表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/126

婚約者との休日(後編)

 少しでも、アマカゼと話す機会を多くして、関係を安定させる必要がある。この社会では、女性を貢物扱いする事もあるので、隙を見せれば……直ぐに婚約者が増えてハーレムものになるだろう。

 そう思っていたので、その日はそのままアマカゼとデートして過ごす事にした。まあ、散歩以外に出来る事は無いんだが。


「そう言えば、合宿の話を聞いていなかったな。何か困った事とかはあった?」


 アマカゼは、付近の村々の少女を集めて文字の勉強のための合宿を行っていた。忙しくて、その成果を聞いていなかったのを思い出した。


「困った事は、道具が少ないことかな? 木簡を沢山作るのも大変だから、練習では専ら地面に書くしかなかったのよ。地面にへたり込んで文字の練習をしている姿は、恥ずかしくて、あまり男の子とかに見られたくない。皆そう言っていた」


「簡単でも良いから、机が要るのか、でも小屋に置くと邪魔になりそうだな。合宿場所もなんか考える必要があるのか……

 と、それより成果はどうだった」


「思いっきり見せびらかしたわよ。タツヤの小屋を自由に使うのを見せて、婚約者の地位をアピールしたわよ。

 構わないでしょ」


「勿論だよ。ケジメは必要だけど、基本好きにして良いよ。

 何年か先には、アマカゼにとっても家になるのだから、アマカゼの気にいるようにした方が良いよ」


「バカ! おませ!」


 イカンイカン、まだアマカゼは11歳、恥ずかしい年頃だ。


「文字の方では、何か進展があった? ユメイロさんの話以外にも気付いた事とかある」


「皆、熱心だったわ。それと、美しく描く事に関心が集まったわ。後は、何か手本があった方が練習しやすいと感じた。それもあって、ユメイロさんにも声を掛けたの。個々の文字に名前を付けるアイデアと合わせて、最初に使う手本を今考えているの」


「文字の種類が不足しているとか、混乱するとかの話はあった?」


「気づいた事は何個かあるわ。無意識の内に別の音を発している事が結構あるのよね。正確に書き落とした方が良いのか? 元の文字のままにした方が良いのか? 結構議論になったよ。

 タツヤの意見通り、今は特に決めない。ただ、そういう変化の存在を意識するとだけ伝えたけど、良いのかな? 結構、どちらが正しいのか……というか、どちらの方が『女として偉いのか』ってそういう話になってしまうのよ」


「そこは、皆々の意見を十分熟慮した上で、『アマカゼが決める』『アマカゼが決めた事が正しい』とするしかないな。

 議論しても決まらないから、誰かが責任をもって決めるしかないんだ。アマカゼ文字の責任者として頑張って欲しい」


「アマカゼ文字? 何それ? 初めて聞くわよ? 」


「アマカゼの名前が後世まで残るのは、恥ずかしい? 島の外には、幾つもの種類の文字があるはず。だから、この文字全体に名前を付ける必要がある。そこで、最初の責任者であるアマカゼの名前にしようと思っているんだ」


「一寸待ってよ! 恥ずかしさで身悶(みもだ)えるわ‼ 私の地位を確実にするのに有効だって判るけど、心の準備が出来ない」


「あはは、そうだね。しばらくは『文字』とだけ言うことにしよう。だけど、この文字の責任者はアマカゼなのだってことは強く意識させてね。少しずつ異なる文字が出てきたら、収拾がつかないからw」


 アマカゼは、真っ赤になって無言で歩いていた。暫くすると気を取り直したようで、話を再開した。


「おじい様が、丘の方向に村を広げる事を考えているのは、聞いている? そこに、文字を勉強するための小屋を確保できないか、相談したいの。タツヤはどう思う」


 アマカゼは、トンビ村のクマオリ村長の孫娘だ。だから、年下のワシの婚約者に指名されたのだが、健気に自分の役目を果たそうとしている。ワシにとっても押し付けられた婚約者だが、そういう姿を見ていると、良い娘だと感じる。


「もう、虐殺が起きてから70年程度は、経っているんだよな。慰霊祭を行う必要はあるが、もう墓地扱いする必要は無いかも知れない。良いんじゃない。賛成するよ」


「墓地??? 何の話なの???」


「隣の丘は、何十年も前、中つ国の王宮があった。今のトンビ村より遥かに多くの人が住んでいたんだ。でも、ある日、人同士の争いで焼き討ちと虐殺があって、クニが滅んだ。

 その後、生き残った人々を保護するために、フブキ様がトンビ村を作ったんだ。フブキ様が残した中つ国の歴史に書かれていた。

 そんな経緯があるから、丘には見張り台しか無いんだ。

 でも、虐殺があった事を直接知っている人はもう殆ど居ない。クマオリ村長ですら、焼け跡すら見ていないだろうからね。慰霊にさえ気を付ければ、小屋を増やすのに適地だよ」


 クニ時代の最後の大魔術士のフブキ様は、多くの貴重な知識──フブキ文書──を残してくれた偉大な知識人でもある。だが、40年以上前に亡くなっている。直接会った事がある人も、もうごく少ない。時が流れるのは寂しい事だ。


「そんな話があったの。で、合宿所を作ることは賛成してくれるんだよね」


「ああ、大きな連合になれば、同じ事を何か所にも正確に伝える必要性が増えるし、色々な約束事も増える。文字が扱える人を増やしていく必要があると思っている。出来れば、村毎に数人ずつは必要だ。

 合宿所は早急に必要になると思う。それに、女性の視点で離れた村の事情を知る機会を増やす効果もあるだろう。もしかしたら、美味(うま)い飯の情報が手に入るかも知れない。アマカゼの作るご飯のバリエーションが増えるのは楽しみだw」


「バカ」


次は、多忙な女性師匠です。



 前作を読んで居ない方の為に、昔のクニの設定です。


 この島には、元々100以上の村々を従えたクニが3つありました。

 109年前に魔術と魔物と妖魔が同時に生まれ、その後30年程でクニは村々の信頼を失って全て滅亡

 主人公のいる辺りは、そのうち中つクニと呼ばれていました。

 主人公は、クエストの報酬として、クニの歴史書を記憶しています。また、本文で出てきた「フブキ様」が書き残したフブキ文書の現物も確保しており、それは我々の世界の周代の金石文と同じ文字で記されています。

 この島には、独自の文字が無いため、フブキ様は外国語で文書を作りました。そして、タツヤは前世で考古学者だったため、ある程度は読めます。

 超文明が何らかの手段で文化・文明をコピーしたとタツヤは推測していますが、地球と同じ文字がこの世界に存在する本当の理由は、未解明です。


H30.5.13補足説明を後書きに移動


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ