漆喰の開発状況
漆喰開発の為のツバメ村とトンビ村の協議はあっさり妥結していて、ツバメ村から3人の男がトンビ村に来ているそうだ。
「小屋の増設を簡単に認めてくれたのは、実験台に丁度良かったからなの。タツヤが提案したシックイ? は作ってみて、固くなるのは確認できた。だから、家の作り方を変えられるかも知れない。
だけど、常時村人が住む家で試すと、失敗した時に困る。だから、日中だけ使用する学校用の小屋で試してみる事にしたそうよ」
アマカゼと歩きながら話していると、窯が見えてきた。人が集まって何か掘っている。
「新しい窯を作っているみたいだね。見てみようか?」
二人で近寄ると、焼き物を主導しているアオタマさんがやって来た。
「タツヤ様。何か御用ですか? 新しい、良い品が色々ありますよ」
「ああ、ありがとう。アマカゼと休暇を楽しんでいる時に、何か新しい窯を作っているのが見えたので、見に来たんだ。何を作っているの?」
「あれですか? あれは焼き物用ではありません。石灰とかいう石を焼くための窯です。単に、熱を通すだけ、造形とか全く考える必要が無いので、窯の形を変えて試してみるつもりです。
そういえば、漆喰もタツヤ様の発案でしたね」
「やはり、石灰窯だったのか。皆熱心に取り組んでくれて嬉しいよ。何か困った事は無い?」
「それは、直接担当している者に聞いた方が良いでしょう。
タツヤ様の疑問にお答えしなさい」
「ハイ。タツヤ様が紹介して下さった漆喰は、一応出来ました。後で、試作品をお見せします。混ぜる物や長期の変化、調べる事は、まだまだ色々と有ります。
だけど、小屋造りの者が、猛烈に欲しがっているので、直ぐに売り物になると思います。
困った事は……石灰岩を砕くのが手間な事位です。大きい石のままだと、火が通りにくく使い物になりませんから」
「そういえば、生石灰とか消石灰の扱いで、火傷したり目が悪くなったりした人は出ていない?」
「素手で触ると危険という事ですよね。確かに、私を含め何回か火傷した者が出ています。その都度、注意事項を徹底させています。目が見えなくなったりとかの酷い事は起きていません」
「え! 火傷するってどういうことなの? そんな危ない物を学校に使うの?」
アマカゼが、突然大声を出した。そういえば、アマカゼには説明していなかったかな?
「加工中のものを直接触ると火傷したりする。結構な熱さになる工程もあるから。だけど、壁に塗り込めて暫くすると問題無くなる。その筈だ。
そうだねぇ。その辺り詳しく聞いてみる?」
「別にいいわ。少し驚いただけだから。それより、新作焼物が見たいわ。良いのがあったら買ってくれるでしょ」
この社会でも、女性は買い物好きなのかな? でもまあ、デートぽくって良いかも。
「勿論だよ。アオタマさん。物を見せて貰っても良い?」
その日は、少しはデートぽく過ごした。鉄の鍬と斧の使い勝手を確認しに行ったら呆れられたけど。
翌11月23日は、ムササビ村に向かうことにした。忙しくて二ヶ月以上、様子を見に行っていない。皆、元気だろうか?
トンビ村から南約34㎞のムササビ村について直ぐに、カシイワ師匠の話を聞くことが出来た。
「心配する必要ない。順調だ。最近は3日に一回のペースで塊鉄炉を廻している。家族も呼び寄せた。食事が良くなって胸板も厚くなった。
どんどん仕事を回してくれ」
疲れ切った顔で言われてもな……
「体は、大切にして欲しい。皆の期待は高いが、造る者の健康を犠牲にしたいとは、誰も思っていない。
部隊を見ていれば、鉄造りの皆が頑張って成果を上げているのは判る。次々と鉄の武器を持った戦士が増えている。昨日、トンビ村で鉄の鍬と鉄の斧の使い勝手を確認したが、これまでの石の道具に比べ格段に効率が上がった。クマオリ村長がもの凄く喜んでいた。
繰り返しになるが、体は大切にして欲しい」
「判っておる。ソメアサにもクドクド言われている。ただな、こう自分の仕事が大きな影響を与えていると考えるとな、もっと気張らねばと思ってしまう。まだ、ワシも若い。余り心配しないでくれ」
確かに、周りで日常的に体調を観ている人が居るんだ。ワシがクドクド言うのは逆効果かもしれないな。
「私の方から、村全体の状況も説明するよ。皆疲れ切っているが、7村連合から家族や追加の男手の移民があってから、状況は改善方向に向かっている。さらに、ムササビ村の旧村民で帰って来た者も居る。人手の面は順調だ」
同席しているミナミカゼ村長から村全体の状況についての報告が始まった。
「本番用の塊鉄炉を3日に1回、それ以外に実験用の炉を10日に1回のペースで回していきたい。暫くは、塊鉄炉の燃やし方の改良に重点を置くつもりだ。実験したいアイデアは、10個以上ある。恐らく来年は今の大きさの炉の最適化しか出来ないだろう。炉の大型化に挑戦するのは再来年以降だと思う。
その間に、様々な体制強化が必要だ。炭も鉱石も集めるのに大変な人手が掛かる。今は、皆の限界を超えた頑張りで対応しているが、そんな事が長く続く訳は無い。
その対策として、七村には無理を言って、この村用の道具──木を切る為の鉄の斧と岩を砕くためのツルハシ──を優先させて貰った」
「居る間に、ワシも手伝うが、一時しのぎにしかならんな。何か、手は無いのだろうか?」
「ああ、勿論対策は考えている。要は、人手と物資の手配だ。周りの村に協力して貰えれば解決する。その下交渉も順調だ。
だが、交渉だから相手の利益も考える必要がある。ハッキリ言って相手が欲しいのは、鉄の武器だ。そのため、今は皆に無理を言って、生産力の強化に突っ走っている。
七村には、了解を貰っている。ここ数ヶ月のヤマを乗り越えれば、安定すると予想している。ギリギリの状態ではあるが、私も村長として勝算を考えて頑張っている。信頼して欲しい」
「他に、困っている事は無いか?」
「後は、貝貨の現物が何処も不足している事ぐらいかな? その問題は、タツヤ君の方で何か策を練っていると父さんから聞いている。タツヤ君の方は、何かこの村への要望とか無いの?」
「今で無くても良いのだが、木工の道具にも取り組んで欲しいと思っている。斧や手斧だけでなく楔も鉄で欲しい。
頑丈な楔があれば、木を割いて板が沢山作れるようになる。そうすれば、防具を量産出来る。さらに、家の作り方を変えられるだろう。
また、石では細かい道具は作りにくかった。鉄なら上手に加工すれば相当に細かい道具が出来るはずなので試してほしい。
木の表面を削る為の槍鉋と木を細かく掘る為の鑿も作って欲しい」
「どんな物をイメージしているのか詳しく聞かせて貰おう。神々から教示された道具造りと言われれば、張り切る者が沢山出るだろう」
次は、マワリ川村への打通戦です。




