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異世界 < 金  作者: 雪色
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何気ない日常

 この世に勇者というものが存在するのなら、それはきっと勇敢なものなのだろう。

 正義感に満ち溢れ困っている人を見過ごせないのだろう。世界の危機にもたった1人でだったり、4人でだったりで立ち向かって行くのだろう。

 さらに道行く先々で何故か強敵が現れ、それを劇的に乗り越えるのだ。何度も死にかけ、何度でも挑み続ける。人々の希望となるために。

 勇者とはきっとそんな存在だ。


 例えば、ふと訪れた街にいる見ず知らずの人物から自らの運命を告げられ、どこどこへ行けと言われる。あなたならその時どうするか?

 まあ普通なら怪しく思い、変なやつに話しかけられたと友人たちとネタにして盛り上がるのではないだろうか?

 だが勇者は違う。やつらはそんないかにもな怪しい人物の言葉をいともたやすく信じ、言われた通りに行動するのだ。この他人を根拠もなしに信じてしまうというのもやつらの習性の一つだ。

 別にそれが悪いとは言わない。人をどこまでも信じることが出来る。それはとても素晴らしいことだろう。そんなことは勇者にしか出来ない。逆に言えば勇者には必須と言ってもいいだろう。


「––––––だからな?お前は俺の話をバカみたいに信じてさっさとここから去るべきだと思うんだが」

「長々と語ってたかと思ったら唐突に帰れって言われた!?」


 目の前で大げさに驚いてみせる友人A。どうやらこいつはことの重大さをわかっていないらしい。


 放課後。それは学校の授業が全部終わった後の自由な時間。その時間を人は部活に費やしたり––––––


「いやもういいから!よくわからない語りはもういいから!」

「…ふむ、俺の話を遮るとは、さては貴様自殺願望が?」

「違いますよ!?だからお願いその振り上げたシャープペンシルさんを下ろして!やめて!シャープペンシルさんはそんなことに使われるために生まれてきたんじゃないから!」

「………はぁ」


 人が静かに過ごそうしてるのに、どうしてこいつはこんなにもやかましいのだろうか。


「そんなやれやれみたいな目で見るのおかしくね!?今の俺っちが悪かったの!?」


 どうやらこいつは真性のバカのようだ。そんなことも言われないとわからないとは。

 俺はまた一つため息をつき、目の前のバカ(友人)に告げる。


「そんなわけがないだろう?」

「ですよね!?」


 そう言ってまたギャーギャー騒ぎ始める友人A。

 俺が勝手に理不尽なことを言っていただけだというのに自分のせいにしたがるとは…さてはこいつMだな。うん、間違いない。


「それで何の用だ友人M」

「なんでそんな中途半端なアルファベット?というか今お前が語ってたんじゃん!」

「そう言えばそうだった」


 俺がそう言うとガクッと肩を落とす友人M。一人で騒いで一人で落ち込んで、元気なやつだな。


「…もう遮らないんで、続きどうぞ。最後まで聞かないと終わらない気がする」


 自分の中で何かしらの整理をつけたのかやっと落ち着いた様子。別に割とどうでも良くなってたがせっかくなので続けてみようか。




 放課後の時間。この、なんちゃら高校2年1組の教室に残っているのは数人のみ。


「なんちゃらって、まさか自分の通ってる高校の名前覚えてないの?」


 他のクラスメイトが全員部活に行ったりさっさと帰ったりとしてる中、こんな時間まで残ってるのは相当な暇人くらいだろう。


「自分もその暇人だってわかってる?ねぇ」


 放課後に何をするでもなくただ教室に残る。家に帰ってゲームをするでもなく、遊びに行って青春をするでもなく。もはやそんなのは暇人を超えて暇神だろう。


「えっ?この話引っ張るの?そして大げさ過ぎない?」


 本来なら俺もさっさと帰るつもりだったんだが、今日はそれを友人Mに邪魔されてしまった。

 …まあ、どちらかというと今日も(・・・)と言うべきなのかもしれんが。


「友人M呼びに悪意を感じる」


 せかいはきょうもへいわです。


「急に適当ですね!?」

「じゃあなんだったらいいんだよ!」

「怒られました!?」


 …はぁ、やめよう。これ以上続けると本当に俺の時間が無駄になってしまう。


「それで、何の話してたっけ?」

「お、おう、確か勇者がどうこう言ってなかったか?」


 ああそう、勇者だ勇者。

 勇者というのは困っている人を見過ごせず、人のことを愚直なまでに信じてしまう生き物だという話だ。


「………うん、何でそんな話に?」

「知らないっすよ!?」


 うーん…?いつものようにこのバカがバカしててでもバカだからバカがバカでバカにバカをバカなのだ!!


「よし、解決した」

「今ので!?」


 いつも通り朝起きて、いつも通り学校へ。当たり前のように授業を受け、変わることない日常を過ごす。そして6時間目の終わりのチャイムが鳴ると、いつも通りこのバカがバカな話をしに来たから適当に言いくるめて追い返そうとしてたんだ。


「本当に思い出してるし…」


 確か、お前は中二病引いてるんだから早く帰れと言って追い返そうとしたんだ。だと言うのにこのバカは自分は中二病なんて引いてないと現実から目を背けようとするからしょうがなく俺の言葉を信じる必要性を説いていたんだ。


「いやそんな風邪を引いてるみたいなノリで中二病引いてるって言われても…」


 俺のあのパーペキな理論が通用しないなんて…やはりバカには高尚過ぎたか。


「アレで本当に信じて帰ると思ってたの!?」


 また熱が入ってきたのか叫び始める友人M(バカ)


「というか!さっきから友人Mだとかバカだとかって酷くない!?俺にはれっきとした神野勇者(かみのゆうしゃ)ってカッコイイ名前があるんですけど!?」


 神野勇者––––––何を血迷ったのか正真正銘本名である。相変わらず聞くたびに耳を疑いたくなるような名前である。

 しかし一番信じられないのは…


「…なぁ、その名前………」

「おう、カッコイイだろ?だからちゃんと呼べよなー」


 そう、こいつはあろうことかそれを受け入れているのだ。

 いやまあ別に人の感性を否定したくはないが『かみのゆうしゃ』だぞ…。呼ばれる方も呼ぶ方も恥ずかしくなるような名前だ。

 それを本人は自分はこの名に恥じない生き方をし、そしてそれにふさわしい功績を残してみせる〜などと供述しており、薬物の使用が疑われています。


「ちゃんと正気だよ!?」


 キチンと現実を認識出来ていない神野勇者(笑)君に俺は生暖かい目を向けつつ言う。


「いい病院、一緒に探そうな?」

「だから正常だって!」


 自覚症状がないとは一番やばいな。

 俺はやれやれと肩をすくめつつカバンを持ち上げる。帰って早く彼にいい病院を探してあげなくては。


「じゃあな勇者、また明日」

「お、おう、なんか納得いかないけどまた明日………って待て待て待て!」


 ちっ、気づかれたか。走って逃げよう。


「おいこら待て!凪!御堂凪(みどうなぎ)君!?俺の話がまだ終わってないだろ!」


 俺の名前を叫びつつ追ってこようとする勇者。勇者を自称するだけあって無駄に身体能力が高いのもヤツの特徴だ。

 このまま追いかけっこをしても結局追いつかれるのは目に見えているので教室のドアに手をかけたところで大人しく戻ることにした。

 諦めてくれるのが一番良かったんだがな。


「仮にも勇者なら人を困らせるようなことをしないで欲しいんだが」


 それでも文句を言うくらいは許して欲しい。どうせまたいつものアレ(・・)に付き合わされるのだろうから。


「まあまあ、なんだかんだ言いつついつも俺っちの話を聞いてくれてるじゃんか。このツンデレさんめ〜」

「さて、帰るか」

「落ち着けって!今日はホントすごい話持ってきたからよ!」


 何がそんなに楽しいのかニヤニヤと怪しい笑みを浮かべる変態。

 こいつはいつも似たようなことを言ってる気がするんだが、いい加減飽きないのだろうか。


「飽きるわけないだろ?むしろお前こそなんでそんなに興味ないんだよ!」

「興味がないわけじゃないがそんな四六時中騒ぐほどのことでもないってだけだ」


 確かに便利ですごいかもしれんが、所詮それだけだ。こいつみたいに人生の全てを捧げても構わない!ってレベルには残念ながら達してないし達するつもりもない。


「…まあいい、今日のやつは飛びっきりだからな。きっと凪も驚かずにはいられないぞ?」

「はいはい、いいからはよ」


 そんな無駄に長引かせて興味を惹こうとするな。興味が惹かれるだろ。


「ふふふ…いいだろう、ぶっちゃけ俺も早く話したくてたまらないからな! さあ刮目せよ!」


 そう言って勇者が取り出したのは––––––

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