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兎村の粛清(前編)

 不思議な事に兎村長は聖戦に非協力的だったようだ。それに対するセンカワさんの『タツヤ様もある程度、覚悟して下さい』との発言を受けて、ワシとセンカワさんの議論が始まった。


「兎村には、殆ど戦力が無いことは判り切っていた。それは、どうしょうも無い問題では? 無い物ねだりしても仕方ないのではないか?」


 ワシの記憶では、兎村に成人──15歳以上──の戦士は14人しかいないはず。しかも、その内二人は年を取り過ぎていて、遠征させる訳にはいかない。残り12人も他の村に比べれば技量が低い方だ。そんな事は、センカワさんも良く知っている筈なのだが……


「兎村に戦力が無いことは、良く知っています。兎村への打通の際、兎村は殆ど戦力を出せなかった。数だけでも虚勢を張ろうと、本当に小さい子にまで斧を持たせていた。それでも、ようやく20人程度だった。

 憐れな事です。だから、わたくしめも兎村から戦士や道案内を確保する事は、期待していなかった。

 そんな話では無いのです」


 では、どんな話なのだろうか?


「後方拠点として、物資や場所を提供する事にすら消極的なのです。というか、他村の戦士に長居して欲しく無い。理由は、判りませんがそういう態度なのです」


「?!?! 目的を考えれば、協力しない理由など考えられない。というか、何としてでも機会を物にしようと、拝み倒されても不思議じゃないハズなのだが……」


 実際、これまで経験したどの村も同じだった。身近な妖魔の巣を駆除する為なら、何を犠牲にしても良い。それが普通の筈だ。


「わたくしめも、そのつもりでした。ただ、ヒノカワ様から兎村で惨い事が起きぬよう言われている。だから、兎村の事情を聴いて、限界を見極める為に先に来たのですが……端から後ろ向きです。

 救われる兎村が、最低限の誠意として、限界までの負担を負う覚悟を示さないと、他の村の協力が得られる訳は無い。兎村自身が非協力的などと……そんな事は決して許されない。

 事と次第によっては、態度が悪い村長(むらおさ)を排除する事も……」


 不味い事だ。何とかせねば、だがワシには誓約がある、出来るだけ穏便に収めたい。


「……若しかしたら、聖戦の意義を理解していないとか、実現性を危ぶんでいるとか、それだけかもしれません。兎村から今年の大戦に参加したのはハヤドリだけです。そして、そのハヤドリはまだ帰村していない。

 兎村視点では、唐突で眉唾な話なのかもしれない」


「……ヒノカワ様や猪村をバカにした業腹(ごうはら)な話ですが、その可能性はある。わたくしめが、ホラを拭くような男では無いと、理解して貰っていたつもりですが、そうだったら残念です」


「一度、ワシの方で、『神々が望んでおられる事』という点を説明しましょう。そうすれば、少しは理解が進むかもしれない。村人を広場に集める事は可能ですか?」


「その程度ならば、わたくしめが村長に命令すれば何とでもなります。タツヤ様。大変お手数ですが、お願いできますでしょうか」


 直ぐに、センカワさんとその護衛が村人を広場に集めてくれた。実は、ここでも兎村長が渋ったそうで、センカワさんは冷たい目を隠そうともしていなかった。センカワさんの心の中では、村長の粛清が既に決定事項になっているのかもしれない。

 そして、今日6月18日の昼前、ワシは兎村人に演説を始めた。


「皆に集まって貰ったのは、特大のグッドニュースを伝える為だ。兎村の皆々を苦しめていた隣の無人地帯は、来年、人々の手に奪回される」


 イキナリ、斜め上の事を言われて、兎村の人々は、困惑したようにお互いの目を見合わせていた。


「信じがたい話に聞こえるだろう。だが、事実だ。ワシらがシカ村の戦いで無人地帯を一つ奪回したのは、昨年紹介した通りだ。今年も、東の方で一つ無人地帯を奪回した。

 そして、来年は、この兎村の無人地帯を奪回する事になった。それを伝えに来たんだ」


 ワシは昨年も兎村に来て話をしている。それを思い返した村人達は話を聞いてくれる雰囲気になった。


「先日、今年の大戦が、東の方のゴリ村という所で行われ、完勝した。無人地帯の妖魔も皆皆々殺しにした。その興奮も冷めやらぬ中、次は兎村の無人地帯を奪回せよと、神々から聖戦の神命が下った」


 神の名を聞き、村人の真剣さが増した。


「この村のハヤドリが猪村連合の戦士と共に転戦しているのは知っているだろう。彼女が舞で、神意を光臨させたんだ。

 始め、ヒノカワ様が兎村を救う為に、兎村での聖戦を提案した。

 ハヤドリは、その兎村での聖戦を寿(ことほ)ぐために、多くの戦士の目の前で神々に舞を奉納した。その結果、神々から直接、ハヤドリに治癒術が下賜された。ワシもヒノカワ様も、直接、この目でその奇跡を見ていた。


 神々の意思は明確だ。神々は兎村の聖戦──つまり兎村の無人地帯の奪回──を望んでおられる。


 その、神々の命に死力を尽くすのは当然で、違反する事など考えられない」


 ハヤドリの名前を聞いて、何人かが目を大きく見開いていた。他の村人も、何か重大で(あらが)う事が許されないような事態だとは理解してくれたようだ。


 そして、次はセンカワさんが前に進み出て、ヒノカワ様の意向を、そして猪村長としての意思を説明し始めた。


 次は、後編で、センカワ村長パートです。

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