懐かしき場所
何もない黯い
ぽつりと浮かんでいる
このまま溶けて死んでしまうのかもしれない
ふと思うと遠くから波の音が近づいて
呑み込まれたとき一瞬溺れ
夕方
別荘の庭に立っていた
大きな夏蜜柑の木のとなりに金柑の木
呑み込むために待っているような
遠くの青い海
無意識に歩いて木と木の間に立ち
その奥の海をスプーンで飲もうと前かがみになった瞬間足元が崖だということに気づくのだ
すると誰かに押されるように
ゆっくり崖の上の金柑を見つめながら
落ちる
このまま下で海に受け止められると思っていると崖の下が海沿いの町だったことに気がつく
もう下に着いてもいい頃ではないかと思っても落ちることをやめない
手に持っていたスプーンはいつのまにかガラスの花弁になっていた
それに気づいた時には黯い別荘の和室で琴とともに横たわっていた
床の間にはガラスの花の生花を足元に咲かせている木彫りの虎が一匹こちらを見ている
近くのガラス戸棚の中の日本人形を二体見つめていたら
不意にその隣のこけしと目が合った
急いで逸らそうと眼を閉じると身の毛がよだつような感覚がして
眼を開けた
暖炉の近くのロッキングチェアで寝ていたようだ
暗く静かなキッチンが見える
随分と懐かしい夢を見ていたような気がしながらも
思い出せず
ブラインドの隙間から庭もその奥のストリートも真っ白で雪がおさまってきたのを確認すると
二階の自室に行き
小さなライトをつけて赤いビーンバッグに包まれながら手紙を読み
明日の朝には雪は止むだろうと思いながら広すぎるベッドで眠るのだ




