はじめはシリアスに
処女作です。長編モノです。
もし、人類に魔力が備わっていたら。
歴史は変わるのだろうか?
――対して変わらないよ。
果たして本当にそうだろうか?
――人間は変わらない。変わりたくない。そういう生き物だ。
じゃあ試してみる?
――勝手にすれば?実際に歩むのは人間だ。
もしかしたら、もっと違う未来が待ってるかもよ?
――変わらないよ。人間は臆病だから。
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永禄2(1559)年。
時は戦国の乱世だと言うのにここ堺という町は随分と平和だなと信長はふと思った。
「深堀に囲まれたこの町はどの国にも属しておりません。この堀の内側では敵であろうと味方であろうと皆等しく商いが出来るのでございます」
家臣の1人が信長の訝しげな顔を見て察するように告げた。
「分かっておる。強い権力を持った豪商。優れた職人。刀や鎧に留まらず米や金銀までもが市場に多く出回っている。戦に必要なものが全て揃う町じゃ。易々と手は出せないであろう」
しかしだからこそ一国の支配者ならば皆が皆この町を我が物にしたいだろうに。信長はそう付け加えた。
「だからでございます。国盗りにはまず兵が必要不可欠。しかし、刀や鎧が無ければ兵は戦えませぬ。米が無ければ兵は動けませぬ。故にそれを牛耳るこの町が周りの国々に付け入られる事は無いのでございます」
更に海に面した1方を除く3方が深い掘りに囲まれた地形、自衛の為に雇われた多くの武士たちなどこの堺という町は状況的にも物理的にも攻めにくいのであろうと家臣の話を聞いていた信長は思った。
「とにかくだ。上様の謁見が数日後に控えておる。儂も多くの者に命を狙われておる身。身の安全を考えればこの町は絶好の隠れ蓑なのは確かだ」
尾張統一にはどうしても義輝様の許可が欲しかった。将軍の言葉と言うのはそれだけで大義名分になる。しかし、それを阻止しようとする者が居る。ここで潰える命では天下布武など夢のまた夢。
幸い、この町では誰人も他人に害を与えてはいけない暗黙の了解がある。安心して謁見までの時間滞在出来る。信長はそう遠くない未来、自分は天下人になれると深く確信している。
「左様です」
家臣の1人が相槌を打つ。
「それはさておき、折角田舎から出てきたのだ、堺には珍しい食べ物や見世物小屋があると聞く。皆で物見遊山と行こうではないか」
謁見まで時間はある。そう焦る必要は無いと自分に言い聞かせる。それに今はこの時を大いに楽しもうではないか。何と言っても初めての場所に来ている。故郷尾張には信長の知的好奇心を揺さぶるものはもうない。しかし、この町にはそれがある。左を見ても右を見ても目新しいものがあり新鮮な気持ちにさせてくれる。それだけでも信長は上洛した甲斐があったと思っていた。
先ずは何を食してやろうかとニマニマと顔を綻ばせていると、町の道中何やら人だかりの出来ている場所があった。
信長はなんだか面白そうだと軽い気持ちで人が集まっている方へ歩みだした。
――何処か遠く歯車が軋んだ音がした。
誤字脱字ありましたらすみません。