王国兵6
王宮に近づくにつれて、高級な馬車が増えまわりの服もなにか高そう、貴族街に入ったから当たり前なのだが、みすぼらしい服着て歩いているのは俺だけ、今にも職質かけられて捕まりそう。
一台の馬車が止まり、外に乗っていたごっつい私兵がおりて近づいてくる、どうぞと刀に手をかけて断れない圧力をかけてくる。馬車に見覚えがある気がしたがすぐには思い出せない、ドアが空き久しぶりだなヒロと声が聞こえ、咄嗟に逃げようとしたが、私兵は取り押さえて後ろ手に縛ると馬車におしこむ。
「また、逃げるの?」
床に転がった俺を見下ろすのは、数年ぶりに見るアンの、いたずらめいた笑顔だった。
「そんなに、怖がらなくったって……。」
アンは縛られたままの俺を起こして、向かいの席に座らせる。ドレスで見えないが、楽々持ち上げるところを見ると、筋肉は健在のようだ。
「首に賞金かけられれば、そりゃ怖いでしょう。」
「私が、やったとまだ思ってるわけ?」
「ちがうの?」
「当たり前じゃない! あれは、私の部下がいらない気を回して、私の名前でやったのよ。……しばらく小屋にもいかなかったから、逃げた事も知らなかったの。」
「でも、あれを見て怒ってたんじゃ?」
「……たしかに頭にはきたけど、なんかねぇ、あっさり納得しちゃって……貴方にとっても、私にとっても一番大事ってわけじゃなかったんだなって。だからって、殺したりしないわよ! 山小屋からは二度と出さないつもりだったけど。」
「ひど!」
「そんなこと言える?」
「言えません、ほんと、すいませんでした、いや色々全部、本当にすいませんでした。」
「私の方も、手配書のおかげで弓兵隠して愛人にしてるって知れ渡ったから、堂々と手配書撤回することもできなかったし。何人かに後追わせたけど、傭兵村まではほとんど消息つかめてなかったし。」
「傭兵村に手紙でもくれれば、すこしは気が楽だったのに。」
「なんて書くのよ、それにあの頃はもう私の出した手配書じゃなくなってたし、信用できる傭兵をボロ宿に送るぐらいしかできなかったのよ。」
「ん! そうか、俺のとこに突然手練れがくるわけなかったんだよな。」
「最初だけね、後に集まってきたのは、ヒロの実力じゃない。落ち着いたら、会いに行こうかと思ってたんだけど、かなり遠いしなかなか時間とれないし、なんて言えばいいかわからなかったし……。そしたら、村を出て、処刑されたって聞いて……。」
「ごめん……。」
「ごめんですむか! 処刑された場所までいって、灰になった貴方を見せられて、どれだけ泣いたと思ってるのよ! ……なのに、いきなり戦場に現れて、重騎兵隊を壊滅させて、敵王の足を吹き飛ばしたって、いったいどうなってるのよ!」
アンに首を絞められて、意識が薄れかける。
「あ、しまった、今は領主だった。」
「ん? 意識消えかけたけど、なんて?」
「やっぱり、分かってなかったんだ。」
「よくわからないけど、領主様に会ってない事?」
「……会えるわけないでしょ、貴方が領主なんだから!」
「……はい? なに言ってんの?」
「ちゃんと説明あったでしょうが!」
「……あぁ、たぶんあったけどほとんど寝てた。」
「殴ってやりたい。」
「……そういうのは、殴ってから言う事じゃない……。」
「顔をね。簡単に言えば、普通の国なら貴族以外が領主になるなんてありえない。だけど、先々代の国王は元農民の傭兵で、成り上がってこの国を報酬として受け取ったの。今でもこの国は、各国に兵を貸し出してる。だから現国王も傭兵王って呼ばれる、戦で戦功のあったものにはその戦果に応じた報酬が支払われるのよ。部隊が活躍したら、その部隊率いた人にいくんだけど、今回はほとんど貴方一人の戦果だし、あなたの隊の大隊長は、後を継げる人がいなかったし。」
「……いやいや、だからって、だめでしょ俺なんかにまかせちゃ。」
「受けるかどうか、聞かれたはずだけど?」
「そんな大事な事とは思ってなくて、今から無しとか?」
「出来ないの分かって言ってるよね?」
「やっぱり無理なんだ。」
「なんで嫌がるの? 女好きだから喜ぶかと思ったのに。」
「いや、否定はしません、というか出来ませんけど、ハーレムの為だけに領主になりたい人なんて……いるか。」
「いるだろうね。ヒロ、とりあえずその格好では祝勝会でれないから。」
「……そうだね。」
「その格好で何に出るつもりだったの?」
「服ないから欠席とか?」
「足腰立たなくなるぐらい殴ってでも、連れていくけどね。」
「相変わらず乱暴だな。」
「私がいつ、乱暴だったの?」
「いえ、なんでもないです。」
「とりあえずそろそろ着くから、向こうで作るしかないでしょ。」
「そんな簡単に作れるの?」
「準備してなければ作れないわよ、これは貸だからね、領主として返してよね。」
「いきなり政治の話なのか、きびしいな。」
「そうだよ、これからはやるだけの友達ではないんだよ。」
「……いや、まずいでしょ、旦那にばれたらどうするんだよ。」
「人妻と遊んでるくせに、そんな事言う?」
「知ってるのか、怖!」
王宮の部屋で、下着のみにされて10人の仕立て屋チームが採寸していき、それを今にもとびかかりそうなアンが見ている。アンだけでなく、仕立て屋さん達が出入りするので、廊下からは丸見えで、たまにドレスをきた貴婦人の冷たい目線が刺さったりする。
すると、勢いよくドアを開け、先日フィールまで送ってくれた領主様が現れる。しかし、仕立て屋さん他、アンまで一斉に膝を付く。
「ヒロ、久しいな。」
「えっと……。」
「すまんな、久々に私の顔を知らない者に会ったので、嬉しくてな。」
「ってことは、国王陛下様?」
「ジルテックだ、服は間に合いそうだな、ちょっと余興があるが、よろしく頼むぞ。」
「はい。」
頭が追い付いていかず、すこしほうけていると、バタバタと仕立て屋さん達が出て行く。
「ヒロ、服が出来るまで、少し時間があるぞ。」
そういって、アンが抱きついてくる。
「まてって、王宮だぞ、また王様きたらどうするんだよ。」
「その時は、その時で。」
口でいくら抵抗しても、アンの腕力に勝てるわけもなく、それにこの人の可愛いさは良く知っている。ベッドに押し倒されて、今誰か入ってきたら、言い訳できないと思っていると。
「アン、そろそろ行くぞ。」
そう言って、白タキシードの男性が入ってくるが、アンはまったく動じない。
「後、15分。」
「そんなに、時間ないぞ。終わってからにしろ。」
「しょうがないなぁ。」
あきらめたアンが、起き上がり、ドレスをなおす。崩れた化粧を、入ってきた白タキシードの男性がなおしている、メイクさんかとも思ったが、この人見覚えがあるような。
「もしかして、白鬼将軍ですか?」
「ヒロさん、覚えていてくれたのですね嬉しいです。戦場での援護ほんとに助かりました。」
「いえそんな、助けてもらったのはこちらのほうです。あの、お二人は、お知り合い?」
「本名はねハクって言うの、旦那よ。」
アンはさらっと、言ってのける。
「え、本当に?」
「大丈夫よ、この人は美少年にしか興味ないから。」
「そ、そうなんだ。」
「私達は先にでるから、終わったら、ちゃんと借りを返してね。」
そう言って、仲睦まじい夫婦のように腕を組んで出て行く。戦場で話をしたのは、一回だけだが、何度か見かけた。全身白づくめの鎧に白い馬、鬼のような兜をかぶり、毎度真っ赤に染まって帰ってくる、そのさまは味方でも恐怖を感じる。王子達を全滅させた日、向かって来る敵の軽騎兵を崩してくれたのは、白鬼将軍の部隊だ、どの戦場でも安定した戦果をあげる王国の主力部隊。
なのに、アンの旦那さんで、美少年好きって、なにそれ頭がついていかない。
白地に金の刺繍の入った軍服を着て……なんか嫌な事おもいだす。式典会場の大きなホールには同じ服を着た人がいっぱいでちょっと安心。すでに始まっているので、こっそり最後尾に並ぶ。
話を聞いていると、祝勝会というより、論功行賞に近い。どの部隊が、どれだけの戦果をあげたか説明があり、それに対する恩賞と続く。そして、俺はこの類の式典は苦手だ、強力な睡魔に襲われる。何度か落ちかけたが、どうやら並んでいる全員が王様から、何か受け取るのではなく、大隊長クラスがお金やら剣やらを受け取り、隊長クラスは脇によける流れらしく、広い会場の両側に貴族様や礼服の軍人が並び、中央にポツンと一人残される。
戦果として、敵国の王子達の名前が次々と読み上げられ、戦に出ていなかったであろう貴族様達がざわつく、そして竜撃は500近い重騎兵とその後方から付いて来ていた歩兵の計千人を屍に変えた。会場は静まりかえる、最終日、俺の放った矢は敵総大将の敵国王右足に命中、毒の事を調査済だったのか、根本から足を切り落とし、降伏の指示をだす、何度か聞いたけどすごい判断力。
説明が終わっても、会場は冷え切ったまま、目の前に立っている男が会場内の人間を一瞬で消せる化け物だと気付き、呑気に勝ち戦だと喜んでいられないのだろう。
金貨と、領主への就任が発表され、会場がざわつく。
国王が席を立ち、良く通る声で話始める。
「あの戦場で生き残った者は、ヒロの矢がなければ、生還不可能だったことを知っているだろう。そして、戦歴の浅い彼を領主とする事に、不安を感じる者もいるだろう。その不安とは、彼の腕と忠誠だろう。私はその不安を打ち消す責がある、まずは彼の弓の腕を見てもらおう。」
手元には弓と矢が、国王の両側には、30センチほどの丸い的が立てられる、どちらも2mも開いていない。距離は50mも無いが、的ではなく、国王の額を撃ち抜く事も当然できる、止めようと近づく人を、国王は手をのばして止める。矢は二本とも的の中央に刺さり、会場に安堵のため息が満ちる。
「これで、彼の腕を疑う者はいないだろう、不幸にも右足に矢を受けた老人までの距離は800m、これからは戦場で派手な衣装を着る役者は減るだろう。では、幕を。」
その言葉を合図に、会場の中間に幕が下りてきて、国王の顔が見えるぎりぎりの所でとまる。
「ここに参列している者は知っている事だろう、魔力をこめた矢は、直進する。つまり、これから私の頭にのせるリンゴを撃ち抜くには、十分に魔力を込めなければいけないという事だ。」
そう言って、宣言通り、頭にリンゴを乗せる。笑えない余興だ、ちょっとでもかすれば、足みたいに切り落とすことは出来ない、会場には悲鳴も聞こえる。
十分に盛り上げてから、矢を放つところだが、あまり魔力を乗せるとたぶんリンゴが破裂する、国王をリンゴまみれにしてはいけない事ぐらい俺でもわかる。
素早く矢を放つと、リンゴは矢と共に後ろの壁に飛んでいく。会場には一瞬悲鳴が響き、どうやら誰か倒れた。
「では、フィール候、こちらへ。」
余裕たっぷりの国王に呼ばれて、歩いていく。やたらと装飾のついた杖を受け取ると、会場が拍手につつまれ、心臓に悪い余興は終わる。
高そうな酒が振る舞われ、紳士淑女の優雅な立食パーティーが始まるが、俺の周りには人がいない。フィールの町に着いた時と同様、俺が移動すると、同じ速度で人が散っていく、数回試してみて同じ結果なので、諦めて壁際に下がる。
「フィール候、少しは仕事しないさいよ。」
アンが、またいじめっ子の顔をして近づいてくる。
「仕事って、俺はなにすれば?」
「私には、ベッドで借りを返して……。」
「他のやつ。」
「まずは人。各町の町長とかは、余程がなければ変えなくていいけど、屋敷の人間は必要だね。」
「アンは、どうやって集めてるの?」
「基本的には、知り合いの貴族とかに頼まれて引き受ける流れかな。」
「フィールに知り合いの貴族なんていない、いや他の地方でもいないし。」
「これから増えていくだろうけど、あの屋敷っていま空だよね、とりあえず貴族の応対できるぐらいは、揃えてあげる、あと王宮に徒歩でくる領主はないから馬車ね、後は自分の町で用意したほうが、後々の付き合いも増えるから自分で手配かな。」
「あ、ありがとう、なんか優しいな。」
「なんかってなによ。いきなりで、面倒かもしれないけど、領主にも派閥があるのよ。大きくはうちみたいな戦闘系と、帝国よりで外交得意な貴族系、それぞれさらに複数に分かれるけど、ヒロは戦闘系で私の愛人って知れ渡ってるから、自動的に私達がトップの戦闘系の派閥って事、他は入れないと思うしね。」
「そうなのか、確かに面倒な感じだな。それで、派閥に入るから優しいわけ?」
「陛下からも頼まれてるからね、そうじゃなくて、私が個人的に助けたいって、素直に思えないわけ?」
「うんうん、思う、思う。参考までに、白鬼将軍は遠征メインで、内政はアンがみてるの?」
「そうだね、昔は両方とも二人でやってたけど。半年とか遠征で出たりするから、自然とそうなった感じかな。」
「気にはならないの、その、美少年好きは?」
「最初聞いた時は驚いたけど、許嫁に決まって小さい時から一緒に住んでて、兄弟みたいな感じだったから家族愛はずっとあって、夫婦になってもそれは変わらないのよ、いまでも可愛い弟かな。お互い好きにできるから、いい関係なのよ。」
「なんかちょっと羨ましいな。派閥のトップって、やっぱり戦果で駆け上ったの?」
「そうなるかな、元々武闘派の家柄だったけど、私達上に兄弟がいるから、家からはそんなに期待されて無かった。だけど二人とも剣術が好きで、暇さえあればずっとやってて、強い人がいるって噂を聞きつけては一緒に習いにいったりしてね、自然とそんな仲間が増えていって、魔物退治したり盗賊退治したり、戦争にも呼ばれるようになったりと、ヒロと一緒だね。」
「周りに誰もいないあたり、人望の差がでてるけど。」
「それは、これからよ。人が増えたっていいことばかりじゃ、どうせバレるだろうから言っとくけど……二十歳になる頃には、親より領地が広くなってね、本家との仲はどんどん悪くなっていって、いつか仲間か家族か選ばなきゃいけなくて、そうならないように上手くやってたんだけど。お気に入りの愛人に逃げられて、色々余裕が無くてね……。」
「ん? それは、俺なのか?」
「どうだろねー。ハクの遠征にかなりの兵出して手薄だったんだけど、まさか親戚一同で攻めてくるなんて、いくらなんでもって感じだよね。それほど団結して無かったけど、数の差が凄くて捕虜とって交渉する余裕もなくて、それぞれ引き離して、ハクの家族も私の家族も、私が殺さなきゃならなかった。……流石に黒弓様でもこれは引くよね?」
「……それってさ、親戚一同は、俺を連れ戻す前に、決着つけようとしたんじゃないのか?」
「ちょっとはあったかもね、赤目倒せる弓使いがいたら攻めてこれないからね。でもまぁ、かなり前から狙ってたのよ、いい口実を与えちゃっただけ、そんな隙を作っちゃいけなかったの。今思えば、他にもやりようがあったのかも知れないけどね、戦力として以外にも支えてくれる人がいたりすれば……。」
「……これからは、頑張るよ。」
「まずは、今日の晩からね。」
王宮のベッドのなんと快適な事、向こうにいた時もそうだったが、良質なベッドが欲しかった、仕事がいそがしく家に帰れないと、なおさら睡眠時間の向上にお金を使いたかった。そんな事言っても、旦那様公認とはいえ不倫中なわけで、別な目的だよね? と言われても、反論のしようもない。
「赤目討伐の後、なんでアンの所に引き取られる事になったの?」
「それは、掛けよ。」
「なんて?」
「赤目に止め刺した人が所有する。」
「ペットか……アンが止め刺したってこと?」
「まぁ、ヒロの一撃でほとんど死にかけだったし。景品はほとんど死んでたから、そんなに遠くには運べないってのもあったけどね。」
「ほんと、なかなか死なないな、あれから随分経つな。」
「ほんとに、歳とらないのね、ちょっと頭にくる。」
「俺はそんなに嬉しくないけど。」
「しかし、傷増えたね、魔力尽きるほど重症にならなきゃ、ここまで跡残らないのに、やっぱり傷があるとモテるわけ?」
「そんなわけないだろ、俺のは戦いの傷じゃなくて、逃げそびれてって奴がほとんどだし。数日鞭で打たれた傷なんて自慢できないだろ。」
「そっか、これは今回のか、私も付けていい?」
「……目が怖いから、まだ少し痛いし、やめてほしいかな。」
「ヒロ、これからは気を付けないと、ほんとに殺されちゃうよ。」
「今迄も手配書のおかげでかなり殺されかけたんですけど。」
「それはお金目当てじゃない、王の片足落として、王子殺しとなれば、お客さんいっぱいくるよ。」
「やな客だな、山奥に引きこもりたい。」
「山城作る? それから、女好きなのは知ってるけど、今迄みたいに節操ないと、トラブルになるよ。」
「そんなにやんちゃしてるつもりはないけど、トラブル?」
「さっきは、私がいたし、千人殺しとか引く話あったから誰も来なかったけど、許嫁もいない、婚約者もいない領主でまだ若い人なんて、滅多にいないから。領主から、上流の貴族ぐらいまでは、娘を押し付けてくるから……なに喜んでるのよ。」
「いや、喜んでなんか……。なんで、上流貴族までなの?」
「中流以下だと釣り合わないから、もし張り合ったら殺されちゃうし。」
「ほんとこの世界は実力行使が好きだよな。貴族の娘なんて、手出さないから大丈夫だって。」
「ララは?」
「……知ってたのね、えっと、友達?」
「貴族派だけど、平和主義者だからぶつかることは無いと思うけど、距離感間違うと辛い事になるわよ。」
「気を付けます。」
「それと、貴族じゃないからって、町の子に手を出すのもダメ。許嫁や婚約者が死んであせった貴族の娘は、ちょっとでも邪魔なら町娘ぐらい消すから。」
「そこまでか、もう高そうなドレスには反応しないと思う。」
「ヒロには、それぐらいでちょうどいい。」
「精進いたします。」
この格好で言っても説得力のかけらもないし、俺は自分の意志の弱さにだけは自信がある。女性関係のトラブルで短命に終わった領主として、名が残るのだろう。




