領主6
久しぶりに熟睡した気がしたが体は重い、カーテンの隙間からこぼれる光からして朝らしい。そして、気を失う前の事を想い出すと気持ちも重い。領主ともなると、恨まれ暗殺されかけるのも仕事のうち、毎週の様に起こるのですでに慣れて来ていたのだが今回のは久々に危なかった。
午後からキヨが町役場に出掛け、残って書類仕事を片付けるはずがいきなり手詰まりとなり、優秀な秘書が帰ってくるまで時間が空く。近場の視察でもとあらかじめリストアップしていた箇所を周り、みかんが院長をするのとは別の孤児院を視察に行く。
孤児院でしばらく院長と話をして帰ろうとしていた時、まだ小さな女の子が花を持って近づいてくる。無言で差し出すと緊張しているのか、なにかもじもしとしている。一緒に近くまで来た女の子が、呟くように手を口に当てて近寄ってくるので、少し頭を傾ける。
油断していた俺の口に彼女は指を押し込む、強烈な苦みが広がり毒だと分かる、口がしびれめまいがして視界がゆれる、ナイフを持って走って来る少年が見え、膝が崩れ床が近づいてくる、こんな事ならキヨをつれて帝国に逃げれば良かった、そんな事を考えて意識が途切れた気がする。
キヨが俺の心臓の音を確かめるように、胸の上で寝る姿をみるのも見慣れた光景だ。魔力の近い者が近くに居ると傷や病が治る、キヨは頑なに主張し最初は手を握る程度だったのだが、今では体調が悪い時はこの状態で目覚める。知らない美少女ならなんとも有難い場面なのだが、清純なタイプには手をだせない気の弱い男なのだ。それに今回は猛烈にからだがだるい。腕を上げるのもしんどい、それでも寝顔の可愛すぎるキヨの頭をなでると少し笑う、寝息でそうかと思ってはいたが、やはり起きているようだ。
「キヨ、重くはないけど、起きてるなら降りて。」
「はい!」
元気な返事のわりに、目は腫れて疲れが見える。
「ごめんな、心配かけた。」
「いえ、毒の成分が分からず、解毒に時間がかかってしまって、すいません。」
「そっか、飲み物に入れるでもなく、口に指突っ込むのは斬新だったな。」
「……なんでそんなに他人事、感心しないでください。」
「ごめん、どんな毒だった?」
「正確には分かっていません、神経に作用して動きを封じ、さらに魔力を消失させる効果がありそうだと。」
「強力だが毒だけでは死なないってことか、だからとどめを刺しにくる仲間とセットか。ん、どっか刺された?」
「刃が届く直前で孤児院の少年達が取り押さえたそうです。」
「それはあとで礼をしないとな。毒の解析に時間かかったってことは、あの女は逃がしたのか?」
「はい、捜索中ですがもう町にはいないかと。」
「他の動きは、大丈夫?」
「館の守備は強化してありますが、おそらく3人のみ。とらえた二人は、王都で毒を盛った女に雇われただけだと。」
「とどめさす役は二人か、慎重派だな。どうやってあの孤児院にもぐりこんだのかは?」
「辺境の村から出稼ぎに来て、仕事が見つかるまで孤児院の手伝いとなっていましたが、どうやら道中に入れ替わったようです。」
「そして、いつか視察に来る俺を待っていたのか。プロだなぁ、金が目当てなら雇いたいとこだな。」
「……ご主人様!!」
「な、はい?」
「もう何回目だと思っているんですか!」
「なんか、浮気がばれて怒られてるみたい。」
「……ご主人様! 私は、ご主人様が他と女性とベッドを共にしても怒ったりしません。」
心が読めなくても、口調や目元から怒りがにじみでている。
「……嘘つきだな。」
「な……我慢できます! 話をすり替えないでください。」
「わかった、ほんとごめん、次からは気を付ける。護衛隊が居ない時は、出かけないよ。」
「当たり前です!」
「なんか、慣れてしまっていた気がする。」
「領主になる前から、日常的に狙われてるからですか?」
「そっちもだけど、心配してくれる人が近くにいる有難さみたいなのに。」
「……もう少し、照れずにさらっと言っていただけると、嬉しいのですが……。」
「厳しいなぁ。」
「すいません、私もかもしれませんね。出掛けにほほにキスしていただくのも、私だけなのに……。それが当然のように明日も続くのだと……。もっと素直でないといけませんね。」
「それは、まぁ、そのほうが可愛いかな。」
「そうなのですね、私はヒロ様のお子を……。」
「思った事なんでも言っていいって事じゃないから、起き上がるのもやっとな病人に何言ってる。」
「元気な時に寝室に入ると怒るじゃないですか!」
「それは、油断したらハーレム作ったり、うん、冗談。休んだ分取り返さないとね、予定は?」
暗殺者も賞金稼ぎも一流と呼ばれるやつらが増えた。賞金首だった時よりも報酬は跳ね上がり、小国が買える値段なのだそうだ。さほど生に執着しない俺に、キヨの心配事は増える一方だ。
皇帝に連なる貴族の娘として領地の運営をまじかで見て、その手助けをするよう育てられた彼女の仕事は完璧なのだろう。しかしそれは表向きの貴族間の根回しなどは出来ても、汚れ仕事には向かないし、させたくはない。
考えてはいけないと分かっていても、カルがいてくれたらと思ってしまう。もっと早く手紙でも出せばよかった、時間が経つほどなにを書いていいか分からない、そろそろ俺が生きていると気付いているだろうから、会いにやってくるかもしれない。もしもそうなったら、俺の行動を読んで先回りする彼女が殺したいほど怒ってるなら、どんな対策したって無駄な気がする。
相手がカルでなくても、悲しい事に俺の剣術では自分の身を守れない、政治がらみで誰を信用していいのかわからない為、護衛に切られる可能性も低くはない。キヨのチェックを通った護衛がついてはいるが、本家が裏切れば、本人にその気がなくても手紙一枚で暗殺者に変わってしまうのだ。
さらにやっかいなのが、領地がじわじわと増える事だ。強力な兵器を持った国とわざわざ戦争したい奴はいないので、いままであまり仲の良くなかった周辺国のいくつかは、あっさり吸収され元王家は小領主となる、そして余った領地を任される。
これだけ書くと楽に領地増えて美味しい感じ、なのだが……。そもそも、俺には兵が無いに等しい、いくら弓が得意だからと言っても、一人で軍に対抗できるわけもない。信用度の高そうな貴族に任せるのだが、当然兵が足りないと要望や不満の手紙が増える。俺の領地経営は、常に綱渡り状態だ。
「……ヒロ様。」
「ごめん、考え事してた。」
今日の予定を確認していたのに、ほとんど聞いてなかった。キヨはあきれ顔で、すこし不機嫌。
「病み上がりなのですから、今日は休んでください。」
「夕方の記者との会合だけにしようかな、一度会って判断しないといけないし。」
「そんなに大事なのでしょうか?」
「こっちの政治の事ならキヨのが詳しいけど、夢者の事は判断つかないだろ。」
「……わかりました、それまでは安静にしていてください。」
「わかった、寝とくよ。」
それを聞いても、キヨは疑いの目で見ている、信用されてない。
「キヨ、心配なら一緒に寝る?」
「な、な、なに言ってるんですか。」
言葉では強気に迫るような事を言うわりに自分からは寄ってこない、俺から誘ったりすると照れて白いほほを真っ赤にする、ほんとうに可愛らしい。固まってるキヨの手をひっぱり、ベッドにひっぱりこんで後ろから抱きしめる。
「ご主人様!」
「ほんと、たまにしかヒロって呼んでくれないな。」
「すいません、まだ、恥ずかしくて。」
「可愛い。」
「な、なに言ってるんですか? お薬の効果で、正気じゃないのではないですか?」
「大丈夫、今だけだって。起きたらちゃんと仕事します。キヨも疲れてるでしょ、少し寝よう。」
「わかりました。」
応接室に入ると、彼女は勢いよく立ち上がり、やり過ぎだろうというぐらい直角に頭を下げる。短い髪に、紺のスーツ、向こうで新聞記者なんて会ったことはないけど真面目そう、20代前半の女性が待ち構えていた。
「フィールデイリーのミラと申します。」
声がうわずり、緊張しているのが良く分かる。
「フィール領主ヒロだ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「それで、本当の名前は、なんていう?」
「えぇっと……?」
「夢者以外が、領主に手をだされて握手なんかしない。俺を知っている者は、嘘はつかないようだが。」
「……からまき みらい、です。」
「それで、ミラか。」
「領主様、お時間を頂き大変ありがたいのですが。今日はその、宰相様の秘書の方にお話しを伺えると聞いて、その……。」
「俺の話を聞きに来たのだろう? 直接聞いた方が早いだろう、不満か?」
「いえいえ、そのようなことは、まったく、ありません!」
「じゃ、始めよう。」
「はい、事前にお伝えしておりました、三つの事件についてお聞きします。」
「あぁ、原稿は読ませてもらった。」
「はい!? もう読まれたのですか?」
「読んだよ、領地や領主である俺の記事は、載せる前に連絡がくるんだよ。全部俺が読んでるわけじゃないけどな。」
「今迄の分も全てですか?」
「読んだよ。」
「領主様、わ、私は、今日生きて家に、その、帰れるのでしょうか?」
「……俺がどんなやつかも含めて、君が判断したらいいよ。まず、何からいく?」
「では、妊婦の射殺事件から。」
「ミラ記者の見解は?」
「……私が集めた情報では、館の門前に妊婦が表れ『領主様の子を身ごもっている、領主様に合わせてほしい』と叫び、門を守備する兵が近寄ると、触るなと暴れていたところ、矢が妊婦を貫いたと。」
「事実だ。」
「……理由を聞いても?」
「まず、その矢は俺が放った物じゃない。」
「しかし、先の戦争で弓隊の生き残りは領主様だけだと。」
「そうだな、実は仕事を手伝ってもらっている館の人間に頼まれて、弓を教えたんだが一人だけ上達の速い者がいてな。」
もちろんこれはキヨの事、みかんも一緒に朝の訓練に参加しているが、さほど上達しない。キヨに言ったら怒るだろうが、みかんは胸が……。
この事件の日、館の2階で会議中だったのだが、騒ぎの報告が入りキヨも含めバルコニーに出て門を見ると、門柱をつかみえらい表情の妊婦が見える。キヨから、6~7ヵ月前に彼女にあったか? と尋問のように聞かれ、その頃は山に籠って弓隊の習練中だし、会ったことはないと答えると勢いよく部屋をでていった。門まで行って追い払うのかと待っていると、自分の弓を持って戻ってきた。
本当に会ったことはないですね? と念押しの確認をして、妊婦に向かって矢を放った。遺体の確認と、背後関係の調査、館の警備の増強など指示を出す彼女を呆気にとられて見ているしかなかった。
「その者の処罰は?」
「必要ない、俺はその妊婦に会った事もないし、山奥で極秘訓練している最中に子などつくれるはずもない。」
「し、しかし、そうであったとしても、妊婦を殺すなど。」
「生かしておけば、俺に子供がいると広めるようなものだ。その子供をこの館で育てていないとなれば、その子が赤ん坊でも俺を引きずり下ろす口実に使われる、この世界では不信任案ってのは剣と血で作られる。日本とは違うんだよ、領主や上級と呼ばれる貴族が一般の市民との間に子を作る何てことはありえない。」
「それは、こっちの身分社会の事は分かってます、しかし、出来てしまう事もあるのではないでしょうか?」
「もちろんあるさ、メイドや娼婦に気持ちが傾く男も当然いる。その場合は、どこぞの貴族の養子として家に入り、側室としてかなり前から関係があったと経歴を作り変えるんだ。それを暴く週刊誌はこの世界にはないからそれが事実となる。」
「事実は権力者の承諾のもと作られるということですか……。」
「向こうの世界だって一緒だろう、スクープとおだてられて賞をもらえるか陰謀論者とつまはじきにされるか、決めるのは偉いさんだろ? なにかの事件を実際に見たとしても、裏の事情まで全てわかるわけじゃないだろ。」
「……わ、わかりました、では次の事件、デモ鎮圧時の少年射殺。弱者の救済を掲げるデモ隊を率いていた少年を射殺したと聞いています。」
「……あれは、そもそもデモなんかじゃない。貴族が没落しそうになって暴走しただけだ、女子供を先頭に後ろには武装した貴族の私兵や傭兵、何よりその女子供も武装していた。」
「貴族の反乱ということですか?」
「そうだな、俺の判断ミス……なんだろうな。」
「……詳しくお聞きしても?」
「いいよ。その事件の2週間ほど前、中層の貴族が町の通りでまだ9歳の男の子を何度も殴りつけていた。俺が止めに入ると剣に手をかけた。護衛がすぐに取り押さえたのだが、すぐに殺すべきだという周りの意見を退けて牢に入れた、貴族の妻と息子が命だけはと必死に願ったからだ。」
「ここまでは、いい話っぽいですけど。」
「それは、平和ボケした日本人だからだ。俺もだがな、この時はそんなに悩まなかった。子供を殴った理由が、その子の父親を馬車でひき殺して馬車が汚れたからだと聞いた時も、数年は牢で暮らしてもらうかと思った程度だった。」
「ちょっと、まわりの意見のほうに賛成してしまいそうですが。」
「意外に好戦的だな。まぁすぐに後悔したけどな。一般の牢には入れられないからと、この屋敷の部屋に移動させたが、食事や枕にまで細かい注文をつけて、結局は自分の屋敷に軟禁する事になった。」
「ずいぶん、甘いですね。」
「記者の公平さは? 日に何度も家族や近い貴族やらから面会の申し入れが来るし、アポなしで来る奴もいて他の事が出来ないほどでな、後で考えればそういう作戦だったのかもな。自宅で妻子以外との接触禁止で仕事も取り上げれば、そのうち影響力も無くなって自然消滅と考えていたのだが。女子供に甘い、そんなんでは領主はつとまらない、今こそ賞金首を引きずり下ろせ他色々。それなりの人数を集めて、館の前に陣取ったわけだ。」
「攻められる側ですねよ? なんかうれしそう?」
「そうだな、すごくないか権力者に逆らうなんて、それが新聞記者に魔王とか呼ばれてる領主だとしても。」
「わ、わ、私が言ったわけではないですよ、あくまでも街の意見として、そんな呼ばれ方もあると、あくまでも一例としてです。」
「それは、良いんだけどね、悪い領主をやっつけるってんなら、まだかっこよかったんだけど。俺の弓が怖くて、女子供を盾にするってのは流石にね。俺は相手が誰であれ甘い顔はしないと、証明する必要があったんだ。そうでなければ、館を守る兵達に、知り合いや友人の妻子を殺せと命令しなければいけなかった。止めるには一人殺せばいい、それがあの少年だった。父親の命を救おうと必死に頼むあの子は、嘘や策略など無かったと思う。もちろん後悔はしてるよ、だけど責任は誰かになすりつけられないからね、そこが日本のサラリーマンと違うとこだよな。」
「……その、後処理は?」
「少年が射殺され、みな逃げ出した。残ったのは子供の遺体と、泣き崩れる母親だけだ。息子を殺した相手に謝罪し、自分も送ってほしいと泣きながら訴えていた。少し悩んがだその場で首をはねた。問題の貴族は逃げ回っていたが。和解したがっていると噂を流すと、のこのこと夜会に現れた。笑顔で迎えて酒をくみかわしてから頭を撃ち抜いた。」
「マフィアみたいですね。」
「なんで満足そうなの? 集めた貴族は、すくなからず手を貸した奴らだったので『俺が嘘を見抜けると噂している者もいるようだが、そんな力はない、今後も怪しい者は殺す』参加者にはそう伝えておいた。」
「……本当に、嘘を見抜く力はないのですか?」
「なにか掛けてポーカーでもするか?」
「やめておきます。それでは、最後の案件いきます! 気にいった人妻と娘を自分の物にする為に、旦那を鉱山送りにした件、いま審議中で編集長預かりになってるやつです。」
「だいぶ慣れてきたな、いいけど。貴族の中でも、大きく分けて上中下と三層あるのは分かってるよね?」
「はい、住むところも、仕事もかなり違うと。貴族の家で働くにも、一つ上の層までとか。」
「そうそう、その旦那は商人見習いから中層の貴族に成り上がった人で、かなり強引な商売してたみたいで貴族位上げるのも金で手にいれたんだそうだ。勢いの無くなった貴族が位を金に変えるのは、よくある話なんだが、夢者でしかも家の向かい側にも夢者の同じ宝石商の人間が住んでるってなると話がおかしくなるんだよね。」
「なんか落語みたいになってますよ。」
「そんな、楽しい話じゃないよ。二人とも夢者なのを隠して商売してきたが、領主が夢者に変わると同じ夢者だ、後ろには領主様がついているって、もともと強引なやり方だったのに、さらに強引になって、当然ぶつかるようになり、顔を合わせれば、文句の言い合いをしていたらしい。そんなある日、家族の留守に家が放火される。当然向かいの家主が怪しいと探しまわるが、行方不明。王都で酔いつぶれてるのがみつかったのは三日後の事だった。あっさりと罪を認めて、死罪となった。」
「いきなり死罪?」
「向こうでもそうだけど、こっちでも放火は罪重いんだよ。一歩間違えれば、町全部燃えるからね。この時だって、結局両隣も燃えて3軒潰したからな。両隣空き家だったから、怪我人は出てないけど。本人にその気がなくても、無差別殺人と同等って扱い。」
「それは、先輩が記事書いてましたけど、一度は本人だけだったけど、結局家族全員死罪になったって……。」
「こっちの世界では、基本は家族連帯責任、罪が重ければ一族全員連座制が当たり前らしいんだけど、手を貸してなければ家族は罪に問わないってのが俺の基本姿勢。」
「一度はってのが気になってたんですけど、先輩の案件だったから調べられなくて気になってたんですよ。なんで基本スタンスを崩したんですか?」
「なんか、記者っぽいな。」
「いちょう新聞記者です。」
「そうだった。知ってるかもしれないが、領内での死刑は全て俺が殺す。」
「ほんとだったんですね、でも全部ですか? どうして?」
「えらい食いつくな。貴族や衛兵が、殺してしまう事件が多かったんだよ、口封じだとは思うんだけど。それを禁止するのと、死刑を決めるのも、執行するのも、背負う物は一緒だろう。誰かを殺せなんて、戦争以外では命令したくないってのもあるしな。」
「そうなんですか、なんか、ちょっと殺人狂なんじゃないかと思ってました。」
「直球だな。そんなふうに思われてもいいと思ってたんだが、それもすこし揺らいでる。放火した貴族の処刑の日、広場で台の上に立ったその男を、何も考えないようにして撃った。ため息をついていると、身なりのいい10歳ぐらいの男の子が走ってきて、衛兵に止められる。その子は大声で『父さんの仇、極悪魔王め! 必ず殺す! おまえの家族も、友達もすべて殺す!』そう叫んだ。」
「魔王って……、その子私の記事を……。」
「読み書きの練習に、新聞ぐらい読むさ。そして、その子をたすける策も思いつかず、私も一緒にと言う母親の言葉に従って、二人を撃った。そんな事もあって詳細が知りたくなってな、なぜ放火に走ったのか、調べさせた。そうすると、お互いさまざまな妨害工作をやっていたが、放火された側はかなりひどく、嫌がらせなんてレベルは超えていて、大小かなりの犯罪行為、なかでも相手側の妻を強引に犯して、それをネタに毎週の様に呼び出して、男性従業員の相手をさせていたらしい。」
「ゲスですね死ねばいい。」
「……私情まるだしでいいのか? それで、その放火された側の貴族の家に乗り込んで、事実か聞いてみた。嘘をつけば、家族に何するかわからんと言ってからね。」
「……まおう……。」
「なんか言ったか?」
「なんでもないです!」
「噂も役にたつな、やつはすらすらしゃべりだして、横で聞いていた妻子の表情からして、知らなかったらしい。そして、その被害者はもういない、事前に分かっていても減刑できるわけじゃないしな。かといって、許すわけにもいかない。二人の喧嘩で周りの住民が引っ越して家賃を取り損ねた、として家賃千倍を罰金とする事にした。」
「まって、家賃って領主様に払ってるの?」
「そうだよ、知らなかったのか?」
「深く考えてなかった。」
「まぁ、そんなもんかな。この世界の税金って、大抵家賃なんだよ。うーんと、向こうの固定資産税みたいなもんかな、土地は全部領主の物で地代や部屋代を払うって感じかな。実際は、間に大小の貴族やら商人やらが入るけどね、だから君の家賃を過去一年にさかのぼって千倍にしたりも出来る。」
「過去分は反則じゃないですか?」
「裁判所やら立法やらも俺がやるから、基本なんでもありなんだよ。」
「えぇ、それじゃ、領主様に乱暴されたって訴える先も、領主様って事?」
「わかりやすい例えでいいね、つまりそういう事。」
「うわ、いちょう言っときますけど、私には愛する旦那様がいますので。」
「……おい……、この館に入って来て気付かなかった?」
「な、なにをでしょう?」
「貴族って一つ下の階層の貴族が働きに来るっていったでしょ。しかも、あわよくば上の貴族の子を産めば、一つ上の階層と大きなパイプが出来るわけだ。」
「この館にいる人は、みんな上位階層の貴族って事ですか?」
「そう、しかもあわよくばを狙って自慢の子を送り込んで来る。」
「確かに、モデルさんみたいな人ばかりでしたね、武器の確認ってきた秘書さんなんて、お人形さんみたいでした。」
「それで、俺がまだなにかよからぬ事を考えてると思う?」
「いえ、申し訳ございませんでした。」
「よし、それじゃ証人を呼ぼうか。」
「はい? 誰を?」
「放火されたほうの奥さんと娘。話聞きたいでしょ?」
「いいんですか?」
綺麗な会釈で入ってくる二人、最初こそ貴族のオーラがただよっていたが。ミラの聞き方がうまいのか、すらすらとしゃべりだす。
妻と13になる娘は、『旦那が家にいる時は生きた心地がしなかった』そう言って話始めた。貴族の位それだけの為に夫に先立たれた子持ちの女を妻にし、一緒に住むようになってすぐに暴力による支配が始まる。女関係は派手だったが、二十歳以下の女には興味がなかったようで娘には手をださなかった、それでも機嫌が悪い時には理不尽な理由で殴られたそうだ。
旦那も昔は人望も厚く、義理堅い人物として堅実な商売をしていたらしい。しかし、一人目の妻を病気で亡くした後は人が変ったのだそうだ。
最後に、本来であれば二人とも奴隷へ格下げとなる所だったが、館で雇っていただいてありがとうございますと。俺じゃなくて、旦那が隠し財産をつかって貴族の位を上げて、人出不足の領主の館に送り込んだのが事実。たった一晩で牢からそこまで手配するぐらだから、実力者ってやつだったのかもしれない。逃げる事も出来たのかもしれないのに、残される家族の心配するあたりよめない奴だ。
二人は、つまらないプライドだと切り捨て、絶対に鉱山から出さないでほしいと言う。
二人が部屋から出て行くと、ミラは下を向いて動かない。
「私は、間違っていたんでしょうか?」
「何言ってる? 二人の話を信じるのか? 俺が書いた台本を読んでるだけかもしれないだろう?」
「他にも、おかしな事はあったんです。貴方を悪者として記事を一つ書いたらさらにそれを証明するような情報が入ってくる。自分が書いた事が間違いだと思いたくなくて、私は都合のいい話しか耳に入らなくなっているのかもしれない、気付いていたんです、それでも私は、動けなかった……。」
「善と悪、正義なんて、見る方向でいくらでも変わるだろ。領主を批判する記事を書かせたい奴が、君に情報を渡していたんだよ。」
「……いつから知ってたんですか?」
「最初の記事からかな。編集長から相談されて、記事はそのまま載せて色々調べた。」
「なぜ止めなかったんですか?」
「ここは、民主主義の平和な国じゃないからさ、領地運営するのに市民の人気はさほど必要ない。俺も最初は、みなに好かれる権力者になりたかった。皆が笑って暮らし、この幸せな生活は領主様のおかげだと尊敬される……。」
「無理なんですか?」
「そんなの、おとぎ話や物語の出だしだけだ。次ページから悪者が表れて世界は荒れ果てる、私腹を肥やす貴族や領主・豪商の登場だな、民から金や食料をむしり取る。それも見る角度によれば悪とも言い切れない。金がなければ兵を抱えられない、武力が足りなければ争いで負ける。戦争しなくても交渉で譲歩しなければならず、弱ってきたら奴隷の様に下につくか一族全て消される。そうならないよう疑心暗鬼になって、力を増やそうと必死になる、より高い地位が手の届きそうな場所にあるなら自分が取って代わろうと考える。考えさせない為には、長年の信用や恩義が必要だが俺には無い。一人殺して内戦が防げるなら、相手が子供でも殺す。」
「極端すぎませんか、もうすこし平和的にいかないんですか?」
「そうだな、しかし兵がいないと魔物にも対抗できないからな。魔物の為にといって、兵を集めても隣の領地なら攻めてくるのではと不安になる。隣で兵を集めてると聞けば、用意が整う前にと攻める。人なんてそんなもんなんだろう、向こうで生きてて戦争に巻き込まれなかったのは、奇跡なんじゃないかと思うよ。」
「平和な世界を作る! とか領主としての目標とか夢みたいのは無いんですか?」
「無いな、おれは国王の望む敵を殺す、元は普通のサラリーマンだ政治なんてまったく畑違いさ。目標といえば領民を守る魔王でいるだけだ。」
「……もしかして根に持ってます……。私に領主を悪者にする記事を書かせてたのって、貴方本人なの?」
「最初は違うよ。ある貴族がいつか大規模な市民運動でも起こして、領地をひっくり返す材料にでもって、いつ使うかわからない策略の一つとして、この世界に疎い勇気ある記者をみつけたんだろう。」
「それって、ほめてます? ……その貴族を味方に取り込んで、恐怖政治に使う為にそのまま書かせたって事ですか。殺さないのに、なんでネタばらしするんです?」
「気付いて調べてたろ? 君の行動力なら突然いままでと真逆の記事を、個人でばらまきかねないとね。そうなる前に直接話をすると、保留にしていたわけだ……。」
「それって、私、消される寸前だったってことじゃないですか。」
「やっぱり、やろうとしてたんだ。」
「真剣に悩んでたんですよ! 領主の悪評高める為に記事書かされたかもって、このまま訂正しなくても貴方に消されるし、訂正しても書かせてた人に……。」
「真面目だな。」
「今日、秘書さんに話を聞いて、確信持てたら訂正記事をチェック無しで載せるつもりでした。」
「そっか、間に合ってよかったよ、それで、頼みなんだが。これからも、俺は望まない殺しでも必要ならやっていく……なるべく少なくしたいんだ。それには、君が俺を恐怖の対象だと広め続けてほしい。というわけで、領主の広報としての仕事をたのみたい。」
「それは、報道官ってことですか?」
「そうだな、テレビとかないから、メインは新聞だけかな。他にも領内の安定化の為にアドバイスがあれば都度頼む。」
「……私でよれば、お手伝いします!」
「よかった、よろしく頼むよ。」
「あの、もう一ついいですか? 一度しか会った事ないのですが、女性運動家の方が一人行方不明なのですが、事件と関係とか無いですよね?」
「俺が殺した。」
「なんでですか! しっかりとした考えをもった素敵な人だったじゃないですか!
「あれは、俺の失敗だ。夢者だって知ってたし、向こうの世界での平和的な解決方法や福祉などについて、こっちの剣で解決する貴族どもに説明してもらうはずだったんだが。打ち合わせ無視でしゃべりだしてな、国会で罵倒する野党議員みたいになってな、貴族や領主が支配する世界を否定して、明日にでも選挙で指導者を選出するべきだ、領主も貴族も今ここで全ての権利を放棄すると宣言しろ! ってな。」
「確かに、熱い人でしたから……。」
「もし、俺が許しても。彼女が家に辿り着く事は無かっただろう、その場にいた貴族達も俺がいなければ切りかかりそう空気だったしな。俺に射殺される最後まで、彼女は間違ってると繰り返し叫んでいたよ。」
「……賛成はできませんが、個人的には反対出来ない気持ちもあります。しかしこっちの世界で、その福祉関係ってもうすこし充実できないんですか? 生活保護とか、医療関係の充実とか。」
「病院は教会に予算回して広げてもらってるけど簡単じゃないな、こっちで医者ってほぼ神父様だからいきなり増えない。それから、こっちでは生活保護はないかな、貴族の中には炊き出しに金だしててる人もいるけど少数で、しかも称賛あびる事はないんだ。正直そこまで余裕がないんだ、領地や国を守るには兵がいるけど、実際は傭兵だのみだ。そこそこの人数かかえてる奴もいる、そいつらを貴族に上げて囲っていくにも金がいる。傭兵を集めるには、軍事面に金を出す領主や貴族だと広める必要がある。ずっと戦争中だからな、戦えない奴に金はださない、実際には孤児院やらに金を出してるが、名目上は別の貴族が援助してる事にしてる。」
「昔に、福祉充実を掲げた国があったと聞いたのですが、あまり情報がなくて。何か知ってます?」
「噂話というか領主達の教訓みたいな話がある。辺境の小さな町が独立を宣言して、腕を失ったりした障害を持つ者でも受け入れる国を立ち上げる、たぶん夢者がからんでたんだろう。領主や国王は、さほど重要な町でもなかったので放置。家族に障害を持つ者達が集まり、当初は問題なく運営できていると思われたが、福祉に金を回せば当然軍備に回す金を減らさなければない、そんな噂が広まると傭兵は寄り付かない、そして盗賊達にとっては稼ぎ場になる。近隣の村は、盗賊や魔物に荒らされて人が減り、町も少しずつ乗っ取られる。数年で廃墟同然まで人が減り、地図から消えた。噂話だが、それが現実なんだろう。」
「でも、この領内なら貴方が出れば魔物の討伐なんて簡単なんでしょう? 自身で討伐しないんですか?」
「名目上は、領主がそんな危険な事はしないって事になってるので趣味として狩猟をするとか。別人の魔獣狩り専門の傭兵団が請け負ったりした事にしてる、数が多いので俺が行くのはそこそこの大物が出た時だけ。そもそも、弓が使えるからって、あれの退治は楽じゃない、動き早いんだぞ。」
「魔物の討伐は隠さなくてもいいんじゃないですか? 領主の名声を高めるのに使えそうですけど。」
「そうだといいんだけどな、俺ってかなりの人から恨まれてるから、魔物討伐中にそれなりの数の兵に囲まれるとかもあり得るんだよ。でもまぁ、これからは事後なら記事にしてもいいかもな。」
「そもそもなんですが、領内の事って貴方一人で全部決めてるんですか?」
「ほとんど秘書かな。」
「汚職がばれた政治家みたい。秘書って、さっき会ったお人形さんみたいな人? 高校生ぐらいじゃない?」
「そうだな。」
「大丈夫なの?」
「各事案専門とも言える貴族がいるから、それぞれに根回してなんとかやってるよ。」
「見た目だけで選んだんじゃないよね?」
「白鬼将軍のところで領地運営にも関わってたベテランだし、それに俺の婚約者だしな。」
「はぁ! 犯罪!」
「まだ、なにもしてないから。こっちは結婚年齢若いからな。」
「そうですけど……。そうだ、後宮を見せてもらってもよろしいでしょうか!」
「なにそれ?」
「嫁や側室達をコスプレさせて住まわせる宮殿です。」
「コスプレって、そんなもんないぞ。」
「美少女を集めていると、噂が……。」
「それは、孤児院の事だと思うぞ。なに、その疑いの目は? みたいの?」
「ぜひに!」




