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年末休暇の一幕~カマドの開発~

 戦士長会議がまとまったら、次は貝貨の貸付についての会議だ。対象となる村にとっては死活的に重要な問題であり、12月19日の朝一から、早速会議が始まった。


 とはいえ、この会議、貸す側の方が圧倒的に有利だ。10年で1割の利息も連合の総会での誓約も特に異論は無く、個々の村の借金の額についての議論になった。


 村毎の大まかな額が詰まった後で、別の議題が発生した。


「追加で借りたくなった場合は、どうしたら良いのだ? 北部大連合の総会は、新年と大戦前にしかない。大戦後に、実際に褒賞を払おうとして『実は足りない』という場合もある筈だ。

 それを見越して余分に借りるのは、村にとって余分な負担になる」


「総会では、村が借りる事の出来る貝貨の上限のみ定める。実際に借りる貝貨の数は、総会から3月以内に確定させて、利息が掛かるのはその分だけと考えている。

 大戦への対応としては、それで十分では無いか?」


「それだと、他の村々はわが村が貝貨を上限まで借りたと思い込む。実際には借りていない分まで請求されても、どの村も疑問を感じない」


「それなら、次の総会で確定した貝貨の枚数を報告すれば良いのではないか? 実際に貝貨を引き渡す際には、証人として他の村の者を同席させれば、問題が無いのではないか?」


 そもそも、村単位で大規模に貝貨を貸し借りするなど、例が無い。会議は、細かい手続きについて結構紛糾した。

 それと、どうやらこれを機会に、困ったときに借金をする方策が欲しいという意図が透けて見える。


「貝貨不足を貝貨発行村からの貸付で乗り切るのは、あくまで例外的なやり方だと考えて欲しい。矢鱈と貸付を増やすのは、タコ村やムツゴロウ村にとって、相当な負担だ」


「そうは言っても、いつ何時、背に腹は代えられないような事態が起きるか判らん。大きな災害で酷い冬になった例は、何回も見ている。その時、貝貨だけでも借りれればと……タツヤ殿はまだ若いから経験が無いだろうが、皆々同じ気持ちだろう」


「確かに、そういう問題もあるが、それは災害にあった村にどう援助するか、出来るかという話だ。貝貨の話とは切り離した方が良い。

 北部大連合で村々の経路を確保した後なら、これまでより親密に助け合えるようになる。連合の中で時間を掛けて信頼を深めて、互助の仕組みについても議論して行きたいとは思っている」


 ワシが、そう言っておさめて貰った。実は、村々の互助を税の導入の突破口にする事を考えている。それを、単に借金で解決されると、クニに向けての長期的謀略に狂いが生じてしまう。



 他の議題を含め、12月22日には全ての事前会議が終わり、ワシはトンビ村に帰還した。北部大連合は、新規加盟が9村──正規加盟7村と準加盟2村──あり、正規加盟48村・準加盟19村となる予定だ。余りに順調すぎて怖くなる。


 これから、連合の新年の総会まで20日近くある。もう一仕事できそうだ。


 この社会は、人が少なすぎる。一平方キロメートルあたり1人程度の人口密度では、どうにもならない事が多すぎる。しかも、どちらかと言うと、減少傾向にある。


 前世のように出生率の低下が理由では無い。子供は、沢山産まれている。イモハミ婆さんなど3男4女だ。しかも、イモハミ婆さんが極端に多い訳では無い。産んだ子供の数として7人は普通にある。

 それでも、人が減る理由は単純に死者数が多すぎるからだ。


 人口を増やすためには、戦死者数の軽減が最優先だ。それを達成したら、栄養と衛生が重要だ。だが、ワシの前世は考古学者だ。農学者でも医者でも無い。


 まあ、人口密度も低いし、稲作もある。食料確保は、例えワシが何もしなくても皆が色々手を打つだろう。

 妖魔が減った分、狩猟採集の効率もあがる。肥料になる草葉は、原野から幾らでも手に入る。そして、鉄の道具も確保した。田畑を広げるための土木作業もどんどん進むだろう。


 衛生状態の改善の為に欲しい物は沢山ある。水を安全にするための塩素、清潔さを維持する為の石鹸、消毒を行うためのアルコール、色々だ。

 機会があれば挑戦したいが、化学反応はイメージを伝えにくいし、ワシも経験がある訳ではない。短期間に成果を上げるのは無理だろう。


 色々考えたが、今回の休みではカマドに取り組んでみる事にした。今の竪穴式住居は、湿気が高いし、寒いし、煙い。カマドを作って煙さを減らすだけで、少しは病気が減るだろう。

 丁度、実験材料に良い物件もある。ワシの小屋だ。不在が多いし、何時でも実家に泊まれる。休みを利用してワシの小屋にカマドを作ってみる事にしてみた。


 弥生後期や古墳、奈良時代の遺跡には、カマドもあった。ワシは前世で何回も見たからイメージもある。

 竪穴式住居は、住居用に地面を掘り下げて作られる。その為穴の端は、数十センチの土手になっている。前世の遺跡では、その土手を利用してカマドが作られていた。煙道の為に、住居の外まで穴を繋げてあった。

 この世界に来てからは、カマドを見ていない。まだ、開発されていないという事だ。それもあって、此処を弥生前期相当の社会と考えている。仮に、カマドを作れば数百年に及ぶ技術革新になるかも知れない。


 何人かに手伝って貰って、早速作る事にした。先ずは、カマドを作る場所のかやぶきを取り除いて、作業しやすくする。そして、煙道用に土手に穴をあける。耐火煉瓦や粘土を積み上げてカマドの形にする。

 煮炊き時にカマドの中から土器を支える為に、形の良い石も用意した。火傷しないようにマキを入れる位置も工夫した。


 そして、非常に贅沢だが、火災に強くするため、カマド周りは漆喰を塗る事にした。完成まで、何日も掛ったが、パーフェクトだろう。


 後は、ゆっくりとアマカゼに使い勝手を確認して貰えば良い。


 上手くいけば、煙いのを軽減出来る。何より、 煮炊きの火力強化と時間短縮で料理の幅が広がるだろう。

 うまい飯は、人を元気にし、寿命も延びる……と良いな。


「タツヤ……、白いお塩を使いこなすのに苦労したけど、また、それ以上の苦労があるのね。

 これも、タツヤと夫婦になる私のお役目なのかな……」


 何故か! アマカゼが嘆いている。


次話は、ハテソラ師匠との密談です。

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