大連合結成に向けての最終根回し
7月9日の昼過ぎ、熊村のブナカゼ村長の小屋に何人かの男女が集まった。準備会議の準備をするためだ。
「会議に参加する村は、60を超える。ある程度まとまった意見が無いと、まとまるハズはない」
ブナカゼ村長が話を切り出した。
「タツヤさんに有力村を廻って頂いている間に、論点を整理してみました。此処に居る皆様で明後日の会議で、原案として提示できるように頑張りましょう」
テンヤ村長だ、テンヤ村長は6村分の一任を取り付けてこの会議に臨んでいる。えらく精力的だ。
「参加予定でない僕が言うのも変だけど、皆頑張ってねw 期待しているよ。勿論会議では、強く支持を訴えるよ」
ヒノカワ様だ。ヒノカワ様の猪村は遠すぎて大連合に参加しないが、態々会議に顔を出すためだけに熊村に来てくれた。非常に有難い話だ。
「まずは、我々の中で合意済みの点と今から調整が必要な点を確認するか」
合意済みの事項
・名称は、北部大連合
・議長はイモハミ婆さん、副議長はタツヤ、議長代理としてブナカゼさん
・費用分担等は、連合成立後に参加村間の交渉で決定する
・準備会議では、出来るだけ多くの村が支持可能な連合参加条件案を作る。
・南東側の無人地帯で来年大戦をする前提で活動する
・正規加盟の条件は、来年の大戦に15名以上の戦士派遣を約束する事
・種々の準加盟を認めるが、その場合正規加盟の村が利益代表を務める事
・毎年正月と大戦前に、全村が参加する総会を開く
・タツヤが主導する対大戦作戦(打撃部隊)とリュウエンさんの打通隊を連合直営事業として位置付ける
調整事項
・連合総会における意思決定方式
・既存の争いごとの清算方法
・新規の争いごとの調停機能を持つか否か
・連合からの離脱について
・対大戦作戦の方針をどのように決定するか
・打通隊の作戦優先順位をどのように決定するか
・治癒・再生の費用
・イモハミ婆さんが行っている魔術士教育を連合の事業に位置付けるか
・ムササビ村の鉄造りの扱い
・その他連合として行う事業
「どれもこれも揉めそうで、我々の中でも原案に辿り着けるか心配じゃのう」
イモハミ婆さんだ。乙女ジョークが出ないって事は、それほど悲観していないって事なんだよな。
「最も強力な拒否権を持っているのはタツヤさんです。まず、タツヤさんが意見を言ってもらえませんか」
テンヤ村長が、ある意味ショッキングな事を言った。ワシ……いつの間にかそんなに偉くなってしまったのだ……
「これは、七村連合の総意ではなく、ワシの個人的意見だ。北部大連合全体として幾つか事業を進めたいと考えている。一つは魔術士教育、二つ目は村々の経路維持と伝令の整備、三つ目は文字と数字の普及、四つ目は暦の導入だ。
治癒・再生は、連合成立後に七村連合の戦傷者基準を広げれば良いだろう。連合成立前の四肢欠損については、個別の事情によるが、今後の作戦に貢献できる者については、ワシが格安で対応して良い。
ムササビ村の鉄造りだが、鉄の武具については、優先順位を七村の村長・戦士長、連合直営部隊の主力戦士にすれば良いんじゃないか? 武具以外については、七村が優先させて貰うし、武具についても代金は七村に払って貰う。
既存の争いごとの処理について、連合成立に合わせてチャラでは納得しない村が多い事が判っている。ただ、争いごとを抱えたまま参加されると不味い。既存の争いごとを清算出来ない場合は、連合への参加を見送ってくれと言うしかないと思う。ただ、和議の費用だけの問題ならば、可能な範囲でワシなり貝貨を十分持っている村が立て替え払いするような方法を考えれば良いと思う。
新規の争いごとも、連合として立て替え払いとして、年割で返してもらうような制度を作れば良いのではないか? あとは、正邪について仲介するために村長経験者で作る長老会議? 的なものを作るというアイデアもある。
個々の作戦の詳細は、部隊に一任しないと、不合理になりかねん。だから、基本は部隊長とその相談役で決めていく方が良いと思う。打撃部隊については、ワシとオオカゼさんと他2名程度選任かな。総会では、作戦の大まかな方針とか費用の分担のみ議題にする。それを、多数決。派遣している戦士数に応じた票数による多数決で決めればよい。
戦士や費用を分担する村の発言権を強くするからには、脱退については『基本許容する』で良いのではないかな? 大戦直前に脱退するなんて事をした村は、周り中から総スカンを食らうだろうから、連合としての対応は不要だろう。
連合の資産として貝貨を保有すべきかは、貝貨の運用への影響を考えねば何とも言えんな」
「はっきりとした意見を言って貰えて助かります。タツヤさんの武力が無ければ成立しえない連合です。基本線は、そんな感じで良いのではないでしょうか? 要は、積極的に貢献する村が強い発言権を持ち、貢献が乏しくても、庇護下には入れるという事でしょう。
後は、総会の決議事項として人事関係も挙げた方が良いでしょうか。特に、村々の争いごとの調停を行う長老会議の人選は、公の場で決定しないと、個々の裁定時に強い不満が出る可能性があります」
テンヤ村長だ。ワシの心を読んだような応答だな。この人の理解力はずば抜けている。
「まて、一つ一つ意図を説明してくれんととてもついていけん」
ツバメ村のハヤグロ村長だ。こんな反応が普通だよね。
その後、ワシの提案に沿って一つ一つ議論しながら、修正点を練っていった。
次は、「貝貨の祟りの対策会議」です。