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ハヤドリの応急処置(後編)

 作戦開始からのハヤドリの頑張りは目を見張るものがある。特に、素早く状況を判断して、優先順位を意識して止血に走り回ってくれるのが有難い。出血し激痛で暴れる者を、周りの男に声を掛けて、サッサと押さえつけてしまう。そして、縛って止血を済ましてしまう。


 ハヤドリ特有の技能──応急処置──なのだろう。これは、かなりの有用性がある。


 ここでの戦闘では、真の即死はそれ程居ない。戦死の多くは、戦闘後の全身状態の悪化が原因だ。継続する出血、呼吸や循環器系の停止による酸欠、毒やバイキンの蔓延による多蔵不全、色々だ。

 ワシの鑑定の魔術では、HPの減少としてその経過が見える。倒れ伏して、既にマイナスの重症者のHPが、更にドンドンマイナスの値を増やして死に至る。

 実は、HPの減少傾向を食い止めれば、相当のマイナスでも、死にはしない。

 ワシからみると、瀕死者の対応で最も重要なのは、HPの減少傾向を食い止める事である。呼吸停止や心停止に比べればまだマシだが、出血も猶予は小さい。そして、命が助かっても、手当が遅れれば、後遺症が酷くなる。何ヶ月も調子を取り戻せないケースもある。此処には、造血剤などないのだから。


 止血だけで無く、村への搬送の為の様々な配慮も的確だ。魔法薬を含めた、各種の薬草も使いこなしている。ハヤドリの応急処置を他の者にも学ばせたい所だ。


「ハヤドリの手際は、素晴らしい。他の者の模範だ。どうやって、身に付けたのだろう。可能なら、他の者にも伝授してくれないか」


「そんな大したことでは……治癒術が使えない私なりに、少しでもお役に立とうと必死にやって来ただけです。伝授と言っても……『真似をして』としか言いようがない状態です」


「確かにそうか。よく見ると、ハヤドリと一緒に対応している雌鷹隊の動きも良くなっている。こればかりは、周りを手本にして経験を積んでいくしかない事なのか……

 そういう意味では、この作戦が終わって、ハヤドリと分かれて、先生が居なくなるのが惜しく感じる位だな」


「お求めであれば、何時でも馳せ参じます。タツヤ様のご随意に従わせて下さい」


「……」


「まあ、それは置いておいて。

 ハヤドリは、魔術の修行も進捗している。これは、単なる夢物語だが、魔術と魔術以外の治癒の両方を駆使して、多くの人を救える様になればと思っている。

 魔術は、便利だが、人数が限られるし、習得までの年月が長い。多くの者が、応急的な対応の技術を学べば、使い所は多い筈だ。

 だが、ワシ自身は時間が割けそうに無い。もし、もしもだ。ハヤドリがそういう事を考えてくれればと……

 いや、余談だった。忘れてくれ」


 ワシは、よその村の者に何を口走っているのだろうか。


「素晴らしい夢だと思います。私が、私の意思で必ず達成してみせます。夢を教えて下さってありがとうございます」


「……」


 ハヤドリは、何故かワシに従順過ぎる。調子が狂ってしまうな。


 そして、天気が良い事もあり、4月15日から始まった作戦は、4月24日には終了した。ヒノカワ様も参加した戦勝祝いの宴も賑やかだった。男も女も歌い踊り、誘い合わせて消えていくカップルも何組かいた。


 ヒノカワ様にハヤドリの事を褒めるのも忘れない。少しでも立場を強くしてあげたい。そうしたら、『お持ち帰りして貰っても良いよ。ハヤドリも満更でも無さそうだしw』と冗談を言われた。

『ワシには、婚約者が居ますので、別の機会にしましょう』と、返したが、適切だったろうか。



       ◇  ◆  ◇



 大戦の最終作戦会議が、4月29日から熊村で始まった。北部大連合の総会も兼ねており、多数の村の代表が集まっている。北部大連合だけで無く、猪村からヒノカワ様とセンカワ村長、マワリ川村から魔術士のタイラさん、ハモ村から同じく魔術士のライゾウさん、正しくオールキャストだ。


 先ずは、参加資格を確定するために、新規加盟村の確認だ。今回の総会で、オカカワ村連合の8村を含め11村が加盟する。内訳は、正規加盟8村に準加盟3村だ。これで、北部大連合は、78村──正規加盟56村と準加盟22村になる。


 猪村、マワリ川村、ハモ村の3連合と他幾つかの村も大戦に参加する。参加村は100を超える。実は、大戦に参加する村々の領域は、既に過去の中つクニを越えるほどになっている。もっとも、クニが滅びた以降のこの島の衰退は酷く、村の数や人口面ではまだまだだ。


 作戦会議も、ほぼワシの原案通り話が進んでいった。費用や物資の分担すらかなり積極的に対応してくれている。

 島の縦貫構想──南端までの打通──にも、異論は無かった。というか、話に飛び付いたリュウエンさんの勢いに圧されて反対できなかったのだろう。


 その中で、一番議論になったのは部隊の配置だ。今回の大戦では、周り全ての繁殖地を殲滅する。その結果、妖魔王の戦力は精々30〜50匹にしかならないとみている。


 流石に、そこまで少ないと前例の無い行動をとる可能性がある。つまり、人が多い前線基地ではなく、他の村を襲う可能性がある。そういう、指摘が複数から出た。


『だから、戦力は均等に配置すべきではないか?』


 連絡手段が未熟な現状、それは単なる兵力の分散で愚策としか思えない。


「全ての村に完勝可能な戦力を配置できない以上、それは被害を増やすだけだ。前線基地に完勝可能なだけの戦力を集中させて、この主力で事に当たるべきだ。

 仮に、敵が他の村に向かったら、前線基地に居るワシが気づいて追撃を掛ける。標的になった村にも、先にワシが飛んで連絡する事が出来る。シッカリした戦力がある主力が居れば、そうやって挟み撃ちに出来る。

 だが、主力が何処にも居なければ、一つ一つ不利な戦いを繰り返す事になって、犠牲が増えるだけだと思う。

 だから、ワシは賛成できない」


 ワシはかなり強固に反対した。だが、自分の村を守りたい気持ちには抗しきれない。最終的には、次のように戦力の半分を前線基地以外に張り付ける事になった。


 前線基地:400人

 周辺10村:500人(50人×10村)


 さて、吉と出るのか凶と出るのか……


 何のために生きるべきか? とは、思春期の──悩むのが辛くて、思い切りたくなる──想いの代表です。


 実は、ハヤドリは、この社会の基準で既に成人しています。結婚を考える年齢になっています。でも、結婚するという選択は……何話か先に事情を書く予定です。


 次は、前後編でスミレ坂の戦場復帰です。

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