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女性達の根回し〜貝貨の貸付〜

 11月11日の日の出と共に熊村に向かい会議に参加した。もっとも、先に来ている者も多く、意見交換は進んでいるようだ。


 まずは、貝貨の発行村と連合の会議だ。


 連合の代表は、ワシの他に連合の実質金庫番である熊村長夫人のアマミツさん

 タコ村からは、カニハミさんとマコさん

 ムツゴロウ村からは、アオミさんとアキミさん母娘

 猪村から、貝貨の責任者のハルイさん


 そして、記録係として、マコさんの娘のカイナさんが同席している。


 ワシ以外は、全員女性だな。まあ、この社会では普通か。戦いや力仕事でない分野に男性を張り付ける余裕がない。男女の役割分担の公平さを気にするのは……何世代も先だろう。


 お互いの自己紹介が終わって直ぐ、猪村のハルイさんが発言を求めた。


「連合外の猪村から参加して、不審に思われる方も居るでしょう。一つだけ、お話しておきたいことがあります。


 ヒノカワ様は、何れ北部大連合に参加すると公言されておられます。タツヤ様がヒノカワ様を継げる実力と実績を身に着けた時に、猪村を盟主とする村々を率いて北部大連合に参加すると。猪村の村人は全員それを知っています。

 だから、出来るだけ北部大連合との協力関係を深めていきたい。貝貨の運用について協力できるなら、是非協力したいと思い此処に来ています」


 確かに、ヒノカワ様はワシにそんな事を言った。更に、村人全員にも周知しているのか、全く隠す気が無いんだな。


「会議への参加資格については、誰も疑問に思っていません。連合内だ連合外だなどと言うのは馬鹿げています。貝貨は何処へでも流れていく物なのですから、貝貨の運用を安定させるためには、幅広い協力関係が要ります。

 北部大連合としては、出来れば現在貝貨を発行している7村全てと協力し合いたい。私もタツヤさんも同じ思いです」


 熊村のアマミツさんが、連合の金庫番として、発言した。確かにワシも完全に同じ思いだ。一方……


「此処に来て、一つ疑念を感じているの。貝貨の関係村だけでなく、何故連合がこの会議に参加しているの? 不思議だわ。連合は、私達から貝貨の発行権を奪って、昔のクニみたいに自ら貝貨を発行するつもりなの?」


 ムツゴロウ村のアオミさんが、厳しく質問してきた。一月半前のマコさんとの会議からジックリ考えていた問題だ。


「その問題について、連合内では何ら議論されていない。だから、これはワシの個人的意見ではあるが、その懸念は無用だ。

 貝貨の発行権を連合が持つのは、速やかに祟られて連合が崩壊するだけだと、ワシは判断している。

 何と言っても、貝貨が祟る事を理解している者が少なすぎる。下手に発行権を持つと、乱発してしまうだろう。ワシとて、全村が集まる連合の総会で押し切られたら、抵抗しきれないかも知れん。

 そんな目に会いたくは無い。だから、貝貨の発行権を奪うという議論が出たら、ワシが阻止する。また、裏付け無く貝貨の現物を寄こせと要求することも、同様にワシが阻止する。


 だが、連合の維持と発展には貝貨流通量を増やしてもらう必要がある。今、彼方此方で貝貨の現物が無くて困るという話を聞く。

 何か手を考えて欲しい」


「具体的には、貝貨自体を貸し付けるアイデアね。私の個人的な意見では『有り』だわ。但し、連合の全面的な協力が必要よ。

 貝貨を利子付きで貸し出せば、貝貨の流通量が増えるわ。そして、何年か先に貝貨を返すために、その村が貝貨を回収しようとする。利子分は、貸し付ける村の儲けとして、上手く放出すれば良い。


 理屈では上手く行くはずね。普通は難題になる事も、今なら解決出来る。


 これまでは、何年も前の約束、素で素っ(とぼ)けられる可能性があった。だけど、今はカイナが学んだ文字と数字で証拠を作る事が出来る。


 本当に酷い不幸が起きて約束の年限で返せない場合も、別に困らないわ。流通量というか、相場の監視を怠らなければ良いだけ。別に、深い恨みを買うような取り立てをする必要はない。


 でも、開き直られたら困るの。よその村から、実力で取り立てる。そんな事、出来ないから。そして、何処か一村でも開き直りに成功したら、一気に崩壊する。あっという間に貝貨に祟られて地獄行きだわ。


 だから、そんな危険なこと出来ない。ムツゴロウ村も猪村も同じよね?」


「当たり前だ」


「その点を連合が保証してくれるなら、成立しえる」


 まあ、そういう話になるな。


「ワシも考えたが、二つ理解して欲しい。

 一つは、余り強硬な取り立ては、連合でも無理だ。取り立てに戦士を送るなど、話が出ただけで、連合が崩壊しかねない。

 二つ目は、連合が立て替えるのも困る。それは、開き直りを許す事と同義だ。

 開き直った時に、恥知らずとして総会での議題にする程度しか出来ない。そう考えると、貝貨を貸し付けること自体を、総会での決議事項にした方が良くなる。とすると、今から根回しをしないと間に合わない」


「「……」」


 何故か絶句した者を置いて、マコさんが、引き続き話を続けた。


「開き直ったら、何十もの村々から目の敵にされるなんて、何時もながら(むご)い事を考える人ですね。タツヤさんは……

 でも、それなら最後の問題も解決です。後は、何時頃、どの村にどの程度の貝貨が必要になるかですね。連合の方で試算は出来ていますか?」


 オオカゼさんと議論していたから、規模はある程度推定出来ているが……


「せめて、戦士への褒賞は、キチンとしておきたい。村間の貸し借りも発生しているが、そちらは清算に時間が掛かっても止むを得ないだろう。

 だが、例え褒賞に限っても、膨大な数だ。当座の必要量だけでも、一村当たり100枚の貝貨の組が5から10組、それが20村程度。100枚の貝貨の組が100組の更にその2倍だ。

 こんな量、現物があるかも疑問だし、一度に放出されたらどうなるかも甚だ心配だ」


「カイナから聞いていますが、タツヤさんは数の単位として100の10倍を千、100の100倍を万と考えていますよね。この場では、それを採用しましょう。


 貝貨の在庫は問題ありません。2万や3万ならタコ村だけでも対応できます。


 放出量が適当かどうかは、ムササビ村の生産力増強によりますが、多分大丈夫でしょう。褒賞を受ける戦士達が欲しがる魅力の商品は、鉄の武器です。

 大船が持ってくる物に比べまだまだですが、鉄の武器が破格──貝貨数百枚──の安さで手に入る。各村の戦士達が貝貨を集めて、供給待ちをするでしょう。

 七村連合さんが、ムササビ村からの貝貨の流れを監視すれば、そこでコントロールも効きます」


 その後、マコさん主導で具体的な議論は進んだ。返却期間は10年で利息は一割と、前世に比べても格安に設定された。安く済むのは『連合による裏書』があるからという説明を行う事も合意された。

 本音は違う。真の目的を考えると、利息は低く設定する必要があるというだけだ。『借りるのは損』と思わせる程度の利息で良い。


次は、夜中の襲撃です。

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