも、昔はやってたからね。」
「あっさり虐殺にもっていくなよ、なんかないの?」
「あのさ、ちょっと聞いちゃったんだけど、向こうでも散々殺したらしいじゃない、貴方の基準はどこにあるのかはっきりさせてくれる?」
チャラ男を睨むと。
「全部説明しとけって言われた気が……。」
ミラは自白させるのにも使えそうだな。
「こっちに来てからは、追って来る賞金稼ぎと言うか傭兵と、レッドテイルに入った後は奴隷商がらみの人間は全て、今はその中でもマシな奴もいると思うところもあるから、いきなり殺したりはしないかな。」
「向こうにいる時は?」
「そうだな、ほとんどは爆音バイクかな、あれだけ大多数に迷惑かけてりゃ殺してくださいって旗立ててるようなもんだろ、害虫だから何匹殺しても何も感じない。」
「本気の殺人鬼だな。」
「ちゃんと引退して、真面目にサラリーマンしてたぞ。」
「そんな奴が普通に電車のってるほうが怖いわ。」
「領主してるほうが、問題だけどな。」
「そこはしかたないでしょ、戦争の英雄なんだから。報酬が足りなくて他国にとられるわけにはいかないんだから、美女をあてがってそれなりの地位についてもらわないと。」
みかんは笑顔に、キヨはうつむく……帰ってきてからほとんど目を合わさないけど……。
「……英雄ね。剣豪とかで無双するならまだしも、接近されれば終わりなんだけどな。」
「わかってるなら、領主するしかないでしょ。一般市民になったら、暗殺者に対抗できないんだから。もうさ、祭り上げられる人なんだからいろいろ諦めなよ。」
「そうだな。それで、人出不足を考慮してどれぐらい処刑すればいい?」
ミラが言うように、誰を生かすかで殺人鬼が悩むなんておかしいのかもしれない。甘い顔すればまた内戦になって大きな被害がでるからと、結局上位貴族は赤子も全て、その下についた貴族は全て没収し下級の一般兵扱い、なんかしら活躍すれば復興もあり得ると、わずかな希望でつなぎとめる。
「他にも決める事たくさんあるよ。」
すでにやる気のなくなった俺に、ミラが追い打ちをかける。
「まずは、はっきりさせておいてもらわないと困る事。」
「はいはい、なにからいく?」
「山ほどある。けど、一番大事なのはキヨちゃんの事!」
今日は発言の少ないキヨが固まる。
「本人いる前で何言い出すかな……。」
「こないだのセクハラ行為もそうだけど、あまりに態度がひど過ぎるでしょ。今ここではっきりさせて!」
「むちゃくちゃ言うな。……わかったよ。キヨ……指入れてもいいか?」
「おい、エロ領主なにいいだす!」
「小指の第一関節まで。」
「具体的に言うな!」
「ダメなら舌でも。」
「やめろ!」
「うるさいな、耳だぞ。」
「そうか……。いや、耳でもだめでしょ。」
「お前が決めるな、キヨ、だめか?」
キヨは、顔を真っ赤にして首をふる。
「ほら。」
「なに普通に話してんのよ、そんな中途半端な事しないで、はっきりさせてって話!」
「……キヨ、今夜俺の寝室にこい。」
キヨ以外のメンバーからは、歓声が。
「おまえら……。ほら次、引っ越し先の候補だ。」
ここへんまで会議をしたところで、魔物が暴れていると情報が入っていそぎ出兵する。




