ハヤドリのストリップ〜兎村の聖戦へ〜
題名通りの場面があります。
さんざ、気を揉んだが、大戦本線はアッサリ大勝利を収めた。
最終的な戦場は、ゴリ村だった。差を2km程度にまで縮めたが、敵の襲撃開始の方が先だった。だが、ワシが先回りして、妖魔王は抹殺した。護衛の取り巻きも少なく、案外アッサリ倒せた。不利を悟った敵は一旦後退した。そこに、援軍が丁度到着し、敵に殺到した。
蓋を開けると戦死者はゼロ、重症者も10人程度だった。治癒術士も多数いて、翌日には全員復帰した。
戦勝祝いも、盛り上がった。と言うか、カオスだった。一晩でゴリ村の酒が飲み干された。人事不詳に陥り解毒が必要になった者も多数──戦闘での重症者数を越える程──出た。
翌6月9日の朝、起きてきたヒノカワ様に、『話したい事がある』と呼び出された。集まると、各村の村長、戦士長ら有力者が集められていた。
「皆、戦勝おめでとう。二年続きの大勝利で、僕は猛烈に感動している。
力及ばず、滅ぼされた村を……僕はこれまで何度も見ている。腸が千切れる悔しさ、一生抱える苦悩を幾つも抱えている。皆の中にもそういう者が居るだろう。
今朝は、本当に痛快な気分だ。感動の余り涙が止まらない」
それから、過去の大戦の苦い思い出を挟みながら、この大戦を語り始めた。オーバーな表現に最初は面映ゆい気持ちになったが、過去の大戦の悲惨さを知り、自然と涙が溢れた。
「タツヤ殿の登場で、時代は変わろうとしている。大戦を狩れる時代を迎えようとしている。タツヤ殿と共に死力を尽くせばそれが可能だ。僕も、島の守護者としての役目を安心してタツヤ殿に引き継げる」
何を言い出すのだろう? ワシは泣き顔をあげてヒノカワ様を見た。
「ハハ、心配するな。隠居するのは、まだ先の話だ。
それより、皆には僕の願いを、ワガママを聞いて欲しい」
「「応!」」、「大恩あるヒノカワ様の願い、やらいでか‼︎」
「兎村だ。
僕を慕う村々の中で、唯一無人地帯に面し大戦の影に怯えて暮らしている。此処だけの秘密だが、僕の隠し子も居て、あの子の将来を案じている。僕のワガママだが、大戦を狩れる世が来たなら、真っ先に恩恵を得たい。
僕の願いを聞いてくれるだろうか?」
「「「おぉぉぉ、大恩あるヒノカワ様への恩返し、やらいでか!!!」」」
歓声の渦が止まらない。そして、いつの間にか、ワシも前に出て演説する羽目になった。
「ワシは、昨年のシカ村の大戦では、ヒノカワ様に抱えられて、戦場から離脱した。今回の大戦でも大変お世話になった。ヒノカワ様への恩を返すのは当たり前だ。必ず、北部大連合の皆と兎村の大戦に参加する。
いや、大戦は、嫌な言葉だ。多くの勇者、女子供を奪った不吉な言葉だ。
どうだろう? これからは聖戦と呼ぶのは?
人の輝かしい未来を勝ち取る為に、一つ一つ無人地帯を奪回する。その神聖な戦いとして、聖戦と呼ぶのはどうだろう?兎村の聖戦、良い響きではないだろうか?」
「「「「応‼︎」」」」、「「「「聖戦! 聖戦! 兎村の聖戦!」」」」
それから、有力者が次々、前に出て協力を誓った。ハモ村連合のライゾウさんや、マワリ川村連合のタイラさんも全面的な協力を宣言した。
そして、ハヤドリも──兎村の代表として──感謝の言葉を述べた。彼女は、兎村からの唯一の参戦者だ。
そして、『感謝の気持ちを舞にします』と宣言し、舞い始めた。戦士達を悦ばせる為だろう、ハヤドリは真っ赤になりながらエッチな──だが美しい──舞を披露し、ヤンヤの大喝采を受けていた。
そのハヤドリのストリップを、ワシもついつい最後まで凝視してしまった。
舞終わった時、ハヤドリと視線が合ってしまった。ハヤドリは、恥ずかしそうに、手で目と秘所を隠した。だが、次の瞬間、手を外し、今度は逆に、露わになった胸を張り、ゆっくりと皆々と視線を交わした。そして、堂々とした態度で皆に向かって頭を下げてから、赤裸々に語り始めた。
「お願いします。兎村を助けて下さい。そして、できれば、兎村に来て未婚者の夫になって下さい。
兎村では、多くの男が死んで、女があぶれています。私の父も、前回の大戦で戦死しました。父も夫も無く、肩身の狭い思いをしている女が沢山います。
こんな状態から抜け出したい。他村から勇敢な夫が欲しい。兎村の皆の気持ちは、同じです。
大戦に、こんな見習い娘一人しか出さなかった村が言って良い事ではありませんが、お願いします。兎村を助けて下さい。お情けを下さい」
可哀想に……ハヤドリの吐露を聞いて、鼻の下を伸ばしていた自分が恥ずかしくなった。ハヤドリは立派な娘だ。時代の刷新に立派に貢献している。
演説を終え、皆に最敬礼し、ハヤドリは顔を上げた。そして、大きく目を見開き、魔術士達を一人一人、驚いたように見ていった。まさか? あと一歩とは思っていたが、このタイミングで開眼したのか⁉︎
魔術で上空の風を操作し、視線の動きからそれを確認した。そして、ワシはヒノカワ様と目を合わせた。
頷いたヒノカワ様が、前に進み出た。まず、素裸のハヤドリに肩衣を掛けてやった。それから、厳かに宣言した。
「正に今、ハヤドリは開眼し、一人前の魔術士になった。余りにも早い突然の開眼……イモハミ婆さんのケースと同じだ。
これは、この瞬間に、此処に集まった皆々の真摯な気持ちが天に通じた結果だ。間違いない。神々が直接、ハヤドリに魔術を下賜したんだ。
つまり、神証だ。神々は兎村の聖戦を望んでおられる‼︎」
「「……「「うおぉぉぉお」」……」」
いつの間に集まっていたのか、溢れんばかりの雄叫びが物理的な圧迫感を伴って鳴り響いた。それが、少し落ち着いてから、ヒノカワ様が語り始めた。
「ここからの話は、猪村の者は、皆知っている事だ。秘密でも何でもない。僕はタツヤ殿が十分な実力と実績を示したら、猪村連合を率いて、北部大連合に参加する。そして、タツヤ殿のサポートに廻って少し楽にさせてもらう。
兎村の聖戦を成功させれば、十分だろう。猪村連合の者もタツヤ殿が信じるに足るか十分確認できるだろう。そう、来年の兎村の聖戦で、この島の守護者は、僕からタツヤ殿に代替わりする。
フブキ様から僕に引き継ぐまでに何十年も空白期間が生じたより、遥かに遥かに素晴らしい事だ。だが、タツヤ殿は、この通りまだ幼い。成人すらしていない。彼には、多くの人の助力が必要だ。
皆、タツヤ殿に惜しみない助力を頼む。この島の未来を明るくする為に、協力して欲しい」
「「……「「うおぉぉぉお」」……」」「「……「「タツヤ様! バンザーイ! バンザーイ! タツヤ様!」」……」」
ヒノカワ様のご厚情と皆の歓声に胸が熱くなる。必ず、必ず、皆の期待に応えてみせる。皆の歓声に応えて、ワシも最上のエールを上げた。
次は、宴の後の奔走です。




