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夢者  作者: 高島 良
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領主4

 その日は、珍しくなんの予定も無く、色々ともらった貢物リストを作成して、その価値をキヨに説明してもらっていたのだが、正直よくわからない。戦争で名をあげたからだろうか、剣やナイフなど刃物系がおおい、もちろん俺には宝の持ち腐れだし、出来れば見たくないムチなど嫌がらせかと思ったが、稼働部が多く絡みにくい鎖のムチは意外と技術がいるらしく、高級品なのだそうだ。そして、俺が服を持っていないのが知れ渡ったのか、やたらと服装系のアイテム、布から始まってボタンまで、自分で作れって事のようだ。

 そして、開けてはいけなかった箱を空けてしまう。アンから贈られたその箱は、30センチ四方の木箱に銀の飾りの付いた、嫌な予感しかしない恐ろしい風貌で、確認するのを先送りにしていたのだが、他の確認も終わりもうこれしか残っていない。しかも、この箱、俺にしか開けられないのだそうだ。手紙などで使われる魔法の技術で、あらかじめ相手の魔力の方向性が完璧に把握できていれば、その相手しか読めない手紙や、開くことの出来ない箱を送る事ができる。それには血が必要となる為、王宮やアンには強制的に血を抜かれた、魔法の発動に血が必要なのが多すぎる気がする、ちょっと切ったぐらいなら、すぐに治るが吸血鬼の世界にでもいる気分。

 アンの事だから、爆弾など洒落にならないイタズラではないと思ったが、とりあえず一人の時に開けてみる。箱の上部にある水晶に振れると、カギの外れる金属音が響き、懐かしい甘い香りが鼻に届く。それは、この世界に来て初めて見るチョコレート、しかも2月には男が一人では買えない、あの丸いやつ。特に甘党というほどではないが、久々に見るそれは警戒無しに口に放り込めるほど魅力的だった。

 久々の甘さに少し胸焼けしてしまったが、すぐにまた二つ目を口に入れると、キヨが部屋に入ってくる。そして、寝顔以外では見せない緩みきった顔に変わる、チョコの香りおそるべし。


「キヨも、食べる?」

「ご、ご主人様、それは、チョコレートですよね?」

「そうだけど、キヨでも驚くほどの高級品なの?」

「もちろんですよ、原料であるカカオは極少量しか流通しませんから。ご主人様、私に頂けるのですか?」

「いらない?」

「いただきます! あ、あの、夕食後でもよろしいでしょうか?」

「いいけど。」

「で、では、夕食後に!」


 そう言って、なにをしに来たのか分からないキヨは走って出て行く。キヨが走ってる所なんて、初めてみた気がする、甘い物で女性の機嫌はすぐなおると豪語するよっぱらいがいたが、本当なのかもしれない、機嫌が悪い時の為にこのカードはとっておくべきだったろうか。

 キヨと入れ替わるように、みかんが入ってくる。ふだんから大きな目が、さらに大きくなる、そんなに分かりやすい反応でいいのか貴族の娘達よ。


「ご主人様、それはチョコではないですか!」

「キヨもそうだが、すごい食いつきだな。みかんもいるか?」

「え! あ、もしかして、キヨにも?」

「ああ、夕食後にするって。」

「……ご主人様、もしかして、チョコの効果を、ってそれ、なん個目ですか!」

「三つ目かな、なに、太る?」

「いえ、そういう問題もあるのかもしれませんが、違います。チョコは、その、いわゆる初夜の晩に新婦にですね……。」

「ん? それは儀式的な?」

「もちろん、儀式の意味もありますが、それ以上に、その、性欲を増大させる効果があり……分かってて、言わせてませんよね。」

「ごめん、照れてる姿がかわいいのは事実だが、ほんとに知らない。」

「チョコを前に、そんな冗談はやめてください。……ご主人様、お体は大丈夫ですか?」

「ちょっと、胸焼けするかな。もしかして、男にも効くの?」

「はい、尋問にも使われたりしますから。」

「やばい薬だな。俺には、効果ないのかな?」

「そんな事は無いかと……ご主人様、もう少し近くにいってもよろしいですか?」

「いいよ、その書類持って来てくれたんだろ?」

「はい、そうですが。」


 みかんが、書類の束を抱きかかえて近づいてくる、机に置いてさらに近づき横に立つ、なにがきっかけだったのかわからないが、突然なにも考えられなくなり、初めて女性の服を破った。



「みかん、ごめん……。」


 横で泣いているみかんに、そう声をかけれるほど冷静になったのは、数時間が経過した後だった。


「ご主人様のせいでは……。」

「手を出さないと、言ったばかりなのに……。」

「私は、こうなると分かって、お側にいったのですから、ご主人様に非はありません。罰せられるのは、わたしのほうです、死罪となっても……。」

「そんな事するわけないだろう。」

「でも、罰していただかないと、私キヨに言い訳出来ません。」

「それで泣いてるのか……。」

「キヨが戻って来たら、ご主人様と結ばれて、私はずっと男の人を知らないまま消えてしまう、ゆずさんのようにご主人様に想ってもらえる事も無く、誰の記憶にも残らないと思ってご主人さまの側に……。キヨを応援するって、本当にそう思ってたのに。」

「キヨがいつも以上に冷たい目で俺を見る姿が目に浮かぶよ……。」

「それぐらいじゃ、すまないと思います。ご主人様、もうキヨも一緒に!」

「なに言ってる、体力的にも精神的も持たないよ、俺の罪悪感をこれ以上増やさないで。」

「ご主人様、家出しないでくださいね。」

「存在ごと消してしまいたい……。」

「ご主人様、私に対しては罪の意識を感じる事は、まったくありません。」

「……なんで、そこまで言い切る?」

「それは……こないだの晩も、実はベンチに座っておられるのを見て、こっそりと強いお酒を隠して、隣に座ったのです。」

「……それって。」

「ご主人様を酔い潰して襲うつもりでした。」

「欲望に素直だな。」

「キヨにも少しお酒を飲ませて寝かせましたから、あの日なら、キヨにばれずに事が運ぶはずだったんです。」

「そんな、純情そうな顔して、怖い事言わないで。」

「あの日は、ゆずさんの話で、私もショックでしたけど、数週間もすれば隙を狙って……。」

「みかん……ほんとに追い出すぞ。」

「もう、しません。我にかえったら、こんなに痛いとは……。」

「ほんと、ごめん。」


「あれから、どれくらい経ったかな、外もだいぶ暗くなったけど、体が動かない。」

「私もです、とりあえず、夕食の時間は過ぎたかと。」

「キヨが呼びに来ないって事は、やっぱりばれてるよな?」

「あれだけ騒げば……。」

「そうだな。……しかし、なんで俺にも効くって知ってたんだ?」

「……それは、アン様が料理に入れて、実証済でしたので……。」

「そういえば、なんかあったなそんな事。でも、今日みたいにひどくなかったぞ。」

「チョコは、ほんのひと削りづつ使う物で、丸ごと食べる人なんていませんから。毒に強いご主人様でなければ、一つ目で心臓が止まってしまいます。」

「……なるほど、散々毒殺されそうになって死にかけたのも無駄では無かったのね。」

「三つも一度に食べれるほどのお金持ちもなかなかいないとは思います。」

「そんなに、高いのか。」

「アン様は、教会を援助してそれなりの量を確保できているようですが、私の両親程度では、私の為に一欠けら分けてもらうのが、精一杯でした。」

「それって、子供だった時だよね? 食べても、大丈夫なの?」

「はい、自分の魔力が定着するまでは、そもそも性欲なんてほとんどありませんから。子供の時に味と香りを覚えさせて、口にしないようにと教えられるのです。」

「それが出来るのも、貴族や豪商のみか。」

「そうですね、貴族でもかなり上の方だけです。」

「教会は、それなりの量を持ってるの?」

「正確には、教会しか持っていないと言ったほうが正しいかと。南方の総本山近くでしか育たないようで、昔は布教活動に使用されていたそうですが、いまでは富と影響力を維持する為の一つの道具となっています。」

「他に何も考えられなくなるのは、幸せなのかもしれないな。……なぁ、みかん、チョコってさ、そのしたくなるだけのか?」

「……私が、さっき口走ったり叫んだりしてたのは、ご主人様が口移しでチョコを食べさせたからであって、全てが本心というわけでは、ないので、その……。」

「ごめん、そこじゃなくて、実際に快楽が増すわけではないの?」

「母はそう言ってました、抑えきれないほどの衝動に襲われるが、それが続くわけではないと。すいません、私は比べる様な経験がありませんので……。」

「そうだな、とりあえず、この箱は封印しよう。……みかん、俺のいた世界では君はまだ子供だ、同意があっても手を出していい歳じゃないんだ、俺の罪悪感を少しでやわらげる為だと思って、なにか俺に出来る事を教えてくれないか?」

「ご主人様、私もう17になるんです、この世界では、売れ残りと呼ばれる歳なんですが……。」

「みかん、俺の為だと思って。」

「わかりました、では、近くの孤児院への援助と、私を院長にしていただけますか?」

「いいけど。子供好きだとは思っていたけど、そこまでなの?」

「はい、かわいいですからね。それに、立派に育てて、ご主人様の立派な戦力に育ててみせます。」

「それはありがたいけど、見込みある子だけでいいからな。」

「はい。」

「あとは、キヨだな、とりあえず謝るか。」

「私が居なくなったら、井戸の底を探してください。」

「物騒な事言うな。」


 翌日、キヨに説明したのだが、怒りの収まらに彼女は今にもみかんに切りかかりそうで、もしみかんに手出ししたら、館から追い出すとまで言わなければならなかった。仕事はしてくれるし、かなり有能なので助かるのだが、みかんとは口を聞かず目も合わさない。そして、みかんは前より近くに寄る事が多く、注意するのだが、珍しく顔にでるほどキヨが怒る。怒っていても、素直なワンコみたいで言った事は守る、みかんのように側に来たりはしないのだが、遠巻きに怒りを抑えていい子にして、追い出されないよう我慢している。それは自分が言った事とはいえ、見ていてつらい。そして、みかんも元気がなくなっていく、自分の館の管理すら出来ないのに、とても領地の統治など出来るわけもない、みかん以上に欲しい物など言ってくれるわけもないので、みかんの意見を参考にして、キヨの願望になるべく近い形でご機嫌を取ることにする。



 


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