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マコさんの昔話〜クニの財政破綻理由〜

 どんな組織でも財政問題は重要だ。先立つものが無いと何も出来はしない。さらにその前提の信頼できる通貨自体が、この島には無い。恐るべき難題だ。


「貝貨の現物なら十分な量があります。次の作戦で、ムツゴロウ村も連合に参加する事になる。現物自体の供給に問題が出る事はありません。

 ただし、祟りを度外視すればですが」


「貝貨に祟られれば連合とてひとたまりもない事は、ワシも理解している。

 だが、ワシは貝貨の歴史に疎い。どう祟りを避けるのが自然なのか、そこが判らない。

 そして、このまま放置すれば、来年の大戦の後で、連合が崩壊しかねない。そういう危機感を持っている。だから、まずアイデア出しにマコさんの知恵を借りたいんだ」


「兎に角、貝貨の現物をよこせ。そういう話では無いのですね?」


「当たり前だ。ワシとて貝貨の祟りで、家族を失ったりとかはしたくない。そんな要求を押し通すのは、無理心中する事と同義だと理解している」


 余りにも不吉な言葉の応酬に、同席したアマカゼは真っ青な顔をしている。やはり同席させたのは間違いだったか。


「アマカゼさんは、席を外させたらどうです? かなり辛そうですけど?」


 邪魔と感じたのか、マコさんがそんな言葉を掛けた。


「貝貨に祟られるのも怖いが、馬の脚に蹴られるのも困るんだ。アマカゼにはキツク口止めを言ってある。後で、アマカゼと二人きりの時に、説明もしておく。だから、邪険にしないで欲しい」


「判りました。タツヤさんが貝貨を乱発する危険性を理解している事は分かりましたから、これ以上は試す必要は無いでしょう。

 後は、普通に話しましょう。ただ、私の立場から一言だけ。

 貝貨の発行権をタコ村やムツゴロウ村から奪うという議題が含まれると思います。そんな話について、公式の責任者で無い私は、交渉する権限が無い。アイデア出ししか出来ない事を理解しておいてください」


「それは、ワシも同様だ。事が大きすぎて、連合全体に諮らねばならぬと考えている。だから、此処では個人的なアイデア出ししか出来ない。

 だが、連合全体──何十もの村々の──合意形成が必要な分、時間が掛かる。だから妥当なアイデアを見つける事を急いでいる」


 今度は、同席していたカイナさんが大きく目を見開いて、驚愕の表情になった。呼吸も荒そうだ。

 そうか、貝貨の『公式』責任者になりたいカイナさんにとって、これは人生の重大事だ。マコさんは、娘に覚悟を持たせたくて同席させたんだな。


「昔話をしましょう。昔々、クニが存在していた時代の仕組みの話です。本来は、貝貨を司る一族だけの機密ですが、タツヤさんなら適切に扱うでしょう。

 それに、フブキ様の残した物を調べているタツヤさんなら、何時か独自に突き止めるかも知れない」


「残念ながら、フブキ様はクニの財政には疎かったらしい。クニがどうやって貝貨を安定させていたのか、理解していなかったと思う。この問題については、財政を担当していたカイゾウ様への愚痴しか残されていない」


「そうですか……カイゾウ様は私たちのご先祖様です。此方には、フブキ様への愚痴が伝わっています。お相子(あいこ)ですね」



       ◇  ◆  ◇



「ワシなりにまとめるぞ。

 昔のクニには、税という仕組みがあった。それを上手く使って貝貨を回していた。そういう事か。

 税として、多数の貝貨をクニに納める必要があり、村々には貝貨を求める動機があった。だから、継続して貝貨の需要があり、貝貨の流通も安定していた。

 更に、コッソリ貝貨を発行して多量の物資を緊急に集める事も出来た。その秘密の工作を司っていたのがカイゾウ様だったのか。

 フブキ様から見ると、打ち出の小槌を出し惜しみしているとしか見えぬな」


「工作のし過ぎで、いつ破綻しても不思議ではない。苦労も知らず、物資を要求するフブキ様への不満の言葉が残っています。『貝貨は、魔術みたいに都合良い物じゃない』

 中つ国が滅亡する前年に、カイゾウ様は夜逃げし山奥の洞穴に隠れ住んだそうです」


 クニ末期は様々な点で、無茶苦茶だったんだなぁ。


「クニのやり方は分かった。そして、現在の連合では採用出来ない事も理解した。大変勉強になったが、さらに二つ教えて欲しい。クニが滅んだ後、貝貨はどうなったのか? それと、貝貨を発行する9村での協定は、何時頃どうやって結んだのか」


「中つ国の滅亡前後に、貝貨の価値はほぼ無になり、貝貨が流通しない時代が訪れました。クニ時代の貝貨を回収した話は残っていません。恐らくは、島の彼方此方にまだあるのでしょう。ただ、扱いが悪ければ、貝貨とて汚損し価値を失います。何十年も前のクニの貝貨で使える状態の物は殆ど無いと思います。


 大損した人々は、貝貨の関係者を深く恨み、虐殺されるようなケースもあったと聞いています。

 貝貨の関係者は、島中に散らばり潜伏しました。再度貝貨が作られるようになるまで20年近く掛かった。関係者が集まって協定を結んだのは、その直前です。

 9村全てが集まったのは、後にも先にも一回だけ。しかも、9村のうち二村は既に滅びています」


 急激な変化は無理だし、危険じゃな。


「ありがとう。貝貨の関係者が、祟りを強く恐る理由がよく分かった。

 だが、連合を上手く機能させるには、莫大な費用が掛かる。また、村々の取引を増やす事は発展に繋がる。


 どちらにせよ、貝貨の流通量を大幅に増やす必要がある。そのアイデア出しには協力して欲しい。祟りが起きにくい方法を模索してみて欲しい。

 ワシが直ぐ思い付くものとしては、貝貨自体を貸し付ける方法だ。100枚の貝貨を貸して、1年後に110枚返して貰うとかだが、実現可能かは自信が無い。

 何れにせよ、明後日タビスケさん等と会う前にもう一度話がしたい」



 ふう~、何とか終わった。祟り祟りとボキャブラリーももう少し増やす必要があるのだろうな。

 若しかしたら、借金取りを殺すとかの事件も、この世界では祟りの一種とみなされるのだろうか?


 まあいい。今日はまだ9月20日だ。次のツバメ村は、タコ村から東約33km、中継点も多いから、23日の夜明けと同時に飛べば十分間に合うだろう。


 その間に、アマカゼと海岸デートと洒落込む時間が取れるだろう。魚類型魔獣が危険すぎて水遊びは出来んが、単なる散歩よりはマシだろう。嫉妬深いお姫様の機嫌を取るのも重要さ。


 なお、魔術の才能保持者は、タコ村でも見つからなかった。七村連合内に一人位は居て欲しいのだが……


 次は、海岸デートの間の出来事をアマカゼ視点で書きます。

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