表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/126

スミレ坂の赤児

 この世界でも、出産は命懸けだ。医療体制どころか、衛生状態も食料事情すら十分では無い。そんな中での出産は、それだけ目出度い事だ。

 それでも、出産祝いに他村まで行くなど、これまでは想像も出来ない事だった。近い村でも、遭遇戦のリスクが結構あり、簡単に行き合えるものではない。手紙も無いし、人の行き来も乏しい。出産を知る手立てもない。そして、たとえ、知ったとしても、祝いの為だけに命を懸けるなど、愚行の極みだ。


 今は、村々の経路に沿って毎日狩りを行う事になっている。そうやって、経路上に湧いてくる魔物を間引くことで、安全性を確保している。魔物は湧いてくるから、遭遇戦を完全に防ぐことは出来ない。だが、単独の魔物なら、『実戦経験者2名以上確保』の基準で、完勝することが出来る。


 その経路巡邏隊に村々の間の伝令も兼ねさせることで、お互いの状況が素早く伝わるようになっている。なお、この経路巡邏隊は、未婚の男性にとっては魅力的な任務だ。何故なら、狩りの成果があれば、他村の娘にPRする機会が作れるからだ。狩った肉を振舞って、未婚の娘にチヤホヤされたい。若い男として健全な事だ。そうやって良い縁が一つでも多く結ばれれば、村々の繁栄に繋がるだろう。


 村長やクサハミ婆さんを含む何人かと熊村に向かい、スミレ坂とウオサシの小屋にお邪魔した。口々に祝いの言葉の述べて、生まれたばかりの赤ん坊を見せて貰った。女の子だそうだ。前世を含めれば何度も見ているが、赤ん坊は皆可愛い。今のところ、サチちゃんと読んでいるようだ。

 今日(ほんじつ)9月14日の6日前に生まれたと言っていたから、誕生日は9月8日だな。ワシは、暦の利点として年毎に誕生日を祝うアイデアを紹介してみた。そうした所、皆々、興味津々だった。

 そういう風に、暫く色々な話をしていると、スミレ坂が意を決したという感じで、不思議な事を言い始めた。


「少し、魔術士としての秘儀の話をしたいの」


 はて? 今しなければならないような話があるんだろうか?


「構わないけど、クサハミ婆さんが一緒でも良いのかな?」


「むしろ、イモハミ婆さん含め、魔術士全員で話したいことなの」


 何だろう? そう戸惑っている間に、気を利かせたアマカゼがイモハミ婆さん他を呼びに行ってくれた。




 熊村には、魔術士が5人も居る。ワシとクサハミ婆さんも合わせ、小屋に7人も居ると狭く感じるな。皆が揃ったのをみてイモハミ婆さんが話を切り出した。


「何じゃい、秘儀の話って、スミレ坂の今の優先事項は、赤子の事だ。他の事は私らがキチンを処理するから悩むことなど何もないよ」


「その赤子の事なの、この子に魔術の才能があるか鑑定して欲しいの。一人でも多くの魔術士が必要な事は知っているけど、この子の未来を考えると、苦しいの。母が魔術士だからって、他の道が選べないなんて、若し他の才能があるのなら……この子の才能を埋もれさせるのかもと」


「……初めての子じゃからな。悩むのは普通か。だがな、早まり過ぎじゃろうて」


 最も、目上のイモハミ婆さんが、そう苦言を刺した。


「そうだよ。鑑定の魔術の性質も良く判らない。赤ん坊を鑑定しても、本当の才能が判るとは限らないと思う。どう考えても、成長して経験を積まないと、判らない才能があるはずだもの。だから、今鑑定してこの子の将来を決めるなんって危険すぎるよ」


 ワシとて、そう苦言を刺すしかない。実際、才能の中には特殊な条件があるものもある。全てが生得的と考えるより、当人の経験に依存するものが多いと考える方が妥当だ。


「だけど、心配なの。タツヤ以外は、この子を想う私の気持ち判るでしょ」


 いや、前世では子供も居た。ワシとて判るさ。でもな……それでも愚策だと思うんだよ。


「一種の産後うつじゃろうて、言っても聞かぬだろう。

 最低でも5歳位にならんと、呼吸法の訓練など不可能だ。それまでの間の育て方は、魔術士だろうとそれ以外だろうと変わりはない。健康に、強く・賢くと育てるだけじゃ。

 結果はどうであれ、命名の儀までに再度の鑑定を行う事を条件に、タツヤ鑑定してやってくれんか」


「イモハミ婆さんが、そう言うなら。

 スミレ坂、この段階での鑑定は、誤りがある可能性が高いというか、鑑定がどの程度のものか判らない。

 どんな鑑定結果が出ても、ある程度大きくなるまでは変わらず健やかに育てる事だけ考えて欲しい」


 そして、サチちゃんを鑑定したら……訳が判らない。意味を理解しようと暫く凝視してしまった。


「ど、どうしたのタツヤ? 何時もより大量の魔力が渦巻いているけど、何か変な事があった?」


 スミレ坂が不安そうにワシに声を掛けた。いかんいかん。


「あ、ああゴメン。やはり、赤ん坊段階での鑑定は難しいようだ。今一、ハッキリしたことが判らなかった。何かの才能があるようだが、それが何なのか意味を掴もうとして無理をしてしまった」


「ハッキリした事が判らなくても良いし、誤りがあっても良い。だけど、私の子供の事だから、秘密にしたり、嘘を言ったりはしないで」


 親としては、当然の反応だな。


「正確な意味が良く判らないのだが、治癒術と周辺警戒の才能があるように見えた。周辺警戒の才能は意味が判るのだが、治癒術の才能は意味が良く判らない。

 魔術全般ではなく、治癒術限定の才能のように思えるが……そんな事があり得るのか良く判らないので、考え込んでしまった」


「聞いた事も、経験したことも無い話だね。やはり、赤ん坊段階での鑑定は、意味のない事と考えた方が良いと思う。スミレ坂、これで気が済んだかい」


「皆、私の我儘に付き合ってくれてありがとう。子供が出来ると不安になるものね。確かに、生まれた時点でその子の将来を見通そうなんって……放漫すぎる。天に唾する行為だったわ」


 イモハミ婆さんの総括にスミレ坂が応えて、その場は解散となった。


 そして、熊村でも5歳から10歳の子全員の鑑定をした。やはり、魔術の才能のある子は居なかった。まあ、ジックリ探せば良いさ。まだまだ、先はあるし、才能が並でも長い研鑽で魔術士になりえるのは、イモハミ婆さんが実証済みの事なんだ。


 それにしても、サチちゃんの鑑定結果は何を意味しているんだろう。鑑定のレベルももっと上げるべきだろうか。


 20年以上の修行期間、それを我が子に強いるのは……悩むのが当然

 次は、クラゲ村の塩造りの現状、内政チート回です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ