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クラゲ村の塩造りの現状

 ワシも村長もゆっくりする余裕が無い。当然日帰りだ。結構な強行軍、アマカゼが付いてこれるか心配だ。無理はして欲しく無い。どうせ、クサハミ婆さんは実家であるイモハミ婆さんの所に泊まるのだし。

 そう思って、同行するつもりで準備しているアマカゼに声を掛けた。


「アマカゼ大丈夫か、長距離移動は大変だろ?」


「タツヤは他にも色々行きたい所があって、一緒に居られるのは限られるんでしょ。

 だから、少しでも一緒に居られるようにしたいの。せめて歩行での強行軍には付き合えるように、私も走り込みはしているのよ。それに、本当に辛くなったら、タツヤが疲労回復を掛けてくれるよね? その位は甘えて良いでしょ。婚約者のお役目だから、明日の筋肉痛位は我慢するわ」


 健気に、そんな事言われれば、それ以上は言えないな。何時か、馬車とか作って楽をさせられるようにしたいが……馬も無い。人口密度が低すぎて、道を作る労力も確保出来ない。……何十年も先か……


 9月27日から作戦を再開する予定なので、9月26日の朝には、起点になるマムシ村に居たい。その間に行きたい場所は、確かに沢山ある。

 ・塩造り確認の為にクラゲ村

 ・鉄造り確認の為にムササビ村

 ・石灰岩を確認するためにツバメ村

 ・大イカ村付近で作戦をしているリュウエンさん

 ・可能なら、タコ村とテン村とシカ村


 顔を合わせれば良いという物でも無いし、もう一日はアマカゼの為に割きたい。正直言うと、欲張り過ぎかw


 塩造りを詳細に確認する為一泊する予定で、ワシは翌9月15日の朝、クラゲ村に飛び立った。クラゲ村までは直線なら北北東約21㎞だ。今のワシなら、急がずとも1時間も掛からずに到着できる。アマカゼも来たがったが、筋肉痛を理由に却下した。


 クラゲ村のウオウミ村長の出迎えを受けて、早速、塩造りの現場に移動した。


 完全記憶でカンニングした『タバコと塩の博物館』の資料によると、前世の日本では、イオン交換法で塩が作られている。雨が多く、岩塩も無く天日製塩も非現実的な日本に適した方法だ。だが、電気が必要で此処では再現不可能だ。

 そのため、一世代──何十年も──前の流下式塩田?を採用した。前世の流下式塩田は3つの設備を必要とする。


 太陽の熱で塩水を濃縮する流下盤──緩やかな坂道だ

 風の力で濃縮する枝条架──細い竹の枝を束ねた高い架台だ

 真空式蒸発缶──流石にこれは再現不能だ。その為土釜で代用している。


 2000年に及ぶ技術的跳躍が上手く行くか心配だったが、ある程度成功したのは知っている。アマカゼのご飯を食べれば、雑味の有無から当然気づく。




「今、三代目の設備を作ろうとしている所です。世代を重ねる毎に工夫を重ねています」


 案内の男が、誇らしげにそう話してくれる。


「困った事とか、苦労した事とかはありますか」


 2代目の流下盤の傍まで来たワシは、好奇心からそう聞いた。


「初代の流下盤は、本当に大変だった。何度も作り直しが必要になった。流れが急すぎたり、途中で滞ったり、偏ったり、本当に酷かった。

 何とか対応できたが、なだらかな傾斜を作る事があれほど大変だとは……途中で塩造りに立候補した村長を恨みたくなった。

 枝条架は、更に大変だった。屋根より遥かに高い位置まで、重い塩水を運ぶのは、大変だ。足を滑らせてケガをした者も何人か出てしまった。此方は、頑丈なやぐらを用意する事に気が付いて事故は無くなった。だが、重い重労働を嫌がって雨を喜ぶ馬鹿者が出て困っている。

 三代目では、流下盤の方をより重視しようと考えている。流下盤を行き返りの往復方式にすれば、より効率的になるんじゃないかと、検討している所だ。一方、枝条架は止むをえないからもう少し低くしようと考えている。

 でも、どちらも少しずつ均等に塩水を注ぐ事は難しい。日によっても違うから神経を使う大変な仕事だ。」


 そりゃ、ポンプも自動制御系も無いからな。人力でやるのは無茶なのかも知れない。一度、砂を使う揚げ浜式も試してみた方が良いのかな? それより、本命は何らかの揚水装置を開発する事かな?


「本当に大変な重労働で、お疲れ様。ワシも夢でチラリと見ただけだから、全然予想できなかった部分が多い。少ない情報から一所懸命工夫してくれて頼もしいよ。どんな塩が出来ているのか確認したいので、土釜にも案内してください」


 案内された先は、壁が存在しない奇妙な小屋だった。


「雨で塩水が薄まるのが怖いから、小屋の中で塩を作るしか無いが、そうするとどうしても中が湿気てしまう。そこで、通気性を重視してあえて壁の無い小屋としている。

 実は、この小屋も二代目だ。一代目は、床に水が溜まって大変だった。

 一度盛り土をしてから小屋を作って、周りより床が高くなるようにして解決したが、此方も大変だった」


 建築技術も低すぎるか、総合的な技術の蓄積が無いのもある。思ったより無茶苦茶を提案したようだ。

 中に入ると、まさに塩を作っている所で、中は耐えがたいほど蒸し暑かった。今の季節でこの状態って、真夏はどんなんだったんだ‼


「出来る塩の味が一定しないのが、今一番の課題だ。苦味やエグ味が強すぎて、使えないと苦情が来る場合もある」


「それは、多分出来る時期によって味が違うんだよね? 蒸発させ始めて最初に出てくるのは、エグ味のある塩で、最後に出てくるのは苦味がある塩だと思うから、炊き方を工夫すれば改善するかも知れないよ。

 ただ、複雑な作業になるだろうから、余り助言出来ないよ」


「そこは、クラゲ村の者で何とか工夫するつもりだ。塩水の味を正確に覚えて対応できないか試してみたが、全てしょっぱいので見分けがつかない。塩が出始めてからの煮詰まり度合いで、塩釜を変えるとか、出て来た白い塩を塩水で洗ってみるとか、色々なアイデアが出ているが、試すためにも小屋が必要なので、此方も三代目を作る事を計画している」


 聞けば、聞くほど大変な事業だ、正直、早まり過ぎたのかも知れないな。

 ワシが、難しい顔をしていると、他の者が横合いから話しかけて来た。


「タツヤ様、そんなに深刻な顔をしないでください。此奴は、苦労ばかり言っているが、タツヤ様への感謝を忘れた事は無い。クラゲ村の塩造りに参加している者は、皆々タツヤ様に感謝しているんだ。

 此奴の言うように、大変は大変だが、灰塩作りよりは、遥かにマシだ。さらに、良い物も出来る。実は、うちの状況を見て、タコ村とクジラ村は、既に塩造りを止めて、うちから買う事にした。ハッキリ言って、自前で灰塩を作るよりは、うちの村で作った白い塩を買った方が安上がりなんだ。

 さらに、大連合が出来たから、内陸の村々に売りに行く事も出来る。大変な重労働だが、それだけの意味はある。うちの村の特産にしようと皆頑張っているんだ」


 そうか。それなら安心だ。しかし、もう少し何か工夫をしてみる必要があるんだろうな。


 次は、ムササビ村の現状、鉄造りです。

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