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カフェの中を流れる音楽はお洒落で心地が良い。
珈琲一杯を注文すると窓際の空いている席に腰かけ、ノートパソコンの電源をいれた。リンゴのマークが光った。
僕は今、大学四年生で卒業に向けて卒業論文に取り組んでいる。まだまだ提出までの時間はあるものの思ったように進まずに苦戦しているところだった。
珈琲に砂糖を落とし、スマートフォンの時間を確認する。時刻は、7時半を少し過ぎていた。
「今日の動画を確認しなきゃ」
僕は急いでYouTubeを開いた。7時はお気に入りのグループが動画投稿を行なっている時刻だ。
"スポークスピーポー"
二人組のYouTubeグループで主に都市伝説や噂話を検証する動画を投稿している。
大学生の僕でも勉強になる内容が多く、
この日の動画は、過去にあった殺人事件が政府によって捏造されており別に犯人がいるのでは。といった内容で好奇心を駆り立てられた。そして何より動画に映る二人の女の子たちが可愛いので癒された。
僕は決して論文製作をサボって動画を見ているのではない。僕は情報科でありネット動画について専攻しているため動画を視聴すること自体が卒論の一環であるからだ。
一通り今日の動画を見終わると僕は鞄の中からUSBメモリーを取り出して差し込んだ。
これは僕の研究の鍵となるもので動画情報をさらに細かく見ることができるというソフトが繰り込まれており、単なる視聴者では見ることのできない情報。
動画の細かい再生数から男女比率、自分の任意の時間でゼロコンマ何秒の時点まで動画を止めて解析することができる。
ソフトを起動させるとクルクルと読み込みマークが回り始めた。10%...20%...とパーセントが上がっていく。
この解析のソフトはハッキングに近い動きをするため違法か、と聞かれれば素直に違うとは断言できない。
ただ自己開発のソフトであり研究のために使用するためここではグレーゾーンとさせてもらいたい。
数分の時間が経って読み込みが完了した。
読み込みを待つ間に珈琲カップは空になっていた。
画面を覗き込み確認する。
僕はまず画面をみて違和感を感じた。
動画を一枚一枚の画像に切り取ってみてみるとなぜか途中に真っ黒の画像が挿入されていることに気がついた。これは普通に肉眼で見た時には気がつかなかった。なにかの暗号だろうか。
「なんだこれは。」
僕はその画像に目をやる。するとそこに文字がかかれていることに気がついた。
"@@@@@"
という言葉が白い文字で書かれていた。
この文字が普通では認知できないレベルの速度で10分の動画の中で100回以上表示されていた。
「サブリミナル効果....」
僕は一人で呟いた。
目に見えないほどのスピードで画像を表示させ、潜在的な意識に対して影響を及ぼすというサブリミナル効果を思い出させた。
とある映画館では映画の途中にポップコーンを食べろ。コーラを飲め。というメッセージをいれて繰り返したところコーラとポップコーンの売り上げが上がったという。
この動画はなにかメッセージを我々視聴者に刷り込もうとしているのか...
つまりこれは一種の洗脳ではないか。
僕は唖然とした。
「でもなんのために.....」
まず動画の企画としてサブリミナル効果を試しているのではないかと思った。しかしメッセージの内容が@@@というものでは動画企画にしてはあまりにも不自然である。
本当に動画を使って我々視聴者のことを本当に洗脳しようとしているとしたら...
"スポークスピーポー"の動画は最初はディズニー映画の秘密などの明るいものが多かったが
最近では国の陰謀についてなどといったテーマが増えていった。これももしかすると民衆の不満を政府へ向けているものなのではないか。と考え、ゾッとするものを感じた。
そして動画の最後の方のコマに
"☆渋谷☆"
というメッセージが表示された。
ピコン。スマートフォンの通知が鳴った。
ニュースサイトからの通知だった。
「渋谷区にて通り魔殺人発生」
僕は唾を飲み込んだ。
「まさか...だよな。」