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夢者  作者: 高島 良
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領主5

 本物のお姫様の好物など、聞く前から危険な予感はしていた。みかんの予想では、故郷の魚料理がおすすめとの事。それぐらいならと軽く考えていたのだが、ここは海まではかなり遠い。ここらで魚料理といえば川魚の事で、中海の魚を手に入れるのは時間もお金もかかる、行った事ないが中海は塩水なのでサンマとかクジラとかいるらしい。王宮に分けてもらおうとかと頼んでみたのだが、キヨの故郷はかなり東の方らしく、そっちでとれる魚は滅多に手に入らない、問題の郷土料理となると作れる人もいないそうだ。しかも南方の国とは戦争中の為、気軽にお買い物にも行けず、西周りで手配する事となり、料理人込みで遠い国の領主様から料理人こみで送ってもらう手筈を整える。

 それと、俺が添い寝すれば機嫌が治るというのだが、これは事故が起こる可能性が高い。もともと可愛いのだが、横で寝てたりしたら……たぶん無理、そして家出から帰ってこない予感。

 そして、みかんのステップ2がダンス。社交ダンスなんてやった事もないし、こっちに来てからも夜会では断固拒否して逃げて来たのだが、領主というか貴族の仕事としては必須スキルらしい、王都にいる有名な先生のもとへ通う。ほめて伸ばすタイプの綺麗な先生のおかげで、なんとか見れる程度にはなったが、人妻なのに数回事故ってしまった、みかんにも内緒にしておく。

 前もって、日頃の激務に対する礼だといって館の全員にドレスや礼服を作り、せっかく作ったのだからとドレス着用での夕食として、いつもは空いている俺の隣の席に彼女を座らせる。


「キヨ、大丈夫か?」

「はい、すいません。……私の誕生日だからですか?」

「ごめんな、来週なのは知ってたんだけど、頼んだシェフを借りれるのが今日までだったんだ。みんなで料理を教わってみたんだけど、失敗しそうだったんでな、それに材料がたくさんあるわけじゃないから。」

「お側に座らせて頂けるだけでも十分なのに、私の故郷の料理なんて……。」

「実は、嫌いだったとか?」

「はい。あ、いや、子供の頃は苦手だったと言う意味で……。」

「結構そういう事あるよな。」

「すいません、でも、本当にうれしいです。料理を残して、両親に怒られたのも今では懐かしい思い出です、意外とおぼえてるものですね。」


 そう言って、目を潤ませて器用にナイフとフォークで魚を口に運ぶ。香料のかなりきいたその料理は、正直言えばちょっと苦手だ、キヨが子供頃残したのも納得がいく、30近くになっても俺の味覚は子供まま、そして誕生日の女性を悲しませる、そんな気遣いのできない子供なのかもしれない。

 

 無言の食事が終わり、キヨをホールに呼ぶ。ピアノの前に座るみかんと、俺しかいないので、キヨは何かを感じ取ったのか、いつも以上に緊張した顔になる。


「お嬢様、一曲踊っていただけますか?」

「私とですか?」

「もちろん。」

「……はい、喜んで。」


 三分ほどで終わる曲を選んだはずだったが、みかんのやつ長いアレンジに変えて、途中から絶対夜会では流れないようなスローな曲に変える。教わっていない曲で、止まってしまいそうになるが、キヨがリードして密着してくる、わき腹の筋肉と理性を必死に抑えて、ピアノの音が消えるまでなんとか耐える。

 みかんが、そっと立ち上がって部屋を出て行ってもキヨは抱きついたまま離れない、余裕がでてきたのか手をそえた腰の細さが尋常ではない事に改めて気づく、手を回したら届いてしまいそうだ。全体的に細く華奢な彼女は、まるで陶磁器のバレリーナ人形の様、油断したら壊してしまいそうだ。


「……ご主人様、もう少しだけ。」

「うん。」


 みかんが用意してくれていた、ワインをグラスに注ぎ二人でバルコニーへでる、ネオンも無いので今日みたいに雲のない晩は降るよう星空になるが、見慣れてしまった。それもでもキヨが隣にいれば、まるで別の景色となる。

 そして、普通のワインかと思ったが異常に強い、これは前に俺を酔い潰そうと用意した例の酒だろうか。向こうでは、未成年に飲ませてはいけない物っぽいが、キヨはさらっと飲んでしまっている、こんな細いのに酒豪なのか?


「すまない、まだ余裕が無くて。」

「もしかして、今日の為に練習してくれたのですか?」

「習い事はきっかけがないと動けないからね。どうだったかな?」

「……足踏まれそうで、ちょっと緊張しました。」

「すまん。」

「なんでも素直に言わないといけないのは、ちょっと大変ですね。みかんと仲直の為にですか?」

「そうだな、それと謝罪かな。君たち二人を裏切って、大事な友情を壊した……それを修復できるならと思ったんだけど。少しは考えてくれる?」

「ええ十分に。……わかってたんですよ、私は、あの日逃げ出したんだと思います。」

「そうなの?」

「ご主人様に、私の全てを見せてしまって、嫌われてしまったらどうしようと不安になって。怒っていたのは、みかんにではなく、そんな勇気のない自分にだったのに、冷たくしたりして、そんな自分がいやで、さらに怒ったりして、自分の気持ちがこんなに制御できない物だなんて、子供ですね。」

「まだ、十分若いけど……。」

「それは、私にはちょっと微妙です。はやく大人になりたいんですけど。」

「大人として、仲直りしてくれる?」

「はい、私もきっかけを探してたとこでした、大事な友達ですし。」

「良かった、仕事がはかどるよ。」

「人も増えてきたのに、私達の為にここまでしなくても。」

「確かに増えたけど、なんというか考え方が二人は違うというか、尊敬できる感じがするんだよ。」

「女の子に使う誉め言葉に尊敬とは……。」

「気を使って言ってるわけじゃなくて、館に来てくれてる人って、みんな高貴な貴族の人ばかりだけど、上に兄や姉が数人いたりして、家名を継いで一族率いるって覚悟みたいなのは無いだろ? 野望はある人もいるみたいだけど。子供の頃から期待を集めて育って、その後苦労して来た二人とは、やっぱり違うんじゃないかな、色々なとこで差を感じる、俺もこないまで無かったけどね。」

「私としては、別の感情を持っていただいたほうが、嬉しいですが。そういえば、曲を選んだのは、みかんですか?」

「そうだな、短いの一曲の予定だったんだけど。」

「あ、それで、後半あんな受け身だったんですね。」

「あんな曲、ならってないからな。」

「きわどい曲をご主人様が選ぶわけないから、みかんが選んでくれたんだと思いました。もっと押してもよかったですね。」

「なにを、さらっと言ってる。」

「夜会とかで、踊りに誘われたら、押してみて、部屋で待ってますって、耳元で囁くんだそうですよ。」

「積極的だな。……そんなに、見つめても、今日はダンスだけだよ。」

「分かってます! 分かってますけど、期待してしまうんです。目が覚めるたびに、隣にご主人様がいてくれたらと……あの日の事を想い出してしまうのです。」

「理性が飛ぶからそんな顔で見ないで。……キヨ、君は俺の事を好きだと言ってくれる、そして唯一その言葉を信じられる人……キヨ?」


 突然胸を抑え、うずくまるキヨの肩をゆする。


「キヨ、大丈夫か?」

「はい、ご主人様に想いが伝わっていると分かって、凄く幸せです。」

「大げさだな。」

「最初は、考えている事が全て分かってしまうのではと不安でしたが、言葉にして、口にしてもきちんと伝わったかどうかご主人様の反応は、他の人みたいにわからないから。」

「ごめんな、俺には嘘を見抜く力とか無いから、これからはちゃんと口にだして……、キヨもしかして、人の心が読めるのか?」

「……ご主人様、の思っておられるのとは違うかと。」

「心の声が聞こえるとかではないの?」

「魔力の微妙な変化が感じ取れる程度です。」

「それって、近づけば目をつぶっても誰か分かるってあれか?」

「近い感じだと思いますけど、夢者の人はあまり得意ではないと聞きますけど……。」

「俺はさっぱりわからない、見た目や仕草で判断してるのかな。キヨは相手が怒ってたり、喜んでたりが色のオーラで分かったりする感じなの?」

「実際に見える訳ではないのですが、イメージとしては近い感じです。人によって違うので、何度か話をしたりしないと分からないですし、確実ではないです。それに、自分より黒の魔力が強い人はほぼ分かりません。」

「黒の魔力持ちは、みんな感じ取れるのか? ちょっと怖いな。」

「それは、大抵の人がご主人様に抱く感情だと思うのですが。」

「なるほど、それはそうか。 つまり、黒の魔力が相手より低ければポーカーフェイスは通じないって事か、賭け事は出来ないな。」

「はい、国同士の交渉ともなれば黒の魔力が高い方が有利となる為、帝国内では皇帝の継承順位や序列も黒の魔力量でおおよそ決まります。」

「ほほー、じゃ俺が皇帝だとか名乗ったら、実現したりするわけ? キヨ? なんでそんなに嬉しそうなの、冗談だから、例え話だからね。」

「すいません、魔力が感じられるほど現皇帝のお近くまで行った事は無いので、実際がどうなのかは分かりませんが、それなりの援助があれば実現可能です。」

「それなり? 具体的にどれぐらい?」

「大陸全体の4分の1程度の軍事力は必要かと。」

「この国全体で、今どれくらい?」

「緩やかな同盟諸国合わせて1%いくかどうか……。」

「無理だな。……もしかして、後ろ盾のない黒の魔力持ちが現れたりしたら、殺されるかな?」

「存在もなかったこと事になる程度には、消滅させられるかもしれません。」

「ただでさえ多い殺し屋がさらに増えるな。」

「帝国内は、内戦に近い権力争いで忙しいですから当分は大丈夫です。」

「内戦が落ち着いたら、さっさとそんな気はないと宣言が必要だな。」

「東の帝国領以外は、人の住める国だと思って無い人ばかりなので、余程の事がないかぎり大丈夫です。」

「前にちらっと聞いたが、大陸の東ほぼ10%以外は帝国は興味ないの?」

「広さではそうなのですが、穀物の育つ肥沃な魔力を含んだ大地と人口も東に偏ってますから。」

「帝国から遠い山奥で、帝国派だの連合派だの争ってるのは、子供の喧嘩程度か。」

「それ以下かもしれませんね、帝国領以外の地図は白紙でしたし、魔物が住む世界だと思われてますから。」

「そこまで差があるのか、帝国内のが色々と便利というか豊かだろうし、そっちに住みたいとは思わないの?」

「ご主人様と一緒になら……それは、少しはあるのかもしれません。」

「一緒は厳しそうだな、どんな時に、そう思う?」

「例えば、このドレスを作って頂いている時など、幼い頃に憧れたドレスや装飾品とは少し違うのかと、帝都での催しで見た着飾った女性達をみて、私もいつかあんなドレスを着てみたいなと。」

「意外と、普通の女の子だな。」

「意外って! あ、すいません。」

「いいよ、飲むと反応が素直だな、たまには可愛くていいな。」

「またそんな、困らせる事を。」

「ごめん、困らせたいわけじゃないだけどな。 人を好きになったり憧れるのってどんなのかと。」

「さらに、困るような事をおっしゃってますが。」

「そうだな。親に身分の高い人と結婚しなさいと言われて育って、それって黒の魔力の高い人とって事だろ?  そして、黒の魔力を持った平民が現れ、好きになる。親の言葉や育ちは影響大きいのかなって。」

「黒の魔力を持ってるだけなら、帝国にはそれなりにはいます。それでも、実際に赤目に剣を振って戦う人はいません、後方で赤目討伐を指揮しただけでもかなりの栄誉ですから。」

「栄誉か、それが大事だと思えるほど野心を持ってる人が羨ましいよ。」

「あの赤目以外にも、かなりの数を討伐したと聞いてますけど、討伐に参加した理由はなんだったんですか?」

「金かな、それと女にもてるからかな。」

「真面目に!」

「目が怖いって。そうだな、俺を助ける為に死んでいった者達が生きていたら、今戦ってこの魔物を倒したのかもしれない。俺には無くても、あいつらには守りたい人がいたのかもしれない。だったら、代わりに戦わないといけないかな。そんな、ぼんやりした理由ぐらいしか思いつかないかな。」

「あんな重症になったのに、魔物が怖くないんですか?」

「怖いよ、でもまぁ、正直いえばちょっと楽しいかな。矢を撃つの好きだし、魔物でも人でも殺傷を楽しむ危ないやつなんだよ。」

「危険な人なんかじゃないです。ご主人様、この世界ではそれは英雄と呼ぶんです。」

「危ない世界だなぁ。」

「私には、ずっと英雄です。あの時は、赤目の動き次第では全滅すると、みなどちらに逃げればいいのかも分からない、毎朝のようになんとか夜を乗り切ったと胸をなでおろす、そんな恐怖の日々を過ごしたのです。それは、ご主人様が先々で討伐され救われた人々にとっても、同じです!」

「それなら、お金で示して欲しかった。」

「噂では、報酬を受け取らずに町を後にした為に、ご主人様の銅像が建っている町や、街の旗に弓矢の印が追加されたところがあるそうですよ。貧しい町からは、報酬を受け取らない義賊的な英雄だと。」

「それは、殺し屋や賞金稼ぎにに嗅ぎつけられて逃げただけだな。……悪い噂もあるんだよね?」

「偽物だとは思いますが、町の食料全て持っていったとか、酔って町長の奥様を押し倒したとか……。」

「それは、偽物だな偽物。」

「……ご主人様、目が泳いでますが……。」

「急いでただけだ、ちゃんとすぐに食料送ったぞ。それと、二人とも酔ってて、町長にはそう言い訳するしかなかったというか、それが最良の策だと……。」

「ご主人様!」

「はい。」

「領主なのですから、真実がどうかなど、まったく、どうでもいいのです! 赤目討伐の英雄なのですから、歴史は過去も未来もこれから作っていけばいいのです!」

「かなりの暴君だな、飲み過ぎじゃない?」

「ご主人様は、みなに甘すぎます! 民にも、私にも甘すぎです! みかんに冷たく当たって、仕事に支障をきたすなど許していけません、ちゃんと罰を与えないといけません!」

「酔った君は、ほんとに……可愛いな。そんなに罰が必要か?」

「必要です!」

「わかった、それじゃ罰としてなにか一つ、俺に出来るの君の望みを教えて。」

「それじゃ……。」

「口答えしない。」

「……わかりました、では弓を教えてほしいです。朝の訓練に参加してもよろしいでしょうか?」

「朝のは訓練というか、あれは趣味みたいなもんだけど、いいよ、一緒にやろう。」

「ありがとうございます!」

「でも、練習用の弓を作らないとな。」

「用意してあります!」

「さすが、準備がいいな。他にはない? 勢いで、もう一つくらいいいぞ。」

「では、この首輪がとれた後に、私の事を、一人の女として! お側に置くことを考えていただけますか?」

「解除の後も、俺の事を好きだと言ってくれるなら、全て君の望む通りにする。」

「……全てって、領主様がそんな約束をするのは、問題があります。」

「そうか、他にも俺に守らせたい事がいっぱいあるだろうから、メモしておいてくれ。酔ったふりは終わりか?」

「酔いもさめます。」

「そうだな。ありがとうキヨ、俺は君が側にいてくれれば、領主の仕事もなんとか頑張れる気がするよ。」

「ありがとうございます、私も精一杯努力いたします。」


 ほほにキスをすると、すこし顔を赤くして不満そうな表情を一瞬する。


「顔にでてるぞ。」

「期待してしまって、ちょっと。でもうれしくて。」

「これからは、出かける前には必ずするよ。」

「な!」

「いつもそれぐらい顔に出してくれたら、さらに可愛いのに。」

「勘弁してください、心臓が持ちません。」

「その表情をとどめておけないのが残念だよ。」

「ご主人様が絵が上手でなくて何よりです。」

「今から習うかな。」

「他に習得していただかなければならない物が多数ありますので、それらの後でお願いします。」

「……そうだな。」


 俺の胸に顔を沈める彼女をそっと抱きしめる。


「もっと強く抱きしめてくださっても、折れたりしませんよ。」

「そうか。」


 すこしだけ力をかけるが、キヨは不満そうに見上げる。それが効果がないとあきらめると、すこし笑って体重を預ける。

 いまだに彼女を助ける手立ては見つかっていない、正確には俺と彼女の両方が助かる手段は、無いのかもしれない。

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