三名の謀議参加者
冬至から6日目の1月1日には、北部大連合の新年の儀が開始される。もっとも、少しでも会議で有利な立場に立とうと、事前に熊村に乗り込んでくる村長は結構いる。新年閏3日の夕方に熊村に到着した時には、既に結構な人数が集まっていた。
そのまだ会議まで2日ある夜、ワシは熊村のブナカゼ村長に呼ばれて、目立たない小屋に案内された。そこには、熊村のブナカゼ村長の他に、テン村のテンヤ村長、トンビ村のクマオリ村長が居た。何の根回しだろう?
席について、直ぐブナカゼ村長が議題を切り出し始めた。
「此処に呼んだ理由は、若衆を集めた部隊編成についての相談としておいてくれ。今から議論する内容は、厳秘としたい」
「怖いな。どんな話なの? 話題にする事自体を秘密にするなんって……」
「この島の長期的ビジョンについてだ。私ら、いや誰もが、妖魔に脅かされる生活からは抜け出したい。子や孫にそんな生活をさせたくない。
そして、少なくとも此処に居る三人は、その目的の為なら苦い泥水だろうが、固い石だろうが飲み込む覚悟がある。だから、タツヤと長期的ビジョンを共有して、協力させて欲しい」
「……別に、神託にも長期的計画の指示は無い。本当に無い。だから、長期的ビジョンは、ワシにとっても手探りだ」
「私らの覚悟が信じれんのなら嘘看破? だったか、そういう魔術を使っても良い。タツヤにとっても手探りなら、信頼できる協力者は何人も居た方が良いのではないか?」
確かに、その通りなんだけど、その人自身の人生設計を狂わせるような問題だとな。まあ、確かに、協力者を増やせるか早めに試した方が良いな。
「協力してくれる人が多ければ多いほど良い。確かにそうだ。だけど……例えば、村長の選び方自体も考え直さねばとか──極端すぎる例だけど──そんなレベルの議論になったら平静で居られる?」
「「「大丈夫だ。黙って村長の地位を渡せというレベルの話は、覚悟した上の相談だ」」」
え? えぇぇぇぇぇぇえ???
吃驚していると、テンヤ村長が話を続けた。
「タツヤさんが、昔のクニについて十分調べているにも関わらず、肯定的に言わないようにしているのは気付いています。
だから、昔あったクニとは違うけど、何かクニっぽい枠組みを構想しているのだろうと、そこはこの三人の共通認識です。
だったら、普通に王になりたいと宣言するのが早道です。タツヤさんに王という称号と貢物を献上する事に嫌は無い。皆を護る為に闘う対価として、最上の敬意や最上の生活を望んでも、誰も不満を感じない。
それなのに、王に成ることに興味が無いように慎重に演じている。
不可解です。理由があるとすると、タツヤさんの将来構想の中には、何か大きな反発を受けるような内容があるのだろうと。だから、一人で計画するしかないのだろうと。
だけど、恐縮ですが、タツヤさんは、経験が浅い。一人で謀を巡らす事に長けている訳では無い。
このままでは、タツヤさんの計画が失敗して、『妖魔に怯えない世』が手に入らないかもしれない。
だから、早い段階で相談したい。我々も謀議に参加させて欲しい」
ワシは、流石に沈黙してしまった。
だが、疑う理由は無い。まだ、相談出来ていないのは、正しくワシの経験不足が原因だろう。
「ワシが建国を考えているのは事実だ。村々の連合ではなく、村々を統べる国という枠組みが必要だとは確信している。
ただ、建国すれば、国は村々より遥かに偉い立場になる。そうなれば、各村の村長は窮屈な想いをするだろう。
それを受け入れて貰う説得材料は無い。だから、大っぴらに相談出来なかった。
その不明を正してくれて有難い。確かにワシには、信頼できる協力者が何人も必要だ」
そして、反発が大きいと考えている要素、国直営部隊、税、裁きについて説明した。
話を聞き終わると直ぐにテンヤ村長が総括してくれた。
「村長とその一族にとっては、確かに厳しい内容ですね。
村の事情を無視して、男手や物資を徴発される。突然、自分自身や家族が裁かれる可能性がある。しかも、納得のいかない国の掟や国の長の命令に反したと言うだけで。
タツヤさんが相談出来なかった理由はよく分かりました。
だけど、建国に向けて前進しましょう。妖魔に怯えない世を作るには必要な事です。
もし、即座に大規模な援軍や援助物資を用意出来る枠組みがあれば、そして無理矢理でも村々の争いを調停出来る枠組みがあれば。
村単位で滅びる事は殆ど無くなる。
その利益はよく分かります。息子が賢く勇敢なら村長の地位を確保出来るでしょうから、失う物も無い。賭けるに足る計画です」
「基本は、同意見だが……アマカゼが賢く勇敢な子供を産んでくれるか心配だ。王が逸材で無ければ、昔のクニのように崩壊して、孫や曾孫が虐殺されるかも知れない。
いや、余談だった忘れてくれ」
クマオリ村長には、慰霊祭の為にクニ滅亡の経緯を説明したからな。不安になるだろうな。
「建国しても、母さんを大切にして欲しい。私は、それだけだ」
イモハミ婆さんを蔑ろにするなどあり得ない。
「ありがとう。当然の話だ。皆が懸念するような不条理は、何としても阻止する。だから、この建国への謀議に参加して欲しい。
慎重に同士を集めて必ず達成したい」
慰霊祭は、第4話で、アマカゼと話していた、クニ時代の王宮虐殺に対するものです。直接の描写はありませんが、タツヤも参加して実施されました。
次は、オカカワ村からの使者です。




