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トンビ村の近状とアマカゼとの秘事

 学校を見た後、今日9月13日はアマカゼとデートに費やす事とした。まあ、散歩しかする事はないんだが。


「もう、あんなにおだてて、恥ずかしさに身悶えた娘もいるわよ。どういうつもりなの?」


「うん? 確かに恥ずかしいとは思うが、完全な本音だ。文字や学校の重要さは、幾ら強調しても間違いではないよ?」


「でも、魔術士と比肩できるなんて、大袈裟過ぎるわよ」


 そうか、アマカゼでもそんな理解なんだ。これは、説明しておく必要があるな。


「ワシは、大袈裟では無いと思っている。果ての無い大事業ではあるが、学校による知識の普及と再生産のサイクルを成立させることは、大きな成果をもたらす。

 ワシの目を見て欲しい。全くホラは混じっていない。学校の大事業は、最終的には今のワシの何百倍もの利得を連合にもたらすだろう。そう、『ワシやヒノカワ様のような大魔術士が居なくても大戦に勝利し続けられる』そういう、今は地平線の彼方の夢物語、そこまで到達するだろう」


「?!?!……な、何を言っているの? 気は確かなの?」


「気は確かだよ。秘密の話だけど、アマカゼにはもう少し詳しく説明しておくよ。

 シカ村の大戦の演説で、神々に『放置すれば人は滅びる』と告げられたのを紹介した。その事はアマカゼも知っているよね。

 だからワシのような大魔術士が必要だ。皆は、そう理解したようだが、実は誤解だ。神々がワシに期待した事は、大魔術士として妖魔王を倒す事じゃ無い」


 話の流れを読んだのか、アマカゼが生唾を飲み込むのが見えた。


「人が滅びる理由は、魔術士の少なさじゃない。技術の開発と知識の普及が滞ってしまっているからだ。技術と知識の進歩が十分なら、最終的に人が勝つのは疑う余地が無い。

 あの学校は、神々がワシに与えた使命の本流も本流なんだ。だが、そもそも妖魔を狩って狩って狩りまくって、連合を成立させて、学校を運営できる余裕を確保しなければ、話が進まなかった。それが、実情なんだ」


「今まで、タツヤと共に闘うお父様の方が、神意により近いのだと思っていた。でも、今の話だと……そうじゃない。私のお仕事の方が重要なのだと、そう言っているように聞こえる……」


「事実そうだ。目立ちはしないが、遠い未来を考えれば、この仕事の方が遥かに重要なんだ。

 だが、戦士達の誇りを傷つけるのはマズイ。この話は、アマカゼの心の中だけの秘密にしてくれ。

 難しい話になったから、話は切り上げよう。今日はリラックスして楽しみたい」


「教えてくれてありがとう。秘密にする。二度と話題にしない。でも、タツヤはその手の秘密を沢山抱えているのね……

 私も口は堅いから、何か吐露したくなったら、何時でも言って。婚約者のお役目、どんな事でも黙って受け入れるから。

 さてと、最初は窯を観に行きましょう。新作の壺が観たいの。買っても良いでしょ?」


 ねだられるのは、普通に可愛くて嬉しいな。


 丘を下った窯場は、更に充実していた。窯の数も増えたし、工夫の跡がある物もある。道具の種類も増えたようだ。


 事前にアマカゼが連絡しておいたのだろう。窯場に近づいたら直ぐに何人かの男女が近づいて来た。他村の者もいる。女性の1人は知らない人だ。


 他村の者でも闘う男ならほぼ全て知っている。見知った顔の他村の戦士が声を掛けて来た。


「タツヤ様、覚えておられるでしょうか、山猫村のスギオノです」


 こんな場面では、完全記憶は非常に重宝する。


「もちろん覚えているよ。妖魔を斧の一撃で(ほふ)る姿が印象的だった」


 隣の女性が驚いたように口に手を当てて、誇らしげにスギオノさんを見た。奥さんなのかな?


「ありがとうございます。妻の手前、面目が立ちました。ご紹介します。此方が妻のミズツボです。今度、家族でトンビ村にお世話になる事になりました」


「タツヤ様、お初にお目にかかります。山猫村のミズツボです。夫に目を掛けていただいてありがとうございます。焼き物に惹かれてトンビ村に引っ越してきました。より良い品が出来るよう頑張りますので、よろしく御贔屓ください」


「ご丁寧にありがとう。此方こそよろしくお願いします」


 話を聞いてみると、新しい焼き物に魅せられて、スギオノさんとミズツボさんは、子供と共にトンビ村に移住してきたそうだ。そして、毎日焼き物の改良に取り組んでいるそうだ。

 カシイワ師匠を継いで焼き物を主導しているアオタマさんが、トンビ村の焼き物の状況について、説明を始めた。


「今は、作れば作っただけ売れていく。これまでは、幾ら良い物でも、遠い村の品を入手するのは命懸けだった。だから、幾ら腕を磨いても細々と作るしかなかった。

 でも、これからは全然違う。タツヤ様が彼方此方打通して、大連合を成立させてくれたお陰で、遠方の村からも欲しい欲しいと買い付けに来る。先日など、打通されたばかりのコイ村から買い付けに来ていた。

 毎日、毎日、良い物を作る事だけ考えて腕を磨けば良い。焼き物が好きな私らにとっては幸せ過ぎて、バチが当たらないか心配な位です」


 嬉しい言葉だ。一年以上、闘いを繰り返した成果がこんなところにも出ている。上手く、経済が回って技術が向上するサイクルが生まれて欲しいな。


「今、集中して取り組んでいる課題は、焼き物の大型化です。クラゲ村から塩釜に使うからと、出来るだけ大きい物を依頼されています。出来るだけ大きく、壊れにくく、軽くと。

 だから、窯自体を色々作り直して試しているが、これが楽しくて楽しくてたまらない。毎回、新しい発見がある」


 そうか、クラゲ村の塩造りも進捗しているんだな。クラゲ村にも一度行ってみよう。


 ワシが感慨に耽っていると、アマカゼが少し呆れたように声を掛けて来た。


「タツヤ、何しに此処に来たのか理解していないんじゃない? タツヤの小屋用のもあるけど、より重要なのは、スミレ坂さんの出産祝いよ。タツヤにとっては、創る工夫の方が重要かも知れないけど……普通は、出来た結果の方が重要なの。

 アオタマさんも、お願いだから、出産祝いに相応しい、良い品を紹介してよ」


 出産祝いの品……今の今まで念頭に無かった。ワシは、かなり迂闊かも知れんな。


 午前中は、窯場で焼き物を選ぶのに費やした。そして、午後はワシの希望で、村の周りの田の様子や開拓の状況を見て回る事にした。


「随分、広がったし、今年も豊作みたいだな。収穫が本当に楽しみだ」


「お爺さまが、稲刈りのために色々準備を進めているわ。特に、他の村からの応援の人の準備は大変よ。焼き物の収益があるから、報酬の貝貨は確保済み。だけど、石包丁に籠、収穫が増えるから袋や乾燥場所も沢山必要だわ。

 でも、お爺さま『忙しい忙しい。大変大変』とボヤいているけど、顔は凄く嬉しそうなの。しかも、幾ら沢山収穫しても、余る事は考えなくて良いのよね。

 大連合って凄い。もの凄く沢山の幸せを産みだす仕組みなのね」


 ワシは、疲れて少しキリキリしていたんだろうな。アマカゼがワシをおだてて慰めようとしているのが判る。優しい娘だ。結婚したら、必ず幸せにしよう。


 次は、スミレ坂の赤児です。

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