呪術士見習いの娘達
前線基地建設を進めるワシの元に、呪術士見習いの娘達が、やってきた。10歳から16歳の若い娘ばかりだ。
実は、殲滅戦の方は、半月の休みを取ることになっている。弱めの繁殖地6つの殲滅が終わり、戦士達の入れ替えをする為だ。ただ、ワシには休みは無い。前線基地建設を急がねばならない。
小屋造りの次は、空堀の掘削だ。ワシも土操作で手伝っているが、量が多くて大変な事になっている。
長さが100mは必要だ。深さはせめて3m、幅は妥協して5mとした。走り幅跳びで乗り越えられる可能性があるが止むを得ない。
これでも、完成までに何ヶ月か必要になる。
人手も足りなく、男女に拘っていられない。女性も小屋一つ分──20人程──参加している。
中には、築城作業そのものでは無く、食料調達──採取や狩り──や煮炊きをする女性もいるが、大変ありがたいことだ。
そして、その殲滅戦が休みの期間、呪術士見習いの娘たちが、護衛の雌鷹隊と共に建設現場に詰める事になった。身体を痛める者の対応と、修行の一環としてワシの魔術を見る事が理由だ。
若い娘が居れば、若衆達の士気も上がるだろう。ワシも彼女らの為に、小屋をもう一つ建設した。
2月24日、治癒術が使える白ヘビ村の虹さんに引率されて、5人の娘がワシに挨拶に来た。無論、何回か顔を合わせ名前は知っている。皆、真摯に頑張る良い娘ばかりだ。
リーダーは、イモハミ婆さんの孫娘の一人のカゼハミさんだ。スミレ坂の一つ下で、正月に成人している。
兎村のアイサイさんも、今回から参加のようだ。でも、何故か緊張している。まあ、故郷から遠く離れた見知らぬ者ばかり場所、当たり前か。
此処での作業の内容を説明していると、カゼハミさんが、何かアイサイさんに促そうとしている。
「気にしているなら、話してしまった方が楽よ。別に、悪いことなんて起きない。吐き出してしまえば、笑い話になる程度の事よ」
何だろう? 社会の窓でも空いているのか?
「タツヤ様、どうかお許しください。無礼の段、万死に値するとは思いますが、どうか御慈悲で罪は私一人に、お願いいたします」
アイサイさんがイキナリ謝罪の言葉を叫んで土下座した。
何だ? 社会の窓は空いていないし、他に何か恥ずかしい所でもあるのか?
「頭を上げてください。アイサイさんは、何も無礼な事はしていない。何かあるなら、言ってくれれば良い。決して怒ったりはしない」
「お許しください。熊村に来て、タツヤ様がどれ程お偉いのか痛感しました。メイ様が、気安く話しかけているからといってあんな態度……村毎滅ぼされても文句が言えない。
どうか、罪は私一人にとどめて下さい」
何事?!?! 村を滅ぼすなんて、何故そんな事を! うぅ、想像するだけで、胸が痛い。顔が歪む。
隣のカゼハミさんが、困ったように頭を抱えて言った。
「アイサイちゃん。それでは逆効果よ。今の言い方は失礼。酷い誤解をされていると、タツヤさんが顔を歪めている」
「どうかどうか、お許し下さい。お許しく下さい」
パニックになったのか、アイサイさんは、謝罪の言葉を吐き続けている。
困ったワシは、カゼハミさんと視線を交わし説明をお願いした。
「アイサイちゃんによると、猪村への慶賀の使としてタツヤさんが行った時、失礼な事を言ったそうなの。タツヤさん心あたりある?」
「思い当たる事はあるが……別にそんな無礼な事をされた訳じゃ無い。アイサイさんは、そんな事を気にしていたのか?
裾が乱れて丸見えになっているとか、そんな重大事かと心配したが……」
「……だよね。幼児のフンドシが見えても『コラ!』と怒るだけの笑い話だけど、タツヤさんにとっては、それ以下の話なんだよね〜。
でも、アイサイちゃん、コッチ来て連合の勢いを見てから、心を痛め続けているの。
『お姉ちゃんが怒髪になるのも当たり前だ。何て愚かな事をしたんだろう』と
怒髪と言っても怒髪女のハヤドリさんの事だから、重大かどうかあまり当てにならないしね。面と向かって話した方が楽だよと言い聞かせたの。
まさか、こんなに有様になるなんて……困ったわ。
まあ、タツヤさんにとっては、笑い話だと確認したから、後は治癒小屋の仲間内で言い聞かせておくわ」
カゼハミさんのウインクを合図に、娘の内一人がアイサイさんを宥めながら連れ出して行った。そして、カゼハミさんが、改めてワシの方に向かい合って話始めた。
「良い機会だから、治癒小屋の状況を説明しておくわ。タツヤさんは忙しくて卒業してから殆ど顔を見せていないし」
「ありがとうございます。修行者が増えて問題が起きていないか気にはなっているんです」
「増えたのもあるけど、遠くから来る修行者も課題よ。中には、本当に悲壮な覚悟で来る娘も居るわ。
ハヤドリさんと同じ位の重い事情がある娘も居る。この子、ヒノサキ村のハヤナガレさん。熊村に来た時は、本当にボロボロの姿だったわ。そして、護衛が全滅して出身の村と連絡の取り様が無いから、開眼するまで熊村に居させてなどと言っている。
北部大連合が出来る時に、タツヤさんが島を廻ったけど、多分その影響もあって、凄い遠方からでも修行希望者が来るのよね」
亡くなったゲキリュウ殿のひ孫にあたるハヤナガレさんが来ていたのは、知っていたが、そんな正しく決死の旅をしていたなんて、全く気付いていなかった。
「そんな事が……」
「それほど、熊村の治癒小屋への期待が高まっている。しかも、修行方法を再確認しようと来る姉弟子や、久しぶりに婆さんの顔を見たいと来る、開眼済みの呪術士も多い。本当に、テンヤワンヤの状態なの。
修行者は、今15名居る。私たち孫やひ孫を除いてよ。だから、彼方此方に分散して修行するしか無くなっているの」
「そんなに困った状態だったなんて、気付かなかった。面目ない」
「構わないわ。私たちにも女としてのプライドがあるから。それに、いずれ落ち着くと思っている。タツヤさんに言いたい本題はそれじゃないの」
何だ? さらに碌でも無い話があるのか?
「最近、お婆様やお母さまの動きが怪しいの。小さい子達を呪術士にするか悩んでいるのが見える。別の将来を模索しているのが判る。確かに、修行者が多くなり過ぎている。開眼した頃には、魔術士が溢れかえっているかも知れない。
そんな風に感じて、後輩たちが動揺しているの。長い修行をして魔術士になっても、女としての価値が高まらないかも。価値が下がって、良い夫をゲットできないどころか、開眼してもお荷物扱いされるんじゃないかと。不安を感じているの。
相談すると、『魔術士はまだまだ足りない。心配する必要は無い』と返ってくるけど、何か開眼済みの者だけの秘密がある。
それが解らないから気が逸れる娘も居る。
こんなブッチャケ、女としてはしたないと思うけど、後輩たちの為に言うわ。タツヤさん何か知っているよね。
言っておくけど、私は良いのよ。複数の次期村長から縁談がある。私は、求婚者を選べるの。男の見極めに注意すれば幸せになれるはずよ」
次話は、この続きで魔術士達の将来計画です。




