前夜へ
日の落ちかけたころに、荷馬車は広い草原で止まった。少し先の林に向けて先の尖った杭が並び、さらに手前には木の柵。それが左右に見える限り続き、簡単なテントが見える。これからここで、血が流れ、人が死んでいくのだろうか、思っていたよりも落ち着いている、何も感じないと言ったほうが正確かもしれない。昔ゲームで遊んでいた時は、この空の遥か上空から見下ろしていたのかと、平和な時を思い出すだけだ。
鎧を着た兵隊が馬で駆け、若い兵隊がそれを眺めている。若い兵隊が多い気がする。
「ケン、なんか、みんな若くないか?」
「手練れを遠征にまわすから、近場の戦場は若くなるって言うか、訓練生だな」
「訓練生? どんなシステム?」
「貴族やら、金持ってる奴らの子供は、基本的に長男以外は兵学校へ。それと、腕が立ちそうな子供は、地元との偉いさんが金出して、一緒に兵学校に。こっちでは、戦争で活躍すると、尊敬と金が手に入るから、戦争で活躍して、いい女を嫁にしてってのが、基本的な人生設計ってやつ」
「そこそこ、女の人もいるけど?」
「筋力は男のがあるけど、魔力は女性のが平均しておおくてね、兵隊も半々ぐらいでもいいんだけど。英雄願望で恐怖を克服できる幸せものは男のが多いってこと」
「恐怖心ね、俺もできれば逃げ出したいとか言ったら?」
「逃げたら、その場で切り殺していいって、言っとくから」
「ひどいな、いっしょに戦うんじゃないの?」
「いや、俺は雇い主と赤目にとどめさしに行く部隊に入るから、ヒロ馬乗れないでしょ?」
「散歩ぐらいならあるけど、駆け足までだな。それでもケツ痛くて夜寝れなかった」
「普通はそうだな、それに馬のって弓とか無理でしょ?」
「確かに、とまってないと無理だな。なんだ、俺の為にやばい奴を倒してきてくれるじゃないのか?なんかくらくないか」
「まぁ、ずばり言うと、戻ってくるかは微妙なとこ」
「どっちか、もしくは両方死ぬってことか?」
「はっきり言うなぁ。まぁそう言う事、確率で言うと後方から撃てる弓より、雇い主の前に出なきゃならない俺のほうが、確率としては高いかな」
「そう、なのか。なんか、あっさりしてるな」
「考えてもしょうがないからな、ヒロの事はなんとかなるように声かけてはあるから」
「そうか、ありがとう。っていや、言葉通じないし、なんとかなるか?」
「そこは、ジェスチャーゲームだと思って楽しんで」
「ほんと、余裕だな。これから死ぬかもしんないのに、慣れればそんなもんなの?」
「うーん、慣れと言うか、向こうより人の命が軽い世界だから、そんな場面はよく遭遇するんだ。麻痺してるってほうが正確」
「俺も麻痺するのかな」
「どうにもならない事は受け入れるしかない、あんまり溜め込むとやってけない。向こうの世界とは違うんだから、死ねばいいのにって思うやつに会ったら、さっさと殺すぐらいでちょうどいいんだよ。酒場みたいにためらってたら、気分的にしんどいだけ。戦場で知り合いが向こう側に立つなんてことは、天気予報が外れるぐらいよくあることさ。気が付いた時にはどっちも引けなくなって、ためらう余裕なんて無い、晩飯の事でも考えて血にそまるしかないさ。そん時は、一発で仕留めてくれよな」
「それは、最悪の場合だよな?」
「どうだろうか、そろそろ行くな。最低でも一匹は仕留めて酒おごれよ」
そういって、肩を叩くと。馬に乗り換えて、振り返らずに手を上げさっていく。ぱっと見は、まわりの新兵とさほど変わらない外見なのに、その堂々とした風格は、修羅場をくぐり抜けてきた数の差か。単純にかっこいいわぁ、モテるんだろうなぁ、うらやましいなぁ。なんていうか、俺ってばこんなこと考えて、かなり余裕だな、すでに麻痺したか、もともと壊れていたのか。




