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ハテソラ師匠の講義

書き溜めが尽きたので、ここから、投稿ペースが週に一回に減っています。

 ワシの使命の本流は技術移植だ。戦闘や経済だけでは、全く不十分だ。アマカゼと作った学校やこの社会なりの知識人──ハテソラ師匠──との関係も重視しなければならない。


 リュウエンさんの方の作戦は、順調なら今日中に大鬼釣りが終わり、明日殲滅戦だ。リュウエンさんも戦士長達の会議に途中参加出来るかもしれない。


 翌早朝、リュウエンさんの出陣を見届けてから、トンビ村に飛行を開始した。12月14日の昼過ぎには、熊村に居たいが、それまでは、トンビ村で別の事が出来るだろう。


 トンビ村に戻って、久しぶりにフブキ文書の解読作業に参加した。何時も通り、皆でハテソラ師匠の所に集まった。作業中、師匠がワシ等に告げた。


「タツヤ、明日は予定を空けておいてくれ。千獣と交代で、野獣と魔獣の講義をするから、一緒に聞くようにしなさい。

 知識不足で下手を打ったと聞いた。お前がそれでは示しがつかない」


 確か、師匠に学校の事業への協力をお願いすると、アマカゼが言っていたな。師匠は、ワシの都合まで考慮してくれたんだ。


「有難うございます。あんな失敗は二度と無いように、知識を補充します。」


 そのまま暫く作業をしていると、ハテソラ師匠が奥から木簡の束を持ってきてワシの傍に来た。


「少し前に見つけた木簡だが、此処に興味深い事が書いてあった。人と妖魔と妖精の違い、野獣と魔獣の違いだ。

 フブキ様の説によると、魔獣は野獣が魔力で変化したもの、妖魔と妖精は人が魔力で変化したものとある」


「???それは、通説ですよね。それ以外の説を聞いたことがありません」


「良く聞け、『妖魔と妖精』だ。人が魔法で変化したものにも大きく分けて2種類あるそうだ」


「???妖精ですか? いや、そんなもの見た事無いし、ワシの魔術でもそれらしきものの反応はありません」


「私も見たことが無い。ただ、此処には、妖魔と妖精の違いが書いてある。魔力器官の能力の違いだ。

 自らの魔力器官で躰を支えられるものを妖精、支えられず邪気──大地に満ちる魔力──に依存する物が妖魔と分類されている。

 妖魔は、魔力不足による飢えから人を喰らうから不倶戴天の敵だ。だが、妖精は別段人を襲うような衝動が無いから共存可能だ。そう書いてある」


「クニ時代には、そんな者が居たのですかね」


「居たのだろうな。稀に人と人との間、妖魔と妖魔との間に生まれ、独自の強力な能力があったそうだ。私らは、まだまだこの島の事について理解が不足している。そうは思わないか」


「はい。ワシもそう思って、トンビ村に学校を作って貰いました。この村で一番物知りなハテソラ師匠が協力してくれればと望んでいます」


「wwお前は、私を忙しさで殺すつもりかいw」


           ◇


 翌12月13日の朝、ハテソラ師匠と千獣さんの講義が始まった。学校に来ている娘達が、口述筆記する予定だ。とはいえ、木簡も墨?も足りない。ほんの一部しか、文字に起こせない。


 この世界にも、一応筆はあるし、各種の色絵の具もある。黒は、煤と膠で作れる。贅沢を言わなければ、膠は色々な動物から採れる。小屋の周りに、作業した跡とかもある。きっと娘達が一生懸命に作っているのだろう。

 黒以外も、赤、青、黄色等、発色は微妙だが各種の色がある。


 赤と黄色は、土を原料にしている。赤土も黄土もそれぞれ採れる場所があるそうだ。青は、藍が存在する。藍が伝播しているなら、紅花もありそうだが……そちらは見当たらない。


 前世の考古学の知識では、弥生時代には両方とも伝播していないという結論だった。それに比べてどうなんだろうと思うが、地形も魔法の有無も違うんだ。前世と同じ歴史を辿る訳は無い。


 余談になった。兎に角、制約が多くて十分とは言えないが、記憶に頼っていた知識の集積を文字起こしで補えるのは、大きな前進だと信じている。


 とは言え、ハテソラ師匠も千獣さんもワシの知識強化を重視しているようだ。ワシの記憶力が高い事を知っているので、マシンガンのように話し続けている。凄まじい勢いに、娘たちは皆、涙目になっている。

 うーん、どうしたものか、文字起こしするにも、筆者が記憶している知識量が十分で無いと、上手くいかない可能性があるな。それに、文字だけでなく絵も無いと姿形は伝わりにくい。本質的には、誰かに一生の仕事として専念させる必要があるんだろうな。


 だが、この社会に、学者を抱えられるほどの余裕は、まだ無い。何十年か先の課題なのか?


 そうツラツラ考えていたら、ハテソラ師匠が、優しいのか? 厳しいのか? 娘たちに声を掛けて来た。


「木簡も墨も貴重だと言うのは判っている。だから、全てを書き写すことは望んでいないが、誤った事を残されると逆効果だ。原稿を地面にでも書いたら、私か千獣が見てやろう。明後日の午後に交代で時間を取るので、それまでに話し合って木簡に残す原稿を作っておきなさい」


 可哀想に、だが時間を置いたら記憶が曖昧になる、仕方が無い話だな。




 夕食は、村長の家に招待されて、一緒に取った。その時、今日の話が話題になった。ワシが、娘達の事を心配すると、村長夫人──アマカゼの祖母──が落ち着いた声で解説してくれた。


「ハテソラさんや千獣さんの話を一度に吸収しえない事は、意識しているよ。それでも今日、ハテソラさんにお願いしたのは、娘たちに目指すべき目標を与えるのが目的だよ。

 いずれは、村々で一番物知りな者を越える程の知識を残す。それが、タツヤさんが考えている目標ですよね。それなら、一番物知りな者は、どういう水準なのか先に見せておいた方が良い。


 明後日までの宿題については、村の若い男にフォローさせる。ハテソラさんの教育採取班を経験して、巡邏にも積極的な男3人に声を掛けておいた。文字は読めないが、娘達が原稿を読み上げて確認すれば問題ないだろう。


 村外の娘と近くで話す機会、鼻の下を伸ばして積極的に頑張ってくれるだろう。娘達の方が、何倍も多いから事件の可能性はない。それに、仮に恋が芽生えたら村としては儲けものだしね」


 この社会で何十年も村人を導いて来た立場の者は、ワシが考えるような事は、当然考えているのか……この件については、技術的な課題──筆記道具の製造力強化──についてだけ考えれば良いのかも知れないな。


次は、戦士長会議です。


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