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夢者  作者: 高島 良
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領主2

 その日も、朝から貴族様達の挨拶が続き、すこし疲れを感じた夕方近く、その男はやって来た。

 馬車で2日ほどの場所にある領主の息子、少し高圧的な年上のその男はナルシストっぷりがその派手な服や態度からにじみ出る特殊な人だったが、染みついたサラリーマンスキルで下手にでてさっさとお帰り願うはずが、泊まっていくといいだしやっと用意出来たばかりの客間の第一号客人となった。

 話を聞くとどうやら貴族派の方らしく、あまり興味のない外交での成果を盛大に自慢してくる、高い酒から順に空けていきお開きになったのはすでに日付が変わった後だった。

 自室にもどり思い出せるかぎり、今日の記録をつけていると、新しく雇ったメイドさんが呼びに来て、客間へと急ぐ。

 そこには、下着姿で縛られ、叩かれたほほを真っ赤に腫らしたキヨがベッドに横たわっていた。


「おっと、フィール候冷静に、ちょと遊んでいただけですよ。」

「その子は白鬼将軍からお預かりした子です、彼の派閥と戦争でもするおつもりですか?」

「よくないですね、そのような物言いは、なんでも力で解決するのは、武闘派の皆さんの悪い癖です。国にとって、私達の貴族派の外交能力も等しく必要な物なのですよ。それに、私は少し夜のマナーについて講義していただけです。」

「そうですか、これは失礼しました。町に閣下も気に入られるであろう、私自慢の店がありますので、どうか私の様な新参者にも夜の講義をお願いできませんでしょうか?」

「いいですね、フィール候、すばらしいです。貴方も貴族派に鞍替えなさったほうが出世されますよ。」

「ありがとうございます、ぜひにお口添えをお願いします。では、まいりましょう。」


 カルもそうだったが、黒の魔力に振れている者同士は、殺意を敏感に感じ取るのかもしれない。キヨが、『ダメ!』と叫んだ声が聞こえたが、俺は魔力を込めた拳をナルシストの顔に打ち付けた、雇ったばかりのメイドさんが叫ぶのを、みかんが口を押えて止める。出来たばかりの客間は、真っ赤に染まった。


「みかん、助かった。……ごめん。」

「私は、大丈夫です、アン様と親戚の戦いで鍛えられましたから、ずっとお屋敷でお茶を入れてたわけじゃありません。」

「そうか、白鬼将軍へ援軍をたぶん王都にいるはず、それと屋敷の兵士に、このナルシストの御者を抑えるように指示を、護衛は俺がやる。あとキヨの縄もほどいてやれ。」

「わかりました。護衛は、たぶん傭兵です、ご主人様が話せば、すぐに降伏するかと。」

「わかった。」


 傭兵達には、黒弓の名前は効果があった、あっさりと寝返った傭兵と兵を町に走らせ見込みのありそうな貴族を強制徴兵し、集まった傭兵達と早朝に出発、日が変る頃にはナルシストの父親を追い詰めた。派手な抵抗を期待していたが、兵たちは武器を置き家族に裏切られ縛り上げられた領主が命乞いする。俺がやったこととはいえ、明日は我が身だ複雑な心情になる。領地を渡すと言っているが、そんな事可能なんだろうか?  参加した貴族達は、何を期待しているのか喜んでいる、何もしてないが付いて来てくれただけありがたい。

 しばらく、領主の館の庭で悩んでいると、白鬼将軍が20騎ほど連れて到着する、説明すると領主をめった刺しにしてあっさりと首をはねる。


「ヒロさん、中途半端はだめですよ。」

「そうなんだ、でも命を助けるなら、領地はって……。」

「家族の命はって事でいんじゃないですか、私だったら、全て狩りますけど。」

「……いえ、ほとんど抵抗されませんでしたし、そこまでは。」

「そうですか。」

「しかし、こんな簡単に領地を増やしちゃっていいんですか?」

「問題ないですよ、兵の統率も出来ない領主なんて、必要ありませんから。」

「シンプル! でも、ここってフィールと繋がってませんし、統治しにくいかなと。」

「それじゃ、繋げちゃえはいいんですよ。明日、巻き上げながら帰りましょう。」

「中学生のカツアゲみたいに……ここに泊まるんですか?」

「ヒロさんの領地ですし、私は泊めてくれないんですか?」

「いや、そうじゃなくて、問題ありません。」


 その日は流石に強行軍だった為、占領した屋敷ですぐに寝て、翌日はハクと呼んでと言われて、びくびくしながらハクと呼ぶ仲になった不倫相手の旦那様と、観光地の土産でも買うように、領主達の館を訪問し領地を巻き上げていく。フィールの町まで戻って来た時は、領地は3倍以上に増えていた。そして、ハクは最後に俺は近衛弓兵も兼務なので、他の領主が戦争仕掛けてくることはほぼ無いと言い残して帰っていった。


「みかん、知ってたの?」

「すいません、キヨのあの顔みて頭にきちゃって、次は気をつけます。」

「俺も、こらえられると思ったんだけど。……攻めてこないんだから、次はないでしょ。」

「そ、そうですね。ご主人様、怒ってます?」

「いや、そもそも、俺が殴らなければこんな事にはなってないから。」

「次からは、スイカ割は控えていただけると、有難いです、掃除が……。」

「……ごめん。キヨは大丈夫?」

「まだ寝てますけど、体より罪悪感の方が重たい感じです。」

「なんでじゃ……どこにいるん?」

「ご主人様の寝室に。」

「おまえな……。」

「そういう意味ではないです、まだ私達のベッド届いてないんです、ご主人様が高いの選ぶからです。」

「……それは、そうなのか。そうだ、みかん、領地巻き上げまくったから、向こうの屋敷から家具もってきて、ここを充実させられるな。」

「確かにそうですね。屋根裏のベッドも、襲われそうでドキドキしますけどね。」

「……みかん。」

「あははは、冗談ですよ。今日は、キヨに添い寝してあげてください、同じ魔力同士が近くにいると治りも早いらしいですから。」

「そんなわけ……あるのかもしれない、なんか前にあったな。」

「かなり気にしてますし、キヨのおかげで領地も増えたんですから、ご褒美ということで。」

「わかってるのか? 仕事も増えるんだぞ。」

「……それは、自信ないかも……。」

「俺も無い……。」

 

 静かな寝息を立てているキヨは、起きている時より目元が優しい、やはり俺といると緊張するんだろうか、神と重ねられても困るんだが。顔の下半分は包帯巻きにされ、それでも右半分が腫れているのがわかる、終わった今でも奥歯を噛みしめてしまう。怒りに任せて人を殴ったのは、いついらいだろう、領主様と持ち上げられて調子に乗っているのだろうか、これでは誰も守れそうもない。


 キヨの横で少し眠ってしまい、目を開けると、キヨがいつもの目にもどっている。


「ご、ご主人様、なんで?」

「おかえりはないの?」

「おかえりなさいませ、領地の加増おめでとうございます。」

「喜んでると思う?」

「いいえ……。」

「面倒事が増えても、王宮に圧力かけられれば解除の方法も増えるだろうしな。結局は、よかったのかも、でもそんな顔見ると、そうも言えない気がするんだけどな。」

「こぐらいなら、いつだって。……なんでベッドに?」

「みかんが、添い寝すると治りが早くなるって。」

「そんなわけ……あると嬉しいですけど。」

「何日も看病してくれたんだろ、これぐらいじゃ礼にはならんよな。」

「いえ、そんな、もう十分に。」

「ごめんな、俺が下手な対応したばっかりに、怖かったよな。」

「そんな、ご主人様の帰りを待っているほうが、怖かったです。……それに、私が対応を間違えたから。」

「あいつのか?」

「はい、ご主人様にすべての罪をかぶせて、私を帝国に連れ帰ると言ってきて。ご主人様と離れる気は無いと告げると、もう帝国の姫ではないと……。まだ、私を手土産に帝国への帰還を夢見る者がいるとは、現皇帝はそんな事を認めるような人ではないと思うのですが。」

「すごい忠誠心だな、俺もすこし見習わないとな。前にもあったのか?」

「アン様の館に移った頃に何度か連れ去られそうになって、みかんに助けてもらった事もありました。」

「帝国に戻りたいとは、思わないの?」

「全くないです。」

「俺が嘘を見抜けてたらどうするんだ?」

「ご主人様に嘘なんてつきません。……私みたいに、帝位から中途半端な距離にいると、争いに巻き込まれないように距離をとって友達もいませんでしたし。朝から晩まで習い事をして、両親は位を上げる為、少しでも位の高い人間の許嫁にと私を売り込み嫁いだ後は私もそうするのだと、それを疑いもしませんでした。みかんと毎日話すようになって、友達だと言ってもらえて、今迄がおかしかったと初めて気付きました、捕らえられていたのは、家族といた時のほうだと今では思うぐらいです。」

「首輪を付けられて寿命減らされてるのにか?」

「これのおかげで、ご主人様の物になれたのですから、今は愛おしいくらいです。それに、美人薄命というじゃないですか、お母様も私も帝国では美人だと有名だったんですよ。」

「確かに綺麗だよな。」

「ご主人様、お世辞でも、もう少し工夫しないと、女性を怒らせてしまいますよ。」

「それは、自信ある。」

「なおして頂きたいのですが……。なぜだか、帝国の紳士は細い目が好みらしいです、私はみかんみたいな大きな目が羨ましいですけど。」

「目は、確かにね。そんな人気者なのに、婚約者がいなかったのは、なんでなの?」

「値を釣り上げていたんですよ、何人も候補として考えさせていただきますと返事をして、焦った候補者はライバルを陥れたり、領地を増やすために他の領主と戦争を起こしたり。当時は、それすら当たり前の事だと、なんの疑問もいただきませんでした。」

「将来美人になる姫の取り合いか、そんな先の事考える余裕ある領主が羨ましい。候補の中に好みの男とかいなかったの?」

「みんな、同じお化粧して、同じような服着て、天気の話して、名前覚えるだけで精一杯でした。」

「婚活パーティーだな……それでも、一人ぐらい気になった相手はいただろう?」

「全然無かったですね、そもそもどうやって子供が出来るかも知らなくて、包帯変える時にご主人様のを見ても、なんだか分からなくて、ひっぱってみかんにめちゃくちゃ怒られたぐらいで。」

「……なにを、重症の病人で遊ぶなよ。」

「今は、大丈夫ですよ、アン様に教わってきましたから、ご主人様は首筋を……。」

「やめい! とりあえず、俺が操ってないのはわかったよ。俺に読心術があるかもって心配してるのかもしれないけど、全部話さなくてもいいんだぞ。」

「……もうほとんどしゃべってしまいましたから。私の好きな人は、初めてお会いした日から、ご主人様です。」

「今日はやけに直球だな……まぁ、傷が残ったら責任とらないといけないな。」

「残るようにしないといけませんね。」

「なんでだよ。……なぁ、ほんとに俺の妻になりたいのか?」

「正妻は無理なんで、側室で。」

「なんで無理なの?」

「それは、強固な同盟となる大事なカードですから。私ではお力になれませんし、たぶん今回以上の面倒事を呼び込みます。それに、奴隷を妻にしたなんて、ご主人様が噂されるような事は避けたいですし。」

「個人的には、俺の考えを表明出来るいい機会だと思うけど。」

「それは、その指輪の中だけでも、十分だと思います。」

「レッドテイルの男がか、これを表に出すと、もっと怖い奴がやってくるぞ。」

「それは、避けたほうがいいですね。……それで、ご主人様、側室となることが決まったわけですから、さっそく。」

「なにがさっそくだよ、まだ決まりじゃないだろ、どっちにしても解除終わった後な。」

「わかりました。……ご主人様、手を、お借りしてもよろしいですか?」

「ん? どうする?」


 キヨは手をとると、包帯の巻かれたほほに当てる、まだ布越しでも熱を感じる。


「痛くないのか?」

「大丈夫です、治ったら直接触れていただけると嬉しいです。」

「……やっぱり貴族様、ぐいぐいくるな。」

「そ、そうでしょうか……。申し訳ございません、以後気を付けます。」

「これぐらいならいいよ、みかんにも言ったけど、今以上に客が来る事になりそうだから、治ったら働いてもらわないといけないし。」

「ご主人様の為なら喜んで。でもこれからは、もう少し余裕をもった予定にしないといけませんね。」

「そうだな、添い寝する時間無くなるしな。」

「やっぱり! 心が読めるんですか?」

「いや、流れで分かるって。」


 翌日、キヨのほほはよく見れば腫れがわかる程度に回復した、手当というやつだろうか、手を当てておけば治るという事? 同じ魔力の振りを持っていると、本当に傷が治るのだろうか、噂では惹かれあうとか、危機を察知するとか、色々あるそうだが、どれも気のせいレベルを超えない。

 そして、ハクは大丈夫といっていたが、王宮から人が来たり、説明に行ったりとかなり時間をとられた、次からは事前に連絡だけでもほしいとの事だった。相談ではないところが、責任は自分でとれよと言われているようで怖い。

 度重なる事情聴取で、スケジュール通りなどと言っている余裕もなくなり、キヨの提案で巻き上げた領地毎に夜会を開き、挨拶を一気に終わらせてしまった。結果として、ほぼ名前を覚える余裕もなかったが、一か月が経った頃には、すこし時間も取れるようになったので、久々に酒場に向かったのだが、ゆずの姿はなかった。

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