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スミレ坂の戦場復帰(後編)

 直ぐに、クリオさんの所に駆けつけたが……死亡している。鑑定の魔術で死亡と出ている以上、治癒術は効果が無い。


 頭を割られたショックで心肺も停止してしまったのか……


「残念ながら、勇猛なクリオ殿は、神聖な努めを果たし、天に召された!

 これ以上、犠牲を出したくない。状態の悪いものは何処だ! 各位、敵を殲滅したら、救護に当たってくれ」


 そう叫んで、ワシは救護に移った。敵は、まだ何匹かは生きているが、複数人で囲んで袋叩きにしている。気にする必要は無い。


 遠距離攻撃が十分でなかった為だろう。予想より重傷者が多い。口惜しいが、考えるのは後だ。今は、治癒術にのみ集中すべき時間だ。


 それから、部隊の中を駆け回り、瀕死者への対応を進めた。それが終わったら消火作業だ。山火事にするのは不味い。ドタバタ、30分程は対応していただろうか。一段落ついた所で軍議だ。今後の対応を決める必要がある。


 皆が集まるまでの少しの間に、スミレ坂と話すことが出来た。


「不覚を取って危険な目に合わせて済まなかった。どこか痛いとか気分が悪いとか無いだろうか?」


「大丈夫だよ。護衛がシッカリ守ってくれたから。

 戦闘中、一度怖気が走ったけど、理由が判ったから大丈夫。たしか、探知だっけ? タツヤがそういう魔術を使ったんだよね」


 そう言えば、探知には副作用があったな。


「気持ち悪い思いをさせて悪かった。先に、探知の魔術を使うケースがある事を説明しておくべきだった。

 アマカゼに使った時も、『キャー』と叫んだそうだから、相当ビックリするのだろう。

 重ね重ねすまん」


「いいよw 必要な事だと判っているし、気にしない。気にしない」


「そういえば、戦闘中に猿妖が一瞬硬直したが、あれはタツヤ殿の援護だったのか? その隙に串刺し出来て、助かったのだが……」


 聞いていたウオサシが、猿妖戦の一幕を教えてくれた。確かに、タイミング的にはそうか。


「流石にあれは、妖魔でもビビるよw タツヤの気配は結構怖い。あれは、マジで蛇に睨まれたカエルの気分になる」


「重ね重ね、すまんかった」


 短い軍議で、ワシは50人程率いて繁殖地の焼き払い。それ以外全員で負傷者を搬送しながら前線基地に向かうことになった。


 ただ、スミレ坂が困った顔をしている。


「怪我人は、皆安定した状態だけど、搬送中に急変したら……

 タツヤは見て分かるだろうけど、私の魔力は枯渇している。気絶するまで振り絞っても、精々一人分しかない」


 そうだな、魔力は殆ど残っていない。とはいえ、繁殖地に残っている敵の戦力が不明だ。此方には、ワシが行く必要がある。


「確かに、スミレ坂の言う通りだ。配慮が足りなかった。

 試しに、魔力を譲渡するので、手を出して欲しい」


 魔力操作がレベル4に上がってMPの譲渡と奪取のやり方が──直感的にだが──判った。奪取の方は、使い所が無い。抵抗する敵を抑えつけて、MP奪取で弱らせるより、喉を掻き切った方が、早いし安全だ。


 だが、譲渡の方は、こんな場面で使えるだろう。試してみるべきだ。


 延ばした右手に魔力を移動させる。何を言われたか、目をパチクリさせていたスミレ坂も、魔力の動きを見て理解してくれたようだ。ワシの方に利き手を延ばしてくれた。


 手を繋いで、魔力を押し込む。上手くいったようだ。スミレ坂の魔力が大きく増えている。でも、真っ赤だ? 熱が出るような副作用があるのだろうか?


「体調はどうだ? 熱でも出たか? 少し休む必要があるか?」


「何でもない! 少し驚いただけだ。出発の準備が整うまで、休んでいれば大丈夫だ。

 心配するな。タツヤはタツヤの仕事をしろ!」


 うーむ? 探知と同様に何か違和感があるような副作用があるのかな?


「それなら、負傷者の搬送準備が整うまで休んでくれ。その間、ワシは少しでも治癒を進めておく。

 ワシら焼き払い班は、他の部隊が出発したのを見届けてから出発する。

 皆、それで良いだろうか?」


 誰からも異論は出ず、方針はすんなり決まった。


        ◇


 焼き払い部隊も、夕方には前線基地に帰還した。今晩──5月30日──は、恒例の戦勝祝いの宴会だ。

 だが、しかし、酒は抜きだ。良い子ぶっている訳ではないが、酒は禁止だ。

 何故なら、前線基地には酒が無い。造っていないのだから、当たり前に無い。個人的に少量持ち込んでいる者もいるが、奪い合いが起きるので、宴会中に飲むのは厳禁だ。


 だから、前線基地での宴会は歌や踊りが中心になる。殆ど、隠し芸大会だ。ワシやスミレ坂そしてハヤドリも舞を披露して宴を盛り上げた。だが、酒が無いので、早めにお開きになった。

 その片づけが終わった時、スミレ坂がやってきた。そして、少し顔を赤くしながら、説明してくれた。


「あの……魔力の譲渡は、本当に緊急の場合しか使わん方が良い。使う場合も、相手には良く説明してからの方が無難じゃ」


「やはり、何か副作用があったのか……何か、重篤な体調不良とかが起きるのだろうか?」


「そういうのでは無いが、説明し辛いな……うーん、言霊の魔術で体内に巣を作るだろう」


「ああ、言霊の巣は、凄い違和感がある。吃驚して即座に破壊するのも珍しくは無いな」


「あれよりも、酷い。他人の魔力は凄い違和感がある。それが、全身を駆け巡るのは、結構苦しい」


「……申し訳ない。そんな副作用があったのか……。それで赤い顔をしていたのか。本当に、申し訳ない。教えてくれた点は良く意識しておく」


 他人に、身体中を……内臓まで触られるような感じか……非常に不味い事をしてしまったようだ。


次から、大戦の本戦です。

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