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夢者  作者: 高島 良
101/119

領主1

 とりあえずアンに借りた馬車でフィールに戻り、そのまま酒場に乗り付ける。まだ昼過ぎの為、店主とゆずが掃除している。


「今日は、お忍びじゃないのかい?」


 店主はいつもと同じ口調で話かける。


「俺が、領主だって知ってたの?」

「そりゃ、次の領主は弓で戦果稼いだって噂で、陛下の馬車から弓かついで降りてくれば、誰でもわかるだろ。」

「言ってくれれば……。」


 ゆずがもっていたほうきを手放して、腹を抱えて笑っている。


「だから言ったじゃない、気が付いてないって。」


 ゆずは、笑い過ぎて涙を拭いている。


「旦那があんな格好で、あの物言いだから、お忍びで来るにしても、最初のでバレてるのに、雑だよなぁって話しててな。ゆずは気が付いて無いって言うから、そんなわけ無いだろうって、ついさっきも話してたとこだったんだ。」

「それって、町中知ってるの?」

「ここいらだけじゃないか、馬車から降りたとこ見たのは、そんなにいないだろうし。」

「それは、良かった……。」

「それで、部屋はどうする?」

「とりあえず、あと一週間は借りるかな、来週からは、屋敷に住みます。」

「だってよ、良かったなゆず、一週間は可愛がってもらえるぞ。」

「うっさい、ばか!」


一週間でしたことと言えば、町の衛兵隊の隊長と町長に再度会いに言って挨拶したぐらい、床に頭をこすりつけて謝ってくれた。俺がちゃんと聞いてなかっただけだから、全く非はないので、ほんとに申し訳ない。

 町長の説明だと、フィールの領地は王都の北西に広がっており、中心となるこの町の名前もフィールと呼ばれている。北に広がる鉱山で鉄鉱石やら魔石?水晶?やらの採掘をしているため、経済的には安定している。鉱山に寄せて町がつくられた為、標高が高く、南に走る街道からは曲がりくねった山道を登らねばなならないので、王都へ向かう人間が寄り道することもなく、王都までの距離にくらべて静かな町となっている。土地は穀物を育てるには向いていないらしく、近隣の村々は野菜を作って王都の需要に対応している。

 つまり、かなり平和で安定した町ということだ、そんな町で領主がすることは何かあるんだろうか? 町長が言うには、王宮は戦力として期待しているのだから、ある程度の常備兵が必要とのことだった。そんなこと言われても、人材募集サイトとかないので、挨拶にくる貴族達に協力を頼むぐらいしか無さそう。


 アンが長い荷馬車を連れてやってくると、屋敷はかなりギラギラとした家具達に埋め尽くされる。といっても、一階だけで、上の階は相変わらず何もない。屋敷に入ってすぐに目に入るのは、やたらと足の長い俺の肖像画、絵だからって加工し過ぎだろう、必要だと言われてしかたなく飾ったがが、なるべく早く書き直してもらわなければならない。

 夕方になり、手伝ってくれたアンの部下達を見送っていると、馬車がやってきて、高級そうな服をきた神父様がおりてくる。すでに何人も神父様を見て来たので、服装でかなり偉い人だとわかる、なんだろう領主って教会とどんな関係でいけばいいんだろうか。下手に出すぎてもいけないだろうし、あまり高圧的でも後々めんどうだろうし。いや、そんな事より、今迄あいさつに行ってない事のほうが問題かもしれない。


「お、来た来た、おっそいわ!」


 悩んでたのがあほらしくなるほど、軽い対応のアンが、偉そうな神父の頭をはたいている。アンに紹介してもらい、このフィールで教会系の一番偉い人らしいが、とても腰が低い。


「ヒロ、こっちが本題、どっちがいい?」


 アンがそう言って、手招きすると、二人の少女が走ってきて、お辞儀をする。今日手伝ってくれたアンの屋敷のメイドさんだ、身長は俺の肩ぐらいで、歳は中学生ぐらいだろうか、一人は金髪にすこしふっくらしたほほで自然な笑顔、もう一人は長い黒髪でかなり細め、良く言えばクール。


「どっちかあげよう、さぁ、どっちがいい? どっちがいい?」


 アンは、嬉しそうに二人の肩を抱いている、どっちかって、確かにメイドさんはほしいけど、若すぎだろう。


「ヒロ、二人とも初物だぞ。」

「なに考えてるんだよ!」

「いや、うちの夫婦に子供出来ることはないから、二人目が出来たら、養子にほしいなって。」

「なにを悪い魔女みたいな事言っているかな、たしかにお手伝いさんはいりますけど、一人目はなんていうか、ベテランじゃないと。」

「二人とも6年目のベテランだぞ、さぁ、さぁ、どっち? どっち?」

「なぜ選ばせる……あぁ、なんで二人だけシャツが違う?」

「あー、気付いてたのね、見せて。」


 他のメイドさんに比べて、襟が長いシャツ、昼から少し気になっていた、それはカルの首輪を隠す為に俺も作らせた。二人がシャツのボタンを外すと、やはり見慣れた七カンが姿を現す。


「アン!!」

「怒るなって、分かってるから、ヒロが奴隷嫌いなのは知ってるから、売りつけようってんじゃないの。色々面倒があってね、私達じゃ最後の解除が出来ないのよ、他の領主に借り作ってられるほど余裕なくて、貴方に託すしかないの。」

「……残りは。」

「先月6本目を解除したところ、少し差はあるけど11か月ってとこ。」

「二人とも……。」

「言うと思った、優しすぎると苦労するよね。神父様、ちゃちゃっとよろしく!」


 見慣れた虫眼鏡のような機械で血を採ると、首輪を操作している。そう言えば、首輪を外したカルを見ていない、元気でやっているだろうか、アンでもあれだけ怒ったのだから、領主になったからとのこのこ会いにはいけない、もう俺は必要ないだろうし。


「ヒロ、名前!」

「またか……アンは何て呼んでたの?」

「怒鳴ったりしなければ、教えてあげてもよかったんだけどなぁー。」

「突然乙女ちっくなこと言ってんじゃねーよ、言う気なんてなかったんだろうが。」

「分かってるなら、さっさと決める!」

「えっと、黒髪の彼女は、キヨ、金髪の子は……みかん?」

「ヒロ、ほんとにそれでいいの?」

「いや、ちょっとまって……ごめん、もう何も思いつかない。」

「貴方に子供が出来た時は、私が考えてあげる。」

「出来れば、今も助けてほしいんですけど。」

「それはダメ。」


 カルの名前も散々あとで後悔したのに、名前つけるのは苦手だ。


 所有者の変更が終わり、4人で食事をしながら、うすうす分かってはいたが、辛い昔話を聞く。

 みかんは、王国内の領主の娘として生まれ、父親は領主としては気の弱い人物で、夫婦仲は良くなかった。ある日、近隣の領主の兵が通過するだけと町に居座り、領主一家は宮殿に軟禁されてしまう。隙をみて、アンに助けを求め、数倍の兵に囲まれた占領軍はあっさりと降伏する。みかんら領主家族は解放され、占領軍は捕縛となり解決となるはずだったのだが、みかんの母親が白鬼将軍の将兵たちに毒の入った酒と食事をふるまい殺害、捕虜を解放して解放軍と夫でありみかんの父である領主を殺害、占領軍の隊長は新領主を宣言する。みかんは実の母親に、占領軍の隊長を父と呼ぶよう言われ、それはアンと白鬼将軍が宮殿に乗り込んでくるまでの数週間続いた、その間の母親は本当に幸せそうだったとみかんは言う。みかんの七カンを解除出来ないのは、毒殺された仲間の手前、アンが解除するわけにはいかないのだそうだ。俺なら解除出来るが、なにか大義名分が必要らしい……俺の子を身ごもるとか……まだ16って……。

 キヨのほうは、さらにややこしい。それは、彼女が次期皇帝の継承権を持っているからだそうだ、といっても前に百人近くいるらしいので、明日皇帝になったりする事は無い。それでも、現皇帝の遠縁だと証明されている戦争捕虜の為、さらっと返すことも出来ない。本来であれば、戦争に巻き込まれる身分ではないのだが、何かの策略か御者や警備の人間が地図を見間違えたのか、敵軍めがけて逃走。キヨの父親は捕虜になり帝国に迷惑をかけるぐらいならと、完全包囲にもかかわらず徹底抗戦を指示、結果両親は死亡、キヨも重症を負った。親戚が身代金を用意し引き渡されるとおもいきや、額が大きすぎたのか何かの駆け引きか、向こうから交渉を打ち切った為に解放する事も、10歳の皇族を処刑する事も出来ず、7カンで先送りしたのだそうだ。6年が経過した今も状況は変わっておらず、俺と同じ手ぐらいしか思いつかないが、処刑して死体を焼いたなんて言ったら帝国本国との戦争もありえる、そうなれば国があった記録すら大陸から消えるかもしれない。キヨを連れて、帝国側へ亡命……俺は今回の戦の戦功一番、敵からしたら殺したいリストの一番上にいるはずなので即処刑。それでもいいのでは? と言うと、3人共首を横に振る、知ってるけど奴隷だからってなんでも言う事聞くわけではない。

 

 王宮でも頭を悩ませる問題に、俺があっさりと答えをだせるわけもなく、夜も更けてお開きとなった。アンは王都に戻ると言って、その馬車を見送る。大人買い? いや領主買いしたおかげで充実した酒蔵から数本持ち出して、庭のベンチに座りひたすら飲む、助けられない子を引き受ける呪いでもかかっているんだろうか、カルは結局助かったが、山城の地下牢が頭をよぎる、全て助ける事なんて出来ない、あの二人は助けられるのだろうか。

 

 少し寝てしまったようだ、だいぶ月の位置が変わった。ふらふらと階段を上り、ベッドに倒れる、やわらい感触に一瞬思考が止まるが、すぐに立ち上がる。


「ごめん。」

「ご主人様、準備できておりませんが、このままでもよろしけば、お好きなように。」


 そう言うと、みかんはささっと着ている服を脱ぐ。


「待った、待った、ごめん間違えただけだから、そういう意味じゃないから。とりあえず、服を着て、今日は寝て、明日話そう。」

「わかりました。」


 とりあえず一階まで下りて、頭から水をかぶるが、酔いがさめないし、一瞬見えたみかんの裸が頭から離れない。やばい、ただでさえ意思が弱いのに、酒まであおってしまって、非常に危険だ。アンが、俺の子を身ごもればとか言うからか? あんな誘惑に勝てる気がしない。



「あ、領主様……ヒロ様のがいいかな?」


 酒場の裏口に座る俺を見つけ、ゆずは不思議そうな顔をする。


「確か、今日の朝、しばらくはこれないかもって言ってたのに、じらすならもう少し間開けないと。」

「ヒロでいいよ、ほんとにそのつもりだったんだよ、まだ部屋空いてる?」

「領主様の部屋ですよ、そのままに決まってるじゃないですか。」



 ゆずに優しく頭をなでられて目が覚める、もう外はだいぶ明るい。


「領主様にこんな事したら、処罰されちゃうかな。」

「大丈夫、とっても気持ちいいよ。」

「ヒロ、やっぱり私が館に住むのは無理かな。あの子達見て。」


 窓の外を見ると、キヨとみかんが向かって来るのが見える、ここが定宿だとアンから聞いていたのかもしれない。


「あんな姿勢正して歩けるのは、私には数歩だけかな。子供の頃から、鍛えてるあの子達にはかなわないよ、貴族のふりなんてやっぱり無理、疲れてヒロの前でも笑えなくなっちゃう。」

「そうか。」

「そんな落ち込まないで。町娘が領主様に迎えてに来てもらうなんて、おとぎ話だけなのよ。ヒロに迷惑かけちゃうだけ、私はいつでもここにいるから、会いたくなったら、会いに来て。」

「……いい女すぎるだろう、俺と一緒に礼儀作法習うか?」

「ヒロが真面目になにか習うとこは、想像できないかな、家出するぐらいだし。」

「この歳で、これは家出なのか?」

「戦場で暴れまわった英雄が、16の女の子が怖くて家出なんて。領主様なのに、ちょっと、可愛すぎるかな。」

「俺には16って子供なんだけどな、あんな若い子が、領主というか、位の高い人に抱かれるって、どんな感じなんだろ。俺が、領主じゃなかったら、拒んでた?」

「ずいぶん恥ずかしいこと聞くなぁ。領主様にしては、優しく誘ってくるなぁとは思ってたけど、戦争の英雄ってのも知ってたから、私が若かったら、自分から誘ってたかな。」

「答えになってないし。」

「そんな計算高くないから、本来こんな近くに現れるはずの無い人が誘ってくれたら、冷静でいられないから。……そこが気になるなら、私が、聞いてあげようか? カウンターの裏にかくれといたら?」

「盗み聞きか、あんまりなぁ。」

「落ち込むような話だったら、慰めてあげるから、行くよ。」


 すでに二人は店に入って来ていた為、二人して裏口から回って、カウンターに隠れる。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょう?」

「おはようございます、領主様を探しております、もし行方にお心あたりがあればお教え願いたいのですが。」

「私は特には、知り合いに声をかけますので、カウンターでお待ちください。」

「ありがとうございます。」


 カウンターの中とはいえ、二人が座った音も、カップを静かに置く音も聞こえる。


「ハーブティー落ち着く、でもご主人様は苦手。」

「キヨよく見てるね。でも、下ばかり見てると、誤解されるよ。」

「ん……え! いや、あそこを見てるわけじゃないよ。」

「横から見ると、そうとしか見えない。」

「うぅ、どうしよう。」

「むしろいいんじゃない、そう思われたほうが、実際に会ってみてそっちは興味ない?」

「無くはないけど……みかんは?」

「一回ぐらいしてみたいかな、男の人なら誰でも、あと一年しかないし……。」

「私は、するなら、ご主人様がいい。」

「すごいね、初めて会った日からずっと言ってるよね、ご主人様は知ってるのかな、私達の血で復活したこと。」

「アン様は、知らないって言ってたけど、ご主人様は黒振りだから、いくら隠したって、全部見られちゃうだろうし、知らないふりしてくれてるだけなんじゃないかな。」

「そう思うなら、ご主人様の前で不機嫌そうな顔するのやめたほうがいいんじゃないの?」

「不機嫌って! ……わかってるけど、緊張するから、表情つくれない……。」

「好きすぎて? ……そんな顔真っ赤にして、キヨかわいい。」

「私で遊ぶな。」

「でもさ、ほんとびっくりだよね、先月の解除終わった時は、あと一年、何もなく終わっていくんだろうなって思ったのに。……私はキヨに見送られて、数日だけど一人にしちゃうって心配だったけど、ずっと会いたかったご主人様に見送ってもらえそうだね。」

「確かに……そうだね。また会えるなんて、思って無かった。」

「あれだけ毎日、会いたいって言ってたのに?」

「みかん! 毎日は言ってないでしょ!」

「そうだね、無意識に口から出てる分除けば。」

「うぅ、やめて。」

「でもさ、ほんとすごいよね、願えば叶うんだなって、女神様をまた信じられそうな気がした。」

「そうだけど、一晩で置いていかれるとは思わなかった……いきなり全裸のせいだからね。」

「ごめん、ちょっと寝ぼけてて、アン様にゆっくりって言われたの忘れてた。私がやって色っぽいのかは、だいぶ疑問だよね。」

「なんでよ、それだけ胸あるのに贅沢だって、ご主人様の好みはわかんないけど。」


 ゆずがもどってきて、お茶のお替りをするめると。


「ゆずさん、どうやってご主人様をおとしたのか、教えていただけませんか。」

「ちょっと、キヨ!」


 ゆずに蹴られて、立ち上がる。


「何か追加のご注文は?」

「ご主人様!」

 

 二人とも、素早く立ち上がる。


「とりあえず、座って。」

「あの、ご主人様……。」

「色々聞かないと、いけないな。」

「はい。」


 ゆずは軽くうなずいて、奥に下がる。キヨは真っ赤になって、どうやら熱暴走しているので、みかんが答えてくれるようだ。


「とりあえず、ここの事とか、俺の事なんでそんなに詳しい?」

「その……アン様に、ご主人様調査結果など見せていただき、独自の攻略法なども教わっています……。」

「あいつは。……それじゃ、レッドテイルの事も知っていると思うけど、俺は奴隷や子供には手は出さないから、昨日みたいに俺の前で肌を見せるのは無しね。」

「わかりました。」

「じゃまずは、黒振りってなに?」

「それは、ご主人様のように、光と闇のバランスが全て闇側に振られた人の事です……。」

「キヨが、俺には隠せないとかって言ってたのは?」

「それは……黒のふり幅が強い人は、相手の嘘を見抜き、黒振りともなれば感情すら操作できる、と言い伝えられていますので、ご主人様もそうなのかと。」

「そんな力ないぞ。」

「……操作された側も気が付きませんし、呪文や道具が必要とも伝えられていません。大変失礼ですが、ご主人様が無意識に力を使われていても、誰にもわかりませんので。」

「感情操作か……そ、それはそうだけど、もしそうなら、ここまで殺されかける事無かった気がするんだけど。」

「直接触れたり、操作できる人と出来ない人がいるのかもしれません、伝承も様々で人心操作はその一つにすぎません。」

「そんな不確かものなのね、俺以外で黒振りってどれくらいいるの?」

「少なくとも、数千年は確認されていません。」

「それって、もう神話の世界までさかのぼるってやつだな。」

「はい、ですので、『黒の魔力持ちには嘘をつくな。』と一般的には言われています。」

「……なるほど、それはなんか分かるかな。」

「ご主人様、それは何か音や光でですか?」

「いや、そうじゃなくて、俺が弓使いってわかると、不自然なくらい正直にしゃべる人間が多かったなと。」

「それは、私もキヨも経験があります、嘘を見抜く力など無いと言っても、それを証明できませんからね。私達は母親も黒に振れていましたので、そこまで苦労しませんでしたが、遺伝でなくても黒に振れる子は極まれにいて……。」

「それは、弓隊で聞いた……。怖がるなと言っても、無理があるな。俺が心を操作してると思う?」

「どうでしょう? キヨを見てると、そうなのかと思う時もあります。」

「……それはな、じゃ復活ってのは?」

「赤目討伐の後、ご主人様の治療の為に近隣の神父はもちろん、王宮の医師まで呼ばれました。それでも、ご主人様の心臓は30秒に一回鼓動するだけで、国中の黒の魔法薬を集めて、治療槽に浸してもその状態を維持する事しかできなかったのです。当時王国内に、黒の魔力を持つ人で、招集できるのは私達二人しかいなくて、もしもに備えて呼ばれたのです。」

「それって、魔力を吸い上げる為?」

「それもあったかもしれません、でも7カン付けられたばかりの私達にそんなに魔力はないから、輸血とかの緊急用だったんだと思います。最初は、包帯変えたり、荷物運んだり、キヨも私も偉い人なんだろう、ぐらいしか思ってなかったんです。他に人がいない時に、修理された弓が届いて、それまで色々見てたから、ご主人様が赤目を倒したって、当時の私達でもわかりました。その晩にキヨが来て、位ではかなり下の私に頭を下げて、私達の命が危ない方法だけど、協力してほしいって。ほとんど話なんてした事なかったのに、びっくりしたけど、ご主人様が助かるならいいかなって、協力しますって答えた。今考えたら、その時から操られてたのかもしれませんね。」

「……そんな、瀕死の状態でも。」

「どうでしょう。キヨの話では、魔力が小さくても、外から黒の魔力を心臓に流せば、蘇るって話で、帝国の貴族には黒に振れた人がそこそこいますから、もし自分より位の高い人が倒れた場合の為に、キヨにもその方法が説明されていて、その日の深夜に実行しました。」

「AEDみたいのか、どうやって心臓に?」

「傷を付けて、水晶を媒介にします。」

「それって、二人とも大丈夫だったのか?」

「一瞬で意識を失って、戻るまで一か月ぐらい寝てました、キヨはさらに数日。」

「死にかけてるじゃないか、無茶するな。」

「あの時は、二人とも大事な物は無かったですから。結果として、キヨも王宮から出してもらえて、私達は一緒にアン様のお屋敷にお仕えする事が出来て、またご主人様とお会いする事ができましたから、結果良かったというわけで。」

「そうだったのか、ありがとな。……必ず二人とも助けるよ、しがらみ抜きに外す奴も知ってるし。」

「……ご主人様、ドクターの話なら既にアン様はご存じです、帝国側に誘拐された事にして、そのまま国外逃亡する計画もあったのですが、それはご主人様が傭兵村にいた時でも、帝国と連合の全面戦争の可能性があるため中止したのです。」

「だめか、それでも必ず助ける。あいつも助かったんだ、きっとなんとかなるさ。」

「それは、カルさんの事ですか?」

「そっか、知ってるんだな。」

「かなり昔ですが、お会いした事があります。ちょっと怖かったけど、凄い綺麗な人で、舞踏会でも注目されてました。男性と間違えたと記載されてましたけど、なぜですか?」

「……それは、自分でもよく分からない、聞かないでくれ。」

「わかりました。」

「それで、キヨは、なんでこんななんだ?」

「これは、その、キヨだけじゃないですけど、人はどこかで黒の魔力には憧れるもので。子供の頃、親に近づくなって言われるほど、余計に気になってしまうもので、私達みたいに、黒に振れているものは特に。帝国領では貴族以外にも初代皇帝の話は有名で、夢者で弓の名手、黒の魔力で人心をまとめ流血なく大陸を一つにまとめ、女神と平和な世界を作ったとされています。」

「それはもう、神話の話だよね?」

「そうですね、女神様と人間である皇帝が出てきますから、帝国領では初代皇帝は、黒の神と書いてコクシンとか、黒の皇帝と書いて、コクテイとか呼ばれる事もありますので。そんなわけで、親戚一同に見捨てられてるところに、もともと憧れていた伝説の神が目の前に現れてしまって、それからずっとこんなです。」

「俺が黒帝ではないことは、理解してるだろうに、しばらく一緒に生活してれば慣れるというか、冷めるだろう。」

「ちなみに、カルさんは、ご主人様が処刑されると聞いて、一軍を率いて町ごと滅ぼすつもりだったそうです。」

「やばいな、あいつ。」

「ご存命だと人づてに知ったら……連絡されたほうがよろしいのでは?」

「……それは、また今度考えよう。キヨ、帰るぞ!」

「は、はい。」


 翌日からは、領地内の貴族様から面会依頼の手紙が束で届き、中にはアポなしでやってくる人もいたりと分刻みのスケジュールも崩れる、それでも館のスタッフと常備兵も順調に増えていき、すこし油断したところで、俺は盛大にやらかしてしまう。

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