領主7
孤児院とは言っても、館の敷地内にあり見た目は貴族の屋敷。ミラはあからさまに怪しいという目で見ている。
建物の中に入ると、みな軽く会釈しみかんを呼ぶと小走りでやってくる、簡単に事情を説明する。
「領主さま~。」
マユが元気な声を上げて走ってくる。簡単に抱き上げる事が出来るこの少女は、この孤児院の最年少だ。少し話をすると夕食の手伝いへと戻っていく。そしてミラがあきれ顔で俺を見ている。
「なに?」
「いや、その油断しきっただらしない顔……。ずいぶんなついてるけど、貴方の子?」
「裏どりなしで変な記事かくなよ。まぁ名目上は、ここに居る子らは俺の子供だけどな。」
「そうなんだ、なんかアニメにでてくる女学院って感じ。」
「なんでアニメ?」
「実際の女子高って、こんなに美少女ばっかりじゃない。」
「それはまぁ、確かにそうなのかも。男子の夢を壊すなぁ。」
「それで、この不自然な孤児院はなんなの?」
「簡単にいえば、貢物かな。」
「賄賂? 人を送ってくるなんて、受け取るほうも問題でしょ。」
「ひどいな、俺の経歴は知ってる?」
「賞金首だったり、傭兵団の頭だったり、人身売買組織と戦う義賊だったり……。保護した子供達って事?」
「まぁ、そうかな。初物が好きだと噂を流して、ここに集まるように誘導したりもしてるけど。」
「でもさっきの子は、さすがに若すぎじゃない?」
「そうだな、まだ6歳。……一晩使うだけの為に、幼女が流通してるんだよ、全てを救えるわけじゃないからな、今考えつくのはこんなやり方だけなんだ。」
「あの子は、運が良かったって事?。」
「そうでもないよ、俺が奴隷商人の頭が吹き飛ばす所見てるしな。」
「子供の前で、なにやってるの!」
「それに、実の親に売られた。」
「……行った事ないけど、田舎の方は口減らししないといけないほど厳しいの?」
「そういうとこもあるけどマユは別。町一番の美少女が、美少女の母と呼ばれる事に耐えられなかったんだと。」
「そんな理由で。」
「見た目だけで貴族に嫁いでも、甘やかされた町娘が住める世界じゃなかったんだ。実家に戻されて、いくら頑張っても自分の子供を愛せなかった。何かする前に手放して良かった、世界や私からあの子を守ってほしい。そう言って引き取りを拒んだそうだ。」
「もどせる子達は、家に帰してるんですか?」
「誘拐同然にさらわれた子もいるからな、でも親を戦争やら魔物に襲われたりで亡くした子がほとんど。読み書き他勉強して、館の手伝いもしてもらってる。ちなみ数は少ないけど、男子もいるよ寮は別だからこの時間はそっちにいる。」
「知らなかった、ハーレムしてるのかと疑ってました。」
「隠してるからな。しばらくはみすぼらしい孤児院って事にしといて。」
「だいぶ無理あるけど、了解しました。ねえ、秘書さんがすごい怒ってそうな顔でこっちに来ますけど。」
振り返ると、キヨがかなりの形相で向かってくる。ミラの胸ぐらをつかんで、10分だけだと言ったはずですと言う。なんとかなだめて、とりあえずお互いを紹介する。
「えっと、改めて。新聞記者で、広報担当となったミラさんだ。そして、専属秘書で婚約者のキヨ。」
「領主さま、ご冗談でも軽々しく婚約者などとおっしゃらないでください。」
「本気なんだけど。」
「二人の時にふざけて言われるのはいいです、他に人がいるときはもう少し言動に注意してください。私だけを贔屓していると、周りに想われないようにしていただかないと……。」
「別にほほにキスするくらい、みんな気にしないでしょう?」
「します! 自分の娘が領主の妻となると思えば、貴族達は領主様の意向にそって動きます。」
「わが子が世界一かわいいと思ってる幸せ者がおおいよなぁ。」
「暗殺事件が減るように、少しは貴族や市民に好かれるよう努力してください。」
ミラが大きくうなずく。
「それは、ミラ記者がなんとかしてくれるさ。」
ミラは困り顔で目をそらす。
「大丈夫だって、もし何か起きてもキヨがそばにいればすぐに治る……。」
キヨは、更に眉間にしわを寄せて睨んでいる。
そんな怒りをあらわにしながらも、俺が近寄るとゆっくりと下がっていく、背中に壁があたりあせった隙に距離をつめて腰を掴む。
「領主様、院の子達も見てますよ。ご冗談はやめてください。」
「いつもは、もっとわがままでいいと言うくせにか?」
「こういう事ではないです。」
「そっか。」
睨み続ける彼女との距離をつめていき、彼女の足の間に自分の足を押し込む。流石に焦ったようで、白い肌を真っ赤にそめる。
「ご主人様……、ほんとに勘弁してください、私に罰を与えたいのならせめて鞭打ちに。」
「罰が必要な事したのか?」
「誓ってそのような事はありません。……結局最後までは、してくれないんですよね?」
「余裕だなぁ、途中で止めないかもよ。婚約者と宣言しても?」
「ダメです。奴隷と堂々と婚約など下層の貴族でも許されません。」
「気絶してる時に、こっそりキスしなくても良くなるのに?」
「ひ!」
初めて聞く悲鳴を上げ、目をそらして下を向く。
「……やはり、心が読めるのですね。」
「読めないと言ってるだろ、信じてくれるんじゃなかったの?」
「だって、誰もいなかった……。」
「……罰が必要? 混乱して、凄い事想像してない?」
「心を読まないでください!」
「わかった、わかった、冗談だ。」
手をはなし、大げさに広げると、半泣きで顔を真っ赤にした彼女は足早に去っていく。
入れ替わりに近くまで来たミラはあきれ顔をいうよりも、軽蔑の視線をなげてくる。
「完全に発情してじたゃん、レイプするより残酷だわ。」
「寸止めがか?」
「彼女にほとんど任せてるんでしょ? あんな事して裏切られたらどうするの? ちょっと大丈夫?」
今までキヨが背中をあずけていた壁にもたれかかり、くずれかけたところを護衛の肩を借りて個室へ移動する。
キヨの事や、毒殺されかけてまだ病み上がりであることなどを説明する。
「もしかして、無理してるのを隠す為に彼女を追い払いたかっただけなの?」
「それもあるけど、好きな子はいじめたくなるってやつかな、彼女の照れる顔が見たくなった。」
「やりすぎでしょ、確かにめちゃ可愛かったけど。普段はあそこまでしないわけ?」
「……そうだな、どうしようもなく愛おしいって感じかな。今回の暗殺未遂はほんとに危なかった、向こうも命がけだからそのうち俺の運もつきる。なんか死にかけて、弱気になってるのかもな。冷静な時に考えても、キヨよりも先に俺の寿命が尽きる。その時に彼女が涙を流さない程度には嫌われておきたい。」
「……私をあてにしないで、そんなシナリオ書けないわよ。」
「それは心配しなくてもいい、3カ月以上恋人と続いた事ないから。」
「向こうでの話でしょ? それってさ、いれた日からスタート?」
「ぼかし無しだな。……確かにそうだな、自分に好意が有りそうと思って、その日にしなかったのはキヨだけかな。」
「それでよく、3カ月もったね。……お忍びで娼館通ってることは、彼女知ってるの?」
「はい?」
「……意外と顔にでるのね? そのちょうしじゃもうバレてるっぽいね。」
「ほんとたまにだから、キヨは魔力の変化を読むから、俺の表情はさほど読めてないんじゃないかな。通ってるとかいうなよ、調べもなしでおまえこそ読心術か?」
「女性記者の挨拶ジャブみたいのかな、逆セクハラとか言われるけど、だまっときますんで~ネタくださいって流れ。」
「こっちでやるなよ、本気で消されるぞ。」
「気を付けます。そんで、貴方は考えが分かるわけ?」
「いや、少しぐらいは人が何考えてるかわかるだろう、罪っていいながら唇をみてたし。もしかしてと思って口にしただけ。無意識に人の表情とか仕草読み取ってるのかもな、こっちきてからはほとんど追われる立場だったから、そういうのに敏感になってるのかも。」
「挨拶がわりに剣抜く人おおいしね。向こうでの話はネタにできないから怖い話はいらないけど、子供は昔から好きだったの?」
「嫌いだったよ、今でも大抵の子供は嫌い。ここの子らは、厳しい院長がいるからきちんと躾けられてるからな、素直で好きだよ。なに?」
「実は、最初に記事書いた頃は知らなかったんだけど、貴方が捕まった2回って子供絡みだったって聞いてどうなのかなって。」
「……贅沢言える状態じゃないけど、一回目の方は使わないでほしいかな。」
「わかった。」
「2回目の方は、あの時に黒弓は死んだ事になってるから、いまさらなぁ。」
「自らを犠牲にして孤児を救ったって、例の町では立派な墓まであってかなり人気者らいよ。ここでも黒弓の名前で傭兵に招集かけてるし、そこの話変えるのは厳しいんじゃない?」
「そうだな、なにか妙案うかぶまで保留で。」
「了解。」
「そもそもさ、俺がそこまで残虐な領主じゃないって、どこで気が付いたんだ?」
「意外と領主様人気あるんですよ、子供達には戦争の英雄。大人達には、赤目討伐の救世主。近隣の村には、魔物討伐にみずから出向いてくれる、救いの神。」
「ばれてんのか。」
「実際に弓で倒すとこ見てなくても、おかしなとこいっぱいなのよ。道や井戸治すの手伝ったりお金だしたりしてるでしょう、宴席に誘われても挨拶も無しに謝礼も受け取らずに帰る、傭兵団って割には統率良すぎ上品すぎ。」
「わざわざボロ着て行ってるのに。」
「隠すならもっと本気でやらないとね。領主様厳しすぎない? って市民に聞いてまわっても、厳しくて町が平和ならありがたいって。一般市民は、重罪以外では死罪になってないし。自覚ないのかもしれないけど、厳しいのは貴族にだけでしょ。」
「そっか、そもそも周りに市民なんていないからな。」
「私は、市民ですよ。」
「もう一般市民じゃないぞ。」
「はい?」
「あのさ、ミラ記者の旦那様かなり上位の貴族の家系なんだよね。」
「いや、冗談でしょ、のんびり草花の観察してボツ記事量産してる人ですよ。」
「そう、植物の研究以外に興味なし、人間で興味あるのは嫁だけ。その嫁が領主の広報になるのだから、都合いいんだけどね。」
「いやいや、その為に経歴偽造したでしょう。」
「かってに疑っておけ、これからは言葉遣いやマナーも貴族らしくな。」
「貴方にだけは言われたくない。そもそもあんなボロアパートから、どうやってこんな立派な館に通うのよ、門衛に止められるわ。今着てるこの服でさえ、借りてきたのよ。」
「家は、来るとき寄ってきただろ。」
「はい?」
「馬車乗り換えただろ?」
「……いやいや、まってまって、あの窓が12、広い庭に馬車止め……。」
「意外と見てるな。」
「そうですよ、こっちきてから貴族様なんて乗ってる馬車ぐらいしか見た事なかったんだから。」
「いや、毎日家にかえったらいただろう。」
「う、確かに姿勢はいいなぁと思ったこともあったけど、貴族様ってイメージじゃない。」
「慣れてくれとしか言えないな。仕事に集中できるよう、メイドと執事もやとってあるから、きっちり成果だしてな。」
「うわぁ、いやなプレッシャーのかけ方しますね。」
「怖い領主で売ってもらうのに、平和の為とか言えないだろう。」
「それは、そうですが、これからそこも考えていきます。」
「キヨと調整よろしく。」
「……わかってんなら、私の前であんな事しないでもらえます。顔見て話せないし。」
「実はな彼女が声出して笑うところを見た事がないんだ、ほとんどの奴が俺の前で笑ったりしないけどな。」
「独裁者の孤独ってやつですな。」
「どっちかっていえば、大量殺人犯だからな笑えってほうが無理があるな。」
「それは、そうすね。訓練された受付のおねーさんじゃないと無理かも。」
「上位貴族の娘達は、意外と訓練されてるから距離があれば完璧な笑顔は出来るよ。」
「距離ってなに?」
「独身の領主には、毎週の様に見合いの予定入れられるんだけど、さっきのキヨみたいに足が絡むぐらいまで近寄ると恐怖で顔がゆがむ。」
「何してんの。」
「半分ぐらいは泣き出すな。」
「敵増やしてどうする、キヨちゃんの苦労が分かる。」
「ほんじゃ、彼女の仕事減らすように明日の朝一から仕事よろしく。」
「あんな家もらったんじゃ断れないね。まずは今晩にでも、みっちり旦那と話しないとね。」
「ごめん、それは明日にして。」
「はい?」
「明日の朝から王都王宮で会議あるからすぐ出発して。」
「今から? 旦那への説明は?」
「やっとく、向こう付く頃には暗くなるけど、護衛つけるから。」
「いやいや、その前に私一人で行かす気?」
「大丈夫、すでにうちの宰相が二日も頑張ってるから、最終日なんでよろしく。」
「宰相って会った事も見た事もないんだけど。」
「おなじ夢者だし、ちょっと、いやかなり軽いチャラ男だけど仕事はするから。」
「まて、チャラ男ってそんなのを宰相にしてるのか? 不安しかないんだけど。」
「なんとかなるって。」
しばし抵抗していたが、旦那の好きな植物の研究費用も持つと言うとあっさり出発していった。調査によるとかなりのバカップルらしい、理由はなんであれ仕事してくれるなら何でもいい。現在のフィールに余裕なんて無いのだから。




