戦士長会議
新年の総会に向けての最初の根回しは、魔術士の秘儀の会議だ。余人に気付かれないようイモハミ婆さん他数名で集まって話をした。
議題は、魔術の才能持ちの探索についてだ。秘密に、一村一村探索範囲を広げる必要がある。
この件については、イモハミ婆さんが、弟子を呼んで根回しを進めている。
「悩んでいたが、小鳥も村の子供達全員への呼吸法の訓練には同意した。『何年か、呼吸法を続けさせると、魔力の伸びで才能の有無が判る。それが、少し早くなるだけ、そう思えば気が楽だ』
そう言っていた」
自分の子や孫の人生の選択に影響を与える問題、悩む者は多いだろうな。
翌12月15日からの戦士長の会議は、熊村に作られた大会議場で行われた。熊村の本村の堀の外に幾つかの小さい小屋と共に作られている。そして、防御用の柵が既に整備されている。
ざっと見て、幅10mに長さ40mはある。中に入ると、内側に一抱えもあるような太い柱が並んでいる。堀立柱だろう。床は土がむき出しだが、平坦になるように均しているようだ。出入口は比較的多いし、天井も案外高い。
そして、中に、2か所ほど他よりも高い部分がある。ひな壇として使うつもりだろう。
「どうだ、タツヤ。これだけの広さがあれば詰めれば200人程度は寝れる。少人数の密談用の小屋も何個か併設する。煮炊き専門の小屋もある。これで、連合がどれだけ広がっても対応可能だ」
「ブナカゼ村長、ありがとうございます。これで安心しました。短期間に大変な仕事をして頂いた事、どれほど感謝しても足りません」
「なに、これがあれば連合における熊村の地位が確実になるさ。村にとっても利益がある事だ。そんなに畏まらなくても良い」
「それでは、お言葉に甘えて、今日からの戦士長会議で使わせて頂きます。繰り返しになりますが、本当にありがとうございます」
そして、戦士長会議が始まった。とは言え、参加者が余りにも多数だ。最初の日は、殆どお互いの紹介に終始した。
12月16日には、リュウエンさん達も到着して、議論が本格化した。最初に、オオカゼさんによる原案の説明があった。
「聞き違いなのか? 女にも褒賞が出るように聞こえるが?」
「そうだ。部隊に随行する治癒術士の貢献も考慮する必要がある。部隊の後方での対応に貝貨1枚、部隊への随行に貝貨5枚、生き死に係わる重傷者の対応に貝貨3枚、部隊直近での対応なら貝貨5枚だ。
戦死者を軽減させた場合は、貢献を積極的に認めるべきだ」
治癒術士に対する褒賞については、結構な異論が出た。女に武勲を認めて良いのか? そういう感情的反発が強い。しかし、何としても此れは通すつもりだ。
「これは、主にワシの意見だ。一人でも戦死者を減らしたい。その為には、女性の治癒術士達にも勇気を振り絞って貰わねばならない。勇気を振り絞って、部隊直近で対応にあたった者に、褒賞を出さないのは、余りにもバカにした話だ。
ワシは、去年のスミレ坂殿の件で、それを痛感した。
なに、前線で敵を何匹も倒した勇者に比べて、褒賞が多くなることは無い。基準は『生き死に係わる』重傷者だ。自分の足で歩いて帰れるような者は、これまで通りの考えで対応する。そう考えると、それほど不公平な話ではないだろ?
ワシの顔を立てると思って認めてクレ」
ワシの強い意志に逆らえる者はいない。不満の色を浮かべた者が何人も居たが、了承された。
ワシが、この件を無理にでも通すのは、非常に実利的な理由だ。
連合の治癒術士──殆どが女性──に出来るだけSPを割り振りって魔術を成長させたい。
SPの分配の基準となる『戦果への貢献』は、別に神々が天上から公平に分配している訳では無い。
5ヶ月前の兎村での戦いでハヤドリを見ていて気が付いた。それは、妖魔を殺した者の主観によって決定される。
そうでないと、ハヤドリにSPが1──小鬼20匹に相当する──も割り振られる訳は無い。あれは、大半を始末したワシがハヤドリの貢献を大だと思っていたから起きた現象だ。
ならば、後方の治癒術士も戦士達に『戦果への貢献』を認識させれば、SPが割り振られるだろう。
心の中の主観的な価値判断を外から変える事は難しい。だから、婉曲な手を使うしかない。先に、慣例を変更させて、戦士達の心に影響を与えたい。
他にも何件か激論が起きた。だか、客観的に見れば、ワシとリュウエンさんの取り分を削って、広く分配しようという話だ。幾つかの変更はあったものの12月18日の夕刻には、合意が形成された。
連合による繁殖地殲滅戦に適用される新しい基準は、参加褒賞と戦果褒賞、敢闘賞の三つになる。
参加褒賞は、参加する者が若衆かベテランかといった基準で褒賞が決まる。戦果褒賞は倒した数だ。敢闘賞は、戦果にはカウントされない勇敢な振舞をした者を褒賞する物だ。
大鬼1匹あたりの褒賞を貝貨100枚から20枚に、小鬼1匹あたり10枚を5枚に変更して、その分を参加褒賞と敢闘褒賞に割り振る形になる。
総額も、減るはずだ。
さて、次は貝貨の貸付についての議論だ。此方も上手くまとめないと絵に描いた餅になってしまう。貝貨の現物を借りれなければ、褒賞を払える訳はない。
次は、貝貨関連の根回しと年末までの空時間を利用したタツヤの暇つぶしです。




