大盟の儀とユメイロさんのタツヤ像
北部大連合の大盟の儀、例を見ない儀式故、式次第は独自に開発するしかない。しかも、多数の関係者に感動させ納得させないと連合の前途が暗くなる。
ワシも儀式の主役の一人として、準備する事が沢山ある。狼村で出来たばかりの革鎧の調整、衣装合わせ、祝詞と演武の練習、儀式参加者への顔見せ……沢山あり過ぎて整理出来ない。
「何を甘い事を言っているの? タツヤが居ない穴を埋める為に周りの人はもっと大変だったのよ! 私もお役目が沢山あって寝不足なのよ」
朝飯で顔を合わせたアマカゼに怒られてしまった。率直に言ってくれてホッとする。まだ、神棚に祀られる程にはなっていないんだ。良かった。
「う〜ん。危ないかも。直接知らない人は、酷く誤解しているかも知れない。文字を習いに遠くから来た娘なんだけどね。
夢で見たと言って、タツヤの絵を持ってきたのよ。そしたらね。大人の3倍位の身長で描かれていたの。
それだけでなく、目が三つに、腕が四本、尻尾と白い翼まであって、更には焔を吐いていた。
タツヤを直接見て無い人は、これほどまでに誤解するんだって感心してしまったわ。
ああ、勿論ユメイロさんに正しいタツヤの姿絵も作って貰って、誤解を解いておいたわ。今その絵を持ってくるから見てみる?」
そこには、真っ赤に染まりながら、妖魔を丸かじりしているワシの姿が描かれていた。ご丁寧な事に、片手でアマカゼの裾を捲ってお尻を凝視している。
なんじゃ! こりゃ!
「あははw 冗談、冗談、これはユメイロさんが少し極端に描いた絵だよ。その娘には、キチンと別の絵を見せておいたから安心してw」
「ワシは……こんなイメージで見られているのか……ショックだ」
「う~ん、お尻を覗いているのは、私に『男は獣』と教える為だと言っていた。タツヤはドスケベになるだろうから、獣でも好きになれる位じゃないと、夫婦として上手くいかない。そう言っていたわ。だから、現実より極端なんだと思う。
でも、返り血で真っ赤に染まるのも、妖魔のお肉をガッツリ狩ってくるのも、事実だよね?
タツヤ自身のイメージは違うの?」
「うぅぅぅ、旅の間中、恐ろし気な絵やドスケベな絵を描かれまくって、傷ついていた(T_T)
良く知っているはずの人にも同じように描かれて、ショックが倍になってしまった」
「そうなんだ……ユメイロさんは、タツヤの心の中までよく見ているんだ。コッチのキリリっとした絵は、私的に『ありえない』と思っていたけど、タツヤの自身の自画像には近いのかな?」
そういって、豪奢な衣装を着て、真剣な目で弓矢の狙いを付けている絵を見せてくれた。真摯で誠実で、『強くて優しい』そういう感じがにじみ出ている。そうそう、これがワシの真の姿だよ。
「タツヤ……一寸、自己認識が狂ってるよ。まあ、それを正すのも私のお役目かな」
でも、アマカゼ、まだ11歳なのに、こんなスケベな絵の題材にされて、恥ずかしくないんだろうか?
「どこ見ているのよ! バカ‼
言っておくけど、極端な絵の方は、誰にも見せていないわよ。私にだって羞恥心は人一倍あるんですからね」
そして、8月11日の昼前から、大盟の儀が始まった。正規に加盟は41村だか、様々な形式の準加盟が17村もある。それら全てが考え抜いた誓いの祝詞を神々に奏上する。
儀式の荘厳さを確保する為に、唄や踊りの奉納も多い。
ワシは、祭壇の前でポーズを決めて畏まっている必要がある。暑い中、長時間は大変だ。こっそり、風操作と疲労回復の魔術を使わざる得なかった。
なお、高齢のイモハミ婆さんは、日陰で座っているだけだ。式次第を述べる者も交代がある。
一番シンドイのは、ワシだ‼︎ 旅している間に嵌められてしまった‼︎
全ての儀式が終わり、北部大連合が成立したのは、昼下がりかなり遅い時間だ。だが、まだ一仕事ある。
成立した連合の議長として、まずイモハミ婆さんが、連合としての大事業の開始を宣言する。
・熊村での連合大会議小屋の建設
・トンビ村での米の大増産
・魔術士教育の為の治癒学校
・文字の普及の為の学校
・若衆の技量向上の為の武者修業の奨励
・そして、ムササビ村での鉄造り
盛りだくさん過ぎて怖い位だ。
続いてワシが、武を司る副議長として演説を行う。
「多くの村が連合に参加してくれた事、感謝に堪えない。シカ村で誓ったように、これから妖魔を狩って狩って狩りまくる。大戦にも大勝に大勝を重ねてみせる。皆! そうだろ?」
「「……「「妖魔は皆皆々殺しだ。うぉぉぉぉぉぉぉぉ」」……」」
「先日までワシは、ヒノカワ様と島中を巡って、島の状況を確認してきた。その結果、来年の大戦は確実に南の無人地帯で起きると判った。ワシらから目と鼻の先、だから、この連合の本領を発揮して、圧倒的・徹底的な大勝利を収める。ワシらならそれが可能だ。そうだろ?」
「「……「「勝利・勝利・大勝利うぉぉぉぉぉぉぉ」」……」」
「圧倒的大勝利の為には、多くの妖魔を狩って狩って狩りまくって妖魔王を丸裸にする必要がある。此処には、既に多くの勇者が集っている。明日から、早速狩りに行こう。皆どうだろうか?」
「「……「「うぉぉぉぉぉぉ」」……」」
「皆の熱い気持ちは良く判った。明日、早速出陣しよう。先ずは、無人地帯をぐるりと一周して、包囲環を築こう。タダな、それだけじゃ、皆の熱い戦意に及ばないような気がする」
「「……「「妖魔は皆皆々殺しだ。うぉぉぉぉぉぉ」」……」」
「幸いな事に、此処にいるリュウエン殿も十分な強者だ。リュウエン殿に一隊を率いて貰い、連合内の全ての村々を打通して貰おうと思う。志願者を集めて、この隊も早めに戦いを開始して貰う」
「「……「「うぉぉぉぉぉぉ」」……」」
「ベテランばかり闘って、若衆が羨むかもしれん。だから、若衆を鍛える為の一隊も作りたいが、此方は状況次第だ。検討させてくれ。以上、兎に角、闘って闘って、狩って狩って狩りまくろう」
「「……「「妖魔は皆皆々殺しだ。うぉぉぉぉぉ」」……」」
無論、その後、満月を肴に大宴会が開かれた。
アマカゼさんの気持ちは、まだ微妙です。何と言っても相手が幼児にしか見えないので。
次は、包囲環作戦です。




