表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第1話 俺の名前はゴリゴーリ・ゴリラ

第1話 俺の名前はゴリゴーリ・ゴリラ


 俺の名前はゴリゴーリ・ゴリラ。ゴリゴーリが苗字で、ゴリラが名前。魔法学園に通う高等部2年生だ。そして同時に、Fランクの冒険者でもある。

 ある朝目が覚めると、自分の体に異変が起きていることに気がついた。

 ベッドが狭い。体がシングルサイズのベッドから明らかにはみ出してしまっている。もともとは盛り気味に言っても170センチメートル程度だったはずなのだが、急に背が伸びたのだろうか。

 変化はそれだけではなかった。腕を見やると、異常なほど毛深くなっている。いや、毛深いなどという言い方では生ぬるい。モッサモサのフッサフサだ。しかも、どうやら腕どころではなく体全体が毛で覆われているようだ。

 俺は慌てて鏡の前に立った。2メートル近い筋骨隆々の体、全身を覆うフサフサの毛、つぶらな瞳。俺は名実ともにゴリラになっていたのだ。


「おはよう、母さん」

 リビングへ移動した俺は内心の同様を必死に抑え、母を驚かせないようなるべく普段どおりに話しかけた。何しろ今の俺はゴリラなのだ。いや、名前はもともとゴリラだけれど、今は実際にゴリラになってしまっている。母の視線が返事を待つ俺へと移っていく。母は俺が俺だとわかってくれるのだろうか。

「きゃああああああああ!! ゴリラァアアアア!!!!!」

 母は絶叫した。

 声を聞きつけ、妹もリビングに入ってくる。

「お母さんどう――ええええゴリラァアアアアアアアアア!!!!?」

 妹の絶叫は母以上の勢いである。

 二人の声を聞きつけて、休暇中の父もリビングに入ってくる。

「どうしたん――ゴ、ゴゴゴ、ゴリラァアアアアア!!!!!!!!」

 父も絶叫した。

 慌てた俺はドアを破って家を出て一目散に駆け出した。あの叫びようは、ゴリラという俺の名前を呼んだのではなく、家に本物のゴリラがいたことへの驚きと見て間違いない。家族は俺のことをわかっていない。どうしてこんなことになってしまったのだろう。


 俺は今後の行動について思考を巡らせた。そして、俺なりにいくつかの選択肢を捻り出してみた。 

 選択肢1、学校に行く。これはだめだ。さっきの二の舞になってしまう気がする。

 選択肢2、家に戻ってみる。これも悪手だと思う。まだ家族は動転しているし、先程のゴリラ、つまり俺が戻って来たときのために武装しているかもしれない。家に帰るやいなや迎撃される可能性がある。

 選択肢3、冒険者ギルドに行ってみる。狂気の沙汰としか思えない。ギルドを襲撃したゴリラとして討伐されてしまうだろう。

 選択肢4、森へ行ってゴリラとして暮らす。これはいくらなんでも諦めがよすぎるだろう。しかし悲しいことに、これが一番現実的にも思える。何しろ街中にいてはそれだけで騒ぎのもとになってしまうのだ。森でしばらく様子を見て、じっくり今後の方針を考えるのもありかもしれない。


「ゴリラアァァアアァアア!!!?」

 どうしようかと迷っていると、突然、男性の叫び声が聞こえてきた。

 このまま街にいては目立ちすぎる。不本意だけれど、ひとまず森に行こう。ただし、ゴリラとして暮らすわけではなく、人に見つかりにくい場所に移動するという意味でだ。そこで落ち着いて身の振り方を考えよう。俺は黒の森へと駆け出していった。


 黒の森、そこはモンスターの巣窟である。奥へ行くほどモンスターが強く、強力になっていく傾向があり、最奥にはAランクの冒険者すらもめったに近寄らないという話だ。

 俺は途方に暮れ、何をしていいかわからないまま歩き回った。途中でお腹が減って適当な木の実やキノコをもいで食べてみたり、植物の茎を囓ってみたりした。ゴリラになったことで動物としての本能が備わったのだろうか、偶然にしてはどれも問題なく食べることができた。

 歩き疲れて日が落ちる頃、木の陰に小さなほら穴を見つけた。ゴリラ一匹が入るのにちょうどいい大きさである。ここなら安全に休むことができるかもしれない。ほら穴の中に枯葉を敷き詰めて、横になって休むことにした。

 人間に戻れるのだろうか、家に帰れるのだろうかと、今日幾度となく考えたことが頭を巡っていくうちに、俺はいつしか眠りに落ちてしまったのだった。


 翌朝、俺はゴリラだった。

 その更に翌朝、俺はゴリラだった。

 またその翌朝、ゴリラが板についてきた。

 そして翌朝、寒気とともに目が覚めた。水分で体の毛が湿っているのだ。見ると、一帯に霧が立ち込めている。木々のざわめきに乗って、人の声が聞こえてきた。


「ほんとにゴリラいるのかなー」

「まだ近くにいてもおかしくないね。4日前に街で人を襲ったらしい。幸い、襲われた人は無傷で済んだらしいけど」

「気が進まんのぅ。こちらから刺激しなければおとなしい動物だというのに……」


 街でゴリラが人を襲った? まさか俺のことではないよな。


「で、どう? この辺には居そう?」

「うむ、まっすぐ行くとほら穴があってな、そこに、ゴリラか、単に大きな人かわからんが、しばらーく前から体長2メートル弱くらいの反応が出とるのぅ」

「「早く言え(言って)よ!!!」」

「だって、討伐するのかわいそうじゃし……」


 ほら穴って、俺じゃん!!! 討伐とか言ってるし、早く逃げないと!

 でも、落ち着け、落ち着くんだ。おじいちゃんっぽい声の人は俺の位置がわかっているみたいだ。慌てて移動すると、俺が気づいたということが向こうにバレるかもしれない。何気なく、野生のゴリラが散歩にでも出かけるような感じで移動してみよう。


「移動し始めたのぅ。11時の方角。」

「了解! 一気に距離を詰めるよ!」

「はーい」


だめじゃん!!! かわいそうとか言っていた割には無慈悲だな! 予定変更だ。こっちも全速力で逃げる!


「勘付かれたみたいじゃ。このままでは追いつけんし、諦めてもいいかもしれんのぅ」

「何言ってるのさ! 風魔法後ろから当てて!」

「おじーちゃん、お願いっ」

「ほっほっほっ、しぃちゃんに頼まれたら断れんのぅ」


 文字通り五里霧中で走る。捕まったら殺されてしまうのだから! 走って走って、何か堅いものに躓いて派手に転倒してしまった。万事休すと諦めかけて、来た方向を振り返ると、俺が躓いた堅いものが目に入った。鎧だ。半ば無意識に鎧に手を伸ばすと、なんと、自動的に体に装着されていくではないか! 頭から爪先まで、俺の体は鋼鉄の鎧にすっぽりと包まれてしまった。


「もう逃げられないよ!」

「おにごっこはおわりだー!」

「やれやれ、くたびれたわい」


 3人の冒険者達がこちらを見据えている、のだろうか。なぜか3人とも逸らした目が描かれている変なメガネをかけていた。俺は「助けてください」と言おうと口を動かすが――。

「……た、た、あ、たす」

言葉にならなかった。恐怖で震えていたし、言葉自体何日も話していなかったせいもあるのかもしれない。


「あれー? ゴリラじゃないの?」

「エンじい、これはいったい……?」

「どうやら、間違えたみたいじゃのぅ」


「たすけてください。ころさないで……」

 俺はなんとか言葉を絞り出して言った。すると、3人の冒険者のうち背の高い女性がこちらを警戒しながら質問してくる。ただし、メガネのせいで本当の表情はわからない。

「お前は誰だ? こんなところで何をしている?」

 俺が誰かって? 俺は自分自身に言い聞かせるようにして答える。

「俺はゴリゴーリ・ゴリラ。魔法学園の高等部2年生で、Fランク冒険者だ」


【冒険者】

冒険者ギルドという機関から様々な依頼を請け負い、達成することで報酬を得る職業。この世界では16歳以上になると冒険者登録をすることができる。兼業も可能。

ギルドの依頼は主に一般人から寄せられたものと、政府から出されたものとがある。


【変なメガネ】

逸らした目が描かれているメガネ。ゴリラは目を合わせると襲ってくると言われているため、このようにデザインされている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ