遭難者救助作戦
遭難者の捜索の大方針として、二重遭難の防止を強調する必要がある。
そのため、各班に直近の村出身者──それも経路を複数回歩いたことのある者──を割り当てる必要がある。しかし、偵察隊が出来る者だけでは明らかに不足する。とすると、各班は遭遇戦に勝利出来る人数にする必要がある。
そして、捜索隊同士は、互いに連絡を取り合う事は不可能だ。此処には、携帯電話どころか無線機や信号弾すら無い。精々、ムギツク村から狼煙を挙げて集合の合図にするしかない。明日、晴れていれば良いが……どちらにせよ、日没に余裕をもって引き返させるのは必須だ。
最終的には、最も高い機動力を持つワシが何とかするしか無い。密かに心に決めて、周りを見渡した時、ムギツク村のスギカワさんが戻ってきている事を確認した。そろそろ頃合いか。
「隠れるに十分な時間が経った。それでは、魔術の試験をする。
祖霊よ神々よ我に隠れ去った勇者ワラビ谷の居所を指し示したまえ」
……
「あっちの方で、穴倉から抜け出して、裏の門に向かっているようだな」
数人の若衆が飛び出して行き、数分後コイ村のワラビ谷さんが、やって来た。そして、ワシを見るなり恐れおののいたようにひれ伏して叫びだした。
「密告されるかもと、案内された場所から、更に別の場所に隠れ直そうとしていたら……
怖気が走ってタツヤ様に『見つけられた』事が判りました。疑った事、どうかお許し下さい。何卒お許しください……」
廻りが酷くざわつき始めた。
「すまん。そんなに、嫌な思いがする魔術とは思わなかった。何処か悪くなったりケガをしたりしていないか?」
「だ、大丈夫です。怖気が走って『見つけられた』と感じただけです。他は、何もありません」
怖がっているだけか。確かにな、気配もなくいきなり『みーつけたw』と透明人間に脅かされたようなものか。普通に怖いな。
でも、この魔術、探知相手に気が付かれるような副作用があるのか。使い方に、気を付ける必要があるな。
「特に、悪い副作用は無いんだな。良かった。これで、この魔術が使える事は判った。後は、効果範囲を調べたいが……誰か、ムギツク村の未成年者を紹介してくれないか。明日朝一、ワシは飛行して要救助者がコイ村に居ないか確認してくる。ついでに、探知の効果範囲を確認する。
多少、気持ち悪い思いをするようだから、未成年者の中でも図太い者を紹介してくれ」
そして、編成を決めて、捜索隊に参加する者は早めに寝る事になった。ワシも例外じゃない。
◇ ◆ ◇
8月20日の朝一、ワシは、約8㎞先のコイ村まで往復した。残念ながら、コイ村には二人は居なかった。また、探知の有効範囲は約2㎞程度ある事が判った。相当に便利な魔法だ。これなら、直ぐに見つかる。
そして、経路に沿って探索する事約1時間、遭難者二名の内、白ヘビ村のヤキオノさんの反応を捉えた。二人別行動になったのだろうか?
発見を知らせる笛を吹きながら、降下した時、血まみれの二人の姿が見えた。まさか……負傷したヤキオノさんが、アカタカさんを背負っているが……ワシには既に死亡しているように見える。
「タ、タツヤ様、助けに来てくれたのですね。何とか此処まで……それよりアカタカを治療してやってください。奇襲を受けて重症なんです」
「ヤキオノさんも酷く傷ついているじゃないか。そこにアカタカさんを下ろして、少し休め」
ヤキオノさんは、重傷は重傷だが、治癒術で直ぐに動きに支障ない程度には回復した。だが、アカタカさんは、慎重に診察したがやはり死亡している。
「残念ながら、アカタカさんは手遅れだ」
ワシの非情な宣告にヤキオノさんは、泣き崩れた。しかし、こればかりはどうにもならん。
ワシとしては、何としても、ヤキオノさんだけでも生還させたい。
「暫く前進すれば捜索隊に合流できるだろう。ワシがアカタカさんを背負っていくから、一緒に前進しよう。歩くことは出来るな?」
嗚咽しているヤキオノさんを、無理に叱咤しながら、1時間程前進し、捜索隊に合流した。
◇ ◆ ◇
帰還して、状況を整理した。やはり二人は帰り道に迷ったそうだ。何とか、元の道に戻る事には成功したが、日没が近く野営を選択した。
たき火の光では、遠くまでは見落とせない。そして、交代での睡眠では寝不足で注意力が下がる。
運悪く、夜が白む直前に、妖魔の奇襲を受けた。倒す事には成功したものの、二人とも重傷を負った。そして、ヤキオノさんがアカタカさんを背負いながら、移動を開始し、ワシに発見されたそうだ。
「酷なようだが、偵察隊としては忍び足と周辺警戒の技量だけでなく、付近の地形の知識も非常に重要という事か。他の村の者を遠距離警戒班とする事は無理があったのかも知れない」
「しかし、周辺警戒班や逃走阻止班の方が優先だ。地形に詳しい者を遠距離警戒班に割り振るなど、非現実的じゃ」
問題点は判明したが、解決策は、誰も切り出そうとしない。困った事だ。
「単に、作戦を急ぎ過ぎているだけだ。他村の者を遠距離警戒班に対応させる前に、一度直近の村の者が同行して地形習熟をする機会を作れば良い。
時間は十分ある。来年の大戦までの余裕は十分過ぎる程ある」
そして、翌日はその作業に費やした。その後は、拠点を移動する度に、地形習熟の為の日を設ける事とした。
また、その補助として、絵地図の作成も進めているが……微妙だ。十分な大きさのキャンバスが無い。紙を作るか、布の技術を上げるか、木工の精度を上げるか……前段として、何らかの技術の進歩が必要になる。
若しかしたら、コンパスの方が早いか?
鉄は既に造れる。自然磁石さえ見つければ……運次第だなぁ。
次は、アマカゼ文字の学校です。




