クニに向けての謀議
ハモ村に行きライゾウさんと話をしたが、前の態度とは打って変わって、非常に友好的だった。『其方の連合と私らの連合で毎年、使者を送り合う事になっています。私らは既に友ですよ』と強調していた。心境の変化なのか、ヒノカワ様効果なのかは判らないけど、有難い話だ。
歓迎の宴の後、ヒノカワ様と二人だけで少し語り合った。
「君たちの北部大連合に刺激されて、どこも連合連合と流行だね。猪村連合とかマワリ川村連合とかハモ村連合とかさ。北部大連合の拡大の邪魔でクニを作るのが遠のくとか、君は感じたりするのかい?」
「いや。逆に有難い話だと思う。北部大連合が拡大できるかどうかとクニを作れるかとは、少し違う話だから。
連合が大きくなって自然にクニになるかと問われたら、成らないと思っている。
クニを作るのに必要なのは、村の数よりは、『クニ』という枠組みの必要性を理解して貰う事だと思う。
クニは、村々から様々な自由を奪う事になるだろう。そうしないと、クニが維持できないから。
村々から物資や貝貨を集めたり、若い男を集めてクニ直営の部隊を作ったり、クニの基準で裁きを行ったり、それがクニだ。村独自に持っていた様々な自由をクニに奪われることになる。
何故、そんな事を許さねばならないのか、疑問が一杯になると思う。現状で、説得しようとしても全く歯が立たないと思っている。
だから、先ずは連合して『不満はあっても同一方針で動く事の利益』を理解して貰うのが重要なのだと思う。そして、様々な負担を甘受する必要がある事の理解促進──意識改革──が必要と思う。
様々な、連合が出来る事は、その意識改革を進める上で大変助かる事だと思っている」
「……君の口ぶりだと、北部大連合とクニとは全く違うように聞こえるけど、そうなの?」
「そうだ。その通りだ。恐らくは北部大連合を母体にしてクニを作るのが早道だ。だが、村々の連合である北部大連合と村々を統べるクニとは、全く性質が異なる。北部大連合をクニに変える時には、参加する村々の大規模な入れ替えが発生するだろう。
クニに代わる時に、不満があれば村単位で離反する事を許容するつもりだ。そうしないと、流血の惨事が起きる。
そういう意味で、様々な連合が出来て、北部大連合の拡大が抑制されることは、ワシにとっては些事なんだ。今、意識しているのは、クニを動かしえる仕組みを少しづつ知識として広めていく事なんだ」
「……ハルイを熊村まで呼んだのは、その一環という訳か」
「ああ、貝貨をコントロールする為の仕組み──貝貨会議とか──の必要性も認識して貰う必要がある。意識改革の為に行う事は沢山ある。
ただ、まだ気付かれないように慎重にしないといけない。ワシ自身がクニへの色気を見せるのは、もう少し先だと思っている」
「はぁ~、君は結構、腹黒なのかも知れないね。まあ、でも安心した。君は、クニを作るために一歩一歩準備しているんだね。で? 何時頃建国するつもりなの?」
「ワシの成人と同時と考えている。慌てて失敗する訳にはいかないが、早く建国出来れば出来るほど良いはずだ」
「その頃には、僕は君に役目を引き継いで引退しているかな。でも、まだまだ元気だろう。だから、十分協力できると思う。頼りにして貰ってよいよ」
有難い話だ。だが、直接相談できる者がヒノカワ様一人なのは心許ない。そろそろ、この謀議への参加者も増やす時期かも知れないな。
翌11月22日、ヒノカワ様と分かれて、トンビ村に戻った。ハモ村からトンビ村へは東約77㎞だ、昼前にはトンビ村に帰り着いた。
「タツヤ。お爺様が、学校の為に小屋をもう二つ用意してくれます。また、お母さまとお婆さまも手伝ってくれることになりました」
何人かで集まった昼飯の途中で、アマカゼが話し掛けて来た。
「おお、それは良かった。それで挑戦してくれそうな娘は居た?」
「娘本人というより、出身の村の意向の方が重要ですけどね。何人か、村を説得しようと一時帰村しています。その結果次第でしょうね。でも、希望者が不足する事は無いと思います」
10日程前の貝貨の村々との会議後にアマカゼと話し合った件だ。折角、複数の村々から娘が学び合う学校を作ったんだ。文字だけでは勿体ない。村々の知識を集積する拠点に成長させようという話だ。
具体的には、次の3つについて、知識を集めて文字に落とすという大事業だ。
・この付近の草花や作物の特徴、生態、見分け方、育て方、利用方法etc
・この付近の動物について同様の知識集積
・この付近の村々の慣習──主に掟や裁きといった決まり事──について、村毎の違いを含めて
この文字の無い社会の場合、皆が普通に記憶している事柄だ。だから、理解が得られるか心配だったが、皆協力的で良かった。実は、ワシが一番欲しているのは3つ目だ。将来クニを作る時、無理のない形で法を作るには、現状がどうなのか整理する必要がある。
だが、ワシが一々聞いて回ったら、不審を買うかも知れない。村長夫人を目指す娘達の教養というカモフラージュがあれば、かなり楽になるだろう。
「本当に良かった。で、お婆さまは、学校長の役目を引き受けてくれた?」
「はい。単に、文字を勉強するだけなら、私が頭になっても不思議じゃないけど、それ以外の事も含むなら、『村長夫人の私の役目だ』と快く引き受けてくれました。私も重荷が減ってホッとしています」
年上の子が多くて、苦労してたからな。本当に良かった。
「これで、タツヤの使命に、貢献する事になるのかしら?
いえ、詮索するつもりは無いの。ただ、タツヤに課された神託の重みを考えると、心配で胸が辛くなるの」
この娘は不安だろうな。いずれ自分と夫婦になるハズなのに、その男の正体が判らなさ過ぎて。ワシが多くの隠し事をしている事を肌で感じているだろう。ただ、この場──他に何人も居る──では、話せない事が多い。
「うん。凄く助かっているよ。それと午後は、ゆっくり二人で村の周りを歩きたいな。難しい事が多かったから、少し休息が欲しいな」
そして、午後のデートの間に、アマカゼは、クニに向けての謀議の参加者になった。謀議参加者は、ワシとヒノカワ様とアマカゼの──まだ3人──しか居ない。まだまだだ。
次は、転生チート回です。




