東奔西走
兎村に一晩だけ泊まって、ワシは島中を東奔西走する。会議が始まる6月30日までに、クニ時代からの魔術士の3村(ワタリ村とアサヒ村とシカガミ村)と貝貨発行村の3村(湧き水村、ミヤビ村、スケオジ村)、そしてハヤナガレさんとの約束であるヒノサキ村、この7村は廻っておきたい。
さらに、ヒノカワ様との名前付きの間引きもある。会議だって、少し前には熊村に戻って、状況を把握したい。
本気で余裕が無い。
兎村から猪村に一度戻って、ヒノカワ様と相談した。その結果、ワシ単独で4村(シカガミ村、ミヤビ村、スケオジ村、ヒノサキ村)に廻る。その間、ツバキさんに会うついでにヒノカワ様がワタリ村に説明に行く。その後、名前付きの間引きをしながら、アサヒ村と湧き水村を廻る。そんな予定になった。
兎村から出る前に、この村の呪術士のクスネさん──ハヤドリの母親──と話す時間は確保した。ハヤドリが何をしたのかを正確に伝え、ハヤドリが10年は結婚したくないと考える程のショックを受けている事、家族からの精神的な支援が必要になる事を説明しておかねばならない。無論、ワシやヒノカワ様も最大限の事をすると伝え、安心させる必要もある。
「あの子は、そんな事をしてしまったのですか。あの踊りは、夫婦か婚約者だけのときの必殺技と注意したはずなのですが……
やってしまった事は、もう取り返しがつかない。でも、でも、一日でも早くあの子に会って、話がしたい。
家族といっても男のハヤテでは、何の助けにもなりはしないから」
「それなら、ワシが、熊村までの一行に加えて貰えないかセンカワさんに頼んでおきます。また、イモハミ婆さんとスミレ坂に話をしておきます。」
その後、センカワさんとも話をしたが、『会議に顔を出なければ、そして他の村の者に余計な事を話さなければ、付いてきても問題ない』と了解してくれた。
その後、前述したように一度は猪村に寄った。それから、猪村から南南東約166㎞のミヤビ村、さらにそれから南南西約62㎞のヒノサキ村と一気に飛び回った。
これらの村には、事前連絡するような手段が無い。さらに、ミヤビ村は初訪問だ。訪問された側からみれば、唐突な訪問客だ。それでも、真摯に対応してくれた。
こんなに真面目に対応してくれるのは、北部大連合やワシの噂が広まっているのもあるだろう。だが、空を飛んでやってきたことに重要な意味があるかも知れない。
この島で空を飛んでやってくる人間など、ヒノカワ様だけ、そのヒノカワ様に比較しえるような相手なら、絶対に機嫌を損ねる訳にはいかない。
そして、ヒノサキ村では、ハヤナガレさんの伝言──護衛達と生き別れになった時の状況含む──を伝える必要もある。ハヤナガレさんの話では、大鬼2匹を含む5~6匹の敵と遭遇して『ハヤナガレは逃げろ! 命令だ!』と怒鳴られたのが生き別れの状況だ。
話を聞いた後、ヒノサキ村長がワシに礼を述べた。
「そうですか、ハヤナガレは何とか熊村について修行を開始できているのですか。この1年ほど、便りが全くなく心配でした。ワザワザ、タツヤ様に伝言いただけるとは恐悦至極です。
戻って来ていない護衛の4名は、務めを果たして戦死したものとして、此方で葬儀を行います。可能であれば、タツヤ様にも祭壇に花を手向けて頂けると助かります」
「命を賭けて務めを果たした勇者、無論、最上の敬意を捧げようと思います。ただ、実は誰も戦死した事を確認していない。若しかしたら、何年か先にヒョッコリ戻ってくる事もありえます。本当に小さい可能性ですが、前例はあります」
「有難うございます。なに、戻ってきたら戻ってきたで、その時は、更に盛大に黄泉帰りの大祭を開くだけです。でも、苦しいですが、状況から考えて割り切る必要があります。
それより、ハヤナガレの方が心配です。あの子は、父と仲の良かった兄を同時に失った事になる。どれほど、苦しんでいることか……」
ワシは護衛については名前しか聞いていなかった。そんな身近な者を失っていたなんて……。ワシが沈痛な顔をしていると、ヒノサキ村長が言葉を続けた。
「此方の事ばかりで申し訳ない。そんな状態のハヤナガレを修行者として受け入れて頂いた熊村殿には、本当に感謝しております。また、簡単に迎えを送る事も出来ない状況、本人が申しているように開眼するまで預かって頂くしかない。
誠に恐縮です。
十分ではありませんが、その間の生活費として貝貨1000枚を用意しました。タツヤ様のお手を煩わせて大変恐縮ですが、預かって頂けないでしょうか」
当事者でないワシが固辞するのは可笑しいか。ただ、相場に比べて多すぎるような気がする。まあ、熊村夫人のアマミツさんに預ければ適切に対応してくれるか。
「判りました。責任を持って熊村に届けます。また、何かハヤナガレさんへの伝言があれば、其方も引き受けましょう」
他の要件も済ませ、翌朝ワシはヒノサキ村を飛び立った。
それから、東北東約54㎞のシカガミ村に行った。シカガミ村は、言霊で先に要件を伝えておいた事もあり、付近の村の者を含め有意義な話が出来た。
最後は、シカガミ村から北北東約219㎞のスケオジ村だが、最高速度で219㎞も飛ぶと魔力的にカツカツだ。魔力を節約する為に飛行速度を落としたため、途中の村で休みを取りながら1日かけて移動する必要があった。
スケオジ村でも順調に予定をこなし、熊村に寄ってから6月23日の昼過ぎに猪村に予定通り着いたが、ワシはもうクタクタだった。何と言っても、この数日で600㎞以上飛びまくった事になる。
その日の午後は、ヒノカワ様に甘えて、旅人小屋でゆっくり休ませて貰った。
次は、妖精の隠れ里です。




