ライゾウの怒鳴り込み
作戦は、順調に進行し10月26日には、ナマズ村まで到達した。そこで、意外な人物の訪問を受けた。ハモ村の魔術士ライゾウさんが村長を伴ってやってきたのだ。
ハモ村は、ナマズ村からは東北東約32kmの位置にある。トンビ村からなら東約77kmだ。東に突き出た半島──前世に無理に対応させれば国東半島──の根元の北側にある。
半島は無人地帯であり、ハモ村は最前線になっている。
幸いなことに、ハモ村には、クニ時代からの魔術士の家系があり、村の人口は比較的多い。現在は、ライゾウさん1人だが、魔闘術も再生も使える優秀な魔術士だ。この前会った時『この無人地帯の拡大を阻止してきたのは私等だ』と言っていた。結構自負もあるようだ。
それにしてもライゾウさん何しに来たんだろう?
慌ててやって来たナマズ村長に案内されて、村長の小屋で車座になった。同席したのは、ワシ、オオカゼさん、ライゾウさん、ハモ村長、ナマズ村長だ。
そして、挨拶もそこそこに、ライゾウさんが眼光鋭く切り出した。
「こんなところまで、何をしに来たか存念を聞かせて貰おう。力の差があるからといって何でもして良い訳では無い。私にも覚悟はある」
えらく敵対的だなぁ。ナマズ村長が怯えているや。
「これは失礼した。もう一度、此方からご挨拶に伺うべきだったか……
イヤ、決して怪しい事をしている訳では無い。二カ月半前に、ヒノカワ様とお伺いした時に、説明した通りです。来年は、ここから南西の無人地帯で大戦が起きると考えています。
その大戦を有利にする為の事前準備ですよ」
「ここは無人地帯に面している訳でも無い。何故、ナマズ村まで来たか、理由を問うておるのだが? 一体何を考えている? ハモ村とナマズ村との関係を妨害するつもりか!」
怒っているのは解るが、イマイチよく分からない。何かワシの知らぬ事があるな。
「ワシらにはそんな気持ちは無いが。オオカゼさん。何か、トラブルとか有ったのだろうか?」
「イヤ、何も無い。
ナマズ村殿からは、ハモ村殿との義理が有るので北部大連合への参加は出来ない。協力するのは、あくまで、次の大戦だけ。全ての村が協力し合う習わしに基づくものと強調されている。
私らも、そこは了解して、無理に連合に誘うような事はしていない。
ナマズ村長殿。ハモ村殿にもご説明されていると思っておったが、何か行き違いでもあったのだろうか?」
「イヤイヤ、トンデモ無い。何か状況が変わる度に、使者を送っておる。大恩あるハモ村のライゾウ様を蔑ろにするなど、ありえん事だ。
協力を決める前には、俺自身がハモ村への使者に立った。行き違いや誤解が無いように注意に注意を重ねて、丁寧に対応してきたつもりだ。ライゾウ様、ナマズ村に二心無いことをどうか信じてください」
「別に、ナマズ村を疑っている訳では無い。問うているのは、北部大連合とやらの存念だ。なぜ、無人地帯に面していないナマズ村にこれほどの大軍を送ってくるのだ? 武威を見せびらかして、ナマズ村を威圧するつもりか!」
「威圧するなどと、トンでも無い。ワシらはそんな誤解を生まぬように気を付けているつもりだ。戦士達にも、『遠い村の見知らぬ男は、それだけで怖いものだから、愛想よく親切丁寧を心がけてくれ』そう一生懸命頼んでいる。村を威圧するなどと……ワシらはそんなつもりは欠片も無い。
無人地帯に面していないナマズ村まで来たのは、ムギツク村の女子供の避難を受け入れて貰うためだ。妖魔が多数いる場所を通って女子供を移動させる訳には行かない。避難を受け入れて貰うには、先に妖魔を駆除しておく必要がある事は理解して貰いたい。
これほどの大軍……言われてみれば大人数だが、これも殲滅戦での損害を最小限に抑えるために必要な人数なんだ。
決して、疑われるような事をしている訳ではない」
「ヒラヒラと言い逃れしおって! よく覚えておけ。この程度の威圧で膝を屈する村など、この辺りにはない。村々の関係は、力だけで自由になるものではない。長年の信頼関係が最も重要だと覚えておけ。どんな邪念があろうと、成功することは無い」
邪念と言われてもな……単に最小の損害で大戦に圧勝したいだけなんだが……
「忠言、痛み入ります。ワシら北部大連合も此れからどうやって信頼関係を醸成していくか大きな課題です。
おっしゃる通り、力だけでは信頼関係を築けない。ワシも良く良く心に刻み込んで慎み深く対応していきたいと思っています」
「タツヤ、止めておけ。誤解が広がるばかりだ。お前が、大戦の有利不利しか考えていないのは、私らは知っている。だが、皆々お前の考えを知っている訳じゃない。
フクロウ村で誤解された事を忘れたのか。
ライゾウ殿、信じれないかも知れないが、本当に私らはハモ村の友好村に手を出す気は無い。確かに、こんな目と鼻の先で大軍を動して、気分を害したのは申し訳ない。今度、詫びも兼ねて、北部大連合の事情を説明する使者を派遣する。
此方の事情を理解して貰えれば、何ら懸念するような事は無いと分かって貰えると思う」
「ふん。口では何とでも言えるわ。まあ、でも埒が明かぬ。
経路を確保して、ナマズ村、アユ村、ギンブナ村を籠絡するつもりだろうが、そうは問屋が卸さぬ事を教えてやろう。ハモ村が本気を出せば、ナマズ村までの妖魔を皆皆々殺しにするなど直ぐだと思い知らせてやろう」
ライゾウさんは、そう宣言して、出て行った。いや、それ。ツンデレ?
ハモ村独自に打通してくれのは、ワシとして嬉しいだけなんだけどな。
などとボケた事を考えていたら、オオカゼさん他、何人もの顔役に囲まれて、懇々と説教される羽目になってしまった。何でも、過去の経緯を知らなさ過ぎるし、関心も薄すぎるそうだ。
次は、殺人事件です。




