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最終話 続・人間の証明〜そして伝説へ〜

最終話 続・人間の証明~そして伝説へ~


「ゴリラ人間ってことでいいんだな?」

 女性冒険者はひとしきり考えたあと、何かを納得したようにそう言った。

 なんだよそれ。聞いたこともないよ。

 エンじいと呼ばれる老人が鑑定してくれたおかげで、俺のゴリラ容疑は半分晴れつつあった。しかし、それはどこまでいっても半分であった。

 というのも、鑑定の結果、俺の種族は人間ゴリラと出てしまったからである。一同が戸惑っていると、しぃちゃんと呼ばれる女の子の冒険者がポンッと手を打った。

「ねぇねぇ、ゴリゴーリ・ゴリラっていう名前、ギルドの掲示板で見なかった?」

「……たしかに、4日前に行方不明になったっていう学生がそんな名前だったか?」

 父さん、母さん、ギルドへ捜索依頼出してくれてたんだな。俺が感動している中、女性冒険者は種類を続ける。

「ゴリラ討伐の依頼が貼り出されたのも同じ時期だ。まさかとは思うが、同一ゴリラなのか……!?」

 父さん、母さん、討伐の依頼は違うよね。別の人が出したんだよね。

 けれど、いい流れだ。2つの依頼の時間関係と鑑定の結果から、俺がゴリゴーリ・ゴリラだと信じてもらえそうだ。同一人物ではなく、同一ゴリラというのが気になるところだが。

「なあ、ゴリラボーイ」

 俺のことなんだろうなぁ。女性冒険者は俺の返事を待たずに話を続ける。

「君が本当に人間なのか、ゴリラなのか、ゴリラ人間なのか、そして、ゴリゴーリ・ゴリラと君が同一ゴリラなのか、私には判断がつかない」

 もうゴリゴリ言いすぎてなんだかわからないな。

「そこでだ。君をギルドに連れて行こうと思う。ギルドなら魔紋鑑定ができる。君の魔紋が、ゴリゴーリ・ゴリラが冒険者登録したときの魔紋と一致していれば、君がその本人だと証明できる。私達と一緒に来れば、外からはテイムされたゴリラに見えるだろうから騒ぎにもならない」

 確かにそれは名案だ。俺はその案に乗ることにした。

「お願いします!」

 流れを見守っていた老人の冒険者がにこやかに笑った。

 それが合図だったかのように、3人の冒険者達が変なメガネを外す。一応信用してもらえたということだろうか。

「話は決まったのぅ。それじゃ、みんなでギルドじゃな。帰還呪文レトルト!」

 俺たちは一瞬で森の入口へと戻っていた。老人は続けて、呪文を唱える。

「かーらーの、移動呪文ラーラ! 冒険者ギルドへ!」

 若いおじいちゃんだなぁ。


「おかえりなさい、エリンさん。討伐報告……じゃないですね、討伐対象をテイムしてきたんですか?」

 ギルドの受付女性は俺たちを見てそう言った。ここまでは予定通りである。この女性冒険者の名前はエリンというらしい。

「いや、実はさ、ちょっと込み入った話なんだけど、このゴリラの魔紋鑑定をお願いしたいんだ。信じられないかもしれないけど、このゴリラがいま行方不明で捜索依頼の出ているゴリゴーリ・ゴリラかもしれないんだ」

 当然、受付女性は怪訝な顔をする。

「ゴリゴーリ・ゴリラさんは確かにゴリラという名前ですが、人間ですよ? こちらは討伐依頼の出ていたゴリラですよね?」

 もっともな反応である。エリンさんは「いい質問ですね」とばかりに話を続ける。

「そこなんだよ。その討伐依頼の出ていたゴリラと、ゴリゴーリ・ゴリラが同一ゴリラかもしれないんだ。ゴリゴーリ・ゴリラは人間で、ゴリラで、ゴリラ人間で、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラなんだよ」

 エリンさんがドヤ顔でゴリゴリとまくしたてる。その説明を聞いた受付女性はポカーンとしていた。

「ちょっと何言ってるかわかんないです」

 これでは埒が明かないと思ったのか、またしても流れを見守っていたエンじいが助け船を出す。

「論より証拠じゃ。このゴリラくんの魔紋を鑑定して、ギルドに登録されているゴリゴーリ・ゴリラくんの魔紋と照合してみてくれんかの」

「そこまで言うなら、やってみますけど……」


 検査器で魔力をちょっと取られ、待つこと10分ほど。受付女性がものすごく複雑な表情をして帰ってきた。エリンさんが身を乗り出して聞く。

「結果はどうだったんだ!?」

「魔紋は99%一致です。ゴリゴーリ・ゴリラとこのゴリラは他人ではあり得ないほど魔紋が一致しています。親や兄弟でも普通はこれほど一致しません」

 おおっ。とどよめき立つ俺たち。

「ですが、本人なら100%一致しているはずなんです。何かよほどの変化でもない限りは」

 ちょっと雲行きが怪しくなってきた。

「なるほどのぅ。では、仮に人間がゴリラになってしまうような変化があれば、魔紋の一致度が100%から99%に変わってしまう、というようなことはあり得るかの?」

 受付女性はちょっと考えて、慎重に言葉を選ぶように言った。

「なくはないと、思いますが……」

 エンじいは俺の方を振り向くとニカッと笑って言った。

「だそうじゃ。あとはキミの頑張り次第じゃぞ、ゴリラくん」

「ええ!? ここで急に俺!?」

 ふと受付女性の顔を見ると、驚きに目を見開いていた。

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」


 また10分ほど経ったろうか。受付女性はようやく落ち着きを取り戻していた。

「ま、まさかゴリラがしゃべるなんて」

 確かにびっくりするよなぁ。この状況、自分でもわけがわからないし。

「あの、俺が完全にゴリゴーリ・ゴリラ本人だと証明するにはどうすればいいですか?」

 受付女性は少しげっそりとしているようだが、それでも答えてくれた。

「魔紋が変化して同一人物としての認証がしづらくなった人のために、秘密の質問で本人確認する方法があります。それで魔紋を再登録してください。再登録は、してもいいんですよね……?」

 なるほど、そういえばそんなの登録したっけな。母親の旧姓とか、一番好きな動物とか。魔紋を再登録するかは迷うなぁ。だってゴリラの魔紋になってしまったようだし。一度再登録して、人間に戻れたらまた再登録すればいいかなぁ。戻れれば、だけど。

「お願いします」

「それでは秘密の質問です。ここの画面に表示されるので、答えを入力してください。ご本人しか見えていませんので、安心してください」


【初めて飼ったペットの名前は?】


 「ウッホウッホコング3世」っと。そんなの飼ったことないけど。なんとなくゴロがよくてこの手の質問に使ってるんだよなぁ。


「秘密の質問、一致しました。今の魔紋をゴリゴーリ・ゴリラさんの魔紋として再登録します」

 俺はホッと胸を撫で下ろした。

「ということは、俺がゴリゴーリ・ゴリラ本人だと完全に証明できたんですね!?」

「はい、少なくともギルド上ではあなたは間違いなくゴリゴーリ・ゴリラ本人として扱われます。それに、この魔紋鑑定書は、他の公的機関でも本人確認書類として使うことができますよ」

 おおっ。これで社会的に完全に人権を取り戻したわけだ。一緒に来てくれた3人も喜んでくれている。

「よかったな、ゴリラ!」

「ごりらくん、よかったねぇ」

「ほっほっほ。何とかなるもんじゃのぅ」

「ありがとう、みんな! エリンさんに、エンじいさんに、しぃさん!」


 俺は、俺自身を証明する魔紋鑑定書を携え、悠々と家に帰ったのだった。


「ぎゃああああゴリラァァアアア!!!!!?」


……ですよねー。


-----------


 あれから1年が経った。


 あのあと、家族は俺がゴリゴーリ・ゴリラだと信じてくれ、俺のゴリラ化を受け容れてくれた。なんでも、俺が出ていったあと、母さんはしきりにあのときのゴリラは俺だったかもしれないとこぼしていたらしい。「朝のゴリラがあの子の声で話してきたの」と何度も言っていたようだ。

 今では魔法学園にも普通に通っている。最初に登校したときはやはり大騒ぎだったが、この頃はなんとかみんなの理解も得られてきた。おまけに、ゴリラのスキルである豪腕や聞き耳を活かして、歴代にもいなかったほどの成績を修めることができている。

 ところで、最初はみんながゴリラだゴリラだと大騒ぎする中、クラスメートのサラさんだけは、「ゴリラくん、背のびたね」と至って冷静だった。逆にこっちが驚いて、どうして分かったのか聞き返してしまったくらいだ。「魔力の感じが同じだから、でもちょっと逞しくなったかも」だそうだ。不思議なコだなぁ。


 そして、いま俺はエリンさん、しぃさん、エンじいと一緒に、Aランクの調査依頼をこなすため、黒の森の奥地へと足を踏み入れていた。

 ここに生息するウッホウッホコング3世というモンスターが人間をゴリラに変えてしまうスキルを持っているかもしれないというのだ。ウッホウッホコング3世の姿を確認できれば、それで依頼達成となる。そう、姿を確認するだけでもAランクの難易度なのだ。

 こいつは俺がゴリラ化した謎を解く鍵になるに違いない。人間に戻るための手がかりにもなるはずだ。


「おっと、大岩でふさがって、ここは通れそうもないね。ゴリラ、なんとかできそうかい?」

 そう俺に聞くエリンさんだが、目は笑っている。既に答えは分かっているようだ。

「もちろん!」

 俺はスキル【豪腕Lv.60】を発動させ、目の前の大岩を粉砕した。

「たのもしーねー」

「見事なもんじゃの」


 ゴリラも悪くないもんだな。でも、人間に戻るのだって諦めたわけじゃない。どっちもいいとこ取りしたいよなぁ。


「おーい、置いてくぞー、ゴリラボーイ」


 ゴリラボーイ。俺の冒険者としての異名だ。今はその呼び名を、けっこう気に入っている。


最後までお読みくださってありがとうございます!!

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