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閑話 ライゾウの苦悩

 悔しくてならない。目に入れても痛くない程、可愛がってきたあの子達を、人質に差し出さなければならない。あの、獣慾が透けて見える邪神タツヤに差し出さねばならぬ。一体、我らは何処で何を間違えたのだろう。


 孫は可愛い。『じじ、じじ』と言って懐いてくれるあの子達に、どれ程に癒されたことだろうか。どれ程に闘う勇気を貰ったことだろうか。


 そして、最前線のハモ村を守る為にどれ程の努力を重ねただろうか。


 それなのに、気付けば風前の灯火、あの邪神タツヤの気分次第で生かしも殺しも自在な憐れな立場に追いやられるなんて……


 悔しくてならない!



 悔しさの余り、魔闘術で地べたを殴りつけていると、可愛い子や孫が小屋に入って来た。悲嘆させては可哀想だ、無理にでも笑顔になろう。


「お爺様。外まで大きな音が響いていましたが、何か良からぬ事でも」


「イヤイヤ、日々の修練だよ。ミライを悲しませるような事は何もない」


「……失礼いたしました」


 そして、村長をしている長男エンライとその長女のライカ、魔術士見習いの長女ライナとその長女のミライが、座った。長男と長女には事情を軽く話したが、孫達は初耳の筈だ。怖がらせないよう、明るく話そう。


「ライカとミライが産まれた時の事が眼に浮かぶようだ。二人とも、凄く可愛くて天使だと思った。あの小さい赤児がもう此処まで大きくなったんだな」


「お爺様、嫌ですわ。顔を合わせる度にそんなお話ばかり、私には全く記憶が無いのに、どう返せば良いか何時も悩みます。

 それより、お話とは何ですか」


 ライカの可愛い声を聴くと、悔しさで、目尻に涙が滲んでしまう。


「先日、ムギツク村に行って、北部大連合について詳しく聞いた。何でも、彼方此方の村から娘が集まって村長夫人としてのイロハを学び合う『学校』という、施設があるそうだ。成人に近いライカにどうかと思っている。

 また、イモハミ婆さんの治癒小屋も修行者が増えているそうだ。修行に行けば村々に顔を広げる事が出来る。いままで、可愛くて旅をさせるのが嫌だったが、何時までも赤児扱いしてはいけない。ミライにも修行に行ってもらう事を考えている。ゴホン。ゴホン」


 ダメだ。声が震える。涙が溢れる。慌てて咳で誤魔化して、涙を拭いた。


「お爺様。私たちを大切に思ってくださるお気持ちは、痛いほど解ります。でも、私たちは、他の娘より、何倍も恵まれた生活をしてきました。お爺様の孫として覚悟はあります。そんなに悲しまないで下さい。


 立派に人質としての役目を果たしてきます。


 もし、もしも、万が一、私たちが殺されるような事があっても、ハモ村の為に、お爺様堪えてください。ましてや、め、……妾にされた程度で……ごめんなさい。私が泣いたら説得力がない。


 でも、本当に二人とも覚悟は有ります」


 皆泣いている。こんな健気な声を聴くと、今からでも邪神タツヤを抹殺しに行きたくなる。でも、それは返り討ちに合うだけだ。あの飛妖のように。一目見た次の瞬間、胴体を真っ二つにする。あんなの、防ぎようが無い。


「すまん。力が無いジジを許してくれ。こんな事になって悔しい。太陽すら操る程の相手と知っていれば、怒鳴り込むなんて決してしなかったのに……

 先日の訪問で、ワシも、連れて行った先鋭も、これでもかこれでもかと脅かされた。

 今は、少しでも恭順の意を示して、攻め込まれる口実を無くさねばならん。可愛い二人を獣の巣に落とすなんて、胸が張り裂けそうだが、許してくれ」


 二人とも泣いている。だが、歳上のライカが涙を振り払って、言葉を継いだ。


「お言葉だけで十分です。それよりお爺様?

 太陽を操るとは? 何の事ですか?」


「数日前に、日蝕があっただろう」


「はい。太陽が蝕まれるなんて、余りに不吉な事、大騒ぎになりました」


「あれを起こしたのはタツヤだ。タツヤは、あれを指して戦士達に慶事と宣言していた。ハモ村から人でも物でも、好き放題挑発出来る。そういう趣旨の演説をした。

 私らも引き摺り出されて、協力を誓わされた」


「まさか⁉︎ そんな事できたら人では無い」


「少なくとも、事前に知っておったのは確実だ。ジジは、何人にも話をして確認した。

 作戦日以外は、基地建設現場にいる筈なのに、その日は午後遅い時間に戻って来た。その後で、我らが着いた。さらに、翌日に日蝕があった。

 我らが来ることを事前に知って、準備したとしか考えられない」


「……偶然が重なった。と、考える事も……あり得る……のでは」


「だったら、どれ程に救われるか。

 奴も、口では偶然と言っていたが、嘘の足が丸見えだった。貴重な装備を我らの人数分用意してあった。何より、不吉な日蝕を──人には、本当の意味など判らぬ筈なのに──慶事と断言しおった。

 欠片の動揺も見えなかった。事前に対応を決めていたようだ。


 宴で噂を集めたが、『自身では隠されてはいるが、タツヤ様は実は神々の末席に連なる方だ。滅私奉公すべきお方だ』そう、小声で教えてくれた者が複数居た」


「……神々に連なる者に逆らう事は許されない。だから、お爺様は私達を……

 心を込めて、人質としてのお役目を果たし、決して不興を買わぬように……

 ごめんなさい。涙を止めることが出来ない」


次は、前後編で治水事業です。


R4.12.3 ライゾウさんの長男エンライと長女ライナの名前を設定しました。

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