異世界召喚
「––––––ん」
意識が覚醒していく。
あれ?どこだここ。というか俺はいつ寝たんだ?最後の記憶は確か…
「お目覚めになられましたか?」
「っ!?」
まだ意識のはっきりしない俺に話しかけて来たのは見知らぬ美少女だった。もうちょっと詳しく言うなら金髪碧眼の身長160くらいの美少女だ。
いや待て俺。大事なのはそこじゃない。大事なのはこれから舞踏会に行って来ますのとでも言わんばかりのドレスの上からでもわかるスタイルの良さだ。
違うそうじゃない!本当に大事なのはそんなドレスのくせにやけに丈が短いミニスカートドレスになっていること…でもない!
くそっ、さすが異世界だ。いきなり俺の精神を乱しに来るとは。
まずは落ち着いて状況を把握しよう。
俺がいるのは見知った自分の部屋でも学校の教室でもなく、冷たい石畳と薄暗い部屋に灯るいくつかのロウソクが雰囲気を醸し出すいかにも"儀式の間"な場所だ。窓はなく部屋全体を照らすような明かりも置かない点に職人のこだわりが見える一室だ。
部屋の大きさは東京ドーム0.5個分くらいだろうか?東京ドームの大きさ知らないけど。行ったこともないけど。ごめんやっぱ大きさわからんわ。
あ、あと何か真ん中の床にさっき見た魔法陣の拡大版が描かれてる。ついでにその上にクラスメイトが何人か転がってる。
俺たち以外にこの部屋にいるのは少し離れた場所にいる美少女さんだけだ。こんな状況だし、十中八九王女か賢者的な存在だろうな。
ああ、それと当然ここは異世界だ。
何故わかるかって?主になんとなくだ。なんかこう…空気が違うというか…うん、なんかビビッと来たんだよ。変な電波受信したんだよ。いや誰が電波だこのヤロー!
まあざっとこんなところだろうか。ご理解いただけましたか?勇者様。
「…いくつか必要ない情報も混ざってた気がするけど、とりあえずここが異世界ってことと、凪が脚フェチってことはわかったかな」
「バカだ、何故ばれた…!?」
「えっ、今のバカだってのは間違えたんだよね?そうだよね?別に俺っちのことをバカって言ったわけじゃないよね?」
「バカに、何故ばれた…!?」
「今の完全にバカにしたよね!?ねぇ!?」
異世界飛ばされて最初にする会話がこれの時点でバカは確定だろうよ?
「あ、あの…」
小声で言い合う俺たちをポカンとした表情で見ていた王女様(仮)が、恐る恐ると言った様子で声をかけて来た。
こんなわけのわからない状況に置かれてまさか急に漫才を始めるなどとは考えもしてなかったのだろう。その声には戸惑いと困惑がうかがえた。
諦めた方が良いぞ。こいつはこういうやつなんだ。
「犯人俺っちじゃなくてお前だと思うんだけどそこんとこどう思うよ」
「うるさい黙れ殺すぞ」
「過激だな!?」
まったく、自分の行いを人のせいにしようとするとかなんて酷いやつなんだ。こいつ本当に人間か?
「刺さってる刺さってる、ブーメラン刺さってる」
「うるさい黙れ殺すぞ」
「デジャヴ!?」
「………………」
おや?王女様(仮)のようすが…?
「ちょっと凪くん!?なんか王女様?が涙目になってないですかね!?俺の見間違いですよね!?」
「安心しろ、俺にもそう見えるから」
「安心出来る要素が全くない!」
それにしてもこいつは小声で叫ぶなんて器用な真似をするな。そんな慌てるなら最初からふざけなきゃいいのに。
「徹頭徹尾ボケ倒してたのどこの誰ですかね!?」
そんなことより早くアレなんとかした方がいいんじゃないのか?
「………ぐすっ」
ぱっちりおめめに涙を溜め、今にも泣きそう…というより既にちょっと泣き始めた。
ほーら勇者様?あんなところに悲しみの表情を浮かべた可愛らしい少女がいるよ?勇者がそれを放置していいのかなー?
「原因は凪だろ!?」
「記憶にございません」
早く逝ってらっしゃいませ未だに女子とキチンと話す事の出来ないヘタレ勇者様。
「ぐっ…わかってて行かせる気かよ!」
ほらはーやーくー。
「わ、わかった。俺だって勇者だ…行ってきてやらぁよ!」
声を震わせ、目を泳がせながら一見勢いだけは良く一歩目を踏み出す勇者。
さすがだ勇者。カッコいいぞ勇者。口説き落とせ勇者!
「あ、あのー、すいません」
「は、はい!なんですか!?」
勇者が近づいて来た時から緊張をあらわにしていた王女様は話しかけられたことで緊張がピークに達しているようだった。
返事が返って来たことで一瞬言葉に詰まり、緊張がピークに達した勇者。
頑張れ勇者。そう、全ては俺のために!
「………ず、実は僕たに突ぜゆここに来てすまって………こ、これはゆっ体どうみゅう状けうなんどせうくぁ」
おお、よく最後まで言い切れたな勇者!
初っ端から噛んで恥ずかしくなりつつもよくぞ最後まで言えた!
かっこいいぞ。いつもより三割増しでカッコいいぞ勇者!
「え……?あ、すいません。もう一回言ってもらってもよろしいでしょうか?」
聞き取れてなかった!
「あ、いや………なんでも、ない、です。はい」
勇者の心が折れた!
「あ、ご、ごめんなさい」
ああ!さらに謝られて勇者の心に止めの一撃!
「………………」
「………………」
お互いに気まずくなって何も言えなくなってしまった勇者と美少女の金髪碧眼コンビ。
おいどうすんだこの空気。
勇者何さらに空気悪くしてんだよ…勇者(笑)君マジないわー。
このまま気まずい空気が延々と続くのかと思われたこの時間。
しかしそれは破られる。
「で、ではあの…、皆様目を覚ましていらっしゃるようですし、混乱もあると思いますので、色々と説明をさせていただくために、王の元へとご案内いたします」
その言葉の通りいつのまにか他のクラスメイトたちも気がついていたようだ。勇者劇場見てたから気づかなかったわ。
「あ、はい、お願いします」
先に美少女が話し、それに返事をする形になった勇者。
勇者。お前今、最高にカッコ悪いよ………
俺たちは先を歩き始めた美少女について歩き始めた。
王様のとこに向かう道中、勇者は未だに落ち込んでいた。ファーストコンタクトで噛んでしまったことを完全に気にしてしまっているようだ。
しょうがない、流石にいつまでも落ち込まれてるとうっとうし…邪魔だからな。
俺はため息をつき、勇者の方へ足を向ける。そして消沈する勇者の肩を叩き励ましの言葉を…言葉を………
「ざまぁ」
「えっ!?トドメ刺しに来たの!?励ましてくれない
の!?」
あれ?俺はフォローに来たはずなんだが、何故煽るような真似を?
「無意識!?無意識でやってたの!?」
うーん…まあ、あんな無様な真似を晒されたらフォローのしようがないからな。俺が頑張って励まそうと思っても言葉の一つも出ないほどの一部の隙もない大失態だ。
「ぐっ…何も言い返せない」
「ただの事実だからな」
友達が不幸を味わったならさらなる不幸へ突き落とし、幸せになったなら絶望へと誘う。これが友達の正しいあり方だ。異論は認めん!
何?さっき一瞬励まそうとしてなかったかって?そんなの格好だけに決まってるだろ!好感度稼ぎってやつだ。
「…仲が良いのは良いことだと思うが、そろそろ我々も話に入れてくれないか?」
ん?誰だ?