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追撃戦

 恐れていた事態が起きてしまった。妖魔王は、戦士が少ない村を標的にしてしまった。


 戦士の集結と負傷者の回復を待って、6月4日に最後の殲滅戦をした。6月6日には妖魔王が誕生し、ヒノカワ様と偵察も済ませた。万全の体制で前線基地で待ち構えていたが……


 6月8日朝、奴らが前線基地の逆方向に移動を開始した事を検知した。敵は、南東に約6㎞先だ。そして、そこから最も近い村は、約11㎞先のヤマメ村、その次は約17㎞先のゴリ村。ヤマメ村かゴリ村を襲撃する前に追いつかないと、大惨事になる。


 此方には、ワシとヒノカワ様以外にも大鬼を倒せる魔術士が、3人──リュウエンさん、タイラさん、ライゾウさん──も居る。追いつけさえすれば、粉砕できるだろう。直ぐに、戦士全員に高揚を掛けて追撃を掛ける事にした。


「ヒノカワ様は、敵がどちらに向かっているように見えますか? ワシの魔術では、薄らボンヤリして、ヤマメ村とゴリ村のどちらに向かっているか判別がつきません」


「僕だって同じだよ。第一、こんな山の中、真っすぐ進める訳は無いので、移動方向から目的地を特定するのは無理があり過ぎるよ。それより、君は一度、警告しに飛んだ方が良くないかい。どちらに向かうにしろ、半日程度は掛かるだろうから、君の飛行速度なら先回りできるんじゃない」


 確かに、そうか。迂回しても、ヤマメ村まで20㎞程度の距離、全速力ならヤマメ村とゴリ村の両方廻っても、一時間程度で帰ってこれるか。


 ワシは、後を託して、先ずはヤマメ村に向かった。


 ヤマメ村からも最先鋭5名は、前線基地に派遣されている。それでも、ヤマメ村には50名の戦士が詰めている。

 他村からの応援があるのもあるが、女性も案外いる。女性だって、訓練すれば弓矢や投石は出来る。槍や斧を使える人もいる。故郷を護りたい気持ちに男女変わり有るはず無い。実際に、女性の志願者も多かったそうだ。


 ただ、故郷を護る上では、小屋や柵より、子供の方が重要だ。小屋や柵なら再建すれば済む。連合全体で協力すれば、数ヶ月で再建終了だ。失っても我慢出来る。

 さらに、万一の最悪のケース、闘える者を全て喪っても、次代を繋ぐ子供達が残れば、何十年か先に故郷を再建出来るかも知れない。

 だから、子育て中の女性志願者は、『子供を護る方が優先だ』という理由で全て却下された。だから、ヤマメ村にいるのは、子育て後の女性だ。


 そんなヤマメ村にワシが飛び込んだ。直ぐに、村長らが集まって来た。


「タツヤ様、何か良からぬ事でも?」


「敵が此方に向かっている。全力で追い掛けているが、間に合わないかもしれない。守りをこれまで以上に固めて欲しい。

 例え攻められても、暫く耐えれば援軍が着く。それに、敵の数はそれ程多くない。一人一殺すれば足りる程度だ。

 一致団結して、守りを固めて欲しい」


「確実なのですか……間違いなく、ヤマメ村に」


「隣のゴリ村と此処と、どちらかが戦場になる。それは、明らかだ」


「……皆を集めます。お手数ですが、皆の前でもう一度、同じ話を」


 そして、ワシの説明に引き続いて、村長がヤマメ村隊に気合を入れた。


「敵は、少ない! これまでの大戦の十分の一以下だ! タツヤ様の言うように、一人一殺で足りる!

 それに、堀も柵も罠も十分だ。大盾で敵の矢は完全に防げる!

 我らヤマメ村なら、確実に勝てる! 援軍が来る前に皆皆々殺しにして、手柄を独占するぞ!」


「ウォォ!」「ヤケクソ殺ってやる!」


 そっか……村長の言う通りだ、過去の大戦より遥かに条件が良い。戦力的には勝てる筈だ。ワシは、何を悲嘆してたんだろう? ワシが不安になったら、悪影響があるだけだ。


「援軍が間に合わない場合も、ワシは此処に来て、少なくとも妖魔王は倒す。だから、此処に居るヤマメ村隊だけでも勝利は確実だ。

 だが、ワシらは単なる勝利を目指してるんじゃない。ワシらが目指すのは、大勝利だ‼︎ ヤマメ村隊の誰一人欠けない完璧な勝利だ。

 手柄を独占するのも良いだろう。だが、それ以上に、誰も犠牲にせず村を守りきって欲しい。時間を稼ぎさえすれば、確実に達成出来る。ここに集まった勇者なら大丈夫だろ?」


「タツヤ様……タツヤ様は、中々に難しい事を仰る。大鬼、小鬼を皆殺しにした上で、一人の戦死者も出すなとは……ハハハハハ


 だが、やりましょう。


 皆、タツヤ様の命令だ。完璧に村を守りきるぞ! 可能なはずだ!」


「「皆皆々殺し! 皆皆々殺し! 皆皆々殺し! ウォォォォオ!」」


 困惑もあるだろう。ヤケクソかも知れない。それでも、声を合わせて雄叫びを上げてくれた。

 それから、皆に高揚を掛けて、飛び立った。次のゴリ村でも同じ様な対応をして、主力部隊に合流した。飛び立ってから二時間程だ。


 その間に部隊は繁殖地を越えた。ワシらは敵が通過した跡を辿って追跡している。藪を払う必要が減った分、速度が上がり徐々に距離を詰めている。


「奴等が野営してくれれば、楽なんだけどね。確実に追いついて、払暁(ふつぎょう)と同時に強襲して終わりだ。だが、奴等にも此方の動きは見えている筈だ。追い付かれる前に、村を襲おうとするだろうね」


 ヒノカワ様だ。悔しいがワシの計算でも同じだ。


 実は、部隊の状況も良くは無い。マトモな休息も入れず歩き詰め。脚の遅いものは置いてきぼり。隊列は、2km以上の長さになっている。救援として意味があるのは、先頭の100名程度だろう。


「一度、ヒノカワ様、リュウエンさん、タイラさん、ライゾウさんには疲労回復を掛けます。皆さんが遅れたら、援軍の意味が無い。

 後、スミレ坂が追いついて来れるか、確認して来ます」


「助かるよ。この歳で、追いかけっこは結構くるからねw でも、魔力の使い過ぎは気を付けるんだよ。最も重要なのは妖魔王を確実に倒す事だから。

 ブッチャケ、其れさえ出来れば、間に合おうが間に合わなかろうが構わない。これまでの大戦に比べれば、遥かに有利なのは揺るがない事実だ」


 次は、ハヤドリのストリップです。題名だけだと酷く唐突に見えますが、展開はキチンと作ったつもりです。

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