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裁判というのかこれ?(前編)

 ワシは、この凶悪な強姦殺人に対して、思いつく限りの初動対応をやり続けた。

 ・昨晩の山椒村のカズナさんとスナメリ村のタカトビの行動を見た者の洗い出し

 ・タカトビの尋問

 ・タカトビの体の確認──殺害時に抵抗されて出来る傷が無いか──

 ・現場の遺留物の捜索

 ・スナメリ村の戦士が、遺族を傷つけるような発言をしないように言い含める


 事の重大さを理解してくれた者は多く、皆協力的だった。スナメリ村の村長も同様で、相当の強行軍で、予想より1日早く山椒村までやって来た。


 スナメリ村長が到着する頃までには、捜査も進捗しており、前世の基準でも『疑う余地なし』と言える状況になっていた。

 ワシも新たに習得した『嘘看破』という魔術を使って、タカトビを尋問したが……やった事を隠す気が無いのか、拍子抜けする程に確実な事が判った。


『関係するのは、結婚してから』とカズナさんに拒絶された事が犯行の動機だ。何とも見下げ果てた奴だ。情状酌量の余地が欠片も無い。


 しかも、ワシは戦を有利にする事しか考えていないから、戦士を失うような事はする筈ない。などと、ワシも相当舐められたものだ。


 11月5日のまだ朝早い時間、到着したばかりのスナメリ村長に同行する形で山椒村長の小屋に向かった。


「この度は、わが村のタカトビが碌でもない事をしでかして、本当に申し訳ない。深くお詫びする。スナメリ村として遺族の方には出来るだけの事をさせてもらう。

 タカトビの事だが、山椒村で追放刑に処するのなら、何ら異議は無い。わが村の者が処断を妨害したりとかは絶対にありえない。もし、あんなロクデナシの血で斧が濡れるのは汚らわしいとかあるのなら、わたし自身が手を下しても良い。無論、皆々様が見ている前でだ。


 遠い、見知らぬ村の者に、未来ある娘が殺された親御さんの事を考えると、わたしも胸が張り裂けそうだ。見せしめの為にも、是非とも処断をお願いしたい」


 途中で事情を聞いてきたのだろう。スナメリ村長は、会頭一番、謝罪の言葉を述べた。まあ、誰もタカトビを擁護する者などいないのだろうな。


「これで、奴を血祭にして良いな? 深く恨んでいる者が何人もいる。無論、山椒村の方で処断する。

 タツヤ殿も異存無いな?」


「ああ、他の課題も全て片付いている。タカトビの裁きを行う準備は整った。今から、人を集めて今日中には処理しよう」


「人を集める? 一体何の話だ?」


 山椒村長が疑問の声を上げた。説明したつもりだったが。まだ、不足していたようだ。


「何度も説明したように、大連合は広い。下手な事をすれば、針小棒大に妙な噂が広がるだろう。また、人は自分に都合よく考えるものだ。追放刑では、『実は、殺されずに何処かで暮らしていけるかも?』などと、都合よく考える者が出るだろう。

 それでは、見せしめとしては、全く不十分だ。それどころか逆効果になる可能性もある。


 だから、大勢の前で、タカトビの罪を明らかにする。同じく、大勢の前で、タカトビが厳罰に処された事を明らかにする。出来れば、冷静な判断でそれを行い、決して不公正・不合理な扱いをする気が無いことも示す必要がある。


 海の向こうの言葉で『裁判』、クニ時代には普通に行われた儀式を行いたい。

 その為に、人を集める必要がある」


「裁判とやらの為に、更にタカトビを長生きさせようというのか‼ 何時まで待たせるつもりだ‼」


「先ほど、言ったように、今日中に終わらせる。既に、十分すぎる程の証拠が揃っている。また、これまでの慣例や今後への影響についても十分議論し尽くした。今日の日没までには、タカトビの処分まで終了する」


「因みに、タカトビをどう処断するつもりだ?」


「慣例では、強姦殺人は、追放刑という名のなぶり殺しだ。だが、多くの人の前で、なぶり殺しにするのは、流石に悪影響の方が大きい。速やかに、確実に、息の根を止められる手段を考えている。首を縄で絞めて木から吊るせば、早ければ一瞬、遅くても見ている間に死ぬだろう。海の向こうの言葉で『絞首刑』と呼ばれる方法を取りたい」


「「…………」」


「……首を絞められて殺されたカズナと同じ目に合わせようという趣旨か……タツヤ殿は、年に似合わず恐ろしい事を考える……」


 うん? 追放刑の時は、実はもっと穏当な方法を使っているのか?


「いや、ワシは追放刑にされた後については、見た事が無いから、十分理解していない。大勢に見せても問題がより少ない方法があるなら、其方に変えても良いが……何かあるのだろうか?」


「「…………」」


「横から、口を挟んで申し訳ない。

 タツヤ。驚かれているのは『絞首刑』が残虐だとかの話じゃない。具体的な殺害方法を冷静に話す事自体に驚かれているんだ。

 今言った事を、一から考えたのだとすると、人を殺害する事に慣れているとしか思えない。何度も何度も人を殺した事があるから具体的な殺害方法を検討できるのでは??? そう、誤解されているんだ。

 タツヤ。『絞首刑』はフブキ文書での知識で、タツヤ自身の考えでは無いんだろ? その辺りを説明しておかないと、要らぬ誤解を生むことになる」


 同席していたオオカゼさんが、横からフォローを入れた。アチャー、失敗した。山椒村長もスナメリ村長も怯えているよ。


 フブキ文書──昔のクニ時代の多くの話が載っている木簡群──の話を少しして、山椒村長もスナメリ村長も納得し、少しは安心してくれたようだ。

 毒気も抜かれて、裁判にも全面的に協力してくれることになった。特に、スナメリ村長は、誰もが嫌がる弁護人の役目を引き受けてくれた。


「やった事については、ハッキリ言って反論不可能だから、スナメリ村がタカトビに一生掛けて償わせるから、『スナメリ村に任せてクレ』程度しか言えんが、それでも良いのだな?」


「構わない。何ら、弁明の機会無く、処断する事を防ぎたいだけだ。

 今回の件は、正直弁護人無しでも良いかも知れんが……弁明の機会も無く裁くのが、前例になるのが困るだけなんだ。

 タカトビを庇うように見られる嫌な役目だが、誰かにやって欲しかった。引き受けてくれて本当に助かる」


 裁判官も検察も弁護士も談合済み──前世の基準なら『茶番』──だが、裁判を開く所まで漕ぎつける事が出来た。



後編に続きます。

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