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夢者  作者: 高島 良
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領主8

 前日の日記を書き終えて、キヨへの対応を深く反省していると勢いよくドアを開けてキヨが入ってくる。ちょっとかわいい嘘を付いたりはするが、言いつけは守る子なので寝室には入ってこないはずなのだが。ネグリジェ姿で少し息が荒い、やばいスイッチが入ってしまったのだろうか? 自分の事は良く分かっていない、理解できない行動をよくとる、しかし一つだけ確かな事は女性の誘惑にはとんでもなく弱いということだ。まだ体調は万全ではないが、一言でもそれっぽい台詞か抱きつかれるだけでその後の展開は予想できるし、明日の朝には這い上がれないほど深く後悔することだろう。


「ご主人様、すぐに脱出の準備を。」


 本当に、キヨが心を読めなくてよかった。


「……夕方の仕返しとか、話をしにきたわけではなくて?」

「今は、そんな余裕はありません。」


 キヨの口調は落ち着いているが目には力がこもっている、悪い予想はよく当たる。


「それで、何人だ?」

「フィールに残る上層貴族は全員です。」

「少しは残ると思ったが、嫌われたもんだな。」


 部屋をでると館の衛兵が駆けてきて俺を守る為に円になる、手に持った剣や服にはすでに返り血がついている。廊下は自分たちの走る音と窓の外の豪快な火が異常を物語る。


「被害は?」

「厩舎に火をかけられ、確保できたのは数頭のみ。武器庫にあった弓は無事ですが、弦がありません。」

「それで、誰が残ってる?」

「残った戦力は、フィール領以外の統治を任された者達の親族と、孤児院の子達だけです。」

「傭兵達は反応なしか?」

「呼びに走らせましたが、この戦力差では様子見か向こうにつくかと。」

「なぜここまで、気が付かなかった?」

「すいません、夕刻の……。部屋に籠ってしまって……。」

「ご、ごめん。」

「いえ、もう少し冷静でいられたら良かっただけです……。館からの脱出が遅れた者を捕らえたところ、詳細は知らされず、すぐ家長の元へ急ぐよう手紙で指示があったようです。」


 俺が心を読めると信じて事前には知らせずに行動を起こしたか、実際に読んでるのはキヨだけど。しかし、俺の体調が悪くキヨがショックで部屋に籠ったりすれば初動が遅れる、そんな事を事後で答えあわせしてもどうしようない。

 

「血のつながりは強いねぇ、一緒に仕事してた仲間同士で戦う事になるのか。もし、降伏したらどうなる?」

「……男は家筋にもよりますが半分程度は助かるかと、ご主人様と女達は全員殺されるか、さらにひどい目に。」

「手をだしてもないのに、俺の子を疑うか。全員逃がせるのか?」

「裏手はまだ手薄ですが、きびしいかと。」

「どうやって逃げる?」

「護衛部隊は厩舎も別でしたので、彼らに囲みを突破してもらいます。」

「それじゃ、数人しか。」

「はい、領主様が王都から援軍を連れてきてください、それまで本館に籠城します。」


 外に出ると遠巻きに掛け声が聞こえ、見下ろす川向うの林には揺れる松明が見える。非常用の逃げ道だが、館の人間がかなり敵側についたのなら、ばれてて当然。木の後ろに隠れているところから、弓対策もできていると。

 護衛部隊の隊長が馬を引いて近づいてくる、傭兵部隊7名その契約金に見合う実力を持っている、まだ包囲網の構築中なら突破できるだろう。


「キヨ……。」

「だめです!」

「まだ、言ってないだろ。」

「絶対に脱出していただきます。」

「館の仲間を見殺しにしろと?」

「ですから、援軍をつれてもどってください。」

「王都までの往復だけでも昼過ぎだ、すぐに連れてこれるのは数十騎だけだし、まともな軍の編成には数日かかるんだぞ。」

「それまで、持ちこたえてみせます。」

「無茶を言うな、矢が飛んでこないと分かれば一斉に突っ込んでくるぞ、1時間ももたいないだろうが。」

「ご主人様がいても、弓がないんです! 剣なら私のほうが上手です、それに軍を率いた経験などないじゃないですか! もう言い争いなどしません、五郎さん領主様を丁寧に捕縛して王都まで連れて行ってください。」

 

 指示された護衛隊長が鞍からロープをとって強度を確認して歩いてくる。この傭兵はキヨが直々に発掘して採用した手練れ……と言う事になっている。


「キヨ、実は傭兵村にいた時に盗賊とそれなりの規模の戦闘をして指揮もとった。なあ五郎ちゃん、あの時はそこそこいい指揮だったよな?」

「まぁまぁでしたかね。」


 キヨは振り返って、不安が確信へ変わり逃げようとするが、あっさりつかまって馬につまれる。


「……ご主人様、元々知り合いだったんですか。」

「誰が味方か分からなかったからな、こっそりキヨの警備に付いてもらってたんだ。それが、ある日連れて来たから、何かあった時はこうなるだろうと黙ってた。ちょっとどんでん返しっぽくていいだろ。」

「……ご主人様、お願いです逃げてください。」

「キヨ、力づくがだめで泣き落としか?」

「なんでですか、大事な物などないとおっしゃったではないですか?」

「それは自分も含めてな、今はそうでもないのかも、いいことだろ? なんていうか、女子供置いて逃げたりしたら今よりも生きる気力無くしそうだし。」

「でしたら、せめて私も一緒に戦わせてください!」

「それはダメ、俺がいなくても君と宰相がいればフィールは復興出来る。それに、俺が戦死すれば奴隷契約も終わり、王の名の元に首輪も外れる。」

「……国王陛下とそんな馬鹿な取り決めを……。」

「どちらかしか生き残れないなんてロマンチックじゃないか惚れ直したか? 俺の事、忘れないでいて……。」

「ふざけないでください!」

「せめて最後まで言わせてほしかったな……。五郎ちゃんキヨを二日間王都から出すな、それと下の街道まで行って戻ってこれそうな脱出路があれば2騎もどせ、無理なら全騎王都へ向かえ。」


 口を塞げと合図すると、キヨはもごもごもとまだ抵抗している。手練れがいるからといって必ず脱出できるわけではない、静かに素早く送り出す必要がある。


「無事でいてな。大丈夫、俺も諦めたわけじゃない、弓一式ぐらいちゃんと隠してあるよ。五郎ちゃんいってくれ。」


 キヨの目は最後まで恨めしそうな、すこし潤んだ悲しそうな目だった。


「最後ぐらい、キスしてあげてもよかったのでは?」


 振り返ると、胸当てなど軽装備をしたミカンがたっている。


「胸が苦しそうだな、裸に胸当ての方が戦闘力は上がるぞ。」

「略奪目的の盗賊じゃないんだから、そんな小細工通じませんよ。」

「俺のやる気は上がるけどな。孤児院の子達は?」

「12歳以下は市民に変装させて脱出させました、余裕があれば町の衛兵達を集めてくるようにいいましたがまだ子供ですから、期待して数にいれないほうがいいですね。」

「残りは、戦わせるのか?」

「護身術程度のつもりでしたが、そこそこの戦力にはなります。」

「……出来ればそんな事してほしくないが、わがままいってられないか。」


 館のホールに入ると、歓声が沸き起こる。逃げるはずの当主が残って戦う事がよほどうれしいらしい。と言っても素直には喜べない、のこった兵達はフィール以外の領地を任された貴族の一族の者達、親や兄に領主を守れと指示を受けており、自分の意思など関係なく逃げ出す事ができないのだ。それは残っている、メイドや執事などのスタッフも同様、負け戦に巻き込んでしまったのだ。


 最初こそ弓を警戒して様子見だったが、後方で指揮する貴族を射貫くと大量の煙幕が投げ込まれ、風下となって視界がまったく確保できず館の入口にバリケードをきずいて応戦する。城ではない為、そもそも進入路がおおく守りにくい、小さな梯子でも窓に届いてしまう為、塞いだ窓を破られて侵入され、撃退しまた塞ぐの繰り返し。館中央の廊下に立って走って来る元館の守備兵に矢を撃ちこむ、昨日まで普通に話しをしていた仲間だったはずなのに。


 どれぐらい時間がたっただろう、廊下は十分に血がしみこみその匂いにも慣れたころ。ミカンがやってくる。


「ご主人様、東側より出火し止められません。急ぎ脱出してください。」

「逃げるって言ってもな。」

「監視塔です、地下は倉庫になっていて石造りで扉も頑丈です、今は敵も数名しかいませんので奪還可能です。」

「確かに、怪我人はどうする?」

「地下に避難させます、領主様が塔に立てこもったと分かれば敵の目はそちらに。」

「……わかった、行こう。」


 怪我人の移動に手間取り、脱出時にはすでに屋敷半分は火に包まれ、もう地下が無事かどうか確認する余裕はなかった。

 煙幕のおかげで監視塔手前までは見つからずに移動できたが、思っていたよりも兵が多く乱戦となり、塔に辿り着けたのは数名だけだった。

 塔を登ってみると、どうやら敷地内の建物すべて火をかけたらしく、炎に包まれている。見下ろして弓を構えるが、乱戦の中に正確に撃てるほど腕は良くない。

 ミカンの言う通り、扉は頑丈で簡単には破られそうもないが、外の乱戦が収まれば時間の問題だろう。あてはないが、援軍が来るのを待つしかない。


 扉を叩く音で目が覚める、壁にもたれかかって寝てしまったようだったが、目をあけるとミカンがやらかし顔で目線を落として、俺のシャツのボタンをとめていく。


「おまえなぁ、いくらなんでも緊張感無さすぎだろ。」

「いや、だって最後かもしれないし、こんなチャンス滅多にないじゃないですか。」

「開き直ってんじゃねーよ……外は、決着が着いたって事か?」

「そうみたいです、だいぶ静かになりましたね……。」

「このまま蒸し焼きになるのと、吊るし首にされるのと、どっちがしんどいかな?」

「私は、ご主人様の物です、どちらでも最後までご一緒いたします。」

「……それはキヨに怒られそうだな……、俺が出たらすぐに扉をしめろ、少しぐらい時間がかせげるだろう。……みんなを頼んだぞ。」

「……わかりました。」


 そう言ってミカンはまた下を向く。重いかんぬきを外し扉を開ける、朝日に目が慣れて見えてきたのは想像していた敵方の兵ではなく、先ほどまで一緒に戦っていた味方の兵、勝利ですと力強く言う。顔を上げると、歓声が響き領主様と人々が連呼する、状況を理解するのに少し時間が必要だった。



 病院のベッドの上に、弱り切った12歳の少女が横たわっている。近づくと目を空けて、こちらを見る。


「領主様、役に立てましたか?」

「あぁ、君がいなきゃ助からなかった。」


 ミカンが、市民に変装させ館を脱出させた子の一人。広場に面する衛兵の詰め所へマユと共に逃げ込み、身をかくす。しばらくして、広場には貴族の兵が集まり、衛兵達に寝返るよう説得が始る。

 悪徳領主を討伐し平和を取り戻せなどなど、深夜の騒ぎで広場に人も集まってきており、市民にも武器を持って、領主の館を囲めと演説は続く。

 みな大人しく聞いていたが、マユが詰め所から抜け出し『領主様は悪い人じゃない!』と叫ぶ。貴族はマユを捕らえようとするが、彼女がそれをさえぎり、先ほどまでの領主の悪行に反論していく、そして『領主様は夜遅くまで仕事して、深夜に魔物討伐に出掛け早朝に戻ってくるのです。貴方は一匹でも魔物を倒したことがあるのですか?』この言葉が、よほど貴族を怒らせたようで、馬を降りて刀を抜く、彼女はマユをかばって背中を切り付けられる、止めを刺そうと再度剣を振り上げた時、衛兵の一人が貴族に切りかかり、それに応戦しようとした貴族の護衛に市民が襲い掛かり広場は戦場と化した。武装した兵達でも、数倍の人数差では抗えるはずもなく勝負はすぐについた。

 血まみれで運ばれていく彼女をみて、貴族に切りかかった衛兵が『領主様を守れ!』と叫ぶ、それは何倍にもなって広場を包み、市民達はすでに火の手が上がってる領主の館へ走り出す。これを見て、各所の衛兵や傭兵達も動き出し、俺はなんとか助かったのだ。


「私の事覚えてますか?」

 

 領主だと分かって間もない頃に悪徳奴隷商がいると聞きつけ、救出した子の一人が彼女だった。子供達の親や親戚を探したが、結局ほとんどはみつからず、数日世話をした子を町の孤児院へと預けることが出来ず、それが館内の孤児院になっていったのだ。


「覚えてるよ、エレナ。大丈夫、きっとよくなる。」

「領主さま、本当に嘘が下手なんだから……。」

「……。」

「農場で働いてた時は、毎日の様に殴らて。いっぱい叩かれた子は、今の私みたいに魔力が抜けて冷たくなって……。」

「……なんか、欲しい物とかないか?」

「……院に帰りたいです。」

「うん、わかった、帰ろう。」

「領主様……おんぶしてもらってもいいですか?」

「いいよ。」


 彼女を抱き起して、背中に乗せる。その軽さに胸が締め付けられる。彼女には、もう首に手を回す力も残っていない。


「子供の頃、ずっとあこがれてたんです、肩車とか、おんぶしてもらったりするの。お父さんの顔も知らないし、お母さんは病気でずっと寝てたから。」

「まだ子供だろう。」

「そうですね。……領主様、マユを守ってあげてくださいね。」

「あぁ。」

「マユみたいなかわいい子の、ママになりたかったなぁ。院での日々はほんとに楽しかった、毎日ごはんを食べれて、ふかふかのベッドで安心して寝れて、いっぱい新しい事教わって。」

「そっか、よかった。」

「……院に入るまでは、何も考えないようにしてました。」

「……確かに、何も話さない、表情も変わらない子だったな、ほんと困ったよ。」

「大事にされるって事が、わかってなかったから。」

「甘いものにつられて笑顔になったけどな。あんなにあっさり変わるとは思わなかった。」

「領主様の焼いてくれたパンケーキ美味しかったから。」

「あの日だけだったよな、ちゃんと出来たの。失敗しまくって、結局ミカンに頼んだんだったな。」

「私達の為に頑張ってくれて、失敗してみんなで笑ったりしたのが楽しかったんですよ。」

「そうか、俺はちゃんと見えてないな。」

「そんな事ないですよ。……私は、美人さんじゃないけど、ちゃんと綺麗にして笑顔で礼儀正しくしてたら、みんなやさしい。領主様も、お願い聞いてくれる。」

「なんか、したっけ?」

「院長先生が私の事、一番がんばってるって、領主様に言ってくれて。そしたら、すごいほめてくれて、楽器がほしいって言ったら、ギターたくさん用意してくれて領主様も一緒に練習してくれて、すごい楽しかったなぁ。領主様が来られなくなってからも、みんなで練習して他の曲も弾けるようになったんですよ。聞いてほしかったなぁ……。」


 そんな、たいして昔でもない昔話も止まり、館に着いた頃には弱弱しい呼吸も聞こえなくなっていた。彼女が帰りたがっていた孤児院の建物は、炭の塊でしかなく、見ない方がよかったのかもしれない。



 足音がして、少し顔を上げる。聞きなれた声が聞こえる。


「ヒロさーん、キャバでもいきますか?」

「チャラ男……、ほんとお前は勇気あるな。」

「俺だって怖いですよ、ミカンちゃんでも話しかけれないんじゃしかたない。このキャラも仕事の内ですから。」


 そんな軽口をたたきながらも、横たわるエレナの手を握り険しい顔を一瞬みせる。この20代中頃の好青年がこんな顔をするのを見たのは初めてだ。


「ヒロさん、教え子亡くすってのは、きついっすね。」

「ギター教えてただけだろうが、ちゃんと全員の名前覚えてたのか?」

「俺は冷たい領主様とは違って、ちゃんと覚えてますよ。彼女は、特に熱心でしたし。」

「一緒に練習したのが、楽しかったって言ってたよ。」

「懐かしいですね。」

「そんなに前じゃないだろ。」

「そうですね。中層の貴族筋なのに領主様直々に呼ばれて、ギター教えろって。しかも、ハーレムの女の子相手って、ぜってー罠だと。」

「そんなこと考えてたのか、よく来たな。」

「断れないでしょ、義父の頼みなんて絶対命令ですよ、冗談でも『だるいっす』とか言えませんからね。」

「そこまでお前を躾けた嫁がすごいわ。」

「それはもう、絶対的な愛ですよ。」

「お前が言うと、ほんとに軽いな。」

「自分でも分かってます、嫁と会う前にあんな若い女の子達と仲良くしたら、数日でヒロさんに殺されてたでしょうね。」

「そういえば、夢者だって隠し通す気あったの?」

「ありましたよ、曲だってなるべくこっちのにしてばれないようにしてたのに、でもまぁ。最初の頃はほんとにヒロさん怖くてテンパってましたからね、ボロでまくりでしたね。」

「信用していいか分からなかったからな、今でもそうだけど。」

「そんな、ツンデレですか、俺を信用しまくりで宰相にしちゃんたんでしょ?」

「何度も言うけど、おまえじゃなくて、お前の義父だからな。お前が動きすぎて、みんな勘違いしてるだけだからな。」

「それは、ちゃんとわかってますよ。でも今じゃ義父も引退モードで、いい婿がいて安泰とか言ってますからね。」

「お前がいなきゃ、宰相なんてさせてないけどな。」

「今更ですけど、俺にまかせて大丈夫ってなんで思ったんですか?」

「経験かな、サラリーマン時代にチャラい奴がいて、最初は無いわぁと思ってたけど。実際に仕事で絡むとかなりできる奴でな、特に調整事は得意でそいつがいないと会議が停滞するほど。」

「それで、いきなり上層貴族の会議しきらせたりしたんですか? むちゃぶりすぎでしょ?」

「だめなら他探すかなぐらいで。」

「軽すぎっしょ。」

「結局なんとかなっただろ。その後は無難に仕事こないしてるだろ。」

「押し付けただけでしょう、ヒロさんほどじゃないですが休みなしですよ。……それでもまぁ、義父についてまわって秘書みたいな事してるよりかは、だいぶやりがいありますけどね。」

「……しかし、必死にやってきてこの結果では、過程を見てくれとは言えんな。」

「そうかもしれませんね、犠牲が大きすぎ。それでも、市民の為にやって来た事が実を結んだともいえるんじゃないですか。上位貴族の枠が空いて、好きな者を選べるんですから、犠牲を無駄にするかどうかはこれからの行動にかかってきますよ。」

「なにその宰相モードの発言は?」

「切り替えるの結構大変なんですよ、ちょっとまざるのは、さらーと流しといてください。」

「確かに、これからか。」

「取り合えず、俺の屋敷いきましょう。みんなもエレナにお別れ言わせてあげましょう。」

「そうだな。屋敷無事だったのか?」

「えぇ、ミラちゃん着いたすぐ後に、フィールで異常って連絡がありましたからね。」

「すばやいな、ちゃんと情報収集に金つかってるんだな。」

「それなり。ほんとなら、俺よりキヨちゃんのが先に気づくはずなんですけどね。先に手をうたれてた?」

「いや、せまって寸止めしたりして遊んだら引き籠ってたらしい。」

「……なにしてんすか!」

「弱ってたんだよ、それはいいから。それで、王都に居た護衛だけで戻ってきたのか?」

「そんなわけないでしょう、俺の戦闘力なんてスライム以下っすよ。契約してた傭兵らに声かけまくって、それぞれすぐにフィールに向かわせました。」

「そこは、真っ先に助けにくるんじゃねーの?」

「数騎でもどっても焼け石に水でしょ。でもまぁ、傭兵達も町の入口で睨みあってただけで、俺が掛け声かけるまでは何もしてませんでしたけどね。町に入っても、何も情報が入ってこなくて、見知った貴族は俺の顔見るなり襲ってくるし、館には近づけないしで大変でしたよ。」

「スマホもないしな、俺はその頃蒸し焼き寸前だったけど。」

「助けに来いって言われても困りましたけどね。とりあえず、予想通り何人かの上位貴族が裏切ったみたいでしたが誰が味方か分からなかったので、もと上司のとこに行ってみました。」

「それって、お前の家が仕えてた上層の貴族?」

「それっす、駆け付けた配下の貴族と間違ったみたいで、あっさり接近成功。俺の顔みて焦ったので、これは裏切り組だなとすぐわかったんで、長年こき使われた恨みを晴らしてやりました。」

「たくましいねぇ。」

「やったのは傭兵達ですけど。一匹つぶしたぐらいでは、流れは変えられないとふんで、その後は町から出る事もできず、ひたすら逃げ回ってました。」

「もう少し活躍しろよ。」

「少し兵を引きつけただけでも、褒めときましょうよ。まぁ、結局馬捨てて民家に隠れて、遠目で館が焼け落ちるの見るしかなかったんですけど。終わったと正直思いましたよ。」

「そりゃそうだな、俺も諦めて寝てたぐらいだし。」

「寝てたんすか! 俺も寝てましたけど。」

「……逃げなかったんだ。」

「なんか、思考停止して何も考えられなかったですね。傭兵の一人が勝ったみたいって言った時は、久々に夢でもみてるのかと思いましたよ。」

「そうなるよな。」

「実際に勝ったんですから、今夜は戦勝祝いです。分かってますけど、犠牲者の追悼は後日です。今は、戦ってくれた兵や市民に応えてやってください。」

「そうだな。」


 その後、館の兵、孤児院や一般市民の子供達、俺の為に戦ってくれた人々に挨拶して回った。返り血を浴び、転がる死体のすぐ横で酒をのみ歓喜する人々を見て、自分の罪が何なのかよくわかる。勝利の酔いが覚めた後、人を殺した事実と向き合い落胆する気持ちを、殺しを楽しむ俺には理解できない。そんな奴が中学生に剣を持たせて人を殺せと命令する、数回殺されたぐらいではこの罪は償えないのだろう。

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