宴の後の奔走
幾ら盛り上がっても、酒は昨晩の内に飲み干している。人数が多すぎて寝れる場所すら殆どない。戦士達は三々五々、帰還を始めた。ワシも色々やることが増えた。ゴリ村では二つの約束だけして、七村連合に戻る事にした。
約束の一つは、6月15日にヒノカワ様と猪村で落ち合う事、もう一つは、6月30日から熊村で聖戦への対策会議を開く事だ。何とも慌ただしいが、梅雨明け頃には、兎村の聖戦に着手したい。そのため、飛びに飛び回って、会議に会議を重ねる事になった。
先ずは、ゴリ村の西約46㎞のムササビ村に行って、鉄造りの状況の確認だ。まだまだ沢山の鉄の武器と道具が必要だ。それに、道具の種類もモット増やして貰う必要がある。
村長のミナミカゼさんやカシイワ師匠との長い議論が必要で、その日はムササビ村に泊まる事にした。
木工用の道具の充実、土木用の道具の充実、武器の増産、鉄の改良etc.
やりたい事は多いが、人手が足りない。暫くは、鉄の増産を優先してもらう事にした。次に考えている車輪と車軸は、他の村から人手を出して貰う。道具の設計から、車輪と車軸の製造まで、ムササビ村への長期出張で対応して貰う。
「鉄に係わらせる人手が少ないのが問題なだけだ。鉄に一生を賭ける、そんな覚悟と適性を持つ者など得難い。そんな者は、すでに村に欠かせぬ名工である事が普通だ。
それに比べて、小屋の増築や食料の手配は、周りの村に頼んで、何とでも解決出来る」
「使い易い形を考えるのは、皆、石器で十分経験がある。石と違い、曲げたり延ばしたり出来る事に戸惑うかも知れんが、大丈夫だろう。
他の者がどんな形が良いかを考えてくれれば、ワシらは鉄の加工に集中出来る。良いアイデアかもしれない」
ワシの提案に対するミナミカゼさんとカシイワ師匠の反応だ。他村から木工要員を連れて来て、必要な工具を設計させて問題なさそうだ。
車輪と車軸の概念を理解してもらうのに──ワシとて詳細に知っている訳ではない──時間が掛かったが、二人とも開発には乗り気だった。
翌6月10日からは、猛烈な奔走だ。まずは、七村連合内を回らねばならない。ムササビ村から北約17㎞の狼村、狼村から東約13㎞の山猫村、山猫村から北北西約39㎞のクラゲ村、クラゲ村から南南西約9㎞のタコ村、タコ村から西南西約9㎞のクジラ村と廻った。
殆どの村は、大戦の勝利と兎村の聖戦の頭出しをしただけ──それも言霊で先に連絡は行っている──の、短い滞在だが、数が多いと大変だ。さらに、貝貨に関してはタコ村のマコさんと突っ込んだ議論をする必要があった。
クジラ村から東南東に約20㎞のトンビ村に着いた時には、クタクタだった。
だが、トンビ村に戻っても、クマオリ村長やアマカゼとの話がある。休んでいられない。まあ、前世に比べると夜更かしする必要が無い──とういうか明かりが貧弱だから出来ない──のは、救いだ。睡眠時間は確保できる。
翌6月11日は、トンビ村から西約24㎞シカ村、シカ村から東北東約42㎞のカラス村のホシカミ婆さん、カラス村から南西12㎞のツバメ村と寄ってから、南東約27㎞の熊村に行った。
熊村では、まず、秘密の会議に向かった。国造りの謀議参加者のみの会議だ。
大戦に参加していたブナカゼ村長とテンヤ村長は、強行軍で他の人より一日早く熊村に到着していた。また、クマオリ村長とアマカゼは朝一にトンビ村から移動して到着していた。
「島の守護者……ヒノカワ様が言えば、誰も嫌を言えない。良い言葉です」
「これまで、あまり聞いた事が無い言葉だが、確かにその通りだ。その地位をタツヤ様に引き継いで戴けるのは、我々の計画にとって大きな意味がある」
「それに、『恩返し』を主題とした戦いなら、参加する村々がその実力に応じて費用を分担するのも自然な流れに見える。税に一歩近づけるだろう」
「猪村連合が北部大連合に参加するのなら、他の村も加盟を考えるだろう。少なくとも、マワリ川村連合のタイラさんは、真面目に考えていた」
「ただ、ハモ村連合のライゾウ殿はな……不信感が強い様だ。ライカさんとミライさんの修行も、実は人質のつもりなんだろう」
「そう、ライカさん。学校に来て、最初、凄く怯えていたわ。トンビ村の男の子を見るたびに、腕で胸をガードするの。可哀そうだから、里帰りを提案しても、警戒して乗ってこないのよ。少しでも、安心して貰おうと色々しているけど、私とタツヤがデートしている姿を見ても絶対納得しないのよね。何時かタツヤに手籠めにされると確信してしまっている。どうやって、タツヤを信頼して貰うか悩んでしまうわ。
今回は、ミライさんに合わせるため無理に連れて来た。それが、プラスになれば良いのだけど……」
「それは、丁度良い。ライゾウ殿も熊村に来るはずだから、一度顔を合わせて、話し合えるはずだ。此方は、決して酷い扱いをする気が無い。それどころか、十分に気を使っている事を理解してくれれば良いのだか」
自然な流れで、ワシの国を作る為に利用できることや懸念事項について、情報交換が進んだ。
考えれば考えるほど、ヒノカワ様のあの演説は、非常に非常に意味がある事が判る。上手く、次に繋げねば。
意見交換が進んだ所で、ブナカゼ村長が議題を切り出して来た。
「タツヤ様をこの島の守護者にして、全ての村々の力をタツヤ様の元に結集する体制を作る。こういうストーリなら、もうある程度公然と協力者を募って良いだろう。
もう一方の国家を作る計画に、誰を引き込むかだが、少なくとも母さんには話を通しておきたい。タツヤ様の意思を誤解して、危険な目に合わせるような事はしたくない。賛成してくれるか?」
「「「「異議なし」」」」
「それと、あの娘、兎村のハヤドリか、あの娘は、タツヤ様に余程の恩義を感じているようだ。引き入れても危険性は無いように思う」
「ワシも、信用出来ることは同意なのだが、引き入れるのは躊躇してしまう。何も言わなくても、あれだけの事をするんだ。謀議に引き入れたら、炎のように突進しかねないのが怖い。それより、ハヤドリには何かフォローしてあげないと、一生続くトラウマになるだろうから」
「え? ハヤドリさんトラウマになるような、大事をしたの?」
そう言えば、ハヤドリの恥になるから、アマカゼには言っていなかったな。見ていなかったアマカゼとクマオリ村長に、ハヤドリの舞を説明した。
説明を聞いたアマカゼが、真っ赤になりながら苦言を刺した。
「何で、誰も止めないの! 可哀想だわ。年頃の娘なのに! 破廉恥娘という悪評が、村々に轟き渡ったら、ハヤドリさんの一生はどうなってしまうの‼
ハヤドリさんの女としての一生が失われたら、誰が、どうやって責任を取るというの!」
「無論そうだ。あれだけの覚悟で、結果としてこの謀議に貢献してくれたんだ。女としての一生を失わせるような、そんな事が無いようにワシ等で手を打つ必要がある」
傍観していた負い目から、ついついワシは反論してしまった。
次から、二話は、ハヤドリ視点の話です。




