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マワリ川村とコミュニケーションギャプ

「これからの予定について、教えてくれないかな?」


 翌11月20日の朝、何時もの修練をしていると、ヒノカワ様が近寄って来て聞いた。


「5日後にクワガタ村に再集結し、海沿いの打通をするつもりだ。可能なら、マワリ川村まで打通したい。

 根回しは順調と聞いている」


 クワガタ村はこの白ヘビ村から、南南西約38㎞の距離にある。そして次の作戦は、クワガタ村から南南東約40㎞のマワリ川までの6村の打通戦の予定だ。


「ハモ村の魔術士のライゾウと、少し誤解が有ったんだよね? それにしては、反省の色が薄いな。

 飛行出来る君が直接行って、面と向かって仁義を切った方が良くない? 僕も一緒してあげるから、今からマワリ川村に行こう。ついでに、誤解を解きにハモ村にも行こう。

 僕が一緒だとライゾウも話を聞くと思うよ」


 正直言って、有難い。ワシは、何故思いつかなかったのだろうか。


「有難い。大変助かる。是非お願いしたい。直ぐに他の用件を片付けるので、朝飯後まで待って貰えないだろうか?」


「アハハ、タツヤ君はせっかちだなぁ。突然、飛び込まれたらマワリ川村だって困るよ。今から、言霊を飛ばすけど、行くのは昼飯を食べてからだよ」


 それも、そうだ。


 そして、午後、ヒノカワ様と一緒にマワリ川村を訪問した。出迎えてくれたタイラさんと旅人小屋で話をした。タイラさんは、魔闘術を使える男性魔術士だ。もし、大戦に参加してくれると大変助かるだろう。


「4月ぶりですか。ヒノカワ様もタツヤさんも元気そうでなによりです。それで、どのようなご用件でしょうか? 恐縮ですが、言霊では今一理解できなかったので、改めてご説明して頂けないでしょうか」


「僕は、シャイなタツヤ君の付き添いだよ。タツヤ君がウジウジしているから、『直接、顔を合わせて説明しなさい』とお尻を叩いただけ。

 タツヤ君から説明するよ」


「長くなるが、背景から説明しよう。


 来年の大戦は、ここから北北東の無人地帯で起きる。それは、確定的だ。


 ワシら北部大連合は、大戦を有利にする為、各村の経路を確保する作戦を進めている。経路が確保されていれば、より早く、より多くの援軍が見込める。

 そして、5日後から、ここから北の海沿いの打通作戦を開始する。その為、100人を越える多数の戦士が動く。

 チョウ村やイシダイ村、可能ならこのマワリ川村も繋げてしまいたい。

 その作戦への理解と協力を求めに来たんだ」


「??? 使者の方にお答えしたように、夢物語を観るのは好きにすれば良いですよ。他人の心の中の物語にケチを付ける程に無粋では無いつもりなのだが……」


「??? イヤ、夢物語では無いのだが、『確実にマワリ川村に到達するか?』と問われれば微妙だが、八分は冬至までには到達出来る筈だ」


「一体なんの話を……」


「ほら。全く話が伝わっていないでしょう。タツヤ君。自分がどれ程に非常識な事をしているか自覚しなさい。


 タイラさん。

 僕から補足すると、本気も本気も、勝算も溢れる程ある。リアルな話だよ。

 タツヤ君は、この前会ってから今日までに繁殖地を50程度踏み潰した。速い時は、1日1繁殖地の勢いで殲滅したそうだ。

 僕も、戦いを見たけど、どんな大戦でも滅多に無い多数の戦士が参加していた。さらに、多数の鉄の武器を投入していた」


「……それは、何というか大変な……犠牲者が多すぎて大変な事態に……ご愁傷さまです」


「痛み入ります。高名なタイラ殿にそう言っていただけると、少しは亡くなった者の慰めになるでしょう。

 だが、犠牲を恐れて足踏みしてはいけません。次の大戦を少しでも有利にするため、先ほど言った打通作戦に協力して頂きたい」


「僕が、横から口を挟むのは、どうかと思うけど、タイラさんの『多数の犠牲』とタツヤ君の『多数の犠牲』で大きな食い違いがあると思うよ。タツヤ君が率いた部隊は繁殖地を50程度踏み潰した。その間の戦死者は2名だ。

 流石に、怪我人は何十人も出していたけど、治癒術士を多数かき集めて、短期間でどんどん回復させている。

 戦力は殆ど減っていない。逆に、戦訓を学んでどんどん強くなっている」


「……現実の話……! まさか、マワリ川村を奪い取ると宣言しに来たということか!」


「それは誤解だよ。そんな話に僕が付き合う訳無いでしょ。詳細はタツヤ君に聞いて欲しいけど、単に援軍が欲しいだけみたいだよ」


「ヒノカワ様の話の通りです。

 恥かしい話だが、事前の説明が不十分で、ハモ村のライゾウ殿の不信を買ってしまった。同じ失敗はしたくない。

 ワシらが望むのは、『妖魔を皆皆々殺しにして、安全に暮らしたい』それだけだと理解して欲しい。

 マワリ川村の不利益になる事をしたり、マワリ川村と他の村との仲を裂くような事は全く考えていない。

 それが、理解して欲しい事だ」


「その言葉が本当か確認させて貰おう。確認の為に人を送るが構わんな? それと、チョウ村とイシダイ村は、ウチの村の弟分だ。彼らを害するのは、マワリ川村を攻撃するのと同義と心得て貰おう」


「勿論だ。何時でも人を送ってくれ。自由に村々から実情を聞いて欲しい。それと、チョウ村とイシダイ村からもマワリ川村との特別な関係を聞いている。当然の話で、全て了解している」


「で? 協力とは何だ? 出来ること出来ないことがある」


「一番、大きな話は、ヒノカワ様が言ったように援軍だ。打通作戦だけでなく、来年の大戦でも援軍が欲しい。慣例通り、可能な範囲で良いが、援軍が無いと此方の面目が立たない」


「構わん。と言うか、当然の話だな。詳細は、村長や戦士長と話してくれ。何か他に、ロクでもない話があるのか?」


「打通作戦には、100名強の戦士に加え女性も20名弱──治癒術士や見習いや護衛が──参加する。マワリ川村周りの作戦分について寝泊まりする場所と食料・水が必要だ。また、手柄を上げた者には褒賞も必要だ。

 それらの手配に協力して欲しい。


 根回しは十分と聞いていたが、先ほどの話を考えると……」


「申し訳ない。夢物語と思って気楽に答えていた。約束した量は準備していない。特に貝貨は全く足りない」


 同席していたマワリ川村の村長が、慌てて話し始めた。余りのふざけた話に、頭が痛くなる。


「ウチの村周りの妖魔を倒す分なら、確かにウチが手配すべき事だ。だが、そんなに大変なのか?」


「タイラ様本当に恐縮です。短期間なら、寝床や食料・水は何とかなります。冬の蓄えが減りますが、妖魔の肉なら沢山手に入ります。日数が経って臭くなるのを我慢すれば、この冬を乗り切るのに問題ありません。ただ、貝貨は、最近は欲しがる商人が多くかなり減っています」


「最度、詳しい者を派遣する。良く調整してくれ。事前に判っていれば、何か手の打ちようがある筈だ」


 そして、マワリ川村で簡単な歓迎の宴を開いて貰い、翌日の11月21日朝にハモ村に向かって飛び立った。

 島の西岸にあるマワリ川村から東岸にあるハモ村は、北東に113kmもある。幾ら中継点があってもすごい強行軍だ。

 文句言わずに同行してくれるヒノカワ様、幾ら感謝しても足りないだろうな。


次は「クニに向けての謀議」です。

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