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夢者  作者: 高島 良
103/119

領主3

 酒場は、相変わらずそこそこの客が入っているが、ゆずの姿はない。俺が不思議そうな顔をしていたせいか、店主は少し歩こうと俺を店から連れ出す。


「旦那、もうゆずはいない。」

「……極悪領主から逃げたのか?」

「冷静に聞いてほしんだが、ゆずは少し前に殺された。」

「……冷静に聞ける話じゃないな……。」

「先に言っとくが、殺した馬鹿亭主も衛兵に刃物振り回して、結果もう死んでる。」

「……なにがあった?」

「夫婦喧嘩だよ、何カ月も帰ってこない男が、亭主ずらすりゃ喧嘩になる。口で勝てない男が手をだして、毎日鉱山で力仕事してる奴になぐられりゃ、まぁ、よくある話だ。」

「……なぁ店主、俺の正体知ってる奴は、俺に嘘や隠し事はしないらしいんだが。」

「そうだとしても、あんたに背負わせるこっちゃないと思ったんだが、そこまでは見抜いてくれないんだな。」

「なんでもってわけじゃないから。」

「……はぁ、まだあんたが領主様って気づく前に、首飾り買ってやったの覚えてるか?」

「センス悪いとか散々言われたやつ?」

「それだ、旦那がこなくなってからは、あいつはあれをつけて、暇さえあれば手にとってニヤニヤしてな、店の人間や客にさんざんいじられた。最初は店にいる時だけだったが、馬鹿亭主は帰ってこないなら、結局一日中つけてたらしい。そこに、珍しく帰ってきた馬鹿旦那は当然気付くよな、あれでも鉱山で仕事してるからガラス玉と宝石ぐらいは見分けがつく。問い詰められても、男の名前も言わず、首飾りも渡さない、近所の奴らが止めに入った時には、もうゆずはこと切れていたらしい。」

「……それって、俺の責任じゃないなか?」

「ゆずに手をあげたのは、はじめてじゃねえ。ああなる前に、何とかしてやらなきゃならんかったんだ、あいつ強がるからな、ついつい先延ばししにしちまったんだよ、ガキもいるからそんな簡単にはいかないってな。」

「それって、店手伝ってた、男の子のことか?」

「そうだ、俺の跡取りもできたし、母親代わりは、あそこにはいっぱいいるから、大丈夫だ。」


 気づくと、教会の裏にある墓地についていた。


「連れてきといてなんだが、もうここには来ないほうがいい。あいつだって旦那に迷惑かけたいなんて思わない。せっかり成り上がったたんだ、こんなとこでつまずくな、ってあいつもいうさ。時間がたてば、ただの思い出だ、もう酒場にもくるなよ。」

「冷たいな。」

「輪廻であいつに会った時に怒られちまうからな、しっかりな。」


 館に戻って庭のベンチに座っていると、みかんがやってきて、何も言わずに横に座る。しばらく、一緒に夜空を眺めた。 


「みかん、輪廻ってなんだ?」

「輪廻の海の事です、魂の帰る場所と言われています。この大陸の外は、金色に輝く輪廻の海に守られているそうです。人それぞれが、生きて魂を磨いて輪廻の海の光の一粒となるのだそうです。そんな輪廻の海が、魔界からやってくる魔物の群れを抑えると言い伝えられています。」

「外海の事か、生きてる人間が触れると死ぬってやつ?」

「そうです、外海の魔物に食べられるって話もあります、誰も近づかないから、真相は分かりません。外海側の海岸は、魔物がかなりいるそうですから。」

「物騒だな。」

「それで、そんな市民の恰好で、こっそりとお出掛けになって、なんでこんに早いお戻りなんでしょうか?」

「酒場にな……。」

「それは、わかります。」

「わかるのか……ゆずが死んだんだ。」


 みかんに、先ほど聞いた話をそのまま伝える。


「ゆずさん、一度来られた事があって、どうやらご主人様が不在と分かっていて、私とキヨにお話をと。」

「それは、俺に報告なし?」

「……すいません。」

「いや、聞いてみただけ。それで、何話したの?」

「最初は、ご主人様の好きな料理とか、好みの女性とか、服装とか、髪形とか、質問攻めにしちゃいましたけど。」

「それは、直接聞いてもいいのに。」

「ちょっとそれは、真偽がわかりませんから……。」

「そう、なるのか。」

「ご主人様は、なんでも食べるし、お酒も安いのでも、高いのでも区別はついてないって。」

「そうだな、だから高い酒は奥にしまっといて。」

「はい。それで、ゆずさんが、もしご主人様がまた酒場に行くっていったら、出来るだけ止めてほしいって。ご主人様は、私じゃなくて、別の誰かを重ねて見てるって。それでも嬉しいんだけど、いつか迷惑かけちゃうから、私達にがんばれって。」


 サオリの事気付いてたのか、エマの時みたいに呼び間違えたわけじゃないのに、女性はするどいな。なぜかみかんにも、結局知れてしまうのだろと、すべて話してしまう。


「キヨには黙っておかないと、酒場で働くって言い出しそうですね。」

「やりそうだな、そういう事じゃないんだけどな。みかん、手つないでいいか?」

「はい。」

「……なぁ、みかん。俺が領主じゃなかったら、今の断った?」

「どうでしょうか、領主の娘の時も、7カン付けた奴隷の今も、私に触れようとする人は滅多にいませんから。勇気ある人だなって、素直についていっちゃうかもしれませんね。」

「随分軽い貴族様だなぁ。」

「私は、母の影響ですかね、キヨのとこと違って、家にはロマンスの物語を綴った本が沢山ありました。それでも、私は決められた人に嫁いでいくのだと、当時は別世界の話で。」

「婚約者はどうしたん?」

「7カンが付いた時点で、全て解消ですから。なんの力も益も無いですからね、私だって彼の家が没落したらそうしたと思います。」

「婚約者の感想は?」

「この人が旦那様なのかなと。」

「それだけ?」

「そうです、私に選ぶ事なんて出来ませんし、物語と自分を重ねる事なんて、今でも出来ませんから。」

「そうか、俺の夢の中の世界では、好きな相手と結婚して、家族を作るのが当たり前だったんだがな。」

「……ご主人様、私とキヨは、ちゃんと別の世界から来られたと、わかってます。」

「そうなのか?」

「えぇ、夢者の方がみんな同じ夢をみるなんて、おかしいじゃないですか。魔物もおらず、戦争もない、食べ物も沢山ある、そして不幸な世界。この大陸の人間には想像できない世界の話を、色々な場所で記録として残っているのは、やっぱりそんな別の世界があるからだと。」

「そうか、向こうの世界では、俺みたいなおっさんが、若い女の子に手を繋いでくれなんて言ったら、牢屋行きだ。」

「それは、聞いた事ありませんけど。……私は、そんな平和な世界でも、この人が好きだと、キヨみたいに決めれないんだと思います。だから、手を繋いでくれる人がいたら、付いて行ってしまうのかもしれません。」

「やっぱり、軽いな。」

「私は、手を繋ぐのにすごい憧れてるのかもしれません。母が占領軍の隊長と、こうやって手を繋いでベンチに座って、とても幸せそうな顔をしていて。それから、手を繋いでいる人達を見ると、とても幸せそうで、でも私は誰かに手を繋いでほしいとは言えないから、ずっと無いものだと。」

「そんなに大事なイベントなら、断ってほしかったよ。」

「ご主人様以外で言ってくれる方なんて、いませんよ。」

「……みかん、7カン解除したら、好きな男を自分で選べよ。」

「解除ということは、それは、ご主人様の子を?」

「別の方法でな。」

「そうですか。」

「なぜ、残念そうなの?」

「私が好きになった男性が、私を想ってくれるとは思えませんから。」

「その容姿でか、世の女の子の恨みをかうぞ。」

「見た目なんて……自信ないですし、7カン付きでご主人様の館で一緒にすごしたとなれば、当然お手付きだと認識されるでしょうから……。それに、ご主人様の女癖の悪さは有名ですらか。」

「ひどいな。それは、まぁ、そうなるのかな。」

「そういうわけですから、いつでも寝所へお呼びいただいても……。」

「おれの少ない理性を壊そうとするな。」

「……ご主人様、夜は寝室への接近禁止と言うのは、流石にひどくないですか?」

「なぜ? 逆じゃないのか?」

「最初聞いたときは、私達にもそれぞれ個室をとのお話だったので、ご主人様が来られるのかと!」

「いや、だから、奴隷や子供には手をださないって説明したでしょ。」

「それは、建前上のお話かと。」

「普通はそうなんだろうけど、今迄かなりひどい目にあった子見ちゃったし、助けられなかった子もかなりいるんだよ。もし一時の欲に負けてしまったら、たぶんまた家出する。もう、帰ってこないかも。」

「……領主様が軽々しく家出しないでください。ご主人様、私は領主様の盤上の駒の一つです、解除の為に、ご自身を危険にさらすような無理をなさったりしないでください。」

「それは、無理かな。」

「ご主人様!」

「わかった、そのかわり、解除したら旦那は自分で選べよ。」

「それじゃ……。」

「もちろん、俺以外な。」

「やっぱり、心が読めるんでは?」

「なんか言ったか?」

「いえ、いや、言いました。」

「ありがとな、助かったよ、今夜は一人でいるのは辛かったよ。」

「領主様なんですから、もっとわがままでもいいんです。」

「まだ、実感ないんだよ。もし、横暴になってきたら、早目に止めてくれよな。」

「ご命令とあれば、頑張ります!」

「よろしくな。」


 この晩は、みかんには手を出さないと、自分にもしっかりと言い聞かせたはずだったのだ。

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