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猪村への慶賀の使と姉弟子達

 メイさんは、初登場ではなく、12話で名前だけ出てきました。


 年が明けた翌日──新年の閏2日──早々、ワシはワシしか出来ない特殊な役目の為に、飛びたった。


 この新年、実は村の幹部たちは大忙しだ。村単位の新年の祝い、七村連合の新年の儀、そして北部大連合の新年の儀と立て続けにある。また、これまでは村間の慶賀の使者のやり取りは、危険すぎて無かった。だが、安全に交通できるようになったため、そういう近所付き合いも大幅に増える。


 この社会の常識では、下の者が先に挨拶して、その後返礼として上の者が挨拶する。村々の慶賀の使者のやり取りについても、例外ではない。まあでも、北部大連合は、この島の最大勢力だから、基本他の村や連合から慶賀の使者を受けてから、ゆっくり返礼を送れば良い。


 だが、ヒノカワ様は? 何十年も毎年毎年大戦に対応されてきた、大恩あるヒノカワ様を下に見るなど、ありえない話だ。だが、猪村からの慶賀の使者も北部大連合の新年の儀に来る予定だ。とすると、それより先に北部大連合から慶賀の使者を送る必要がある。


 距離があるから、飛行の魔術が使えるワシが行くしか無い。

 ヒノカワ様と言霊で連絡を取り合って、新年の閏2日早々に猪村に飛び立った。


 慶賀の使者として村人の前で演説をして熱い歓声を受けた。馴染んで貰えるのなら何よりだ。そして、村長のセンカワさんの案内で広めの小屋に向かった。前回来た時と同じ会議用の小屋だ。

 そこには、何人かの女性と共にヒノカワ様が待っていた。


「やあ、タツヤ君、わざわざ来てくれて嬉しいよ。返礼にセンカワを送るからよろしくね。今日は、ゆっくり泊まって、歓迎の宴に参加してくれれば良いよ。他の村からも慶賀の使者が何組か来ているからね。遠慮する必要は無いよ」


「歓迎して頂きありがとうございます。ヒノカワ様もご家族の方もお元気そうで何よりです」


 流石に、来客が多い。少しだけ時間を取って貰ったが、次の来客の為に辞去する時間が来てしまった。


「そうだ、ハヤドリも来ているんだ。村の何処かに居ると思うから会っていったら?」


「そうですか。探してみます。では、また宴会の時に」


 ヒノカワ様の所を出て直ぐに、センカワさん他何人かの顔役に捕まった。北部来連合との交流拡大について、色々話があるようだ。

 何でも、これまで数年に一度だったイモハミ婆さんの所への修行者派遣を1年に一人にしたいそうだ。文字についても興味をもっていた。戦士を交換派遣するようなアイデアもあった。

 別に悪い話では無い。だが、ワシの独断で決める訳にはいかない。北部大連合の新年の儀で詳細を詰める事にして、話が出来る者を返礼の使者に含めて欲しいと依頼した。

 センカワさんは、明らかにホッとした顔になっていた。何時もながら気苦労が顔に出ている人だ。


 そして、ハヤドリを探そうとしたら、若衆が広場の一角に案内してくれた。そこでは、ハヤドリ他、何人かの女性が話をしていた。一人は、ヒノカワ様の嫁で魔術士のメイさんだ。ハヤドリの妹のアイサイさんも居る。他にも2人居る。何の集まりだろう。


「あ! タツヤさ〜ん。あなたもお仲間なんだからコッチ来なさ〜い」


 メイさんが、ワシを見つけて、黄色い声を上げた。何の集まり? 何故ワシがお仲間なの?


「招待していただきありがとうございます。ところで、何の集まりでしょうか?」


「あきれた〜。イモハミ婆様(ばばさま)の元で修行した者の集まりに決まっているでしょ。姉弟子の顔ぐらい覚えておきなさい。

 あれ? ヤマナとシカマイとは、会った事……ある訳ないわねw ごっめ〜んw」


 お茶目な人だなぁ。でも、集まって何を話しているんだろう?


「其方の方が、ヤマナさんと……シカマイさんですね。初めまして、北部大連合の副議長を務めているタツヤです。(おとうと)弟子に当たります。宜しくお願いします」


 挨拶もそこそこに、メイさんが話を続けた。


「タツヤさんも説明してあげて、アイサイちゃんが、修行に行く事に怯えているの。私たちの時に比べると格段に安全だから、思い切って熊村まで行きなさいって」


「わたしそんなんじゃなくて……わたしの命は賭ると決めています。ただ、お兄ちゃんが死んだと聞いた日の事を思い出して……私みたいな、中途半端な娘の為に村の男の子を犠牲にする意味なんてあるのかなって」


 そういえば、ハヤドリとアイサイさんの兄は、重傷のまま置いてけぼりを食らって、一度は絶望視されたんだな。


「大丈夫だよ。ハヤドリの時に比べると、格段に安全になった。

 サバ村経由なら、不覚を取ることはまずあり得ない。伝令が行き来しているから、怪我人が放置される事もない。

 護衛と貝貨と村のカンバンを持っていれば、不安な事なんて一つも無い。

 修業者数も増えたから、仲の良い一生の友達も見つかるよ」


「ほら、タツヤさんもそう言っているでしょ。兎村からサバ村、サバ村から熊村は、完全に繋がっているのよ。繋げた当の本人の話を信じなさいよ。

 それに、このチャンスは、ハヤドリさんが、この半年危険を冒して闘い続けて勝ち取った物よ、海に飛び込む気持ちで踏み出すのよ」


 この世界で、海に飛び込めば、魚類型魔獣に襲われて死ぬ。『海に飛び込む気持ち』は、前世の『清水の舞台から飛び降りる』に相当する表現だ。


「メイ様ありがとうございます。この子も、突然の話で混乱しているだけです。相談する母も此処には居ない。自分の独断にならないか、躊躇しているだけです。

 ヒノカワ様のこれ程のご厚情、結論は決まっています。その事は、この子もよく理解しています。

 後で、私が姉として良く言い聞かせておきます」


 センカワ村長も、12話で登場済みでしたね。

 次話は、姉弟子たちとの会話が続きます。

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