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閑話 ハヤドリの事情

 女性視点だと、ムカつくような設定があります。また、視姦っぽい表現が有ります。

 援軍と同行して北部大連合に来て、改めてタツヤ様の偉大さを思い知った。多数の鉄の武器、豊富な防具、100の何倍もの兵力、そして……鉄壁の要塞


 そんな、目の前に有っても現実感が無い諸々を、たった1年で準備した。自然と昔話の一節が頭に浮かび上がる。〜『大王は、神なので』〜

 タツヤ様は、既に『大王』とかいう超絶偉い人に、比定されるお方。そのタツヤ様と何度も親しく話をした事がある。自分も偉くなったような感覚に舞い上がってしまいそう。


 駄目よ。私は兎村のハヤドリ、単なる見習い娘、夫を得る目処すら無い。自分を(わきま)えねばならない。

 そう、夫を得る目処も無い。私は、歳の離れた男の妾にされる。でなければ、一生を()かず後家として過ごすしかない。



 兎村への打通が現実味を帯びてから、浅ましい女の闘いが起きた。私は、ずっと外にいたから参戦すら出来なかったけど、他人ごとながら恥ずかしくなる。

 兎村への打通なのに、兎村からは僅かの戦士しか出せない。そんな屈辱に慌てた村長は、男性機能がある──精通している──男の子全てを若衆にする事にした。最小年は11歳だ。

 本来の成人年齢は15歳、それを4年も早めるなんて、そんな事したら、成人する男が居ない年が、今後何年も続く。

 その噂が聞こえて、若い娘は激しく動揺した。もし、この機会に夫を得られなければ、何年も結婚出来ない。適齢期を越えた要らない女と呼ばれる。そんな悔しく惨めな人生を送る。

 余りに極端な考えだけど、成人前後の娘は皆、そんな思いに囚われた。

 普通の村なら『他の村に嫁入りすれば? 』と言うだけの話だ。だけど、他村への嫁入りなど村長が認める訳は無い。自分か息子の妾にすれば良いだけなのだから。嫁が複数いても良いと考える男は他にも居る。他村に出すより、慰み者にした方が村の人口維持に有利だ。


 その結果……

 普通は、男の子の成人、娘の指名、受諾、夫婦の営み、その順番なのに……成人前に確たる約束もなく、そういう行為までして、男を盗り合うなんて……

 同じ村の娘として、恥ずかしい。他村には決して知られたくない。


 しかも、そんな恥ずかしい闘いに敗北した娘の恨み言。何故? 参戦すら出来なかった私に?


『高みの見物のハヤドリさんが、恨めしい。他村との太いパイプで、婿を呼び寄せる事も出来る。他村に嫁に行くのも自由──村長をヒノカワ様に一喝して貰えば良い。

 それに比べて私には……もう何も残っていない。脂ぎったスケベ爺と……』


『私にそんな力、無いわ‼︎ それに、私にはチャンスすら無かったのよ‼︎』そう怒鳴り返したかった。


 そして、そこまでして集めた兎村の戦士、それを……『足手纏い』の一言で切り捨てられた。殆どは後方待機、私の方が戦場に近いなんて……娘達の悲劇に何の意味も無くなるなんて……

 勿論、後方待機にしたのは純粋な好意、兎村の事情なんて誰も想像だにしていない。全ては、兎村だけの特殊な事情


 他の村には、『未成年の戦士』が普通に居る。戦士になる事と成人する事、ましてや嫁を取ることは、キチンと分けて考えている。


 カップリングも男からの一方的な指名じゃない。(おおやけ)の求婚を拒否し難いのは同じ。だけど、それ以前に、求婚を公にして良いか相手の娘と両親に了解を貰うそうだ。

 既に言い交わした成人男女が、少しフライングして愛し合うのは……嬉し恥ずかしい、素敵な事に思える。


『兎村だって同じでしょw 密かに行う根回し。だから、経験の無いハヤドリさんが知らないだけよw

 知らないから、男が一方的に指名しているように見えるだけよw 男に勝手に決めさせて上手くいく訳無いわ』


 兎村とは、常識がまるで違う。


 止めよう、一歩も前に進まない。例え、()かず後家でも、自分で決めた使命を果たすことは出来る。魔術とそれ以外、両方を駆使して多くの人を救う。それは、一生を捧げても悔いのない大命だ。



       ◇  ◆  ◇



 死んでしまいたい。何故、あんな事をしたんだろう。目を合わせた男達の欲情した目、目、目。あの目の奥で、私は、どれほど犯されたのだろうか……そして、これからどれだけ犯されるのだろうか……

 タツヤ様も、私を雌として見たのだろうか。安い、ふしだらな女と見做すのだろうか。


 ヒノカワ様とタツヤ様が、兎村を救う為に演説をした。兎村の者は私一人、真摯な感謝を捧げる為に、自ら前に行った。そして、多数の戦士の興奮した姿に圧倒された。

 (たぎ)った男が欲しがるもの、それは性教育の中で聞いている。村が救われるなら、娘の一人や二人、生贄にしても、十分お釣りがくる。

 そして、そこに、破廉恥な決断をした自分があった。舞い方は、成人時に必殺技として教えられていたから……


 だからって……、でも、もう無かった事には出来ない。自殺もダメだ。魔術を授けて下さったタツヤ様への裏切りだから。

 あの時、不思議な力が自分に流れ込むのを感じた。タツヤ様の気配を濃厚に漂わせた、何かが私の中に侵入した。アレだけ破廉恥な事、タツヤ様も欲情しきって、私を(なぶ)りたくなったのだろう……当たり前だ。一瞬だけだけど、そんな失礼な思いが浮かんだ。

 だけど、目を上げてみると、世界が一変していた。これは! 修行時に聞いた『開眼』だ‼︎


 私に侵入した何かは、私を開眼させる為に、贈られた奇跡だったんだ!


 裏で囁かれる噂の通り、タツヤ様は神々の末席に連なる方。神であるタツヤ様から、直接、神命が降ったんだ。


 ヒノカワ様の説明では、『気持ちが天に通じた』だ。だが、当事者である私だけは、タツヤ様が天に代わって奇跡を起こしたことを知っている。


 舞った日と次の日、スミレ坂さんに、魔術士の初期教育を受けた。その時、既に治癒術が使える事に気付いたスミレ坂さんが、言った。


「神託であることを疑う余地が無くなったわ。開眼直後に治癒術が使えるケースは、ごく少ない。イモハミ婆さんとクサハミ婆さんとタツヤ。三人とも直接神々の声を聞いている。

 それ以外では、100年前の魔術の始まりがある。多数の魔術士が突然目覚めた天変。それと、開眼した前後に何十匹もの妖魔を屠って力を集めたヒノカワ様のケース。

 ハヤドリさんの場合は、神々から治癒術を直接下賜されたと解するしかない。

 ごめんなさい。白状するわ。少し、疑っていたの。丁度あの時に開眼したのは偶然かもと思っていた。ハヤドリさんの開眼が近いのは見えていたから。

 そうじゃない。貴女は、自らの舞で神意を光臨させた聖女よ。誇るべき事だわ」


 痴女と呼ばれるよりは、マシ。労ってくれる気持ちも嬉しい。でも、多くの男の視線に(けが)された事実は変わらない。だから、神命を果たすために、心を岩にする必要があるのは変わらないわ。


 次は、ハヤドリの岐路です。

 スミレ坂が指摘した事例は、前作11話、21話、37話、53話に出てきます。スミレ坂は、話に聞いて全て知っています。


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