大戦の成果~新村建設~
前日の大勝利の興奮も冷めぬ6月17日の朝、早速シカ村周りの大掃除を開始した。放置すればあっという間に伝染病が広がってしまう。死体の処理に堀や防壁の浄化、皆忙しそうだ。
戦士達が忙しく作業している間に、少数の有力者だけで、恒久的大連合に向けて話し合いを行った。議論を主導するのは、テン村のテンヤ村長と熊村のブナカゼ村長だ。どちらも、複数の村に影響力をもつ上に、大連合に対して積極的だ。
二人は、昨晩、酒を呑みながら長いこと話していた。
「遠い村が多く、議論する時間も必要でしょう。勢いが削がれても、ここは時間を掛けましょう。
次の満月の日から、設立準備の為の大会を開き、その次の満月に代表を集めた大盟の儀をしましょう」
「時間を掛けて大半が離脱したりしないか? 」
「それもありますが、負担の公平さに疑問を持たれて、不協和音が広がるのが怖い。わだかまりが無ければ、次の機会に参加を考える村も出るでしょう。
だが、不満と不審が拡がったら……悪評が一度でも拡がると、回復させるのが大変です。西方で参加する意志が固い村が幾つかあります。参加する村がある程度あるのは保証できます。
シカ村さんと三村連合さんも同様ですよね」
「論ずるまでもない。シカ村は今後毎年何処であろうと大戦に参加し続ける」
「ツバメ村と三村連合の合同で、事前に方針は決定済みです。安心して下さい」
「それなら、テンヤさんの案で進めましょう。あまり、イモハミ婆さんにシンドイ思いをさせたくないので、場所は熊村で良いだろうか? 」
「若くないイモハミ婆さんに議長をお願いするので、そこは、ブナカゼさんの提案で行きましょう」
テンヤ村長とブナカゼさんが議論を主導している。西方のテン村、東方のツバメ村、そしてこのシカ村、イモハミ婆さんの熊村、有力四村の参加が確実なら、辛く見ても20村程度の参加が見込める。かなりの戦力強化になる。
「そう言えば、新しく拓く村の位置は何処でしょうか? 場所が既に決まっているなら、土壁の魔術で仮設小屋を作りに行っても良いのだが」
ワシは、暖めていたアイデアを提案した。
「それは、有難い。作る予定の村は3つだ。まあ、暫くは基地と呼んだ方が良いかもしれん。隙無く巡邏体制を組むことを重視して場所は既に決めてある。
うち、一つはタツヤ殿に作って貰った海岸の基地だ。大イカ村との中継点にもなる。
もう一つは、南東方向で、トンビ村や狼村との中継点にもなる。
最期の一つは、南南西方向でテン村やヒヨドリ村との中継点にもなる。
繁殖地の焼き払いが終わったら、順次整備部隊を編成する予定だ」
シカ村長だ。
そういえば、繁殖地の焼き払いが先だったな。妖魔は湧出するから直ぐに回復してしまうんだった。たしか、このシカ村からの6班と西方の村々から3班派遣して今日中に全ての繁殖地を焼き払う予定だな。
「応援のため、戦士を少しずつ残した方が良いのではないか?」
「有難い申し出だ。基地が早く完成すればするほど、妖魔が復活する可能性が減る」
こうやって、実務的な事が次々と決まっていった。
◇
4日後の昼過ぎ、ワシは南東の基地予定地に飛行の魔術で向かった。朝一にシカ村の魔術士であるリュウセツさんとリュウエンさんも同じ場所に徒歩で向かっている。目標では、今日明日で20人が泊まれる仮設小屋を2つ作る予定だ。
「皆さん、お疲れ様です。短期間でこれだけの木を切り倒すのは、大変だったでしょう」
「いやいや、交代しながら作業しているから大丈夫だ。第一、一番大変だったのは、雨に祟られた一つ前の作業班じゃて。でも、根の処理がまだだが、本当に大丈夫なのか?」
「今から、土操作で一度土だけ下げて、ある程度根を露出させるので、その後、一個一個処理して下さい」
実は、土操作もL2に上がっており、操作の柔軟性が増えている。まだ、根だけ取り除くほど器用な事は出来ないが、処理しやすくすること位は出来る。そうこうしている内にリュウセツさんとリュウエンさんが20人の作業班と伴に到着した。
「やあ、タツヤ君。迷わずにこれたようだね。あんな説明だけで大丈夫なのか、少し心配していたんだよ」
リュウエンさんが、何時ものように朗らかな笑顔でワシに声を掛けてくれた。
「実は、少し迷ったけどね。煮炊きの煙が見えなければ、もっと遅くなったかも知れない」
「じゃあ、今日の寝床が欲しいから、早速作業を開始しよう。根の処理が終わっている所から盛り土していけば良いんだね」
リュウエンさんも祖母のリュウセツさんも土操作は使えるので、手伝ってもらえると魔力的に助かる。早く作って、20人態勢の基地を整備したい。20人の班を10日交代で派遣して、この周りを人の領域として完全に確保したい。
魔物を狩る巡邏隊が10人程度いれば、湧く端から倒して、妖魔の戦力蓄積を阻止できる。
巡邏隊以外は、村に発展させるための造成が仕事だ。最優先は、柵と見張り台。竪穴式住居の建設は、木材の乾燥状況を見ながら順次進めていく。
小屋が壊れることも考えられる。そう考えると、最低限二つは仮設小屋が必要だ。二つあれば、隊の交代も楽に出来る。
◇
雨の日もあったが、5日後に、基地二つの整備が完工した。
「それでは、名残惜しいが、ワシはトンビ村に帰る。何かあったら伝令をお願いします。この基地があれば、ワシも安心してテン村まで日帰り出張が出来るようになる。
まだまだ、作業は多いがよろしくお願いします」
「任せてくれ給え。人の領域の奪回を信じて闘ってくれた勇者達の期待に必ず応えて魅せるさ」
前作を読んで居ない方の為に、ここで出て来た村の設定です。(村の人口は特記無い場合は、100人前後です。)
ただ、地名は、覚えなくても、読めるようにしていますので、余り気にしないでください。
シカ村:300人程度の人口と強力な防壁を備えた、付近で最強・最大の村
テン村:テンヤ村長がいる比較的有力な村、シカ村から西南西約29㎞
三村連合:シカ村から東に40㎞ほど離れた、緊密な関係を持つ三村
ツバメ村:三村連合と関係が深い有力村、シカ村から東に約46㎞
熊村:深く尊敬される魔術師のイモハミ婆さんの村、村長は息子のブナカゼ、シカ村から東南東約30㎞
大イカ村:海岸沿いの村、シカ村から西約28㎞
トンビ村:主人公が住む村、熊村や狼村含めた七村連合という協力体制がある。シカ村から東約24㎞
狼村:シカ村から南東約26㎞
ヒヨドリ村:シカ村から南南西約27㎞
H30.5.13補足説明を後書きに移動