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スミレ坂の戦場復帰(前編)

 人が致命傷を負う表現があります。


 途中で出てくる親衛隊は、前作47話で編成された、スミレ坂を女神とも慕う志願者からなる部隊です。

 もともとは、スミレ坂の護衛部隊です。また、隊長はスミレ坂の夫のウオサシです。



 最終作戦会議において、前線基地の整備を最優先にする事になった。500人が籠城出来るだけの用意が必要だ。小屋も増やす必要がある。水と食料の確保もある。その結果、ヤマメ村起点の作戦開始は、5月10日になった。


 そのヤマメ村起点の作戦は、次の3つが対象だ。

 ボス大鬼、矢、魔術有繁殖地

 ボス大鬼有繁殖地

 矢有繁殖地


 そして、その後に前線基地起点に次の4つを殲滅する。

 名前付きボス大鬼繁殖地

 ボス大鬼、矢、魔術有繁殖地

 ボス大鬼、猿妖、魔術有繁殖地

 魔術有繁殖地


 ヤマメ村に集結した時に意外な顔があった。スミレ坂だ。去年の9月8日に出産したばかりで、8ヶ月程度しか経っていない。まだ、授乳も必要な時期だ。無理をしていなければ良いのだが。


「アハハ、またタツヤが要らぬ心配をしている。

 大丈夫、乳母を引き受けてくれる人も居る。何より、イモハミ婆さんに今回も籠城させるのは、申し訳が立たない。だから、なまった勘を取り戻さないと」


 スミレ坂は、シカハミさんと交代して、これから7つの殲滅戦と大戦に参加する。勿論、ウオサシ他の親衛隊も一緒だ。親衛隊の面々は、スミレ坂不在の間も闘いに参加しており、随分精悍になっている。

 ただ、既に雌鷹隊がいる。スミレ坂の直接の護衛は、雌鷹隊が担当する。守りを固める為、蛸壺陣地と大盾も併用する。

 だから、親衛隊をスミレ坂の護衛に付ける理由は無い。親衛隊は、これまで通り戦闘部隊に配属させる事になった。


 その後、作戦は順調に進行し前線基地での作戦に移った。そして、残る殲滅対象も、5月29日時点で二つに絞られた。リュウエンさん、ライゾウさん、タイラさんといった大戦の参加者には、既に前線基地に集結して貰うよう連絡している。参加村の戦力も順次集まっている。到着した猪村連合部隊の中に、ハヤドリの顔もあった。

 女子供の避難も準備は完了しており、次の殲滅戦後に移動する。


 まだ、残っているのは、名前付きが居る繁殖地と猿妖が居る繁殖地だ。どちらもかなり厄介な相手だ。


 部隊に随行してからのスミレ坂の魔術の進捗は早い。直感を身に付けた上に、魔力強化もレベルアップした。これまで部隊に随行していたシカハミさん他より、成長がかなり早い。無論、才能の差もある。だが、スミレ坂には他の要因もある。親衛隊の存在だ。

 親衛隊の面々は、手柄を挙げると『女神スミレ坂様に見守って頂いているお陰』と公言するような、熱狂的な連中だ。彼らの戦果がある程度、スミレ坂に流れているはずだ。妖魔を殺した者の『主観』で、貢献度が決まり、SP(経験値)が配分されるのだから。


 そして、軍議の席で、次の殲滅戦にスミレ坂を随行させるべきかが議題になった。


「猿妖は、厄介だ。前線をスキップして、治癒術士にイキナリ襲い掛かる可能性がある。

 前回の闘いでは、弓専念部隊に襲い掛かられて、女狐村のハヤタカが戦死した。猿妖戦や飛妖戦では、シカハミさんにも後方待機して貰った。スミレ坂と雌鷹隊は、後方待機して貰いたい」


「アハハ、タツヤがまた本末転倒な事を言っている。怪我人が一番多く出る闘いに、同行しなかったら、来ている意味が無いわ」


「護衛が、雌鷹隊だけで不十分なら、僕らが護衛すれば良い。僕ら親衛隊なら、猿妖などに遅れは取らない。僕らが彼方此方に目を光らせれば、猿妖の犠牲者など出させはしない」


「それに、私も直感を取得して、一足早く敵の接近を検知できる。護衛に大盾に蛸壺陣地、さらに安全を確保しようなんって、私を見くびっていない?」


 ワシが、スミレ坂を後方待機にしようとしたら、本人と夫のウオサシから猛反発を受けた。周りを見たが、誰もワシを応援してくれそうに無い。


 暫く食い下がってみたが、押し切られた。スミレ坂は部隊に随行して貰う事になった。それに伴い、親衛隊を猿妖対策に割り振る事も決まった。

 まあ、ワシも魔力操作がL4に上がって、戦術の幅が広がった。それに、部隊は、総勢で300人いる。鉄の武器を持った戦士も既に50人を超えている。戦力的には十分の筈、何とかなるだろう。


 翌日、日の出と同時に出陣した。


 天気は良いが、不安だ。悪い事が無ければ良いが……

 そんなことを考えながら、標的まで約1.5㎞の地点まで進んだ時、周辺警戒班の口笛の音がした。それと、ほぼ同時に、ワシは怖気を感じた。直感による敵探知だ。


「右手側の尾根から敵が向かってきている。迎撃態勢を取れ!!」


 不味い。この位置関係だと、高所を取られて、弓矢の打ち合いで不利になる。部隊の縦深も確保できない。雌鷹隊やスミレ坂が敵の射程内に入ってしまう。


 ワシの怒声を受け、迎撃態勢を整える為の指示が次々飛んでいる。一方、最大の遠距離攻撃力を持つワシは、即座に攻撃を開始した。だが、樹冠が発達していて見通しが悪い。位置関係も悪くて、狙いが付け辛い。

 弓矢の距離になるまでに、何とかボス大鬼他何匹かは倒したが、大鬼が一匹残ってしまった。しかも、斧持ちだ。

 非常に厄介だ。だが、弓持と魔術持の方が更に危険だ……


「大鬼は頼む! 弓持を潰すためにワシは突撃する!」


 そう叫んで、風の壁をまとい敵に向かって高速飛行を開始した。

 敵は50m程度先の斜面にいる。ワシの最高速度なら2秒で到達する。敵上5mの位置から、まずは魔術持を魔力弾で叩き潰す。

 この近距離では避けようがない。直撃しアッサリ四散した。

 反応が早い敵が矢を放ったが、風の壁の防御は完璧だ。矢の集中攻撃が怖くて、これまでは斧で殴り込んでいた。だが、これなら安心して一方的に蹂躙できる。

 火炎をばら撒いて、弓持ちを制圧だ。

 別に、ワシ一人で殲滅する必要は無い。火で混乱させ弓矢を撃つ余裕を無くせば良いだけだ。左右から、何十人もの戦士が突進している。直ぐに到達し、制圧してくれるだろう。


 それより、味方の被害状況は、どうだ? 猿妖はどこにいる?


 探知で猿妖の位置を特定して目を向けると、丁度ウオサシが槍で串刺しにする場面が見えた。やはり、スミレ坂を狙って来たのか! スミレ坂は大丈夫か? 怪我があるなら最優先だ。

 探知で確認すると、護衛の肉壁の中に居て無事だ。良かった。部隊後方の負傷者は、スミレ坂に任せられる。


 前線はどうなっている? 大鬼はどうなった?


 大きな戦力差の効果だろう、前線の敵は既にまばらになっている。だが! 正に今、ドンゴ村の戦士長のクリオさんが、兜ごと頭を割られた。やはり、斧持ち大鬼は、ヤバ過ぎるか。ワシは、また最高速度で飛翔した。

 大鬼の頭上に到達した時には、10人以上の戦士が大鬼に群がっていた。槍や斧が何本も大鬼に突き刺さっている。そして、ワシが頭上からトドメを刺した。


 残る敵は雑魚ばかりだ。任せて良いだろう。それより、クリオさんを急ぎ治癒せねば。犠牲者を出したくない。


 次は、後編です。

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