ハヤタカの旅立ち〜思い出へ〜
酷い死に方をする場面があります。
戦士達は、全員配置についている。後は、何時も通りに殲滅するだけだ。
11月19日の昼前、名前付きボスや猿妖が居る標的Dから約800歩の位置、ワシは周りを見渡して、全ての準備が整っているのを確認した。
「攻撃を開始する、皆心して掛かれ」
「「……「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」」……」」
大地を揺るがす雄叫びの中、ワシは超遠距離攻撃を開始した。これだけの人数の雄叫びと、上空から飛んでくる必殺の矢、奴らも混乱する筈だ。
だが、流石に名前付きが居る繁殖地、名前付きを中心に一弾となって、此方に向かってきた。
此方も負けてはいない。何回も経験を積んでいる。防具を装備した戦士も多い。殺れる筈だ。
ワシは、ヤバイ奴らを始末する事に全力だ。接敵前に名前付き、魔術持ち小鬼、弓持ち大鬼は始末出来た。だが
「上方警戒! 樹冠から此処に突進してくる奴がいる。猿妖だ!」
それは、ほぼ接敵と同時だった。
ワシとヒノカワ様は、弓持ち小鬼への火炎攻撃、主力の打撃部隊は、接敵した正面の敵の制圧で手が回らない。その最中、猿妖が弓専念の若衆達に襲い掛かった。猿妖なりに殺り易い相手を選んだのだろう。
「うぎゃー!」「やられた!」「お、斧はどこだ!」「馬鹿野郎、同士討ちする気か!」
部隊内で最も近接戦が苦手な者が集まっている。そこに、三次元機動をする敵が襲い掛かったんだ。見なくても、混乱し被害が広がっているのが判る。
そして、接敵から30も数える間に、残る敵は数える程に減り、後方の騒ぎも収まった。ワシは予定通り、瀕死者の救命に当たる事にした。
まず、猿妖に襲われた若衆の元に向かったワシは、一瞬足がすくんでしまった。
人と猿妖が絡まって死んでいる。あれは、女狐村のハヤタカだ。強い意志を宿した目が特徴的な、まだ16歳の若衆だ。
動きを止めようと抱きついて、その状態で猿妖に斧で滅多打ちにされたのか……そして、死んでも猿妖を離さなかった。そういうことか。
いや。今は一秒でも貴重だ。悼んで立ち止まる時間すら惜しい。
「残念だが、ハヤタカは戦死した。彼の勇気に報いる為にも犠牲者を減らさねばならぬ。
ワシも、一人でも多く瀕死の者を助けたい。状態が悪いものは何処だ!」
カツを入れる為に、そう叫んで、瀕死者の救命を急いだ。
この世界の治癒術は非常に効果が高い。前世の医療技術で手の施しようが無い大袈裟でも、数分以内に治癒術を掛ければ救命できる事が多い。だから、戦闘後のこの時間は、とてつもなく貴重だ。
山火事にならない程度に火を抑えた後で、ヒノカワ様も救命に参加してくれた。そのお陰もあり、戦死者はハヤタカ一人で抑えられた。
その日、部隊全員日没までには白ヘビ村に帰還し、戦勝祝いの宴が行われた。その宴もたけなわの時、ヒノカワ様がワシに近づいて来た。
「くよくよしているみたいだが、戦勝祝いなんだから、もう少し明るい顔をしろよ」
「ああ、悪かった。ついつい、考えてしまう。今、難しい顔をすべきで無いとは思うが……怪我で今苦しんでいる者、戦死したハヤタカ……思い浮かべてしまう」
「別に、想うなとは誰も言わないさ。ただ、ムッツリ難しい顔をしていると、戦い振りに不満を持っているようにも見える。それだけさ」
そうだな、誰も心の中など読めはしない。要らぬ誤解を生みそうだな。
「拙いがワシが舞を披露しよう」
広場の真ん中に移動し、息を整え、そして
「あの人は夜明け前に〜」
この舞は、熊村のフカボリ──ワシにとっての最初の戦死者──を悼んで作られた曲だ。
戦いの経過に沿って、明日への希望と野心、勇気と熱意、そして苦闘と哀悼が歌い上げられている。ワシらの戦いと伴に村々に拡散している。
本来、女舞の曲だが、ワシにも舞えるようなアレンジがある。
ワシらの戦いに関係する歌としては、シカ村の戦いを扱った物もある。勇壮な唄と踊りであり、男は、通常そちらを好む。
でも、今のワシの気持ちを表現するには、この舞の方が良い。
「~そして、今日も思い出を風に流す」
舞い終わった。何時の間にか、皆に注目されている。そして、自然と言葉が湧き出てくる。
「今日、ハヤタカは類を見ない勇気を示して、皆の記憶の中に旅立った。
他の皆々も、等しく命を懸けている事は理解している。勝利の為に命を惜しむ者などいない事も理解している。
だが、やはり一人一人かけがえのない命。失ってよい者など一人としていない。
だから、損害を減らしたい。慢心せず更なる完璧な勝利を目指さなければならない。それに皆々協力してくれ。
ワシも誓おう。何れ、この島から妖魔の巣を全て駆逐すると。皆々の力があれば可能なはずだ!」
「「……「「うぉぉぉぉぉぉ」」……」」「「……「「妖魔は皆皆々殺しだ!!」」……」」
皆、口々に叫び出し、踊り狂い始めた。きっとワシの気持ちも素直に伝わってくれただろう。一人一人大切な命だが、それを惜しんで歩みを止めてはいけない。滅ぼされる位なら、どれほどの犠牲を払おうと、逆に滅ぼすのが当たり前だ。
宴が終わった後、解毒で酒を抜いたヒノカワ様に呼び出され、半月を見上げながら二人で話をした。
「余りの大言壮語にビックリしたよ。君はモット地に足を付けた思考をするものだと思っていた。
名前付きは狩っても減らない。その事は説明したよね?」
「勿論、覚えている。そして信じれないかも知れないが、地に足を付けて思考しているつもりだ」
「???それなら不可能事をあえて口にしたの? あれだけの戦士の前で平然と嘘を付いたという事? 嘘を言っている顔には見えなかったけど、実は上手い嘘の付き方を神々に習ったの?」
「ヒノカワ様に名前付きが減らない事は聞いた。
だが、実は、滅ぼす事は可能だ。ワシは確信している。
ボス大鬼が進化して名前付きになる。なら、この島のボス大鬼を皆殺しにすれば良い。それでも、ダメなら大鬼を一匹残らず殺せば良い。
七村連合が安全圏を作ってから約1年、色々な魔物が湧いて来た。そして確認出来た事がある。大鬼はイキナリ湧いて来たりしないんだ。だったら、名前付きボスも同じだろう。名前付きボスになる元を全て絶てば良い。
つまり、島全体を安全圏に変えれば良いだけだ。皆の前で語ったのは、その決意だ。ワシは本気だ。」
「……君は、それを地に足が付いた思考と言うのかね?……言うのだろうな……よく考えたら、君は、開眼した次の日に兎村までの打通を語るような魂を持っているのだったね。
つまりは、僕の視野が狭すぎるだけなのか………………ガハハハハハ
強がり笑いする位しか出来ないけど、僕は君の将来構想に全面的に協力するよ。改めて、宣言する」
次は、マワリ川村に行きます。




